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- 休日のプラント市街。
- ショッピングモールは、いつもの様に人波で溢れていた。
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- その間を縫うように移動するメイリンは、手にした限定販売品のコスメに思わず笑みを零して、次はどの店を覗こうかと辺りを見渡した。
- そこで一つのショーウィンドウの前で、じっと佇んでいる人物に目が止まった。
- それは彼女もよく知った人物で、ガラスに映った表情から、何かを一所懸命考えているのがよく分かる。
- 知り合いとは言え、他人のプライベートのことなので、本来であればこのまま素通りするところだが、その人物が何を思い悩んでいるのか分かってしまい、気になって見て見ぬ振りができなくなってしまった。
- しばらくどうしようかと思案を巡らせたメイリンだが、やがて一つの結論に辿り着くと、悪戯っぽい笑みを浮かべて、そっと近づいた。
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「おくりもの」
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- ディアッカは知恵熱が出るんじゃないか、というほど頭をフル回転させていた。
- 元来物事はあまり深く考えず、それでいて要領良くやってきたタイプだけに、正直こうして考えるのは得意な方ではない。
- しかし今目の前に立ちはだかる問題は、要領だけでは解決できない難問だ。
- できることならじっくりと考えたいところだが、残念ながらアークエンジェルに捕虜として捕まっていた時と違って、そうタップリと考える余裕がある身ではない。
- それが焦りとなって、返って考えがまとまらない。
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- ディアッカが何をそんなに必死に考えているのかというと、ずっと会っていない彼女に何を送れば良いか、彼は先程からずっとそればかりを考えていたのだ。
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- ナチュラルの女にどうしたってんだか、と自嘲するが、それでも惚れたものはしょうがない。
- 既に高らかに決別を宣言された身ではあるが、できることならもう一度会って話がしたいと思う。
- その時に手ぶらではどうかと思ったので、こうして休日を利用してプレゼントを買いに来たのである。
- しかし来たのは良いものの、具体的に何を買おうと決めていたわけでもなく、店を適当に見ていれば決められるだろうという甘い考えでいたのが間違いだった。
- 色々と種類がありすぎて、簡単に一つには絞れないのだ。
- そもそも、自分は彼女の好みを、まだ把握しきっていない。
- そんな状況では、何を買えば良いのかすぐには決まらないのも、無理からぬことだった。
- そうして店の前で陳列された品を、穴が開いてしまうのではないかというほどじっと見つめて、既に一時間が経過していた。
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- そうして時が経つのも忘れるほど深く考えていただけに、近づく影があることなど気付きもしなかった。
- 突然傍で名前を呼ばれて、思わずビクッと肩を振るわせる。
- 近づかれたことに気付かなかったのもさることながら、まさかこんな所に知り合いがいて、しかも見られていたなどと夢にも思わなかったから。
- 近しい者にはもちろんここへ来ることは言ってないし、一体誰に見つかったんだと、悪いことを見つかった子供の様に、とても慌てた様子で声がした方を振り返る。
- そこにはメイリンがニコニコと笑みを浮かべて立っていた。
- 彼女への贈り物ですか、と無邪気に聞かれれば、毒気を抜かれて邪険に扱うこともできない。
- 内心溜息を吐きながら、まあなと少し顔を紅潮させて答える。
- まさか知り合いに見つかるとは思っていなかったから、少々頭の中がパニックになってしまって、しどろもどろにようやくそれだけ言葉を搾り出した。
- その辺が実は女性の扱いに慣れていない、彼らしい。
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- 今の状況を不覚に思いながら、何とか冷静さを取り戻したディアッカは、適当に会話をして、早く本来の目的に戻ろうと思った。
- 誰かが一緒にいるのでは、そちらが気になって仕方が無い。
- 早く立ち去ってもらおうと口を開きかける。
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- だがそこで、ディアッカはふと考える。
- 結局一人で考えても、このままでは堂々巡りを続けるだけだ。
- ならば女性に何を送ったら喜ばれるか、メイリンに聞くのはどうだろうかと。
- 同じ女性だし、何かいい案が思い浮かぶかも知れない。
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- そんなことを一人で納得してうんうんと頷くディアッカを、訝しそうに見つめるメイリンだったが、突然パッと振り向かれて大きく目を見開き驚いた。
- ディアッカはそんなメイリンの様子に気付かず、いたって真剣な表情で尋ねる。
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- 「女として、どんなものを男からプレゼントされたら嬉しい?」
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- けっこうな剣幕で迫るディアッカに、メイリンは驚きでドキドキする胸を押さえながら、最初質問の意味が分からなかった。
- まさか彼が自分にプレゼントをするのはおかしいと、もう一度聞き返して、それからああ、と納得する。
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- 「何だっていいんですよ。その人の想いが込められたものなら、何だって嬉しいんです。後はそれをちゃんと伝えられるかだと思います」
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- メイリンは微笑ましく思いながら、にっこりと答えた。
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- もう少し具体的なものを期待していたディアッカは、肩を落としてそうじゃなくて、とさらに聞き出そうとする。
- それを見てメイリンは、どうして男の人ってこうなのかな、と内心では少し呆れながら、やんわりと諭す。
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- 「それに、その人が欲しい物は私の欲しい物なんか参考になりませんよ」
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- 本当に欲しいと思う物は、贈って意味があるのはディアッカがくれた物であって、中身云々はその次だ。
- その想いが、心を温かく満たしてくれるから、もらって嬉しいと思うのだ。
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- 言われて、ディアッカはそんなものか、と、まだどこか納得いかない表情でまた考え込む。
- 彼の悩みはまだまだ尽きそうに無い。
- きっとそれだけ真剣なのだろう。
- そう考えると、見ているこっちも何だか幸せな気持ちになってくる。
- そんなディアッカを微笑ましく思いながら、それじゃあ頑張ってください、と応援して、メイリンは軽やかな足取りでその場を去った。
- 願わくば、彼と彼女に幸せが舞い降りんことを、そっと祈りながら。
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