- 「「ただいま」」
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- 双子が幼年学校に通うようになって早1月。
- すっかりこの生活に馴染んで、友達とも仲良くやっているようだ。
- 毎日両親や使用人達が、双子が楽しそうに話すその日に起きた出来事を聞くのは、最早日課のようなものだ。
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- 今日も元気に帰ってきた双子の声が家の中に響き渡る。
- その声を聞いてラナは笑顔を浮かべてパタパタと玄関まで出迎えに行く。
- しかし今日はいつもより見える頭の数が多いので、思わず目を瞬かせてしまう。
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- 「今日は友達を連れ来たよ」
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- そんなラナを余所に、コウはにこやかにそう言って友達を紹介する。
- それを受けて、子供達は驚いているような、そんな緊張した面持ちでペコリと頭を下げる。
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- ラナはその様子にやっと表情を崩すと、いらっしゃいませと笑顔で彼らを迎え入れる。
- 彼らが緊張している理由がラナには何となく分かった。
- 自分も初めてここに来た時は、見たことも無いその家の大きさに圧倒されたものだ。
- おそらく同じ思いがこの子達の中にもあるのだろう。
- 心の中で少しだけ子供達に同情する。
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- 双子はそんなラナの思考や他の子供達の緊張に気づかぬ様子で、にこにこと友達に上がるように促して、ラナの脇をすり抜けていく。
- 他の子供達も慌ててそれを追いかける。
- そうして双子の部屋へと上がっていく子供らを、ラナは微笑ましく思いながら見つめていた。
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「Let's play!」
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- 双子に連れられてヤマト邸に遊びに来たのは、ザイオン、ミレーユ、ハルバートの3人。
- もちろんクラスの他の子供達とも話をしたりするが、今のところ彼らが最も双子と仲の良い友達ということになる。
- そして今日は双子の誘いを受けて、ヤマト邸までこうしてやって来たのだ。
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- 初めて他人の家に上がったザイオンは緊張しきりだ。
- これまで施設の中で、大勢の子供達と共同で生活してきた空間しか知らない。
- 時々遊び道具等をめぐって喧嘩もしたりするが、それはそれで賑やかで楽しい。
- けれどこれほど広い空間の中に、仲が良いとは言え子供がヒカリとコウの2人では寂しいのではないか、なんてことも考える。
- 同時に大きな家に広々と住めることが、少しだけ羨ましくもある。
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- ミレーユとハルバートも、自分の家の何倍も大きい家に目を白黒させている。
- さらにさっき玄関で出迎えてくれた人は、この家に住むお手伝いさんだと言われて、さらに驚く。
- 自分達の家にはそんな人はいない。
- まるで高級ホテルか何かに来たような気分で、どうにも落ち着かないのだ。
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- 「やっぱり2人のお父さんとお母さんはすごいわね」
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- ミレーユが改めて感嘆の声を零す。
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- 双子の両親がプラントで一番偉い人だというのは既に周知の事実だ。
- だがそれを自慢するでもなく、またその子供だということを主張も強調もしない双子は、そのキャラクターからクラスの皆に好かれている。
- こうゆう一面を見ると羨ましく思うところもあるが、一緒にいて幸せな気分になれるから3人も同じく、彼らのことは大好きなのだ。
- ただ純粋に双子の両親に尊敬の念を込めて、ザイオンとハルバートも頷く。
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- それを受けて照れくさそうに笑う双子。
- そんな学校に居る時と変わらない双子の笑顔に、ようやく緊張も解れて笑顔を零すミレーユ達。
- そして他愛も無いことを、あれこれと話し始めた。
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- そこにハロが相変わらずな言葉を吐きながら、双子の部屋に飛び込んでくる。
- 子供達は突然の乱入者に最初驚きこそしたが、そのピンクで、そして何やら言葉を発する球体に興味津々だ。
- その視線に気が付いたヒカリが、ハロを手に取り説明する。
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- 「これはハロと言って、お母様が大切になさっているお友達ですわ」
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- ラクスは今も、ハロを大切に所持していた。
- ただ評議会の時などは、さすがに邪魔になってしまうため、また家で待つ子供達の遊び相手になるようにと、仕事に行く時は家に置いていくのが通例となっている。
- そのため、今は双子がハロの持ち主にして、友達という状態だ。
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- 3人はへえ〜と珍しそうにハロに顔を近づけて凝視する。
- するとハロはまるで注目されたことに照れたかのように、目をチカチカさせると、アカンデー、と叫びながらまた唐突に部屋を飛び出していく。
- それを呆然と見送った5人の子供達だったが、顔を見合わせると笑顔を見せて、弾かれたように部屋を飛び出した。
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- 5人は敷地内の庭で、たくさんのハロを追いかけて元気に駆け回っている。
- されにはトリィも、まるでそんなハロと子供達を見守っているかのように、優雅にその上空を旋回している。
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- 突然ヒカリの手の中から飛び出したピンクのハロを追いかけて庭に出てみれば、そこには色取り取りのハロとトリィが所狭しと飛び跳ねていた。
- それに驚くやら嬉しいやらで、いっそうはしゃぐ子供達。
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- ラナはその様子に笑みを零しながら、持ってきたクッキーとお茶をサンルームのテーブルに置くと、子供達に声を掛ける。
- すると子供達はハロのことなど忘れたかのように、パッとこちらを振り向くと、我先にと駆け寄ってくる。
- 突然子供達に置いていかれたハロ達が抗議するように同じ場所で、ミトメタクナ〜イ、と合唱して跳ねているが、残念ながらその様子は子供達の目には映っていない。
- そんなかわいそうなハロに、ラナはまたクスリと笑みを湛えて子供達に手拭を手渡し、それからお茶をカップに注いでいく。
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- 子供達は思い思いにクッキーに手を伸ばしては、その愛らしい表情を振りまいて舌鼓を打つ。
- それはとても穏やかで、楽しい時間だ。
- ラナもすっかり緊張が解れた様子の子供達の話を一緒に聞いていたが、楽しい時間はあっと言う間に過ぎていく。
- 気が付けばプラントの空が、赤く色づいている。
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- 「さあ、今日はそろそろお帰り下さい。ご家族の方が心配されますよ」
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- ラナがそう言って、お開きを宣言する。
- 子供達はえーっと不満げな声を上げるが、確かにこれ以上遅くなれば家族が心配するだろう。
- そのことが分からないわけではない。
- 何もこれが今生の別れではあるまいし、また明日も学校で会うのだからと、渋々帰り支度を始める。
- そしてまた明日、と見送りに立つ双子に手を振って家路へと付く。
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- 今日はここでお別れするのは残念だが、また明日からのことを考えるとそれはとても楽しみで、胸が温かく満たされる。
- その感覚に3人は笑い合いながら、それぞれの家へと帰っていくのだった。
- 彼らも今日のヤマト邸での出来事を話して聞かせるであろう、そんな当たり前な、でもとても素敵な一日の出来事。
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