- 「お前はラクスと初めて会った時、どう思った」
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- キラがプラントに行く前の最後の語らいとして、アスランとキラはアスハ別邸にてお茶を飲みながら談笑していた。
- そこでアスランがふいに尋ねた台詞。
- アスランから見て、たった一人の人にこれほど執着するキラは見たことがなかったから。
- 周囲に優しくて誰とでも友達になれるキラにとって、幼い頃は大勢で居る方が好きだと認知していた。
- 何よりあのラクス=クラインを、唯のラクスとしてとらえた唯一の人間だから。
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- 急に何を言い出すんだよ、と文句を言いながらも、キラはうーんと考え込んでから答える。
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- 「可愛らしい子だなあ、くらいだったと思うよ」
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- あの時はまだ戦争の真っ只中に放り込まれたことろで、そんな余裕がなかったから。
- それ以上のことは考えられなかった。
- 少し意識をするようになったのはアスランに返す時だが、ハッキリと彼女のことを好きだと気が付いたのは、もっとずっと後の話だ。
- 少し彼女には申し訳ない、と思うけど。
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- 「でも、今は一番大切で、何より守りたいと思う」
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- キラは真剣な表情で言葉を紡ぐ。
- 戦後傷ついて闇を彷徨った自分の傍にいて、光を与えてくれたから。
- そうしてただ寄り添っていてくれたことがどれほど救いになっただろうか。
- そしていつの間にかその光に惹かれて、ずっと傍に居て欲しい、傍に居たいと思うようになった。
- こんな自分にはもったいないと思いつつ、今ではラクスが居ない人生なんて考えられない。
- だからこそ、険しい道だと分かっていても、その道を進むことができるんだと思う。
- その決意に揺るぎは無かった。
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- アスランはキラの答えに満足そうに口元に笑みを浮かべると、目の前にあるカップを手に取り口に運んだ。
- キラならラクスを幸せにできるし、ラクスもキラを幸せにできると確信して。
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「Encounter of memory」
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- 「そう言う君は、カガリに会った時どうだったのさ」
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- キラはお返しとばかりに笑顔で話題をアスランに投げ返す。
- そう言えば、2人からあまり最初に会った時のことを聞いたことがなかったことを思い出して。
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- アスランは小さく息を吐いて、尋ねたのは失敗だったかと少し後悔したが今更遅い。
- 今思えば、口にするのは少し恥ずかしいできごとだったと思うのだが。
- しかし目の前にいる親友になら話すことができそうだ。
- あれは自分にとって大切な出会いだったのだから。
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- 「最初は地球軍の敵だと思って殺そうとしたけど、悲鳴を聞いて殺すことを躊躇った」
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- 取っ組み合った時に響いた悲鳴に、口に拳をあてて思い出し笑いを堪える。
- まさか戦場であんな悲鳴を聞くとは、本当に思わなかったから。
- だが同時にあの時、人を殺すことに慣れてしまっていた自分に嫌悪もするが。
- そんな苦さは何とか飲み込んで、それからその後の海辺でのやり取り、洞窟での夜の出来事を話して聞かせる。
- キラはそれを茶化すことなく、神妙な面持ちで聞き入っている。
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- 「本当はあの時に気が付いてたはずなのにな」
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- 一通り話し終えるとアスランは遠い目をして、椅子の背もたれに体を預けると天井を仰ぐ。
- 悲鳴を聞いた時、自分が戦っている相手も生きているのだと初めて知った気がする。
- キラは静かに、何にと尋ねた。
- 何となく答えは分かっている気がするけれど、それをアスランの口から言って欲しいと思ったから。
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- 「自分は何と戦わなければならないか、だ」
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- そう答えて、アスランは自嘲する。
- その後、キラを殺してしまったと嘆くアスランに、カガリが投げかけた言葉の意味が今ならちゃんと理解できる。
- ラクスの問いにも答えられる。
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- 「だから、ラクスがいながら惹かれちゃった?」
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- キラが悪戯っ子のような笑顔で呟く。
- それにアスランは一瞬目を見開くと、何を言ってるんだと顔を赤くして抗議する。
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- 確かにカガリと出会った時、アスランとラクスはまだ婚約者という関係だった。
- 尤もそれが嫌だった訳ではないが、どちらかというとお互いにその役割を演じていた気がする。
- 父や周囲の人の期待を裏切らないように。
- カガリのことを意識したのは確かだが、想いが膨らんだのはラクスに決別を突きつけられてからの話で、最初は断じてやましいことは無かった。
- だいたいキラへ気持ちが移り変わったのは、ラクスの方が先だ。
- 自分でも何を言っているのかよく分からなくなりながら、何故かアスランはキラに対して必死の弁解をする。
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- その仕草が可笑しくて、キラはいきなりケラケラと笑い出す。
- その表情はかつて幼年学校で一緒に遊んでいた頃を思い起こさせた。
- 少し納得がいかないながら、アスランもその周囲を柔らかくさせてきた懐かしい笑顔につられて笑い出す。
- それぞれの大切な人のことを想いながら。
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- 出会った時の思い出はとても大切なものだ。
- それが自分達の転機の一つになったように。
- そして今、その大切な人の傍に居ることができる素晴らしさを、キラもアスランも噛み締めながら、互いに望む未来のために力を尽くそうと誓い合った。
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