- 久しぶりの休日。
- 今日のプラントの天気は快晴と示されており絶好の行楽日和なのだが、共に暮らす恋人達には珍しく朝から自宅で寛いでいた。
- 今日は家でゆっくり過ごしましょう、と提案したのはラクス。
- じゃあ僕は前に買った本でも読もうかな、と答えたのはキラ。
- こうして2人は思い思いに休日を楽しんでいる。
- キラは答えたとおり、前の休日に立ち寄った本屋で買った小説をリビングのソファーに座って読み耽っている。
- ラクスはキラから数歩離れた床の上にペタンと座り、最近はまっているというビーズのアクセサリー作りに勤しんでいる。
- お互い会話が無いが、決して喧嘩をしているわけでも無視をしているわけでもない。
- それぞれが大切に思っている相手だから、自分一人の時間も大事だろうと配慮してのことだ。
- 一緒に居る方が楽しく満たされるのも確かだが、たまにはこんな休日も悪くないと、2人は互いの存在を傍らに確かに感じながら、ただゆっくりと流れる自分の時間を楽しんでいた。
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「Princess Singer」
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- 小説を読み終えたキラは本をパタンと閉じて、一つ伸びをする。
- 前から読みたいと思って買って置いたものだけに、じっくり読むことができて満足だ。
- しかしこの後のことは特に考えていなかった。
- このところの休日はほとんどラクスと一緒に出かけていたし、オーブに居た時ほど憂いて遠くを見つめることが今は無いから、これからどうしようかと思案する。
- とそこにどこからともなく微かに歌声が聞こえてきた。
- どこからだろうと視線を泳がせるが、すぐに桜色のそれに目を止めて笑みを浮かべる。
- ラクスがビーズを丁寧に紐に通しながら口ずさんでいたのだ。
- しばし目を閉じてその歌に聴き入っていたキラだが、何かを思い立ったのか目を開けると唐突にラクスに話し掛けた。
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- 「綺麗なメロディだね」
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- 楽しそうなラクスを邪魔するのはどうかとも思ったが、自分の中に響いたものを伝えたい衝動に駆られたのだ。
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- 声を掛けられたラクスは歌うのをやめて、でも楽しげな表情のままそうですかと顔を上げる。
- それでもその手にはビーズがまだしっかりと握られている。
- 元々ビーズのアクセサリ作りは、評議会の合間や移動中のちょっとした時間の暇つぶしに始めたものだ。
- だがやり始めると意外に楽しく、また自分で作ったアクセサリを身につけるてそれを可愛いと言われるのは嬉しいことだった。
- それ以来すっかりはまってしまって、ラクスはたっぷりできるということでウキウキした気持ちでしていたため、自然と口ずさんでいたのだ。
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- 「何て言うかさ、ラクスって、歌姫だよね」
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- キラがポツリと呟く。
- ラクスはその言葉の意味を量りかねて、キョトンとした表情で首を傾げる。
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- 「まあ、確かに皆さんにはそう呼ばれることもありますけど」
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- ラクスの素直な答えにキラはくすりと笑みを零すと、それもあるけれどと続ける。
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- 「そうじゃなくて、うまく言えないんだけど」
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- キラはうーんと唸りながら言葉を捜す。
- 自身でも明確な答えというか、そんなものがあったわけじゃない。
- ただ何となくそんな感じがしただけなのだが、言葉に出した以上、まして目の前で興味深そうにこちらを見つめるラクスの前に何らかの答えを返さねばならない。
- しばらく悩んだ末、ようやくしっくりくる言葉を見つけ、また笑顔で紡ぎだす。
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- 「メロディとか声が、凄くここに届くんだ」
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- そう言って、自分の胸の辺りをとんとんと指差す。
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- 「他にも綺麗な声やメロディで歌う人はたくさんいるけど、ラクスの歌は何か体に染み込むというか、他の人とは聞いてて響くものが全然違うんだ」
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- 理屈じゃなくて、ラクスの歌はキラの心に響く。
- それは嫌な感じでは決してなく、むしろいつも暖かく満たしてくれる。
- だからキラはラクスの歌が好きだ。
- キラはラクスが溺れてしまいそうな笑顔を浮かべて、そう語りかける。
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- 一方のラクスは思わぬ誉め言葉を貰って、キラの笑顔に必死に溺れまいと目をパチパチさせる。
- 既に溺れた身には些か無駄な行為だが。
- それにしてもまさかキラにそんなことを言われるとは思ってもみなかった。
- 確かにいつも、特にキラにはその心にまで届けと、歌声に思いを乗せて歌っている。
- それが僅かでも届いているのはとても嬉しいことだ。
- ラクスも負けじとキラを虜にする笑顔で応える。
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- 「それは光栄ですわ」
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- それからラクスは手にしていたビーズをまだ沢山貯められている箱の中に置くと、すくっと立ち上がり歌い始める。
- キラは出会ってからもう何度目か分からない恋に落ちながら、そんなラクスをじっと見守っている。
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- 陽だまりの中で
- のんびりと貴方と過ごす 昼下がり
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- 心地よい風に紛れて
- 聞こえる貴方の声が
- 辺りに花を咲かせる
- そんな夢を見てる
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- 今日は素敵な休日
- 貴方の優しい声に包まれて
- 幸せが静かに舞い降りてくる
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- 木漏れ日の下で
- ゆったりと貴方と過ごす 昼下がり
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- 清々しい緑に合わせて
- 零れる貴方の笑顔が
- 周りに光を降らせる
- そんな夢を見てる
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- 今日は素敵な休日
- 貴方の微笑みに見つめられて
- 温もりが穏やかに通り抜けていく
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- この時間がずっと続けば良いと
- 思うのは確かだけれど
- 貴方ともっと沢山の思い出も
- 欲しいと思うのは欲張りかしら
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- 今日は素敵な休日
- 貴方のその腕の中に抱かれて
- 愛しさが確かに溢れてくる
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- 最後のフレーズを歌いながらラクスはゆっくりキラの前に移動すると、急にしゃがみ込んでポスンとキラの腕の中に収まってみせる。
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- 「これが今歌っていた歌ですわ」
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- なんて上目遣いで頬を染めながらおどけて見せれば、キラも照れ笑いをしながらラクスの収まった腕に力を込める。
- しっかりとだが苦しくないほどの強さで。
- そしてお互いの温もりを感じながら同じ事を考える。
- やっぱり休日は2人で同じ時間を共有して過ごしたいと。
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- これはそんな恋人達の、とある日の出来事。
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