- プラントの良く晴れた昼下がり、いやもう夕暮れに差しかかろうかという時間。
- 今日はキラとラクスは休日。
- 2人は一緒に家でのんびり過ごすことを決めた。
- 先ほどまで2人一緒にソファーに並んでお茶を飲みながら座って、2人が出会う前の幼少の思い出話に盛り上がっていたのだが、ラクスは夕食を作るためにキッチンへとキラを置いて行ってしまった。
- ほんの少しだけ寂しさを覚えたキラは、それでも幸せそうに微笑んで夕食の準備へと向かったラクスの様子に満足すると、一人窓の方を見やって何かを口ずさむ。
- それが歌だということは、口元に耳を近づけなければわからないほど小さく、囁くように。
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- しばらくして夕食の準備ができたラクスがキラを呼びに来た。
- 声を掛けようとしたが、キラが窓の方を向いて黄昏ている姿に思わず見とれてしまう。
- そしてふと、何かを思いついたような表情を浮かべると、悪戯っ子のようにニコッと笑ってキラにそーっと近づき、耳元に息を吹きかけながら囁いてみる。
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- 「何をしてらっしゃるのですか?」
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- 意識が散漫になっていたキラはラクスの接近に全く気が付いていなかった。
- 急に耳元に息を吹きかけられながら声を掛けられたことに心底驚いたように、わーっと大きな声を出してソファーから飛び跳ねる。
- ラクスはその様子を一瞬驚いて目を丸く見開くが、すぐにクスクスと笑みを零す。
- 自分の企みが成功したことと、そんなに驚かなくてもという呆れを一緒に。
- それに少し拗ねてしまったキラを宥めながら、ラクスは尋ねる。
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- 「それは何の歌ですか」
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- 耳の良いラクスにはキラが歌を口ずさんでいることがすぐに分かった。
- 相手がキラだと言うこともあるかも知れないが。
- 滅多に歌を歌わないキラが、というかキラが歌を歌っているのを一度もじっくりと聴いたことが無いだけに、そうして口ずさむなんて珍しい。
- そして少ししか聞き取れなかったが、自分は知らないメロディーだったことがラクスはとても気になった。
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- 「な、何でもないよ」
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- 一方のキラはまさか聞かれていたとは思わず一瞬とても驚いて目を見開くと、焦った表情で首をぶるんぶるん横に振る。
- その行動が返ってラクスの好奇心に火を付けた。
- キラのことを何でも知っていたいラクスの質問攻めは、それから絶えることがなかった。
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「Love song」
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- その後もラクスは追撃の手を緩めなかった。
- 食事中も、片づけをしてる時も、寝室に入ってからでさえ、ラクスはしつこいほどキラの肩を腕を取り揺さぶり尋ねてくる。
- だがキラは恥ずかしがって、頑として首を縦に振らない。
- ラクスはその牙城が思ったよりも強固であることに少し不満そうに頬を膨らませると同時に、キラが自分に対して隠し事をしていることがとても寂しく、悲しく思えてきた。
- 一度悲しくなるとその気持ちは止まらなくなり、その大きな瞳に涙が溜まり始める。
- そして無意識の内に、キラを一撃で倒す必殺技を出した。
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- 「どうしても教えて頂けないのですか?」
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- 目をうるうるさせて上目遣いにキラを見上げる。
- キラはこの目に弱い。
- というか、この目をされてキラが落ちなかったことは、無い。
- 愛する人にはずっと笑っていて欲しいから、涙を見たくないのだ。
- 結果ついにキラは撃破された。
- がくっと肩を落としてうな垂れると小さく、分かったよ、と零す。
- キラがついに話す気になったことに、ラクスは一転してぱあっと子供みたいな笑顔を見せて手を合わせて喜ぶ。
- その姿に全てを観念したようにキラは溜め息を一つ吐いて、半ばやけくそ気味に呟く。
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- 「僕が作った歌だよ」
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- 言ってキラは耳まで顔を赤く染める。
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- ラクスは驚いて目を見開く。
- まさかキラが自分で歌を作ったとは全く予想外だった。
- そして当然どんな歌を作ったのか、キラがどんな声で歌うのかという新たな好奇心に火が付くのは必然だった。
- ラクスは目をキラキラとさせて、是非お聞きしたいですわ、と無邪気にせがむ。
- こちらは全くキラが予想した通りに。
- キラは少しでも聞かれた不覚を後悔するが、こうなってしまってはもう遅い。
- おそらく歌うまで解放してはくれまい。
- 夜もだいぶ暮れてきて、これ以上は明日の仕事にも差し支えてしまう。
- それを考えているとさっさと歌ってしまった方がいい。
- 自分のためにもラクスのためにも。
- 腹を括ったキラは一つ深呼吸をすると歌いだす。
- ラクスのためだけに作った歌を。
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- いつからか君の笑顔は
- 僕の心を掴んで離さない
- いくつも重ねた
- 明日への道しるべ
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- 雨に打たれて泣いた夜も
- 拭ってくれた手の温もりが
- 今も心に宿る
- 淡く優しく灯る光
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- その光を繋いで
- 君に想いを伝えるために
- 勇気を出して 唄うよ
- この最初で最後の Love Song を
-
-
- いつからか君の声は
- 僕の幸せを告げる音色
- いくつも連ねた
- 未来への囁き
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- 傷を負って苦しんだ夜も
- 優しく包んでくれた旋律が
- 今も心に響く
- 強く確かに灯る光
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- その光を辿って
- 僕の想いを伝えるために
- 自信を持って 奏でるよ
- この最初で最後の Love Song を
-
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- 本当は知ってる
- 桜吹雪のように
- 目の前に舞い降りた時から
- 僕の全てはそこにある
- 君の胸の中に
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- その想いを辿って
- 君に想いを伝えるために
- 僕の全てを賭けて 唄うよ
- この最初で最後の Love Song を
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- この想いは 永遠だと
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- 歌い終えたキラは少しだけ名残惜しそうに天を仰いでから、また込み上げてきた恥ずかしさにラクスとは反対の方向に顔を向ける。
- 覚悟を決めたはずだったが、いざ歌うとやはり恥ずかしい気持ちで一杯だ。
- ラクスの方を見ることはできそうにない。
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- 一方歌を聴いたラクスは驚きの表情を浮かべつつ、胸がとても温かく満たされた気持ちになった。
- 初めてまともにキラの歌声を聴いたが、その声はとても綺麗で歌手でもやっていけるのではないかと思った。
- だがそれ以上に、キラの気持ちが充分すぎるほど伝わって、幸せが溢れてくる。
- その想いの衝動に駆られて、きゅっとキラに抱きつく。
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- 「素敵な歌をありがとうございます」
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- ラクスの言葉にキラもまた幸せが込み上げてくる。
- 自分の気持ちが伝わったことが嬉しくて、自惚れかもしれないが、相手もきっと同じ気持ちでいてくれることに満たされて。
- でもやっぱり恥ずかしいというか、照れた気持ちはまだ消えなくて。
- キラは背中から伝わる温もりに鼓動が速くなるのを感じながら、それを誤魔化すように早く寝ようと促す。
- ラクスはそんな様子に内心で相変わらず可愛らしい方ですわね、と笑みを零して頷くと2人ベッドに横になる。
- その腕はしっかりと愛しい人を抱きしめたまま。
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- 今日はきっと素敵な夢を見られますわ。
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- そんな確信の中でキラの温もりを腕に、胸に感じながらラクスはまどろみの中へと意識を沈めていった。
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