- 彼の第一印象。
- それは男の人にこんな感想を持つのはどうかとも思ったが、とても繊細そうで綺麗な人だと、そんな印象を抱いた。
- ついでに言えば、悲しそうでとても弱そうだと。
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- この人も戦争で大切な誰かを失くしたのか、ということを考える。
- それはとても辛くて悲しくて、きっとそれを思い出すのも嫌なんだろうな。
- 自分でちゃんと来るのは初めてと言ってたから、多分そうだろう。
- でも俺はあんなふうに、ただ失ったものを嘆くだけなんてことはしない。
- 俺は守りたいものは全て守ってみせる。
- 上辺だけの平和に寄りすがるつもりは無い。
- あんたがそこで悲しんでいる間に、俺は望む世界を手に入れてみせる。
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- 見知らぬ人相手なのに何故かそんな激情を抱いた。
- 今思えば、あの憂いた姿は家族のことを思い出した自分の姿と似てたんだ。
- だからそんな自分の姿を見せられたみたいで、それを認めたくなかったからあんな言葉が出てきたのかも知れない。
- あれはきっと、家族が失われた理由を誰かのせいにしたかっただけなんだ。
- たまたまそこにあの人がいただけで。
- 実際に言われたその人は戸惑ったみたいだけど、それは当然だろう。
- 突然そんなことを言われて、むしろ悲しそうな表情をした。
- それを同情されたと思い込んで、そんな表情に嫌悪を抱いてその場を後にしたんだ。
- 何より自分の弱さを他人に見られたくなかったから。
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- でもまさか、そんなあの人が、あの伝説のフリーダムのパイロットだなんて思いもよらなかったんだ。
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「First impression」
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- 「そっか、シンはキラさんのことをそんな風に思ってたんだ」
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- シンがキラの印象について語ったのを受けて、ルナマリアがニヤニヤとシンのことを見つめる。
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- 今マルキオ邸のテラスにて、シン、ルナマリア、メイリンが語らっている。
- ここマルキオ導師とカリダにお世話になるようになってから、子供達が寝静まった後に3人でお茶を飲みながら話をするのは日課となっている。
- 最初は心に大きな戦争という傷を負ったシンを立ち直らせるために、ルナマリアやメイリンが色々と話をしていたのだが、今ではシンからも積極的に話をするようになっていた。
- ルナマリアもメイリンも彼の変化を嬉しく思っていた。
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- 「い、今はそんなこと思ってない!」
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- シンは慌てた様子で否定する。
- それは事実だ。
- ステラを殺したフリーダムを激しく憎んだこともあったが、今考えれば何て自分勝手な気持ちで突っ走っていたのだろうと思う。
- そんな自分も他の誰かから見れば、大切な誰かを奪った憎むべき敵なのかも知れないのに。
- キラにとって、オーブやカガリを討とうとした自分はそんな対象だったのかも知れない。
- それでも彼は自分の手を差し出してくれた。
- 一緒に戦おう、と。
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- 今ならアスランの言っていた言葉の数々が理解できる。
- 自分だけが被害者で、自分が一番正しいと思い込んでいた時には見えなかったものが、今なら見える。
- 例え吹き飛ばしても何度でも花を植える、それこそが本当に自分が一番望んでいた未来だった。
- それを教えてくれたキラのことは、今では心から尊敬している。
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- 「はいはい、分かってますよ。あんたキラさんには頭が上がんないもんね」
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- ルナマリアが言いながら、少し遠い目をして私もだけどとペロッと舌を出す。
- 彼女も少ししか話をしたことがないが、あんなに柔らかく微笑む男性は初めて見た。
- ある意味あれは犯罪だと思う。
- ラクス様は大変だろうな、と今はプラントで彼の傍に居るその人に思いを馳せる。
- ルナマリアのそんな思惑など知らないシンは、その表情に照れながら小さくうんと頷く。
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- そんな2人のやり取りにメイリンもくすくすと横で笑っている。
- 何だかいつになく、とても幼く可愛く見えたから。
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- 「でも、シンの言うことはわかるなあ。私もとてもMSのパイロットには、ましてやあのフリーダムのパイロットだなんて思わなかったから」
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- メイリンも初めてキラに会ったときの印象を語る。
- あの時はアークエンジェルに保護された直後で、自分でも何が何だか分からないまま治療と看護を受けていたが、その時に自分を気に掛けてくれた最初の男の人だった。
- とても綺麗な顔立ちをしていると混乱しながらも頭の片隅で考え、そのキラに微笑まれて思わず顔を赤らめてしまったことを思い出す。
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- 「でもとても優しくて、強い人だよ」
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- 少しの間だが一緒に居て、共に戦場の中を駆け抜けて、それは強く感じたことだ。
- 自分のことを気にかけてくれながら、どんなことがあっても彼の信念は揺るがなかったから。
- あのアスランが全幅の信頼を置き、ラクスが心惹かれるのも無理ないと思った。
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- 「俺もキラさんみたいに、人の未来を守るために戦いたい」
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- それがキラに対する、亡き家族達に対するせめてもの罪滅ぼしになると思うから。
- ルナマリアとメイリンも神妙な面持ちでこくりと頷いて、私達も頑張りましょうと笑顔を見せる。
- シンもそれに応えるように、久し振りに力の篭った、でも柔らかい笑顔を見せて誓い合う。
- キラやラクスの平和への思いに、自分達も力を尽くすことを。
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- そんな3人を星空がそっと見守っていた。
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