- 「それじゃあまた後でね」
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- キラはいつものようにラクスを自宅から議長室へと送り届けると、ラクスを残していそいそと帰宅の準備を始める。
- ラクスもそれを咎める様子も無く、むしろ今日はそれを喜んでいるかのようににこにこと、気をつけてお帰り下さい、と言っている。
- そんなラクスにキラは苦笑を浮かべて議長室を後にした。
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- いつもとは異なる光景だが、別に2人が喧嘩をしているわけではない。
- 今日は私を送ってくださったらキラはお戻り下さい、と行く前から約束していたから。
- それはこの後にある出来事のために。
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- 普通の人と同じことがしたい。
- ラクスにとってそれはある種の憧れなのだろう。
- 評議会の父の娘として産まれたラクスは、おそらく幼少の頃から色々と特別扱いというか、かなり特殊な環境で育ってきたはずだから。
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- キラはラクスが一生懸命頼み込んできた昨日のやり取りを思い返してくすりと笑みを零すと、言われたとおり一人帰路へと付いた。
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「I love you from Kira」
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- キラとラクスは同じ一つ屋根の下で暮らしている。
- そして仕事も最高評議会の補佐官兼護衛ということで職場も同じといっても過言ではない。
- だから2人が出掛ける時は、いつも家から一緒だった。
- だが今日は、キラは一人で家を出る。
- ラクスがたまには別の場所で待ち合わせをしましょうと言ってきたから。
- 理由は普通の人がするように待ち合わせをして、デートがしてみたいからということだった。
- キラは苦笑しながらも、ラクスのささやかな願いを快諾した。
- ラクスの願いを叶えられるものならば、叶えてやりたいから。
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- そうして一人家に戻ってきたキラは、時間まで自分の仕事を家出していたのだが、時間も忘れて作業に没頭していたため、気が付いた時には約束の時間がそこまで迫っていた。
- 焦った表情で慌しく準備をすると、風の様に家を飛び出していた。
- そして全速力で待ち合わせの場所へと急ぐ。
- 何とか時間前に公園の入り口に着いたキラは息を整えつつ、辺りを見渡してラクスの姿を探す。
- そして笑顔でこちらに手を振るラクスを見つけて、ホッとしながらその元へと急ぐ。
- ラクスのことだから、きっと時間より早く来て待っていたに違いない。
- 時間ギリギリになってしまったことで、長い時間待たせたことにキラは申し訳ない気持ちを抱いて謝罪を口にする。
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- 「ゴメン、お待たせ」
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- しかしキラは約束の時間通りに到着しており決して遅刻をしたわけではないので、その謝罪はどちらかというと相応しくない。
- だからラクスはキラにその意味を込めて首を横に振る。
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- 「いいえ、私も少し前に来たところです」
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- そう答えるラクスはいつもよりはしゃいでいるように見えた。
- よっぽど普通のデートができることが嬉しいんだろうな、と微笑んでいると、ラクスがいきなりぎゅっと自分の腕に抱きついてきた。
- 普段はラクスがあまり取ることの無い行動にドキドキして思わず赤面してしまう。
- ラクスはそんな自分の反応を楽しんでいるみたいだ。
- まいったなあとまだ少し戸惑うキラを急かすように、ラクスはキラの腕を引っ張って歩き始める。
- キラはされるがまま、でもその状況をどこか楽しみながら2人は街へと向かう。
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- それから2人は街中を歩きながら、気ままに店に立ち寄って買い物をしたり、ショーケースを眺めたりして楽しむ。
- 手をしっかり繋いで。
- ラクスは心底嬉しそうにあちこちを見ている。
- そこに当たり前の幸せを感じて、キラは表情を綻ばせる。
- ラクスも楽しそうで良かったと心から思う。
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- でもだから、ラクスのことを心から大事だと思えば思うほど、それが時折不安になる。
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- 僕は君を愛するに値する人間だろうか。
- ラクスはこんな僕のことを愛してくれるだろうか。
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- この手は、何度も戦場に出て、たくさんの人を傷つけてきた、赤い血で汚れた手だから、本当は君に触れる資格なんて無いのに。
- 純粋で綺麗な君を汚してしまっているような、自分は本当は幸せにはなってはいけないのではないかと、そんな罪悪感みたいなものが押し寄せる。
- 彼女は優しいから、自分を傷つけないように我慢しているだけなのじゃないかと、それが本当だったらと考えてしまうと堪らなく怖いのだ。
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- でもこれを手放すことはできそうにない。
- もう自分の半身も同じだから。
- もし失ってしまえば、その心の痛みで死ねると確信できるほどに。
- だからずっと傍に居たいと思う。
- 例えそれが矛盾した想いだったとしても。
- 願わくばラクスも自分と居て幸せを感じてくれていればと願うばかりだ。
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- 僕は君を愛してる。
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- 家への帰り道、そんなことを考える自分の手をラクスがを強く握ってきた。
- それに内心小さく驚きながら、想いよ届けとその手に力を込めて握り返す。
- そして心から微笑む。
- ラクスにしか見せることの無い、甘く極上の。
- それに応えるように見せたラクスの笑顔が、またキラの鼓動を激しくさせ、同時に心が穏やかに満たされる。
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- 僕は君に愛されてると、自惚れても良いかな?
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- キラは胸の中でそう祈った。
- 高鳴る鼓動を必死に宥めながら、既に心の片隅では自惚れて。
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FIN
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- 日本語タイトル 「貴方を愛しています、キラより」
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