※このお話は捧げ物ですが、拙宅の長編『TWIN'S STORY』のサイドストーリーとして構成されています。
設定についてはそのつもりでお読み下さい。
- アプリリウスワンの中心部に程近い場所に設立された幼年学校。
- そこにはプラントの最高権力者であるラクスとその夫キラの双子の子供、ヒカリとコウが通っている。
- プラントの英雄として崇められる2人と言えど、家庭に戻れば普通の父であり母。
- そんな2人の双子もキラとラクスの子供ということを覗けば、何処にでもいそうなとても愛らしい子供達だ。
- だが最高評議会の議長殿のご子息、ご息女の入学ということで、学校では入学前から直後まで色々と騒動があった。
- 双子を受け入れて大丈夫か、他の子供への学校生活に影響は出ないかという不安の声も当初は漏れたが、双子が入学したのは今年の春でまだ数ヶ月ほどしか経っていないが、子供達同士は仲良く、すっかり学校生活にも馴染んで勉学に遊びにと、毎日を元気に楽しんでいる。
- 周囲の大人達からすればまずは一安心というところである。
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- しかしその安堵も束の間、すぐに新たな緊張が学校関係者や評議会で持ち上がる。
- それは幼年学校の1年生が初めて参加する、学校行事が待っているからである。
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- ここの幼年学校では児童達による音楽会が毎年入学式から数ヵ月後に開催されており、今年もその日がやってくるのだ。
- 新入生にとっては初めて参加する学校全体での行事ということで、集団で一つのことを成し遂げる達成感などを知ってもらおうという意図と、保護者達に子供達の成長やしっかりやっているところを示す意味でも重要な催しになっている。
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- しかし今年は少し取り巻く環境が異なる。
- それは保護者の観覧者の中にキラとラクスが混じるということだ。
- 入学式の時にも散々そうしたことは経験しているだけに、2人の警護や周辺の騒動による混乱、開催を維持するための困難さは想像に難くない。
- まして新入生は両親と一緒に合唱するということになっている。
- ということはキラとラクスも一緒に合唱するというわけで、学校側とすれば嬉しいような大変なようなそんな複雑な心境を抱きながら、様々な方面で不備が無い様に準備をしなければならない。
- 校長や教頭といった面々は額に脂汗を滲ませながら、その汗を拭き拭き対応に追われていた。
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- ただ双子の担任であるナッシュだけは落ち着いた様子で淡々と準備を進めていた。
- 会場のセッティングはもちろん、双子を含めた子供達の合唱の練習、保護者達への説明や案内。
- その中で当然キラとラクスにも会っている。
- 最初に約束したとおり、ナッシュは双子も他の子供と分け隔てなく接しているし、学校に関することは1保護者として他の保護者と何ら変わり無い応対をしている。
- それが校長などから見ればハラハラする行為でもあるのだが、キラとラクスのナッシュに対する評価はすこぶる良かった。
- そのためナッシュの対応を注意することも出来ず、とにかく彼に全てを任せざるを得なかった。
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- とにかくそんな悲喜こもごもがありながら、音楽会開催の日は刻々と近づいてくる。
- 誰もが様々な思いを抱えながら、その日に向けて準備に余念が無かった。
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「Mucis fea」
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- 音楽会当日。
- ヒカリとコウはどこか浮ついた気持ちで朝食を取っていた。
- それは両親が入学式以来、幼年学校に自分達の様子を見に来るためだ。
- 初めての学校行事ということで張り切っているというのもあるが、今回は両親と一緒に合唱も出来るというのだから、前日は興奮であまり眠れなかった。
- この日のために何週間も練習をしてきたのだ。
- それを大好きな両親に披露出来るとあって大きな期待と、失敗したらどうしようという少しの不安に胸が一杯で、双子は正直朝食どころでは無かった。
- 少し固い表情でいつもに比べると口数も少ない。
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- 一方のキラとラクスは心なしかいつもよりにこやかに、双子と一緒に朝食を取っていた。
- こうして家族で朝食を取る機会も最近はそう多くない。
- 夕食になるとその回数はさらに激減する。
- そういった意味でも、キラとラクスは子供達と一緒の時間を過ごせることが嬉しかった。
- そして何より今日は2人とも休みを取って、音楽会を一保護者として参加することになっている。
- 周囲に宣言したとおり、今日は普通の父と母として行事に参加し、子供の成長を確認し喜びたいのだ。
- そのため普段は仰々しいくらいの護衛なども全て断っている。
- 普通の両親にそんな護衛は付かないというのが理由だ。
- イザークなどは何を考えているのだと怒りを露にしたが、2人は全く意に介さず頑として耳を貸さなかった。
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- もちろん国の最高VIPである2人に護衛をつけないなど、国内のことと言えどありえるはずも無く、2人に気付かれないように裏で多くの評議会関係者やZAFT上層部が動いたことは言うまでも無い。
- とにかくその指揮を預かるイザークは、苦心して2人に気付かれないように護衛プランを何日も掛けて練ったのだった・・・。
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- そんなこんなありながらも、とにかく当日を迎えたわけだ。
- 周囲の不安など余所に、ヤマト一家はマイペースに今日の準備が着々と進んでいる。
- キラとラクスは口数の少ない双子に緊張しているんだなと微笑ましく思いながら、朝食が済むと今日のための双子の”衣装”を家族で選ぶ。
- いつも学校に着ていく服ではなくて、外遊先などに連れて行く時などに着せる衣装をクローゼットから引っ張り出して、ラクスがコーディネートしていく。
- 普段よりも綺麗な服を何着も着せられて、双子はちょっぴり嬉恥ずかしの表情で両親を見上げる。
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- 「人前で歌うためには、ある程度そうしたおめかしも大切なことなのですよ」
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- ラクスはニコニコと双子の服装をチェックしながら、上下の組み合わせをあれでもないこれでもないと次々に変えていく。
- 家族でと言いながら、実際にはラクスの独壇場で双子はされるがまま、キラは口出し出来ぬままだ。
- キラは、あれは絶対子供の着せ替えを楽しんでいる、と内心思いながら、まあ子供の晴れ舞台だから良いものは着せてあげたいというのはキラも同じ思いなので敢えて口には出さずにいる。
- だがいい加減それを待っているのも疲れてきた。
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- 「ほら、ヒカリとコウは準備があるからそろそろ行かないと遅刻しちゃうよ」
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- 放っておけば何時間でも双子の着せ替えを楽しみそうなラクスに、されるがままの双子に助け舟を出す意味でも、キラは双子のファッションショーの終わりを告げる。
- 言われてラクスが時計を確認すると、確かにそろそろ学校に行かなければならない時間だ。
- 双子は準備などがあるため先に学校へ行かなければならない。
- ラクスは少し残念そうにしながらも、遅刻させるわけにはいかないと、今着ている服の皺などを直すとなんとか納得する。
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- 双子はまだ着心地がいまいちという表情を浮かべているが、ラクスの楽しそうな表情ともう着替えている時間は無いのとでそんなことは言えず、慌しく荷物を持つとまあいいかと気にすることを放棄した。
- この辺の切り替えの速さは両親譲りだろう。
- それが友達や周囲を振り回す一因でもあるのだが、家族揃ってそのことに気付くことは無いであろう。
- とにかく今は双子が学校に行くことが優先すべきことなのだ。
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- 「「いってきます!」」
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- キラとラクスはニコニコと笑みを浮かべて、学校へ向かう双子の背中を見送ると、自分達もいそいそと出掛ける準備に入ったのだった。
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*
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- 「「おはようござい、ま、す・・・」」
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- 学校に到着した双子はいつものように元気よく教室に入ろうとしたが、既に来ていたクラスメイトを見て入り口で思わず立ち止まった。
- クラスメイトの顔はいつもの見慣れた友達ばかりだが、驚いた原因はその格好にあった。
- 明らかに皆の装いがいつもと違うのだ。
- 音楽会ということで保護者達に披露するのだからおめかしするのは当然だということはラクスに言われて分かるのだが、それにしても自分達と比べても他のクラスメイトは気合の入り方が半端ではない。
- どこの晩餐会に出席するのだというようなものや、キラキラと光沢を放つものまで、大いに着飾っているのだ。
- 当の本人達も少し当惑顔を浮かべている。
- 着慣れない服装に襟と首の間に何度も指を入れたり、そわそわと落ち着かない様子で教室内をウロウロしているクラスメイトもいる。
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- 「お母さんが今日はきちんとした格好をして行きなさいっていうのよ。ヒカリとコウのお父さん、お母さんも来るんでしょ。それでだって」
-
- ミレーユが皆の気持ちを代表して、入り口の所で突っ立っている双子に説明する。
- 改めて自分達の両親の偉大さを再認識する双子だが、ミレーユの両親が言うような感覚が正直ピンと来ない。
- 父は父であり母は母であり、双子にとってはそれ以上でも以下でも無いため、何故そこまで周囲が意識するのかは全く理解できなかった。
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- 「おはよ、う」
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- そこにやってきたザイオンは、教室の中に目を向けて双子と同じように驚いた表情で固まってしまった。
- それを見た双子はこんな顔をしていたのかなと感想を抱きながら、今ミレーユに聞いた事情を説明する。
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- 説明を受けながらザイオンは一応納得したが、自分だけが良い格好をしていないことに少しの不安と不満を持った。
- 彼だけはいつもと変わらぬ装いでやってきて、普段と何も変わり無い。
- だが他の子供達は逆に安堵したような笑みを浮かべて挨拶を返す。
- ザイオンは頭にハテナマークを浮かべるが、コウが素直にその気持ちを述べる。
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- 「皆とてもお洒落だけどいつもと違う格好してたから、いつもと変わらないザイオンを見ると何だか落ち着くよ」
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- 他のクラスメイトも大きく首を縦に振っているのが見えて、ザイオンは思わぬところで褒められたことに少し頬を赤くしながら頭を掻いた。
- 何だか自分がヒーローになったみたいで、ちょっと恥ずかしいながらクラスメイトの緊張緩和に役に立ったのなら良かったと思った。
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- 「皆おはよう、最後の確認をするから席に着いて」
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- しばらくわいわいとそのことで盛り上がった子供達だったが、ナッシュが入ってくるとパッと話を止めて自分の席に着く。
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- 彼も普段とほとんど変わらないスーツ姿で、いつもどおりのスタイルを貫こうという意志が表れている。
- だが普段よりおめかしし過ぎた格好の子供達にナッシュも一瞬驚く。
- そんな子供達に、自分ももう少しマシな格好をすべきだったかとも思ったが、自分は自分のすべきことをするだけだと開き直るとすぐに笑みを浮かべて、今日の段取りを改めて子供達に説明して最後の練習をする。
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- 練習をしながらいよいよ始まるのだという緊張感が少しずつ子供達の中にせり上がってくるが、逆に双子は気持ちが落ち着いてきた。
- 両親に連れられて既に人前に立つという場数を踏んでいるため、双子には耐性というか慣れが既に出来つつあった。
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- 「大丈夫ですわ皆さん。これだけ練習したのですからきっとうまく歌えますわ」
- 「そうだよ。いつものとおりに元気に歌おうよ」
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- 周囲の緊張を感じ取ったヒカリとコウがクラスメイトを励ます。
- すると一気に緊張が空気ごと和らいでいくのが感じられる。
- 子供達にも明るい笑顔が戻ってきた。
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- その様子にナッシュは感心していた。
- 本当であれば自分が子供達の緊張を解かねばならないのだが、さすがに本番を前にナッシュ自身も緊張していて、うまい言葉が見つからなかった。
- それを双子がクラスを引っ張るように、見事に皆の緊張を解き解した。
- 改めて双子のカリスマというか潜在能力の高さ、凄さを目の当たりにして、ただ舌を巻くばかりだ。
- 将来きっとプラントを背負って立つ逸材なのだと言うことを、ナッシュはこの時に確信したのだった。
-
- 一方その頃、音楽会の会場も異様な緊張に包まれていた。
- どの保護者もそわそわと落ち着きが無い。
- それもその筈、キラとラクスが保護者達の座る観客席に来るとあって、先ほどからそのことをずっと囁きあっているのだ。
-
- 同じ新入生の子供を持つ保護者達には、入学式の時にキラ達本人から普通の親として行事などに参加する、普通の保護者として接して欲しいと説明はされていたが、やはりそうそう意識を変えられない。
- 子供の活躍が楽しみというよりは、双子の足を引っ張らないか心配、という方が大きい。
- そして自分達も合唱に参加するとあって、ということはあのラクスと一緒に歌を歌うということになるのだから、舞い上がってしまうのも無理は無かった。
- 元々裕福な家庭が多いが、それでも普通ならまずこんな学校行事では着ないであろうドレスやタキシードなどをパリッと身に着け、舞踏会か何かのようになっている。
- はっきり言って新入生の保護者席だけは浮いている感じだ。
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- そんな緊張感が漂う中、キラとラクスが会場へと入ってきた。
- さすがにキラとラクスも自分達が目立つという自覚があるのか、髪や顔を帽子や伊達眼鏡で隠し服装も落ち着いた大人というようなシックな服装をしているが、それでも周囲の目を引く存在であることには変わりない。
- 彼らの纏っている雰囲気が一般人のそれとは一線を画しているのだ。
- 誰もがそちらを見ないようにと思いながらも、ついチラチラと見てしまう。
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- 「キラ、こっちだ」
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- そんなチラチラと見られていることに気付かず空いている席を探していた2人は、小さな声だが呼ぶ声を聞きとめた。
- キラはキョロキョロとその声の発生元を探すと、そこには私服姿のテツが既に席に着いていた。
- 幸いというかテツが気を利かせたのか、テツの横に2席空席がある。
- それを見たキラはラクスの手を引いて人の間を擦り抜けて、テツに礼を言いながら横の席に腰を下ろした。
- それを見たテツはキラ達が座った方とは反対側にイヤホンをつけている。
- そして口元に手を当てると何やら小声で囁いた。
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- 実は、テツはイザークらの要請を受けてキラとラクスの傍での警護という任務も帯びていた。
- 彼自身もザイオンの保護者の1人ということで、施設の職員に代わって出席するために休暇を申請していた。
- 保護者の1人として面倒を見ているザイオンが丁度双子と同じ学年でもあるし、違和感無く2人の傍にいられるだろうということで、そこに目をつけられたのだ。
- テツはキラ達の言動に苦笑しながらも二つ返事で了承した。
- 内心では気苦労の耐えないイザークに同情しながら。
- 今のは外で密かに警備の指揮をしているイザークに、キラ達が隣に座ったことを報告していたのだ。
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- キラとラクスが座ったことで、そのすぐ近くに座っていた保護者達にはざわざわとざわめきが起こり、テツはその様子にやはり苦笑を浮かべる。
- 彼らの気持ちが理解できなくも無いから。
- だが警護の任務は忘れてはいけないため、そちらにも気を配りながらザイオンの方も気になるしと、彼もまた色々な意味で落ち着かなかった。
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- 天然の2人はそんなテツや周囲を見ながら、自分の子供達の活躍が気になって緊張しているんだな、と周囲の気苦労など露知らず、子供達の登場をドキドキして待ちながらそんな暢気なことを考えていた。
-
*
-
- いよいよ音楽会の幕が上がった。
- 最初は3年目の生徒達による演奏からだ。
- それから順番に各学年がそれぞれの練習の成果を披露していく。
- どの学年も見事な演奏や合唱を披露し、その度に割れんばかりの盛大な拍手が起こる。
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- そしてキラとラクスが待ちに待った双子達新1年生の出番だ。
- クラス全員での合唱が2曲。
- 1曲目は新入生だけで歌う、プラントでは定番の合唱曲だ。
- 音階はまだまだ勉強中という感じはあったが、それでもたくさん練習してきたことが分かるほど元気の良い自信に溢れた歌声が響く。
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- そして2曲目は両親も自分の子供達の横に入って一緒に歌うことになっている。
- 楽曲は『静かな夜に』。
- ラクスが過去発表したプラントでも屈指の人気を誇る名曲で、今でも多くの人に愛されている。
-
- 双子はそんな母親の歌が歌えることがとても嬉しくて、練習の時から張り切っていた。
- キラもラクスも双子にとって父であり母であり、そして憧れの存在である。
- そんな両親と少しでも同じことが出来るというのは、この上ない喜びだった。
- 双子にとってそれを披露すると言うのは、両親に少しでも近づいたと認めてもらうことと同義だった。
- だからこそ、今朝から不安も少し胸に渦巻いていたのだ。
-
- 新入生の保護者達は説明を受けたとおり、自分の子供達の横へ上がる。
- キラはヒカリの手を、ラクスはコウの手をそれぞれ握り、余った双子の手はお互いに繋ぎ合って親子は並んでステージに立つ。
- その横ではテツもザイオンと手を繋いで並んでいる。
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- 新入生はこうして一緒に立ったことで少し緊張が高まったようだ。
- 特に双子の緊張は半端ではない。
- うまく歌えなければラクスの顔に泥を塗るかもしれないという、ここにきてそんな不安が胸を押し潰しそうになる。
- だが繋がれた手から伝わる温もり、いつものように笑いかけてくれる笑顔が、双子の心を落ち着かせる。
- 双子はお互いに見つめ合ってコクリと頷くと、凛々しい表情で正面を向いた。
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- 全員保護者と子供が手を繋いだのを確認すると、いよいよ伴奏が始まった。
- ラクス本人が歌うということもあり、誰もが唾を飲み込んでその歌い出しにじっと耳を傾ける。
- しかしラクスは双子をリードするように、また主役の座を子供達から奪わないように控え目に歌う。
- ラクスの歌声はあくまでバックコーラスとしての役割を果たし、まだ未熟な子供達の音階を補完する。
- そのラクスのバックコーラスに支えられて、子供達の元気な歌声が旋律鮮やかに会場内に響き渡る。
- それがまた何とも言えない幼さと情緒さが絡み合った透明感のある歌に聞こえ、その歌声にいつしか保護者達もキラとラクスが来ていることが頭から離れ、次第に子供達の歌に聞き入っていく。
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- そして歌い終わると、この音楽会で最も大きな拍手が長く続く。
- 双子がいるからではなく、純粋に観客が新入生の合唱に最も感動したのだ。
- その拍手を浴びながら、新入生は誰もが照れくさそうに、でもとても嬉しそうな笑顔でお辞儀をすると保護者達と一緒に壇上から降りた。
- それでもまだ続く拍手に、双子は弾けるような笑顔を両親に向け、両親も満足そうに双子に笑いかけた。
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- こうして音楽会は大盛況の内に幕を閉じたのだった。
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〜おまけ〜
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- 音楽会の間中、会場周辺の警護にあたっていたイザークは1人愚痴を零していた。
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- 「まったくあの2人は、自分達の立場をいつになったら理解するんだ」
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- プラントの最高評議会の議長とその夫ということで、万に一つの事故も許されないと言うのに、2人はそんなことを全く意に介する様子も無く、好き勝手に遊びに出かけたり、イザークからすれば自覚が無いとしか言えない行動が目立つのだ。
- 今日こうして全て滞りなく事が進んだのは、彼の尽力とは無関係ではない。
- そのことには胸を撫で下ろす。
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- とは言っても、毎回こんなことは勘弁被りたいというのが本音だ。
- 以前など知らない間にオーブに行っていたこともあり、何も聞かされていなかったイザーク達は大層肝を冷やしたものだった。
- そして大騒動に発展しそうになったのを、情報規制や評議会議員達への説明などで収拾に奔走した苦い経験がある。
- だが当の本人達はのほほんといつもの笑みを浮かべて、ゴメン、の一言で片付けてしまった。
- それを聞いていたアスランが盛大な溜息を吐いた時、その時ばかりはイザークにもアスランの気持ちが寸分の狂いも無く分かったものだ。
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- 色々と提案や行動するのは勝手だが、周囲に迷惑を掛けないで欲しいと切実に思う。
- その尻拭いをするのはいつも自分なのだ。
- 暖簾に腕押しでこちらの怒りも受け流されてしまうため、怒鳴っても一向に堪える様子も無いし、気苦労ばかりが増えていく気がするのは気のせいではないだろう。
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- 2人と一番親交が長いアスランが言っていたことが、今更ながらようやく理解出来た。
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- ーあの2人に振り回されることは、覚悟しておいた方がいいー
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- 突飛な言動とマイペースに振り回されて、同じように色々と苦労をしていたのだろう。
- そんな2人の面倒を見るのが嫌でオーブに渡ったのではとも思えてきた。
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- 何だかんだで結局、立場的なものも含めて彼らの上手に出られないことはこれまで散々思い知らされてきたイザークは、だんだんとアスランに対する怒りに感情がシフトしだす。
- アスランに八つ当たりでもしていないとこの怒りの行き場が無いのだ。
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- 「アスラン覚えていろよ〜」
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- だがアスランは今はオーブ。
- この怒りをぶつける機会があるのは当分先のことだ。
- それも分かっているイザークの虚しい愚痴と決意が、ただプラントの空に響くのみだった。
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- その頃地球では、アスランが盛大なくしゃみをしたとかしていなかったとか・・・。
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