※この捧げ物は初めての学パロものなっております。
パロが嫌いだという方はご遠慮願います。
- ラクスはその瞬間固まってしまった。
- それはまさに体中を電撃が駆け巡ったような衝撃を受けて、体が動かせなくなったのだ。
-
- ラクスは現在高校2年生。
- その容姿から男子生徒に告白されりラブレターを送られた回数は数知れず、しかし誰もラクスが心動かされるような相手はいなかった。
- しかし2年に進級して、1年生を迎えた入学式で、それは起こった。
- いや見つけたと言うべきか。
-
- ラクスは2年生ながら、成績優秀なラクスは生徒会の副委員長に任命されており、その役員として入学式に立ち会っていた。
- 最初は初々しい後輩の姿を微笑ましく思いながら見守っていたが、その中の1人に目が釘付けになった。
- 緊張した面持ちの新入生の列の中に透き通るようなアメジストの瞳を揺らしたライトブラウンの髪を持つ、少女と見間違えそうなほど端正な顔立ちをした少年がいたのだ。
- 少年だと判断できたのは、学生服の襟が見えたからで、そうでなければ絶対に少女だと思っていただろう。
- それほど綺麗だという印象を持った。
- その少年を見た瞬間、そこから視線を動かせなくなったのだ。
- 友人達が呼ぶ声も全く耳に入らず、式が終わるまで、否その新入生が会場を後にするまでじーっとその少年を見つめていた。
- 不安そうな、しかしこれからの学校生活を楽しみにしているような複雑な表情を浮かべていたが、それがさらにラクスの心をきゅんと捕まえて離さない。
- ラクスは生まれて初めて異性を好きになる、それも一目惚れなるものを体験したのだった。
-
-
-
-
「Falle in love at first sight」
-
-
-
- 入学式から数日後、ラクスは再びその少年と出会った。
-
- これから行われる生徒会の資料を持って廊下を歩いていたのが、入学式で見かけて以来すっかり少年のことが頭から離れなくなったラクスは、その日はいつにもましてボーっとしていた。
- だから目の前の角から突然人が出てきたことに気付かなかった。
- どちらも走っていなかったので大した衝撃ではなかったが、それでもぶつかった勢いでラクスは資料を落としてしまった。
- 廊下に散らばった資料を慌てて拾う。
- ぶつかった相手も一緒になって拾ってくれているのが分かる。
- 服装から男子生徒だと分かったが、失態を見せてしまった動揺と恥ずかしさで、拾うことに一生懸命になり相手が誰かなど気にも留めなかった。
-
- 「も、申し訳ありせん、大丈夫ですか」
-
- ラクスは謝罪の言葉を口にしながら顔を赤くしてぶつかった相手の方に、そこでようやく視線を向けた。
- 次の瞬間、ラクスは息を飲み固まってしまった。
- ぶつかった人物というのは、ラクスがボーっとする原因となった少年だったのだ。
- 思わぬ展開に思考がついていかない。
-
- 「いえ、こちらこそボーっとしててすいません」
-
- その少年は申し訳なさそうに謝罪の言葉を零すが、折角のチャンスでもあったのにラクスは咄嗟に言葉が出てこなかった。
- 少年の顔をじっと見つめながら初めて聞くその声がラクスの頭の中に木霊している。
-
- 「おい、キラ何やってんだよ」
- 「あ、ゴメン、今行くよ」
-
- そんな呆けるラクスを余所に、友人が少年の名前を呼ぶ。
- どうやら少年の名はキラと言うらしいことがようやく分かった。
- ラクスはそんなことをぼんやりとは思うが次の行動に移れない。
- キラは散らかっていた残りの資料を手早く拾うと、まだボーっとしているラクスに申し訳なさそうな笑顔を浮かべて差し出す。
-
- 「どうもすいませんでした。それじゃあ」
-
- ラクスが無意識にその資料を受け取ると、キラは立ち上がりその場を走り去った。
- ラクスはその後姿を呆然と、廊下に座り込んだまま見えなくなるまで見つめていた。
-
- その日ラクスの胸はずっとドキドキと鼓動を打ちっぱなしで、委員会の内容は全く頭に入っていなかった。
- 頭を占めていたのは一つのこと、1人の少年のことばかり。
- 想い人の名前と声が分かったことは本当に嬉しい。
- それだけでもラクスの心は大きく弾んでいた。
- ますますラクスのキラへの想いは募るばかりだった。
-
- その翌日にはとうとう、と言うよりもようやくラクスは動き出した。
- これまでは遠目に見た容姿しか分からなかったから、どこから調べれば良いか分からなかったから動けなかっただけだ。
- だが名前が分かったらこっちのもの。
- 彼がどのクラスなのかということはすぐに調べがつく。
- そして数週間それとなく彼の周囲から情報を得て、彼の人物像や交友関係、行動パターンなどを徹底的に調べ上げた。
-
- それから暫くしてラクスは幼馴染でもあるアスランを校舎裏へと呼び出した。
- 何故ならアスランはキラと同じクラスで、あのキラと小学校の頃からの幼馴染、親友同士だということが判明したのだ。
- 直接は何の繋がりも無い自分が彼と接点を持てるのは唯一ここだけだ。
- いきなりキラ本人を呼び出してもそれに応じてくれないことは、他の女生徒への対応で分かっている。
- そうなると警戒されてしまってその次の手が打ち難くなり、それは困る。
- ならばそれよりも確実なルートで、先ずは知り合いになることが、最終的に彼をものにする近道となる。
- 自分でも何をしているのだろうと自嘲しながらも、他の女どもに横取りされないためにはこれを利用するのが最短ルートだと判断したのだ。
- そうでなければ自分の気持ちを間接的にでもアスランに告げようとは思わない。
- 言い換えればアスランに話してまでも成し遂げようという覚悟があるとも言える。
-
- 「どうしたんですラクス、こんなところに呼び出して?」
-
- アスランは不思議そうな表情を浮かべてその場所へやってきた。
- 自分の腹黒さは知っているものの、基本的には姉のように慕っているラクスの呼び出しに、何の疑いも持っていない。
- そんなアスランに相変わらずですわね、と一瞬優しい笑顔を浮かべるが、すぐに生真面目な表情でアスランを見据える。
- 今までこういった表情で話をされた時は、大抵無理難題を押し付けられる時であると、過去の経験から知っているアスランはラクスの呼び出しに気安く来たことを早くも後悔し始めていた。
- 尤も呼び出しに応じなければ後でどのような報復が待っているか分からないのだが。
-
- 「アスランにお願いしたいことがあるのですが、・・・」
-
- ラクスはそう言ったものの、恥ずかしそうに口を噤んでしまった。
-
- アスランはやはりと思って身構えたが、一向にその先を言わないラクスに珍しいなと思った。
- いつもの彼女は物事をハッキリという性格で、本題をなかなか言わないことなど無い。
- もじもじと言いにくそうに、頬を赤らめて俯いている様子など、実に年頃の女の子らくして思わずドキリとしてしまう。
- 一瞬これは自分に対する告白なのだろうか勘違いをし、嬉しいような、怖いような変な緊張感がアスランを包む。
-
- その緊張が伝染したように、ラクスはますます舌がうまく解れない。
- こんなにも自分の胸がドキドキしてしまうことに、自分自身で戸惑いを隠せないが、この甘く苦しい思いが一層キラへの想いを募らせる。
- 暫くの葛藤の末、アスランに言うことの恥ずかしさよりもキラを何とか自分のものにしたいという思いが勝った。
-
- 「キラに私のことを紹介していただきたいのです」
-
- 意を決した表情で、それはまさに宣言するといった様子でラクスは言い放った。
-
- アスランは目を丸くしてラクスを見た。
- 自分に対する告白ではなくてホッとしたような、残念なような複雑な心境ではあるが、姉のようといいながら、彼女はおっとりしていてそういった方面には疎いと思っていた。
- もちろん密かに持っている黒さは付き合いも長いので知っているが、普段の彼女は計算高いが天然なところもあり、とても自分から告白をしたり異性を好きだと自覚することは無さそうだと評価していたのだが、それがまさかそのような話を聞かされるとは。
- それも相手は自分の親友であるキラのことを気にしているなど夢にも思わなかった。
- そのために自分が仲介者となれいうのだから、その本気度が窺い知れる。
- しかしキラのことをよく知るアスランは、本当にキラにラクスのことを紹介しても良いか悩んだ。
-
- キラは昔から恋愛方面に関してとにかく鈍い。
- その容姿と柔らかい物腰から女子からの人気はとても高く、入学式の翌日から既にアプローチも受けている。
- しかしキラはそれらにことごとく気付かず、また気付いたとしても告白されることを恥ずかしがって、またどうやって断わったらいいかということが分からずに、アスランに相談してはそういった類から逃げていた。
-
- だがそんなキラが1人だけ女の子のことを話題にしたことがあった。
- 本人にもまだ自覚は無いようだが、それは明らかに恋をしている少年の表情だった。
- そのキラが言ったのは、桜色の髪をしたこの学校の女子だと言うのだ。
- 全校生徒を見渡しても桜色の髪を持っているのはラクスしかいない。
- つまりキラにとっても、ラクスにお近づきになるチャンスなのだ。
- キラの女の子に対する免疫の無さを何とか改善するためにも、まさに渡りに船の話なのだ。
-
- それにこれはアスランにとっても願ったり叶ったりの話でもあった。
- 何故ならアスランはキラの双子の姉、カガリに想いを寄せている。
- しかしそれを本人にはもちろん、キラにも言っていない、言えないのでどうやってそっちに持っていこうか思案していたところだ。
- ラクスのことを話して所謂Wデートという形にしてしまえば、さり気なくカガリも誘うことが出来る。
- まさに一石二鳥だ。
- アスランは瞬時にキラにどうやって話をしようかと頭をフル回転させた。
-
- 一方でラクスは黙ってしまったアスランに、苛立ちと不安を覚える。
- 無茶なお願いをしているのは分かっているが、幼馴染のお姉さんである自分の頼みを少しくらい聞いてくれも良いではないかという思いと、やはりアスランに頼ったのは間違いだったかと言う自分の行動、考えの浅はかさに舌打ちしながら、腹の内にもやもやと黒いものをしたものを湛えだす。
- その毒気に気付いたのかアスランは慌てて返事をする。
-
- 「あ、いや、まあ、お話は分かりました。では今度の休日、キラとどこに遊びに行こうかと相談していたところですから、その時一緒にどうかということを話してみます。話がまとまったら連絡します」
-
- アスランの取り繕った答えにラクスは一転パーっと表情を綻ばせた。
-
- 「分かりました。返事を楽しみにお待ちしておりますわ」
-
- 何はともあれとにかくキラとお知り合いにならなくては話にならない。
- そのチャンスがアスランに掛かっているというのは不安だが、今のアスランなら無理矢理にでも連れてくるであろうことは予想される。
- ラクスは手に入れた情報網から、アスランがカガリもこれに乗じて誘うであろうことは計算済みだったのだ。
- ならば2人きりになるのもそう難しくは無い。
- アスランが立ち去って完全に1人になると、ラクスは真っ黒い笑みを浮かべてどうやってキラと2人きりの時間を作ろうかと、その聡明な頭脳をフル回転させていた。
-
-
*
-
-
- 「と、言うことなんだが、今度の週末カガリも誘って4人で遊園地に行かないか」
-
- 教室に戻ったアスランは早速キラを捕まえて、自分の考えを話した。
- 幼馴染の女の子に誘われたがその日はキラと約束をしていると言ったら、ではそのお友達もと誘われたこと。
- しかしそれでは人数のバランスが悪いので、キラの双子の姉、カガリも一緒にどうかと提案してそれで快く了承してもらったことを。
- もちろん自分やラクスが裏で考えていることは言わないで。
-
- キラは自分の予定も聞かずに突然そんな話を持ってきたアスランに一瞬渋い表情を浮かべた。
- 自分でも女の子と話をするのが苦手だと自覚がある。
- それも初対面の女性となるとあがってしまい、しどろもどろになって満足に言葉が出てこないのだ。
- 元々大人しく内気なタイプであるキラは、自分から話し掛けることも無いため、結果中学時代は男の子とばかり遊んで、クラスメイトの女の子とすら遊ぶことがほとんど無かった。
- 初対面の女の子と一緒に遊びに行くことは勿論初めてだ。
- だから余計にアスランの誘いには首を縦には振りかねた。
-
- だがいつもは自分の意見を尊重してくれるアスランも今回は粘る。
-
- 「これからは女の子と話をする機会は出てくるんだ。今のうちに慣れておけ」
-
- その裏にある下心に気付かずに、キラは自分のことを心配してくれているのだと、アスランの力説に次第にそうかも知れないなという気持ちになってきた。
- 腕組してしばらく考え込んだ後、渋々ながら頷いた。
-
- 「うん、まあそこまでアスランが言うのなら行こうかな。言うことも分からないでもないし。いつまでも苦手じゃ困るもんね。とりあえずカガリには今日帰ったら確認しておくよ。多分予定は空いてたと思うから大丈夫だと思うけど。その辺はまた明日言うよ」
-
- とりあえずカガリのスケジュールも確認してからと了承はしたもののキラの胸には初対面の女の子と一緒と言うことに、どうしても一抹の不安は拭い去れないでいた。
- だがアスランと姉弟のように育ったご近所の幼馴染だと言うので、他の女の子よりもまだ親近感は湧くというものだ。
- 最悪会話に詰まったら女の子の相手はアスランに任せればいい。
- そんな安易な考えで、キラは結局了承したのだった。
- Lキラの返事を聞いて、アスランが心の中でガッツポーズを取ったのは言うまでも無かった。
-
-
*
-
-
- 「カガリ、今度の休日って暇だったよね」
-
- キラは帰宅して夕飯が終わると尋ねた。
-
- 「ああ、暇だがそれがどうした」
-
- カガリはすっかりリラックスモードで、ソファーに横になって本を読んでいる。
- そこで急に話し掛けられたが、いつものことなので何故そんなことを聞くのなど考えずに生返事を返した。
-
- 「いや実はさ、今度の休日アスランに遊びに行こうって誘われたんだけどさ、色々あってカガリも一緒にってことになったんだ」
-
- だが次に続けられたキラの言葉に、カガリは生返事で返すことが出来なかった。
- 勝手に予定を決められることはカガリが嫌うことの一つだ。
- そんなことはこの目の前の弟は分かっているはずなのに、それをしてきたキラにどういうことだとソファーから飛び起きて詰め寄る。
-
- キラはその剣幕に戸惑いながら、アスランに言われたことを素直にそのまま説明した。
- カガリは苛立ちの篭った表情で聞いていたが、話が終わるとそのまま渋い表情でうーんと唸って考え込む。
- 話を聞くと、確かにその女の子1人で男の子が2人というのはバランスが悪い気がする。
- それでもう1人女の子をということになったのだろうが、キラに他に女の子を誘える筈も無く、それで自分が行くことになったのだろうと推測する。
- そんなキラに呆れもするが、アスランのことは昔から話に聞いていたので知らないわけでもない。
- それほど仲が良い訳でもない無いが、双子の弟と親友だというくらいだから自分とも気も合うだろうし、そんなおかしな奴じゃなかったなと、僅かに会話した過去を思い返しながらアスランの偶像を練り上げた。
- それに最近は遊園地には行っていない。
- 久し振りに行くのも悪くないなと、カガリの気持ちは行く方へと傾いた。
- 物事をあまり深く悩まず、即決即行動を信条とするカガリだ。
- しばらくキラの話を聞きながらそんなことを考えていたが、あっさりと了承の返事をした。
-
- 「まあいいぞ。お前が心配だし、その女の子とも友達になれたら嬉しいしな」
-
- キラは姉さん風を吹かせるカガリに口を尖らせながらも、一緒に来てくれることには正直ホッとしていたので、その思いは外には漏らさなかった。
- アスランにカガリも来てくれるなら、これ以上心強いものはない。
- キラは当初の不安も忘れて、その日がだんだんと楽しみになってきた。
- それがラクスとアスランの思う壺だとも知らずに。
-
-
*
-
-
- 約束の日。
- ラクスは逸る気持ちを抑えきれずに、約束の時間の30分前には待ち合わせ場所に到着していた。
-
- ラクスの格好は、膝より上の丈でふりふりついたスカートや、明るい感じに、しかし落ち着いた雰囲気に見せる白っぽいシャツは、キラの好みを把握した上で今日のために選んだ渾身のお洒落だ。
- キラは自分に対してどのような反応を示してくれるのでようかと、期待と不安を胸に膨らませながら待つ。
- その間は10分が1時間以上に感じられる。
- 時が経つにつれて遅刻しているわけでもないのに、アスランに遅いですわと苛々を募らせていた。
-
- 約束の時間の5分ほど前になって、ようやく別の場所で集合していたキラ、カガリ、アスランが待ち合わせ場所にやってきた。
- キラの姿を認めると、ラクスは満面の笑みを浮かべてそれまでの待ち時間の苦痛を忘れた。
-
- 一方のキラは、もう1人の女の子の姿を認めると心底驚いた。
- こんなところでまさか、自分が気になる女の子と会うなどと思ってもみなかった。
-
- キラはラクスのことをしっかりと覚えていた。
- キラにとっての初対面は廊下でぶつかってしまった時。
- その時から可愛い女の子だなとは思っていたのだが、あの時はぶつかってしまった負い目と照れ臭さが勝って、まともに顔も見ることが出来ずに立ち去ったのだが、あの鮮やかなピンクの髪は見間違えよう無く、あの時の女の子のものだと確信した。
-
- 予想外の事態に、簡単な挨拶を済ませると小声でアスランに詰め寄る。
- 相手の女性のことを知っている友人と言えば、アスランの他には話をしていないので彼以外ありえない。
-
- 「まさかアスラン、これを仕組んだの」
- 「そういうわけじゃない。本当に向こうから誘いがあったからお前に言ったんだ。それにお前の言う特徴だけじゃ本人かどうかも俺に分かるわけないだろ」
-
- アスランは明らかに狼狽気味のキラの言い分に苦笑する。
- それはキラが自分の気持ちを肯定しているようなものなのだが、キラはこの時点で緊張してしまってそのことに頭が回らない。
- 顔を赤くしながら、まさかここまで来て断わるわけにもいかず、アスランに八つ当たり気味に愚痴を零していた。
-
- キラとアスランがこそこそとじゃれ合っている頃、カガリは物怖じもせずラクスににこやかに挨拶をしている。
-
- 「カガリです。今日はよろしくお願いします」
-
- 活発なカガリは全く緊張した様子も見せず、本当に遊園地で遊ぶのが楽しみなようだ。
- うきうきとした気持ちが体全体から溢れている。
-
- ラクスはキラの様子を注視しながらも、一緒に来たカガリの観察も怠らない。
- 双子の姉がいるということは把握していたが、こうして見るのは初めてだ。
- ラクスはアスランの意外な女性の好みに驚きつつも、ひょっとしたらキラを手に入れる最大の障害はこの姉になるかも知れないということを警戒していた。
- ブラコンの姉というのは、周囲にたかる虫より質が悪い。
- 将来義理の姉妹にならなければならないため邪険にも扱えない上に、こちらでは断ち切ることが出来ない家族の絆というものもある。
- そのためそちらからキラに対してどんな噂が届くか分からず、そちらにも神経を配らなければならない。
- さらには一緒に生活をしているという、こちらからすれば羨ましい条件を備えているのだ。
- だからといって姉弟になってはキラをものに出来ないので、その関係はゴメンだが。
-
- しかしカガリはどちらかというとサバサバした明るい性格のようで、ラクスが心配しているほどキラに対して過保護ではなさそうだなと感じた。
- 逆にカガリもこちら側に取り込むことで、キラを自分のものにするための作を強固にすることが出来るかも知れない。
- それにこのキャラは嫌いでは無い。
- そう瞬時に計算したラクスは、笑顔でカガリに挨拶を返した。
-
- 「ラクスと申します。今日はお付き合いくださってありがとうございます」
-
- カガリの方もラクスに対して好印象を持った。
- おしとやかな感じで、纏っている雰囲気がすごく柔らかい、とても優しそうな人だと思った。
- そういう意味ではラクスはいとも簡単に最初の関門を突破したと言えそうだ。
- カガリは純粋にラクスのような女の子とも仲良くなれればと考えていたのだが。
-
- そんな悲喜こもごもがあったが、とにかく揃った彼らは目的地に向かって出発したのだった。
-
-
*
-
-
- 4人、特にキラは最初緊張した様子だったが、何だかんだ言いながらもそれぞれ楽しんでいた。
- ジェットコースターに乗ったり、お化け屋敷で悲鳴を上げたり、談笑しながら昼食を取ったり、そうこうしているうちに、キラはラクスと、カガリはアスランともだいぶ打ち解けてきた。
- ぎこちなかった笑みも、普段の友達に見せるものと変わりがなくなっている。
- 4人とも時間が経つのも忘れて、アトラクションを渡り歩いていた。
-
- そうして大分陽も傾いてきた頃だ。
- ふとカガリはキラとラクスの姿見えないことに気が付く。
-
- 「あれ、キラ達は何処だ?」
-
- カガリはキョロキョロとキラの姿を探すが、辺りは既に暗くなっており、人が行き交う姿が作り出す影が視界を遮る。
- 気配も感じられないし、どうやら完全に逸れてしまったようだ。
- 本当はアスランがさり気なく2人から離れるように誘導したのだが、カガリはそんなこと露知らず、キラが迷子になったのだと決め付けた。
- しょうがない弟だと携帯に電話をしてみるがそれも繋がらない。
- その状況にキラを探しに行こうとする。
- 折角2人きりになれたのにこのチャンスを逃す手は無いと、アスランはそれを慌てて引き止める。
-
- 「あっちにはラクスがいるし2人でそれなりに楽しんでいるのかもしれない。探しながら他のアトラクションを回ってみよう。何も2度と会えないわけじゃないし、探しながらでも俺達も楽しまないと勿体無い」
-
- カガリはアスランの尤もらしい説得に納得して、それもそうだなとキラ達を探しつつも、まだ乗っていなかったアトラクションに乗った。
- そしていくつかのアトラクションに乗った後、アスランはタイミングを見計らって誘った。
-
- 「よかったらまた遊びに行かないか。今度はスポーツ観戦とかに。好きだろ、そういうの」
-
- 誘われたカガリはどうしようかと悩んだ。
- 男の子からこんな風に誘われたのは初めてでは無い。
- だがこれまでは一緒にいても良いという気持ちになれなかったので、ずっと断わり続けてきた。
- だがアスランと話をするのは意外と心地良い。
- キラ以外の男の子でこんな感じは初めてだ。
- だからまたアスランと一緒に遊びに行ってもいいと思えた。
- アスランの下心には気付かない様子で、カガリは太陽のような笑顔を見せて無邪気にスポーツの話で盛り上がる。
-
- 「ああいいぞ。お前野球とかサッカーはどのチームのファンだ」
-
- アスランはカガリの笑顔にドキリと心臓を跳ね上げて、話の調子を合わせながら考えていた。
- とりあえず一歩は踏み出せた。
- 後はどうやって他の男を出し抜くか。
- カガリはその明るい性格で男子から人気が高い。
- このチャンスでしっかりとカガリの気持ちを捕まえておかないと、他の虫がたくさん寄ってくる。
- それらを払う術を模索しながら、アスランは今の時間というのも楽しんでいた。
- それは偽りも下心も無く、純粋にカガリの傍にいられることを喜んでいたのだ。
-
-
*
-
-
- 「あれ、カガリとアスランは?」
-
- その頃キラもカガリ達と逸れてしまったことに気が付いた。
- 隣ではラクスがまあ本当ですわと惚けたことを言っているが、本当はラクスが2人から離れるように仕向けたのだ。
- キラはそんなことに気が付かない。
- そんな純粋さも、ラクスには新鮮に愛しく映る。
- しかしキラは当初の警戒心はもう消えているが、それでも話題に困った時に頼りにしていた2人がいないのでは不安になり、それどころではない。
- 携帯を取り出し電話を掛けようとする。
-
- 「まあまあ、お2人はお2人で楽しそうでしたから良いではありませんか。そんなに大きなところではありませんから帰るまでには合流できますわ。私達は私達で楽しみましょう。それよりあれに乗ってみたいのですが良いですか?」
-
- ラクスはそんなキラを宥めて電話を掛けるのを思い留まらせると、ある方を指差した。
- キラはその先を振り返ると、そこには観覧車がゆっくりと回っていた。
- ラクスがいかにもニコニコと嬉しそうに乗りたそうな雰囲気を醸し出していたが、キラは2人きりの空間に閉じ込められることに抵抗があり答えに詰まる。
-
- 「私と一緒では楽しくありませんでか」
-
- 良い返事が得られなかったことで今度は少し目を潤ませて、上目遣いにキラを見るラクス。
- その瞳に射抜かれてキラはどぎまぎしながら慌てて否定する。
-
- 「いや、全然そんなこと無いですよ。本当に楽しいです。ええ、ラクスさんさえ良ければ乗りましょうか」
-
- 嘘は言っていない。
- 今日は本当に楽しんでいる。
- ただ今2人きりというシチュエーションに戸惑っているだけだ。
-
- ラクスはキラの答えにパッと満足そうな笑顔を浮かべる。
-
- 「では参りましょう」
-
- スッキプをしそうな足取りで、キラの手を引っ張って観覧車に乗り込んだ。
- 観覧車の中でキラは緊張して身を固くしていたが、ラクスが外の景色を無邪気に指差している様子に、可愛い人だなと少し見惚れた。
- 恥ずかしさはあるがラクスから目が離せない。
-
- その様子をラクスはチラチラと横目で見ながら、気を引くことに成功したと内心ほくそ笑む。
- 後一押しで落とせそうな、そんな感触を得ていた。
-
- 「今度は一緒に映画でも行きませんか。もしよければ2人でお話したいこともありますし」
-
- 観覧車がもう少しで終わろうかという頃、ラクスは切り出した。
-
- キラはどぎまぎしながら、どうしようか考えた。
- ラクスといるととても胸がドキドキして熱くなるが、それは決して嫌な感じではない。
- そればかりかもっとこうしてラクスと一緒にいて、もっと彼女のことを知りたいという気持ちになる。
- まだ気恥ずかしさは残っているが、それよりも彼女といたいという気持ちが初めて上回った。
-
- 「はい、僕でよければまた是非」
-
- キラは笑顔を浮かべて了承の返事をした。
- それにはたと手を合わせて喜ぶラクス。
- ここでさらにもう一歩お互いの距離を詰めるために畳み掛ける。
-
- 「私のことはラクスと呼んでください。私もキラと呼びますので。敬語も使わなくて構いませんわ。学年など関係なく、仲の良いお友達でいたいですから」
-
- キラは少し恥ずかしそうにしながらも、また上目遣いでお願いするラクスに、断わりきれずに分かりましたと頷いた。
- それもなんだか自分が彼女にとって特別な存在になったみたいで、何となく嬉しい。
- その後のキラは照れ臭そうな笑みを終始浮かべていた。
-
- それからようやく合流した4人は、ちょうど閉園時間も迫って来たので、今日は解散することになった。
- その帰り道ラクスは今日のことを反芻する。
- これで次の約束まで取り付け、他の女の子よりもずっと親しい関係が築けた。
- 今日のところはこれで充分だ。
- 後は他に付け入る隙を与えずに自分のペースに巻き込んで振り向かせればいい。
- 完全に心を開いてくれるまではもう少し時間が掛かりそうだが、最終的には自分のものに出来る自信と勝算がラクスの中には確かにあった。
- それまでの間の虫除けのことを考えながら、ラクスは早くも次のデートへと思いを馳せていた。
― 捧げ物メニューへ ―