※このお話は捧げ物ですが、同じ捧げ物「Falle in love at first sight」の続きとなっております。
それを踏まえた上でお読みください。
- キラとラクス、アスランとカガリが遊園地に遊びに行った翌日。
- いつもの通り学校に行ったキラは、教室に入るなり中学時代からの友人トールに肩を組まれながら話し掛けられた。
- その悪戯を思いついたようなトールの表情にキラは嫌な予感がする。
- 昔からトールがこんな顔で話しかけてくる時はろくなことにならない。
- そしてその予想は、キラにとっては思いもよらない方向で当たることになる。
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- 「お前、昨日2年のクライン先輩と遊園地でデートしたんだって」
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- トールとしては噂の真相を確かめたいというものあるが、何より女の子に人気があるくせに今まで女っ気の無かったキラが、女の子と遊びに行ったということはそれだけでも大いにネタになる。
- 何より2年のクライン先輩と言えば、学校でも噂の美人で憧れる男子生徒は多いと聞いている。
- だとすると相当に面白い話に発展する予感がする。
- ならばこれに飛びつかない手は無い、と言う訳だ。
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- 問われたキラ自身にはデートをしたという認識も無かったのだが、ラクスが昨日の帰り際に今日はデートみたいで楽しかったですわと言っていたのを思い出したキラは、あれはデートだったのかと妙に納得した気持ちになった。
- しかしそれより何より、何故それをトールが口にしたのか。
- 自分はそんなことを一言も言っていない。
- それもそのはず、学校には今来たところなのだから、誰にも言いようが無い。
- だから自分がデートをしたのかどうかよりも、そちらの方が余程気になる。
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- 「何でそれを知ってるの?」
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- 純粋素直なキラは、素っ頓狂な声で思わずそう口走った。
- それがトールの言ったことが事実だということを如実に語っている。
- トールとキラのやり取りに聞き耳を立てていた他のクラスメイト達も、キラの反応に一層色めき立ち一斉にキラを取り囲んだ。
- あの鈍感キラにもついに春が来たかと、朝一番のクラスの話題を掻っ攫う。
- 密かにキラを狙っていた女子生徒など、ショックのあまり泣き出してしまった子もいたほどだ。
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- とにかく教室の空気が、しーんと固唾を飲んでいたものからとてもざわついたものに一変した。
- 何よりその空気に戸惑ったのはキラ自身だ。
- 様々な意味の込められた視線が全て自分に注がれ、とても居心地が悪い。
- またその日の休み時間になる度に、ラクスとはどんな関係なのかやどこまで進んだかなどといった質問攻めに遭い、気の休まる時が一時も無かった。
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「Sudden confession」
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- 昼休み、キラはアスランを連れて校舎裏へとやってきた。
- ともかく教室にいたのでは昼食もおちおち食べられやしない。
- 自棄食いをするように弁当をがっつきながら、アスランに愚痴を零す。
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- 「何で昨日のことがもう皆にバレてるの?それも学校中だよ。ちょっと一緒に遊びに行っただけなのに。もう本当にいい加減にして欲しいよ」
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- キラがそう零すのも無理ない。
- 噂が噂を呼んだ形になり、余所のクラスの生徒までキラの席までやってきて問い詰める始末だった。
- 最初は戸惑っていたキラだが、次第に同じ質問攻めにウンザリした様子になり、ぶっきらぼうになんでも無いの一点張りだった。
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- 多少そのことを気の毒に思いながら、アスランは黙々とご飯を口に運んでキラの愚痴を聞き流す。
- 喋り疲れて、少しキラの言葉が途切れたところで自分の意見を言う。
- 昔からアスランがキラに愚痴を零された時の対処法だ。
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- 「たまたま誰かに見られたんじゃないのか。遊園地なんだから他の奴が行ってても不思議じゃないだろ。クライン先輩は特に目立つからな」
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- 言いながら、アスランはその噂がラクス本人から出されたことに気が付いていた。
- そうでなければこんなにも早く噂が広まる筈が無いし、自分とカガリも一緒にいたのだからそちらも噂になってもよさそうなものだが、その噂は全く無い。
- それはそれで残念な気もするが、ここまで広まってキラの憔悴した様子を見るとそれで良かった気もする。
- しかし本人にとってもリスクのある作戦だと思うが、結果としてこの噂が広まったお陰で、キラのことを諦めた女子生徒が出たのは確かだ。
- 内心さすがはラクスと褒め称える。
- 噂を広めることで密かにキラは自分のものだと言う主張を全校生徒に知らしめたのだ。
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- 一方のキラは、アスランに宥められて少しだけ納得する。
- 確かに遊園地は誰でも行く場所だ。
- 誰かに見られた可能性は充分に考えられることだ。
- 百歩譲って、誰かが見てそれを噂にしたことはまだ認めよう。
- しかし自分のラクスの関係については大いに納得がいかない。
- 噂は人によって色々だが、ひどいものはキスをしたやら一線を越えたというものまであった。
- 個人的には嬉しいような複雑な気持ちもするが、それでも噂になったことにあまりいい気はしない。
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- 「でも何で僕とクライン先輩が付き合ってるみたいになってるの。全然そんなことないじゃん。ただ1回一緒に遊びに行っただけでしょ。あることないことが出回ってさ、きっとクライン先輩も迷惑に思ってるよ」
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- まだキラは憤慨した様子で噂についてぶちぶち言っている。
- 自分のことが広まるだけなら無視していれば、噂と言うものはいずれは消えてしまって、まるで何も無かったように元の鞘に戻る。
- それで済む話だ。
- だが今回は自分以外の人も巻き込んでしまっている。
- それもまだ無意識とは言え、自分が憧れているいる女性をだ。
- 今の状況でどんな顔をしてラクスと会えば良いのか、会った時どんな顔をすれば良いのか皆目見当も付かない。
- それを考えると気が滅入ってしまう。
- キラは深い溜息を吐いた。
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- アスランはそのキラの様子を見ながら、これは完全に落とすにはラクスも苦労をするなと思った。
- キラはラクスがキラに気があることに少しも気が付いていない。
- まあそれもキラらしいと言えばらしいし、下手に口出しするとラクスの怒りに触れてしまうので、アスランは内心でキラとラクスにエールを送って、キラの戸惑いや愚痴を聞き続けた。
- そして自分もラクスに負けないようにカガリをどうやって落としていこうかということを、真剣に考え始めていた。
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- ちらほらと聞こえてくるキラと自分の関係の噂に、ラクスはこっそりと笑みを浮かべた。
- 叶わぬ思いを寄せる男共の質問攻めを受け流して、時折恨めしげに突き刺さる女子生徒からの視線に1人優越感に浸っている。
- 少々勇気のいることであったが、作戦は成功した。
- 少なからずキラと自分が何らかの関係を持っているという意識は植え付けることが出来たのは、上々の成果と言える。
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- キラは自覚が無いが、あの中世的で綺麗な顔立ちからとにかく男からも女からも人気がある。
- こうして少しでも虫除けをしておかなければ、何時何所で誰の毒牙に掛かっるか分かったものではない。
- 尤もそんな虫にキラがなびくとも思っていないが。
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- それに自分だって恋愛経験が豊富な訳ではない。
- こんなにも1人の異性を想うのは初めてだ。
- だからこれで良いのかとか、不安に思うことは多々ある。
- だがそれでもこの気持ちは止められない。
- キラを自分のものにしたいと思う気持ちは日に日に膨れ上がるばかりだ。
- 噂は流れたが、所詮は噂。
- もっと確たるものが無ければ万一それまでの間に誰かに取られたとしても強く出られない。
- まだ所詮お友達であって、彼女では無いのだ。
- だから少しずつ気付かれぬように、キラのテリトリーに入り込み、それ以外の人間、アスランでさえもそこから追い出したいという独占欲が、今のラクスを突き動かしていた。
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- ラクスは色々と考えることを一端止めると、とにかく作戦の第1段階が成功したことで、次の作戦を実行に移しに掛かる。
- 数日様子を見ていたラクスは、偶然を装い学校内でのキラとの再会を目論んでいた。
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- これはアスランから仕入れた情報だが、キラ達のクラスは木曜日の4限目は移動授業で、昼休みの最初の数分は教室に戻るために廊下を歩いているということが分かっていた。
- アスランからというのが少し気に入らないが、そもそもキラと話をするキッカケを作ってもらった借りもあり、まあそれなりに可愛い弟部でもあるからそこは素直に感謝していた。
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- 今日はその木曜日。
- タイミングを合わせればキラとほぼ間違いなく遭遇出来る筈。
- 遭遇したらそのまま学校の廊下で楽しげに話をしている姿を周りに見せ付け、そうすれば噂はさらに背びれ尾ひれが付いて広まるもの。
- こうして既成事実がまた1つ出来上がるのだ。
- そうやって先ずは外堀を完全に埋めてしまおうと、そういう計算を立ててラクスは軽やかなステップでキラのいる1年生の廊下に向かって歩き出した。
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- 果たしてキラは予想通り廊下を歩いていた。
- ラクスはドキドキする心臓を必死に宥めながら、偶然を装って笑顔で挨拶をする。
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- 「あらキラ、こんにちは。この前は楽しかったですわ」
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- キラはここでラクスと会ったことに驚くが、噂のこともありどこかよそよそしい、気まずい雰囲気を醸し出している。
- しかし相手は先輩でもあるため、そこは変なところで律儀なキラはラクスを無視出来ず立ち止まった。
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- 「え、ああ、はい・・・」
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- しかし何を言えば良いかなど分かるはずも無く、言えたのはそれだけ。
- 後は少し思い空気の沈黙が流れる。
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- しかしラクスの内心ではそんな空気を読むよりも、しどろもどろに答えるキラに、その恥らう姿も可愛いですわ、と1人盛り上がっていた。
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- キラはそんなラクスの気持ちなど露知らず、ここは1年生教室がある廊下であり、クラスメイトなどが自分達に注目していることが恥ずかしくて仕方が無い。
- 周囲をちらちらと見ながら、ついに耐え切れなくなって人気の無いところへ移動を促す。
- しかしそれが噂の信憑性に拍車を掛けることになる。
- 人気の無いところで男女が2人きりで話をすることなど、青春真っ只中の高校生の興味を刺激するには充分過ぎるシチュエーションだ。
- トールなどは面白がって、ポンと肩を叩いて頑張ってこいなどと声を掛ける始末。
- ラクスは内心ではガッツポーズをしそうな勢いで笑みを浮かべて、キラの後に付いていく。
- キラはそれこそラクスの思う壺だということに気付かないまま。
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- 「クライン先輩、何かすみません。僕と、その、変な噂が立ってしまって」
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- 教室に入るとキラはしばらくラクスに背を向けたままで沈黙していたが、意を決してくるりと振り返り、開口一番申し訳無さそうに謝罪する。
- 恋人でもないのに、まるでそうだとするような噂のせいで、ラクスは迷惑に感じているのではないかと思っているからだ。
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- ラクスはキラの謝罪を聞きながら、なるほどと思った。
- たかが噂なのに自分のことを気遣ってくれている、そのことにキラの人の良さ、優しさがよく分かる。
- ますますキラに惹かれていくラクス。
- にっこりと笑みを浮かべる。
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- 「あら、キラとでしたら私はむしろ嬉しいですわ」
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- それはそうだろう。
- 何しろ噂を流した張本人なのだから。
- しかしその事実を知らないキラにとっては予想外の返答が返ってきて、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情で目を白黒させている。
- ここまではラクスの想像通り。
- ラクスはチャンスとばかりに用意してきた次の一手を打つ。
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- 「それともキラは私とそのように言われるのは嫌でしたか」
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- ラクスは少し残念そうに上目遣いにキラを見つめる。
- こうなったらキラは反論する術を持たない、弱点であることを、既に先日の遊園地のデートで把握している。
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- 「いえ、べ、別にそういうわけじゃ・・・」
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- ラクスの思惑通りにますます焦って言葉に詰まるキラ。
- それはまるでラクスが自分の恋人でも構わないと言っているようにも聞こえ、戸惑いと嬉しい気持ちが入り乱れる。
- そのことがキラの中の理性と思考回路を狂わせていた。
- ここからラクスも予想外の展開へと導く言葉を、さらりと言ってしまった。
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- 「僕も、恥ずかしかったですけど、少しだけ嬉しかったんです。クライン先輩みたいな可愛い人とそんな風に見られるの」
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- キラの言葉に、ラクスは内心飛び上がりそうなほど喜んだ。
- 予想外にキラの口から可愛いと評価をもらえれば、こんなに嬉しいことは無い。
- 何よりキラがラクスと恋人になるのは嫌じゃないと言っている。
- むしろ憧れている、付き合うことは可能だと言っているように聞こえる。
- まさか今ここでキラの口からそんな言葉が聞けるとは思ってもみなかった。
- 舞い上がった気持ちになるラクス。
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- そしてラクスは直感的に、告白してキラを落とすチャンスがやって来たと感じ取った。
- キラは自分の気持ちにまだ自覚が無い様子だが、明らかにこちらを意識している、気があることは分かる。
- 今まではそのことに一抹の不安があったのだが、これで2人の気持ちの間には何の障害も無いことが判明した。
- しかしそのことにはラクスも戸惑った。
- ここまで急転直下に展開が進むとは思ってもみなかった。
- 告白することはやぶさかではないが、結果が想像できない。
- もし失敗したらと思うと、やはり作戦通りに時間を掛けて、キラの気持ちを充分にこちらに引き付けてからの方が確立は高いと思う。
- しかし全く想定外の展開なのだが、ここを逃してしまうとまた何ヶ月も友達以上恋人未満の関係が続く。
- そうなると、他の女子生徒に付け入る隙を与えるつもりも無いが、じれったい気の休まることの無い時間が続くことになる。
- それは嫌だと思った。
- 気持ちの準備が出来ているわけでも、台詞が用意されているわけでも無い。
- ぶっつけ本番の一発勝負に、ラクスにも緊張が走る。
- だがこれでキラを手に入れることが出来るかも知れないと思うと、ラクスは開き直り、自然に言葉が出てきた。
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- 「私は初めてお見かけした時から、貴方のことが好きですわ。私と付き合ってくださいませんか?」
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- 自分でも驚くほど素直に、気持ちを告白出来た。
- 飾らない自分のストレートな気持ち。
- 後はキラの心にこの言葉が響くのを祈るように、キラからの返事を待つ。
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- 一方のキラはキョトンとした表情でラクスを見つめ返す。
- 最初ラクスが何を言ったのか分からなかった。
- 否、分からないことは無かったが聞き間違いかと思った。
- しかし真面目な熱っぽい視線で自分を見つめているラクスに、次第に今のが聞き間違いではなく告白されたのだと、ようやく状況を理解したキラは、次第にその顔を茹蛸のように真っ赤に染めていく。
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- 「そんな、ク、ク、クライン先輩が、ぼ、僕のことを」
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- 驚きと興奮で舌が縺れてうまく言葉が紡げない。
- まさか憧れの女性も自分に想いを寄せてくれていた、しかも相手から告白をされるなどとは夢にも思っていなかった。
- いやそもそも異性を好きだとか、付き合うとかいうことがまだピンと来ない。
- キラにとっては全く思考が付いていけない展開が続く。
- しかしラクスは構わず一気に畳み掛ける。
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- 「ラクスと呼んで下さいな、キラ。私は本気で申しておりますのよ。貴方の正直な気持ちが知りたいですわ。それもと私のような女では、貴方の恋人に相応しくありませんか?」
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- ラクスは不安を押し殺して、再び上目遣いに瞳を潤ませてキラを見つめる。
- ここで万一断わられたりしたらショックは大きい。
- だから精一杯の思いと仕草で押した。
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- キラはラクスの想いに頭の中がくらくらしてきた。
- 自分に相応しくないなどとんでもないことだ。
- こんな可愛い人が自分の彼女になるなんて、むしろこっちの方が相応しくないのではと思ってしまう。
- だからからかわれているのだろうかとも思ったが、ラクスの表情や仕草からは本気だと思われた。
- 初めての経験に、一体どう対処すれば良いか分からない。
- 心臓が口から飛び出そうなほど鼓動が激しくなるのを感じていた。
- それが呼吸を圧迫して息苦しささえ感じられるほど。
- もう満足に頭では物事が考えられない。
- 思ったことが、行き当たりばったり的に口を付いて出る。
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- 「そんなこと、こっちこそ僕みたいなのが本当に先輩の、その、彼氏でいいのかなって・・・」
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- か細い声で、最後は声を掠れされてそう答えるのが精一杯だった。
- そしてそれが何を意味するのかもさっぱり分かっていない、そんないっぱいいっぱいの様子のキラだった。
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- その台詞を聞いてラクスは心の底から、喜びと言うか、幸福感のようなものが込み上げてくる。
- はっきりとではないがこれは肯定と捉えても差し支えないだろう。
- 胸の前で手を組み不安げにじっとキラを見つめていたラクスは、ぱーっと笑みを浮かべるととどめとばかりにキラに抱きつく。
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- 「キラだから良いのですわ。こんな私ですがよろしくお願い致します」
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- ぎゅっと抱きつかれた温もりに、キラは完全にノックアウトされた。
- まるで天にも昇るような感覚で、キラはしばらくラクスに抱きしめられるがまま固まっていた。
- ラクスの彼氏になった驚きと喜びに、まだ夢でも見ているのかと、思考はどこかへ飛んでいったままだった。
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- どのくらいそうしていたのか分からないが、思ったよりも時間が経過したのだろう。
- 間もなく昼休みが終わろうとしていた。
- キラもいつまでもこうしていたい気持ちもあるが、遅刻するのは良くないと思う。
- それに遅刻しようものなら今度はどんな噂を流されるか分からない。
- そうでなくてもクラスメイトに冷やかされるのは、気恥ずかしいしウンザリするのだ。
- それだけは勘弁したい。
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- 「あの、クライン先輩、そろそろ放して貰えませんか」
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- キラは恥ずかしそうにラクスの耳元で囁いた。
- その吐息が耳に当たる感触がラクスに身震いするような快感を与える。
- だがその口調はまだ恋人のものでは無いことは不満だ。
- ラクスはまどろむような甘えた声を上げる。
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- 「ラクスと呼ぶまで放しませんわ。後恋人同士に敬語は不自然ですから敬語もダメです」
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- さらにキラの背に回した腕に力を込めて放すまいとした。
- ますます顔が熱くなっていくのを感じるキラ。
- 男である自分の力であれば強引に引き離すことは出来そうだが、それではラクスを傷付けるかも知れないと、妙に紳士的なことを考え、一瞬の間に様々な葛藤をした後、勇気を振り絞って名前を呼び捨てにした。
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- 「分かったラクス。そろそろ放して」
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- ラクスとしてはもう少し抱きついていたかったが、名前で呼ばれた嬉しさと、これ以上我侭な女だと思われて呆れられるのは困るので仕方がないと体を離す。
- 熱っぽい視線でキラを見上げれば、キラは耳まで赤く染めて横を向いている。
- 視線を自分と合わせようとしないが恥ずかしがっていることは丸分かりで、それもラクスにとっては可愛らしい、愛しいと思える仕草だ。
- 勢いとは言え、これでキラとラクスは名実共に恋人同士となった。
- キラの横に堂々といられる確たる地位を手に入れたのだ。
- これから先、このキラの行動すべてを独占出来るのだと思うと、身が震えそうなほどワクワクする。
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- とは言え、想定外の事態の勢いに任せてこのようになったことで、まだ2人の関係は強固な物とは言い難い。
- しかし考えようによってはゆっくりじっくりと、事を運ぶことが出来る。
- 後はこの地位を利用して周囲の虫を排除し、キラを虜にすれば完璧だ。
- いや虜にしてしてみせる。
- ラクスはそんな決意を胸に秘めて、少し爪先立ちをしてキラの顔に自分の顔を近づけると、その身を溶かすような口付けをした。
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- 突然のことにキラの思考は再びどこかへ飛んでいき、結局キラは教室に戻ってもずっとボーっとしていて、その状態が一日中続いた。
それを見たトール達からさらに過激な噂が広まったのは言うまでもなかった。
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