- 雨道
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- 作:よしおかむぎ(『+がらくたマンション』)
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- この日は雨が降っていた
- 雫のついたガラス窓から外を見る
- 雨は今さっき降り始めたばかりだった
- キラは窓から離れ、近くのソファーに座る
- 食堂の窓にはマルキオがつれてきた子どもたちが集まってきていた
- 彼らは窓の外を眺めながら外で遊べないと退屈そうにしている
- そんな子どもたちにマルキオは近づき声をかけた
- 「今から私の部屋で昔話をきかせてあげよう」
- すると次々に子どもたちがマルキオの方に振り向いた
- その中の一人の子どもが尋ねる
- 「あたらしいお話?」
- マルキオは深く頷いた
- 「まだ誰にも聞かせていないお話です」
- すると子どもたちはわぁいと声を上げ、マルキオに近づいていく
- マルキオはそのまま子どもたちをつれて部屋の中へと入っていった
- 子どもたちがいなくなってから食堂は急に静かになった
- するとキラの母、カリダがエプロンで手を拭きながらキラにそっと近づいた
- キラはカリダに気付く様子もなく、ぼぉと前を見つめているだけだ
- キラは先の戦争、ヤキン・ドゥーエ防衛戦を終えたからずっとこんな様子だった
- 以前より口数が減り、いつも無表情で風景をぼぉっと見ているばかりだ
- カリダはそんなキラに話しかける
- 「キラ、お願いがあるのだけど、いいかしら?」
- するとキラはすっとカリダの顔を見た
- 「ラクスちゃんにお買い物頼んだのだけれど、傘を持っていっていないの。もしよかったらラクスちゃんに傘を届けてきてくれる?」
- キラは少しの間、黙っていたがいいよと一言言ってソファーから立ちあがった
- そして、上着を着て右手に二本の傘を持て玄関に向かう
- カリダは心配そうにキラを見ていた
- するとキラは振り返り、いってきますといって家を後にした
- 雨は強くなっていた
- 橋を渡り、道路に出る
- キラが前に進む中で何台かの車とすれ違ったものの、さすがにこの雨では歩く人は少なかった
- ここから近くの店まで20分はかかる
- キラは傘を少し動かし空を見上げた
- 雨がやむ様子はなかった
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- 店の前ではラクスが海を見上げて立っていた
- 手には大きな袋をさげている
- 「困りましたわ。雨、全然やみませんわね」
- ラクスが頬に手を当てて呟いていると目の前に人影がうつる
- そこには傘を持ったキラの姿があった
- キラはラクスに近づいていく
- そしてラクスの前に傘を差し出した
- ラクスは傘を受け取るのも忘れ、キラをじっと見つめていた
- さすがにラクスもこの状態には驚いているのだ
- まさか、キラがこんなところまで傘を届けてくれるとは思いもしなかった
- ラクスがやっと傘を受け取るとキラは手に持っていた袋を持ち上げた
- 「・・・帰ろう」
- キラはラクスに静かな声でそう言うと何も言わずにもと来た道へ歩いて行く
- ラクスは慌ててキラの後についていった
- 少し歩いたところでラクスはキラの手を掴んだ
- それに反応したキラが足を止めて振り返る
- 「今はこうしていてもよろしいですか?」
- ラクスはにっこり笑ってキラに尋ねる
- キラは驚いて黙ったままでいたが、袋を持ち替えて腕にかけた
- そして空いた手でラクスの手を握った
- ラクスは嬉しさのあまり、笑みがこぼれる
- そして、二人はそのまま歩き出した
- 「キラ、荷物は重くありませんか?」
- ラクスは荷物を見つめキラに聞く
- 「大丈夫」
- キラがそう答えて、少し進むと再びラクスが尋ねてきた
- 「キラ、手がぬれてしまいますよ」
- ラクスは傘と傘の間でつながれた手を見て言う
- 「うん」
- キラは静かに頷いた
- そして、もう一度ラクスがキラに尋ねた
- 今度は傘で少し隠れたキラの顔を覗きこみながら
- 「キラ、わたくしのことお好きですか?」
- キラは少しの間黙っていたが、恥ずかしそうに答える
- 「・・・うん」
- ラクスは嬉しそうに笑い、キラに寄り添った
- そして二人は雨の道を歩いて行く
よしおかむぎ様よりいただいた小説です。
リクエスト企画をされていたので、リクエストをした物です。
重厚なストーリーを得意とされるよしおか様ですが、幸せな感じのキララクを書かれると
どうなるのかな、と思ってリクエストした次第です。
我侭なことを言いましたが、こうしてお応えいただきました。
落ち着いた感じの話をベースに、こうしてキラは癒されていったんだな、と納得できる
温かい作品です。
こうして小さな幸せを積み重ねていく姿が目に浮かぶようで、本当に素敵です。
本当にありがとうございます。
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