穏やかな時
- さんさんと照りつける太陽。人口の太陽は偽りの大地を照らし、昼である事を知らせる。既に太陽は頂点へと達しようという時間でもあるというのに、この部屋の住人は起きようともしない。いや、起きてはいるのだが、ベッドから出ようとはしなかった。
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- 「キ…ラ、もう昼ですわ」
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- 白い肢体にシーツのみを巻きつけ、その躯のいたるところに赤い華を咲かせたラクスが隣で横になっているキラに声をかける。しかしキラはその彼女の申し出を断るかの様に再びベッドに沈めるとその柔らかい躯を抱きしめる。
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- 「もうちょっとだけ、もうちょっとだけこうしていたいんだ。せっかく休暇が重なったのに明日にはまた離れ離れになるんだ。だからもうちょっとだけ、ラクスを充電させて?」
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- キラはラクスを雨に濡れた子犬のような瞳で訴えかけ、先ほどと同じ体制を取ろうとする。だが、流石に昨日の夜からのこの状態にラクスの方は限界が来ていた。
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- 「そう言って昨夜からずっとこの状態ではありませんか。わたくし、疲れましたわ。ですからもう今日は終わりに……ンッ」
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- キラはラクスの言葉を遮る様に唇で塞ぎ、再び彼女を快楽の海に沈めようとした。2人の休暇がそろう事は大変珍しく、ラクスは明日から視察で暫く帰ってこない。そしてキラもラクスが帰ってくるのと入れ違いで缶詰状態になることが予想される。今日を逃せば下手をすれば1ヶ月は会えなくなる。だから充電と称して屋敷に帰った途端に始まったこの状態に疲労と睡眠を訴える体の為、明日の為にこの状態を打開しようとラクスはこの状態を引き起こした長本人に訴えたのだが、その本人はまだまだする気であり、いったいどこからそんな体力があるのかと不思議で適わない。一体何度目となるのかわからないほどの快楽の波にラクスは再び落ちていった。
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- 気がついた時には既に外は夕闇に包まれようという時間帯だった。結局今日一日キラに翻弄されっぱなしで、部屋から、もっと言ったらベッドから出してもらえなかった。隣では満足そうに寝息を立てるキラの寝顔がある。あの後、自分と同様にそのまま眠ってしまったのだろう。あどけないその寝顔は先程まで自分を翻弄していた人物と同一である事が信じられない。キラとのこういう時間は決して嫌ではない。むしろ好きだ。彼から自分を求めてくる事はこういう時ぐらいしかない。心労が耐えない地位についてしまった自分を気遣う彼はよっぽどの事がない限り、どんな状況下であっても自分を求めてこない。時にはその状態がもどかしく、自分から誘ってしまう事もあるぐらいにない。彼が他の女の元に行ってしまうのではないかという疑念が頭をもたげる時がある。そう云う時はどこでどうしてその事を悟ったのか知らないがキラは自分を抱きしめ安心させてくれる。こんなときにしか求めてこない彼が枷をはずして求めてくるのは決まって離れ離れになる前の休暇の時だ。今回は都合よく2人とも休暇が重なった為に昨夜からこうして今の今までベッドにくくりつけられた状態となってしまった。こんな穏やかな日は決して嫌いではない。嫌いではないのではあるが…。
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- 「もう少し、限度という物を弁えて欲しいですわ」
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- ラクスのその呟きが聞こえたのかキラはクスクスと笑い、そのラクスの愚痴に言い訳をする。
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- 「ムリだよ。もう、あの時のような思いは嫌だ。ラクスがいなくなると思うと怖いんだ。だから確かめたくなる。君がここにいる事、僕がここにいる意味を。ゴメン。無茶をしてるって分かってるんだけど、こう云う時はどうしても歯止めが利かないんだ」
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- キラにとってラクスはこの世界で自分が生きている証、存在理由。ラクスがいなければあのままの闇の中を彷徨っていただろう。ラクスは自分をこの世界に留めた楔。問え、この現実世界が闇に包まれた地獄の様な世界であってもラクスさえいればキラにとってその世界にいる理由となる。その先が茨の道であろうともラクスと共に歩めるのであれば何を捨ててでも共に行く。彼女が望む限りは。
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- 「ですが、これでは明日にひびいてしまいますわ。そこらあたりを考慮して頂きたい物です」
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- プイッと拗ねる彼女が本当に怒っていない事は分かっているがこれ以上は許してはくれないだろう。キラはそっとラクスの頬に口付けると再び謝る。それがご機嫌取りだとは分かっていてもそれが嬉しいラクスはそれで許してしまう自分がいるから不思議だ。ラクスはけだるい躯を起こし、立ち上がる。今度はもう引きずり込むつもりは無いのだろう、すんなりと放してくれた。
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- 夕闇に染まるプラント。日は既に落ち、結局今日一日ベッドで過ごしてしまった2人は今日初めての食事を口にする。空には偽物の月。オーブで暮らしていたときのような自然のつきではないが、愛でるのには十分だ。2人で月を見上げながら今後の話をする。穏やかだった日常も明日には再び喧騒のさなかにさらされ忙しくなる。こうしてのんびりと2人きりで過ごせる日はそう多くはない。この貴重な時間を無駄にはしたくはない。すれ違いが多いからこそ、この穏やかな時間のありがたさが分かる。
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- 「キラ、次に休暇が重なった時は今度こそどこかに出かけましょうね」
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- 穏やかに笑うラクスに見惚れるキラ。このゆったりと流れる時間は平和の証なのかもしれない。この平和な時間が続く様に、今度こそ守らなくては。この世界と、隣にいる大切な人の為に。離れ離れになることが多くても、この人を守る為だと思えば辛くはない。このかけがえのない大切な時間のために自分のできる限りの努力をしよう。
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- 君は平和の歌を…
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- 貴方は穏やかな時間を…
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- それぞれが守るべきものの為に、今できる総てをかけて守る。かけがえのない大切な人の為に…。
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水沢様より相互リク記念にいただいた小説です。
ほのぼのしたキラとラクスのお話ということでリクエストさせていただきました。
お互いがその存在を愛しく大切に思っているということがしっかり表現されていて、
2人の間には何者にも犯し難い雰囲気というか、世界が作られているというのが
とてもよく伝わってきます。
イメージしたとおりの2人の姿に、感激です。
こんな素敵な小説ありがとうございます。
水沢聖様の『Serenade』はこちら →
Serenade
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