- 今日、妹が妹の通う学校の副担の先生に背負われて帰ってきた。
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- 妹はどうやら学校の部活中に謝ってその副担の上に落っこちてきて、とっさに踏ん張ったところ、足をひねってしまったらしい。
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- 学校から連絡があり、家で妹を心配して待っていると、その怪我をした本人である妹はあっけらかんとして、どちらかと云うと役得役得と云う様にその副担の先生に甘えていた。
計略
- 妹の怪我はたいした事はなく、ただの捻挫。全治3週間。今まで妹の事ばかり考えていた為、その副担任の先生の顔をよく見てはいなかった。
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- 妹が無事に自分の部屋のベッドに横になるのを見届け、送ってくださったその先生にお礼と詳細を聞くためにリビングに通す。
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- 母がその副担の先生をリビングに案内し、自分はお茶を出すために台所へとむかう。母がその先生と話をしている間に3人分のお茶を用意し、リビングにむかった。
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- ラクスはお茶を出すときに初めてその人の顔を見た。
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- その人は妹が副担の先生がかっこいいと騒いでいただけあって本当にかっこよく、紫の瞳が印象的な綺麗な男性だった。
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- 「うちの娘がすみません。御迷惑をお掛けしました。あの、先生の方は、お怪我はありませんでしたか?」
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- 母はその先生に怪我の具合を聞く。
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- 何しろ上からミーアが降ってきたのだ。下敷きになった先生の方はどうなのだろうと心配になるのは当然だ。
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- 「ああ、大丈夫ですよ。少しひねったくらいで、別にたいした事はありません。それよりも娘さんの方が酷い様で、全治3週間だそうです。腱を少し痛めていますので、歩行は固定していなければ辛いかもしれません」
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- そう言う、副担の先生の左腕には妹と同じ様に包帯が巻かれ、固定されていた。
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- 「すみませんうちの娘が。腕に怪我をされていらっしゃるのに家まで送っていただくなんて…。フラガ先生にまで怪我をさせるなんて…」
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- 母の言葉にその副担の先生は苦笑をし、訂正をする。
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- 「あ、あの。僕の名はヤマトです。担任じゃなく、副担任の方なのですが…」
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- 母はとんでもない間違いをしてしまったと笑ってごまかす。
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- 気を悪くする事はなかったのか、その人は柔らかい微笑を残すとミーアの荷物を置いて、学校へと帰っていった。
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- ラクスはこの時はまだああ、綺麗な人だなとしか思わなかった。わずかな引っ掛かりを抱いて。
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- 妹のミーアが通う高校は自分の母校。卒業して2年がたつが一度も学校に顔を出していない。
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- 今日妹が副担の先生に送られてこなければ学校に顔を出そうとは思わなかっただろう。
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- ラクスは翌日、妹を車に乗せ、学校まで送っていった。
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- 「めっずらしいよね。お姉ちゃんが車で学校まで送ってくれるなんて。どう云う風の吹き回し?学校を卒業して清々したって言ってたのに…」
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- 妹が助手席で姉の行動に驚き、天気予報では晴れマークがでているにもかかわらず、折りたたみ式の傘まで用意して車に乗り込んできた。
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- 確かに妹が言う様に学校を卒業して清々している部分が多い。だが、この妹を放っておく程自分は人でなしではないし、昨日の副担任の彼にもう一度会いたいと思うのもある。
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- 「ミーア。失礼ではありませんか?天気予報でほぼ100%晴れだとわかっていてわたくしの前で傘を準備するなんて。それに今日は3限目からですから時間があるのです。それとも歩いて学校に行きますか?」
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- どう云う風の吹き回しかは知らないが、この足で学校まで歩いていくのはきつい。ミーアは慌てて取り繕うと、ラクスはそんな妹を微笑んで見つめ、車をあの苦い思い出のある学校へと走らせた。
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- ラクスはミーアを送り届けると二度と来たくはなかった学校の職員室に行く。その場には目的の人物がいた。
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- 時間がないのを承知で近くの教師に声をかけ、キラを呼び出す。
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- この職員室には高校時代生徒会長を務めていた事もあるため何度も来ている。その職員室に卒業生である自分が来る事はもうないと思っていたためこの感覚は久しぶりだ。
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- ほどなくして呼び出されたキラはラクスの前に来る。何の用事があり自分が呼び出されたのか大体先ほどの先生にでも聞いていたのか、場所を応接室に移す。
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- 「ミーアさんの事で何かありましたか?」
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- キラはラクスを椅子に座らせるとラクスが自分を尋ねてきたであろう理由を口に出す。
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- 「いいえ、ミーアの事ではないのです。妹の事もそうですが、貴方に怪我を負わせたのはわたくしの妹ですので、お怪我の具合がどの程度の物なのか確かめに参りましたの。必要とあらばこちらの責任ですので、医療費などのお支払い等の件でお伺いした次第ですわ」
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- 半分以上は口実。
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- だが、彼と接点を持つには妹を餌にするしかない。彼が断るのは分かりきっている事。
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- だが、それでも何かの接点を持ちたいと思うのはわがままだろうか?
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- 「いえ、でもそんなにたいした事はないですし、僕のは1週間ぐらいで治りますからお気になさらず」
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- キラのその手首の腫れは確かにそう酷い物ではないが、足と違い手が使えないのは色々な所で不便だ。ラクスはなおも申し込みをするので、根負けしたキラは今日の放課後にラクスと食事をすることで今日は帰ってもらい、その話に決着をつけ様と云う事になった。
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- ラクスはキラとその話を取り付けると自分のアドレスと彼のアドレスを交換し合った。
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- ラクスは自宅に帰ると開こうとは思わなかった生徒会の名簿表を開く。そこにはラクスが睨んだ通り、ラクスより3年前の生徒会長にキラの顔と名前があった。
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- どこかで見た事がある顔であり、聴いた事のある名前だと思っていたら、やはり彼が言っていた彼があのキラなのだろう。
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- 「二度と見たくはありませんでしたのに。何の因果関係があるのか、このような繋がりがあるとは思いませんでしたわ。キラ・ヤマト。彼が唯一気を許していた男」
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- ラクスは黒い笑顔でその名簿に写るキラの顔をなでる。
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- ラクスにとって、この生徒会での日々は屈辱的な事だった。
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- あれはラクスが高校2年の時、先輩の推薦で会長職を引き継いだ。はじめはまともだったのだが、途中からおかしな事になっていった。
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- それはその先輩が卒業し、時期生徒会を選抜する頃にやってきた。
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- 元々この生徒会は指名、立候補、推薦で選ばれた生徒が投票の結果生徒会会長になる。
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- ラクスの三年前の会長は満場一致で圧倒的な存在感を持ちこの生徒会を運営していたと伝説扱いをしていた。彼は帝王と呼ばれ、崇め奉られていたという。
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- ラクスもまた、第二の帝王。女帝として学校に君臨していたのだが、彼女にとって屈辱的だったものは当時内緒で付き合っていた生徒会顧問の彼の話す、キラの自慢話であった。
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- その顧問の教師との恋愛はラクスの引退とともに自然消滅し、その彼もラクスとの事はおままごとの様だったらしく、後腐れなく別れた。
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- ラクスのプライドに傷をつけた男、キラ・ヤマト。
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- その人物が自分の目の前にあると云うのであればその報復をしたくなるのは当然だ。
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- ラクスはその日、大学をサボり、キラ攻略の計画を練っていた。
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- 約束の時間、ラクスが訪れる頃にはすでにキラが到着していた。
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- キラはラクスからのお誘いが単なるお礼だと信じて疑ってはいない様で、ラクスはその愚かしさに薄く笑う。これから彼の身に何が降りかかる事を思い浮かべるとラクスは自然と笑いが漏れる。
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- 彼の居場所である学校から彼を追い出す。それも彼にとって屈辱的な方法で。
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- 自分が味わった屈辱感を彼にも味合わせたいと思った。
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- 「おまたせしてすみません。わたくしからお誘いいたしましたのに遅れるだなんて…」
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- ラクスは自分のその感情が相手に分からない様にお淑やかな女を演じる。
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- 自分が腹黒い性格をしている事は家族は知っているが、前の彼であるあの男ですら自分のこの本性を見破る事ができなかったのだ。このぽけぽけした穏やかで柔和な彼ならころりと騙せる。ラクスはそう思い、今までよりも多くの猫をかぶった。
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- 「大丈夫です。それより、こちらに来ていただいた僕のほうが悪いような気がするのですが、学校は大丈夫なのですか?今、大学生だと妹さんから聞いたのですが…」
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- ラクスはキラのその言葉に内心でミーアに毒を吐く。
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- 『ミーア?まさか変な事を言ってはいないでしょうね。もしそんな事を言っていたら……分かっておりますわね?』
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- 内心で呟いたはずのその呪詛の様な言葉は離れている場所に居るミーアに届き、彼女を暫く凍結させていた。
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- 『な、何?この悪寒……。一体なんのなぉ〜』
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- ミーアは暫く寒さで凍えていたという。その寒気の原因が自分の姉自慢からくるキラの何気ない一言を聞いたラクスが勘違いをして呪詛の如き内心の毒を吐いた事による為だと気付く事はなかった。
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- 「クラインさん?どうかしましたか?」
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- 内心で妹に毒づいていたラクスを心配そうに覗き込むキラ。キラにとって見たらラクスはいきなり黙り込んだ様にしか見えない。ラクスははがれかけた仮面をかぶりなおし、猫を数匹被ってキラの前に立つ。
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- 「いいえ、何でもありませんわ。一体ミーアはわたくしの事を何と言っていたのか気になりまして…」
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- しおらしく言うラクスに彼女が黙り込んだ理由を知ったキラは簡潔にミーアがラクスの自慢話をしていたと云う事を言う。ラクスが在学中に女帝と呼ばれるほどの生徒会長だったという自慢話であり、ミーアのファンである男子生徒を蹴散らしていた事を言う。
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- 「まあ、ミーアがそんな事を?ですが、ヤマト先生もあの学校出身なのでしょう?伝説の帝王陛下?」
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- ミーアが余計な事を今のところは言っていないと安心しながらキラの話に耳を傾ける。
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- 今日はとりあえず様子見。彼との繋がりを作り、弱みを見つけ出す。その弱みをネタに白日の元にさらし、自分が受けた屈辱を晴らす。
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- 責任転嫁、逆恨みだと分かっているがこの屈辱をどうにかして晴らしたいという思いはなかなか消えてくれはしなかった。
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- 皮肉をこめてラクスはキラの当時の呼び名を言う。しかし、キラは皮肉だとは思わなかったのか、けろりとしてラクスがその事を知っている事に驚いた様な顔をしただけだった。
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- 「帝王だなんてそんな…。女帝と呼ばれた貴女にそんな事を言われるとは思いませんでした。それよりもここから離れませんか?かなり目立ってしまってますので」
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- キラのその指摘に自分達が待ち合わせ場所にしたところの条件を思い出す。
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- 場所は自分達の母校の少し離れた場所。だが部活帰りの高校生たちが通る場所だけあってかなりのギャラリーに見られていた。
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- 明日噂になるのは間違いない。
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- ラクスはそれを見越してこの場所にしたのだが、キラにしてみれば嫌な場所だろう。職場近くで女と会っているのを翌日流されるのは目に見えているのだから。
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- だが、ラクスにはいい気味という気にしかならないが、これ以上ここにいれば猫っ被りの猫が剥がれ落ちる可能性がある。流石に離れなければ不味い。もう少し羞恥プレイをしたかったがここは断念せざるを得ない。
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- ラクスはキラに促されるままに、キラの車に乗り込み、食事にむかった。
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- キラは昔の彼が自慢するだけあって完璧なエスコート、女性である自分に恥をかかせない様にする配慮は完璧だった。
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- 「随分と女性の扱いになれていらっしゃいますわね」
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- ラクスは皮肉を込めて言うが、キラには通じない。
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- ラクスは何度目かになるささやかな皮肉を言うがキラはどこ吹く風というように流す。
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- 「そう?様になってたらいいんだ。後、そこ段差あるから気をつけてね」
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- キラは右手をラクスに差し出す。ラクスはキラの手を取り、その店に入っていった。
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- そこで二人は食事をするが、キラとの話はラクスが思っていたものが出てくることはなく、キラもラクスの深いところまでのフィールドに踏み込まなかった。
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- ラクスは何度かキラの心のフィールドに入ろうとしたが、キラはそれとは気付かせずにやんわりとはずしていた。
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- その事に気付いたのはキラとわかれる時間になってからだった。その事に気付き悔しくて、ラクスはもう一度会えないかとキラに乞う。
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- 「あの、もう一度会えませんか?先輩」
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- ラクスはこの話の間キラの事を先生とは呼ばず、先輩と呼び続けた。キラが学生時代の事にあまり踏み込んで欲しくはない様子だったのでわざとそう言う呼び方をした。
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- キラはラクスのその呼び方に苦い顔をするが呼びたい様に呼ばせていた。キラは少し悩んだ挙句、ラクスの要望に頷いた。
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- 「今度、時間があればね。その時はその猫っ被りはやめて、もう少しリラックスしてから…ね?緊張しているのか、それとも僕が嫌いなのか、それとも両方なのかは知らないけど、ずっとそう云う風に演技してたら疲れるよ。もうばれてるんだからその仮面はがして自然体でいたら?」
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- ラクスはキラから思わない言葉が出てきて驚いた。自分が彼に向ける感情がばれていた。そして今まで自分が何匹もの猫を被っていても決して見破られた事がなかったのに、彼はそれを意図も簡単に見破り、本当の自分を見つけ出し指摘してきた。
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- 認めるのも癪なので意地を張り、とぼけて見せるが、見破られてしまっているこの状態では何の意味も無かった。
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- 「何の事でしょう?わたくしがあなたの事が嫌いだなんてそんな事よく分からない相手である貴方に感じるはずがありませんでしょう?」
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- だが、キラは優しくラクスの顔をなでる。意地を張っている自分がバカらしくなるほどにキラは優しくラクスに接した。
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- ラクスは今までキラの弱点を調べようと接点を持とうと頑張って話をしてきた。だが、途中でキラのその話が自分と重なっている事に気づく。
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- 「嘘だね。君からは僕と同じ匂いがする。同属嫌悪って言葉、知ってるでしょ?君が僕に感じた物はそれだよ。誰にも本当の自分は見せられない。でも誰かに気付いて欲しい。でも、見せられないから多くの猫を被る。違う?僕も同じだったよ。皆僕の偶像を見て崇め奉る。学生時代は優等生を演じるのは簡単だった。皆面白い様に僕を崇め奉った。先生も生徒も。でも僕の精神はその度に疲弊し、朽ちていった。君もそうだったんじゃない?だから僕の話をする時に嫌悪感を感じた。でも、君は僕には途中から気付かないうちに自分を出していた。自分を偽らなくても良い事に気付いたから。同属の僕には偽ってもばれるって本能で察したんじゃない?だから途中から僕の事を見る目が変わった。君も僕も自分を偽るために人の感情の機敏には敏感だ。だから分かる。本当はばれているって気付いてたんだ。だから知らず知らずのうちに地の自分が出たんじゃない?」
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- もう、偽っても無駄だ。
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- 初めて彼の話を聞いたその時からキラに嫌悪感を抱いていた。
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- 絵に描いた様な優等生。理想的な指導者。誰からも好かれ慕われる人物。
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- そんな人間この世に存在するはずがない。
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- そう思った。
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- 現に自分はこんな人間くさくない人は嫌いだ。だが、実際あった彼は彼が言っていたものを残しつつ人間味あふれる話をする事がある。自分が勝手に決め付け、抱いていたイメージを尽く打ち破る彼に興味を持つのは簡単だった。
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- だからその変化が信じられなくてミーアの送り迎えを口実にキラにあった。
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- 「同属嫌悪だったのでしょうね。あまりにも自分と似すぎていて、わたくしはその自分から抜け切ることができないでいたのに、話に聞く貴方は出合った時その被っていたイメージから早々と抜け出していた。それが悔しくて貴方にもう一度会いたくなった。貴方に会って、話の人物が貴方だと確信し、歴代名簿に目を通しました。事実貴方はわたくしの三年前の生徒会長だった。そしてあの人が自慢する人物だった。わたくしと付き合っていながらいつも話の内容は貴方の事ばかり。学校でしか会えないのにその話ばかりされて貴方に恨みを持ってしまったのでしょう」
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- ラクスは自分の今までの行動と思いを振り返り見詰め直す。
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- キラに指摘された通りだ。
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- 自分の思いが自分を苦しめていた。今では素直に自分をさらけ出せる。この人の前では。
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- 他人の前で初めてさらす自分自身に少し気恥ずかしい思いを抱きながらラクスはキラにお礼を言う。そして改めてもう一度会いたいと。せめて利き腕である左手が治るまでは傍にいさせて欲しいと。
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- 「気付いてたんだ。僕が左利きだって」
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- ラクスはニッコリと笑い、彼から聞いていた事と、キラの行動を言う。
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- 「ええ、彼はいつも貴方の事の話で、右利きだと思わせているが実際は左利きの様だと言っておりましたもの。それに今日だって隠してらっしゃいましたが左で食べようとなさいましたでしょう?それは普段左をお使いだからですわ。その腕ですと日常生活に困りますでしょう?ですから、暫くはお礼も兼ねて、お食事のお世話をさせてください。わたくしのお食事の誘いを躊躇いなく受けるという事はお付き合いしている方はいらっしゃらないのでしょう?」
-
-
- キラは暫く考え込んだ据えに頷くとラクスはニッコリと微笑み、有無を言わせず切り出した。
-
-
- 「ではわたくしが貴方のお部屋に出入りしてもなんら不思議はありませんわよね?貴方の腕が治るまでの1週間、貴方の生活行動のお手伝いを致しますわ。明日から泊り込みますのでそのおつもりでいてくださいね?キラ様」
-
-
- 初めて自分自身を見てくれた人。
-
- 自分の隠された本性を見ても引く事はなく、むしろその呪縛から解いてくれた人。
-
- その人を他の女にやるほど自分は優しくはない。こんな自分をさらけ出せる人などいったいいつ会えるだろうか?
-
- 確率的に少ない自分をさらけ出し見せる事ができる男性を逃しはしない。
-
- キラの他にもいるのであれば吟味して選ぶが、キラのような男が早々いるとは思えない。自分の腹黒さを彼は気付いているだろう。そして自分が彼にしようとした事も。
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- そんな自分を受け入れてくれる彼をみすみす他の女の餌食にするのはもったいない。彼に他に好きな女がいようともキラを陥れてでも自分の物にする。
-
-
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- これは自分の意思。
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- 180度変わってしまった彼への思いに戸惑うのは一瞬。後は彼を手に入れたいという独占欲だけが残った。
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-
- 「別に構わないけど、君、家は?家族には何て言い訳するつもり?独身男の独り暮らしの家に転がり込んでその後は?」
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-
- キラはラクスのたくらみを知ってか知らずか了承する。彼の了承さえもらえれば家族を丸め込むのなんてあっという間だ。
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- ラクスはその日は断念したが、車に学校の教材と1週間分の着替えを詰め込み、翌日キラの部屋へと転がり込んだ。
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- お互い相手の本性がどういう人格なのか薄々知っているだけあってなかなか素直になれない。
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- どちらがどう転ぶか……。
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- この二人の恋愛ゲームは始まったばかり。
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- <あとがき>
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- キラ教師バージョンです。
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- ラクスバージョンとは違い、ラクスは腹黒いです。
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- 純情可憐な乙女は猫かぶり、その実態は腹黒。な、ラクス様です。
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- この後は狐と狸の化かし合いが始まるのでしょうね…。お互い本性は知っていてもそう素直になれない人達ですから、お互いがお互いを落そうとして自分のペースに引き込もうとします。
-
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- こんなカップリングですが、感想頂ければ嬉しく思います。
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- <おまけ1>
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- 「キ〜ラ〜。久しぶ「煩い、バカアス。君、いったいラクスと付き合ってた時、彼女に何吹き込んでたのさ。おかげで僕は大変な目に遭いかけたんだけど?」………キラ冷たい……」
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- アスランは久しぶりに会う元教え子であり、お気に入りのキラに袖にされ、いじける。
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- 彼はキラが在学中、自分の本性をさらげ出した(暴かれた)教え子であり、中学の頃から目をつけていた人物であった。その彼が人に対して柔和な態度しかとっていないのを気に掛けた所が二人の関係が今の様な関係になった始まりである。が、当時の力関係はアスランが握っていたはずだが、キラが生徒会に入る頃にはいつの間にか逆転しており、キラに袖にされる始末。キラが卒業したと同時に入学してきたラクスがキラと同じ様な性格をしていた事からラクスに手を出し、キラの面影を重ねていた。そして彼女に自分の本性を暴いたキラのその凄さ、素晴らしさを得々と聞かせていたのが仇となり、ラクスはキラを目の敵にし、キラに会った時キラを陥れようとした。
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- そのきっかけとなったアスランのキラ自慢話が二人をくっつけるきっかけとなってしまった事にアスランは涙を呑んだ。
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- 「あんなに一緒だったのに…可愛いキラとラクスは今いずこ…」
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- 「そんな所できのこの栽培をしないでくれる?邪魔。僕だけじゃなく皆のね。で?何吹き込んでたのか吐いてもらおうか。あっちでゆっくりと…ね…」
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-
- そう言うキラの顔は妖艶な黒い笑顔をしていた。その笑顔は見惚れんばかりの物だがいかんせんその笑顔をしている時のキラは恐ろしい事を知っているアスランは青ざめた。
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- 「は、話せばわかる「うん、だから話してって言ってるでしょ?言葉わかる?」た、助けてくれ〜」
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- キラに引き摺られて行ったアスランの虚しい悲鳴がその場に木霊していた。
-
-
- その後アスランがどうなったかはその光景を見たもの達のみが知る。
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-
-
- <おまけ2>
-
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- いったいラクスはキラにどう云う事をして陥れようとしていたのか、キラにラクスと付き合っていた当時の事を吐かされたアスランは気になり、ラクスに尋ねた。
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- 「ラクス、君はいったいキラに何をしようと思っていたんだ?君の事だからえげつない事を考えていたんだろう?」
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- 自分の本性をキラにさらけ出して以来、元彼であるアスランの前でも普段の自分でいられる様になったラクスはアスランに対しても腹黒い自分を全開に表に出していた。アスランは初めて本性を出した時驚いていた。が、キラで慣れているのかそれほど拒絶反応を示さなかった。
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-
- 「えげつないとは失礼ですわね。確かに初めは学校に居られなくなるほどの事はしてやろうとは思いましたが今はそんなのどうでも良いですわ。今問題なのはどうすればキラがわたくしの手に落ちるかと云う事です。アスラン貴方キラの友人なのでしょう?何かキラが好む物はありませんか?服装とか、シュチュエーションとか」
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- 『学校に居られなくするって十分えげつないと思うが…』
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- ラクスのその言葉に十分えげつないと思うもののそれを突っ込めばキラとは比にならない報復が待っているだろうと当たりをつけ黙るアスラン。ラクスには逆らわない方が良いと本能が告げる。
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- だから考えてみた。キラが好む服装、シュチュエーション…。シュチュエーション?
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- 「確か昔、こんな事があれば良いなと同級生と話していたのを立ち聞きした事があったな……あれはキラが高校2年の時だったか?好きな子が朝キスで起こしてくれるのって良いよねって話していた様な…」
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- 「それは既にやりましたわ。ですが、『ありがとう、ラクス』で、終ってしまいましたわ。他にはないんですの?お風呂の背中流しも、夜にキラのベッドに忍び込むのも、他にも色々やりましたが全然反応がなかったのです。他にはありませんの?」
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- ラクスはアスランに今までした事を例を上げて報告する。どれも際どい物ばかりで良くそれで何の反応もなしに過ごせたなという物ばかりだ。
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-
- 『キラ…お前いったいどういう神経しているんだっっ』
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- アスランは胸の内でキラに疑問を投げかける。キラもラクスもお互いの誘惑に負けたら最後だと思っている節があり、意地の張り合いで前に進んでいない。
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- この微妙な均衡はいったいどちらがどちらの誘惑に負けて手を出すかという際どい処で保たれている。お互いに誘惑に負けそうになるが、手を出そうとはしない。その誘惑に乗ってしまえば負けだと言わんばかりにそのゲームは続く。
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- 次にアスランが二人に会った時にはいつの間にか決着がついていた様だ。暫くはどちらが先に落とされ、手を出すかというゲームは危うい均衡を持ったまま続き、なかなか決着がつかなかった様だが、どうやら落ち着く所に落ち着いたらしい。果たして負けてしまったのはどちらだろう?気にはなるがこれを聴くのは野暮という物だろう。それは二人だけが知っている。
-
-
水沢様よりフリー小説をいただいたきました。
ありがとうございます。
水沢様の小説は、パラレル設定が取り揃っております。
そんな中でしっかりと水沢様の得意な表現といいますか、世界設定が成されています。
拙宅とはまた一味違ったラクス達に出会える作品です。
やはり、自分で書けないストーリーとかキャラ設定には憧れますよね。
なかなか難しいですが、機会があればチャレンジしたいと思います。
水沢聖様の『Serenade』はこちら →
Serenade
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