※ コメディです。
Title ■『天使湯リフォーム計画〜フラガの野望!?〜』■
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- 戦艦に『温泉』とは、なかなか気の利いた味のある施設だとは思う。
- クルーの殆どが利用者であるし、戦艦にあってもリラックスできる環境は精神衛生上・・・いや、それよりも故郷を離れた兵士にとって、故郷の温泉を再現するとは、士気を高めるにはまたとない施設だ。
- だが・・・。
- 広い岩風呂の湯船にとっぷりと浸かりながら、ムウは何故か難しい顔を見せていた。
- 「なあ・・・」
- 疑問を解消するには、誰かに聞くのが一番だ。ぐるぐると考え込むのは、性に合わないということらしい。さっそく、その場にいたバルドフェルドに訊ねる。
- 「どうした?」
- 「この『天使湯』って、温泉なんだよなあ?」
- 「まあ、一応・・・そのつもりだが」
- バルドフェルドはすでに身体を洗い終え、シャワーを使っている。
- 「温泉であって、銭湯じゃあないんだよな?」
- 念入りに確認を取るムウに、バルドフェルドは不審そうに眉を顰めて振り返る。同じように湯船に浸かっていた2人の少年たちも、ムウの真意が測りきれず、共に首を傾げた。
- 「ああ、番台もないし、入浴料も取ってないな。ま、クルーから入湯税も徴収してないが。それが?」
- 「なら、男湯と女湯があって、なんで混浴がないんだ?」
- 素直な疑問をぶつけられて、さすがのバルドフェルドも絶句した。
- 「え・・・っ?」
- 「あるだろう? ふつう・・・。温泉にはさあ。こ・ん・よ・く」
- 「こんよく・・・って、混浴!? フラガ少佐」
- 焦ったような困惑の声を上げたのは、湯船の端に浸かっていた少年の一方のアスランだ。
- キラはすでに、この話題の展開についていくことを放棄して、驚いたままの表情で固まっていた。
- 「俺は、一佐だ。ザフトの坊主」
- 「あ、はい。すみません」
- ムウの妙に冷静な指摘に、アスランはすごすごと引き下がり、律儀に謝ると、沈黙を守った。
- もうZAFTではないのだが・・・と何故か、彼には強気に出られない。
- 「やっぱ欲しいよな。混浴風呂。むさい戦艦暮らしには、潤いってものが必要だろう」
- 何を指して『潤い』というものなのか、少年たちにはまったく理解できなかった。
- 「潤いねぇ・・・。ま、確かに一理あるな」
- 何が一理あるというのだろうか、こちらも何を考えて発言しているのか、理解できない。
- 呆然としている少年ふたりに、ムウはシニカルな笑みを向けた。
- 「坊主どもは? おまえらだって、欲しいだろ? 一応、健全な男なんだし。やっぱりしたいよなあ。可愛い彼女との洗いっこ」
- にやにやと笑いを含んだ露骨な科白に、キラとアスランは共に顔を見合わせ、その返答に当惑していた。下手に返せば、格好の餌食になるのは目に見えている。
- 「え・・・あ・・・それは・・・」
- 「えーっと、その・・・」
- キラもアスランも、その辺は年齢相応の男子でもあるし、興味が無いと言えば嘘だ。だがそれを口に出せるほど、開き直ることはできない。やはり恥ずかしさが、先に立つ。
- 「ね? アスラン」
- アスランに押し付け、自分だけはさっさと回避して、何とか曖昧に論点をぼやかそうとするキラを、アスランは尖った視線で睨んだ。
- 「俺に振るなよ。キラから言えよ。宇宙艦隊の責任者は、おまえだろ?」
- 「そんなの、いま関係ないじゃない?」
- ただの擦り合いに発展している少年たちに、ムウは焦れたように片眉を上げた。
- 「そこ、言いたいことがあるんなら、ハッキリ言え!」
- 「ほら、アスラン」
- 結局、キラが押し切り、押しの弱いアスランが発言することになる。
- 「いや、それは・・・もし造るとしたら、やはりラミアス艦長の許可が必要か、と」
- 混浴風呂増設の提案に反対するつもりはないが、手順を踏んでからということらしい。アスランのうまい切り返しの言葉に、キラはこっそりと胸を撫で下ろした。
- 「あ、やっぱりぃ?」
- ムウの軽い調子に、その場に居合わせたみんなが呆れていた。
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☆ ☆ ☆
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- 湯船に浸かるマリューは、男湯から聞こえる恥ずかしい内容の会話に、思わず耳を塞ぎたくなった。それにしても、ここまであの彼が『混浴』に拘っていたとは、正直驚く。
- ネオと名乗っていたときから、彼は大層『天使湯』の存在がお気に入りで、ことあるごとに、マリューを天使湯に誘ったのだ。本当に、彼の人格が変わってしまったのではと、密かに心配する今日この頃である。
- しかし、今回のことは、全くもって言語道断。艦長として、艦内の風紀を乱す提案は、到底容認できるものではない。
- 「却下に決まってるじゃないの。馬鹿ね。あの人たち」
- マリューはスッパリと、男たちの浅はかな思惑を一刀両断した。
- 「まる聞こえの、筒抜けだ。なんて会話だ。情けない」
- 額に手を当て、カガリも湯船に浸かりながら大きく首を振り、呆れ果てていた。
- 他のオーブ軍人たちには、決して聞かせられない内容だ。隣で、ろくでもない会話をしているのは、紛れも無く軍上層部の指揮官クラスに名を連ねる者たち。これではオーブ軍の先行きが非常に不安だ。
- 「・・・・・」
- 共にいたラクスは我関せずで、ほんわりと温まりながら、ゆっくりと湯に浸かっていた。彼女らの会話に余計な口を挟むことなく、のんびりと構えている・・・・・振りを続けた。その内心は、決して穏やかなものではなかったが。
- 「ラミアス艦長」
- 小さく呼びかけたカガリに、マリューも小声で応じた。ふたりが大きく頷き合う。
- 「冗談じゃないわ。断固反対よ。いいわね? カガリさん、ラクスさんも」
- この後、それぞれがガッツリと、男どものスケベ根性を叩き直さなければならない。幸い、彼らは、自分たちが隣で会話をきいている事に気づいていない。
- 「当然だ。乙女の玉の肌をムッツリどもの前に晒して堪るか。断固反対、賛成!!」
- 小さく握られたカガリの拳は、密かな決意の表れだった。
- 「な? ラクス」
- 同意を求めたカガリに、ラクスは曖昧に微笑む。それが、どこか引き攣ったように見えるのは気のせいだろうか。
- 「え・・・ええ。そうですわね」
- 「な〜んか。ラクス、歯切れ悪くないか?」
- どことなく怪しむ様子のカガリに、ラクスは慌てて首を振って否定する。
- 「そ、そ、そんなことはありませんわ」
- 嘘の下手な自分が恨めしい。しかし、絶対にこの彼女たちに知られてはいけない・・・気がする。
- 「ラクス?」
- 「ラクスさん?」
- 「本当に。何でもありませんわ。ええ、本当に」
- この場合、ラクスはにっこり笑って誤魔化すしかなかった。
- 彼女たちの前では、とても口にできない隠し事が、ラクスにはあったのだ。
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☆ ☆ ☆
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- 「いまさら、『混浴』なんて必要ないし」
- キラがポツリと漏らしたその呟きに、アスランはこっそりと溜息を吐いた。
- 「・・・・・(ああ、そうだろうとも。おまえたちの場合はな)」
- アスランが口の中で呟く言葉は、声になっていない。キラとラクスは入浴に関して、とっくに男女の垣根を越えている。それを知った時の衝撃は、彼にとって《デスティニー》に撃たれた時以上のものだ。
- 「・・・ん? いま何か言った?」
- 隣のアスランから何か呟きのようなものが聞こえたような気がしたが、それが何なのか聞き取れなかった。
- 「いや、なんでもない」
- アスランは誤魔化すように、表情を消してポーカーフェイスを保った。
- 遠慮のいらない間柄の親友とはいえ、それを露骨に口にするのは、さすがに遠慮したい。
- 「ま、こちらには、マリューより階級が上のキラがいることだし。いざとなったら、おまえからの命令って形で、混浴案を出してもらえば」
- いきなりとんでもない名(迷?)案を、ムウは口にした。
- 「ぼ、僕が〜〜ッ!?」
- 素っ頓狂な声を上げて、キラは目を大きく見開いた。まさか、この件を振られてくるとは思ってもいなかった。
- 「そりゃいい。頑張れよ。少年!」
- バルドフェルドの無責任な声援を受けたキラは、さっそくアスランに泣きついた。こんなことに巻き込まれるのは、自分の本意ではない。
- 「アスラ〜ン〜〜助けて〜〜!」
- いつものパターンに陥ったアスランも、子供の頃から刷り込まれた習性の如く、頼りない親友の上官のフォローに回った。呆れながらも、仕方なさそうに助け舟を出す。
- 「無理だと思いますよ。それ」
- きっぱりとした否定の言葉に、ムウは怪訝そうに眉を寄せた。
- 「なんで?」
- 「あちらには、カガリがついています」
- アスランは、冷ややかな現実をムウに突きつける。
- 「お嬢ちゃん?」
- 「ええ」
- 疑問を含んだ表情で首を傾げたムウに、アスランは迷いもなく大きく頷いて肯定した。
- 倫理観の強いカガリが、そんなことを許すわけがない。・・・・・オーブ軍の最高責任者として。
- それに気づいたキラがまず声をあげた。
- 「あ・・・っ」
- バルドフェルドも、アスランの指摘に気づいたようだ。
- 「あ〜あ、夢また夢だな。フラガの野望も」
- これで、フラガの邪な野望・・・いや、ムウのささやかで浅はかな望みは潰えたというわけだ。
- 「しまった! それは盲点だった」
- 《アークエンジェル》は、成り行きとはいえ、現在はオーブ軍の所属艦だ。その指揮権を持つ上層部のトップを張るのは、当然、国家元首であるカガリ・ユラ・アスハ。彼女が『NO』といえば、幾ら将官クラスのキラでも太刀打ちできない。
- 「ね、これも夢オチ?」
- 一安心のキラは、こっそりとアスランに尋ねた。
- 「だな」
- キラの何気ない無情なひと言に、アスランは苦笑しながら肯定した。
- ところが、他人事(ひとごと)だったアスランに、突如、災難が降りかかる。
- 「なら、ZAFTの坊主。彼氏のおまえが、お嬢ちゃんを口説き落とせ!」
- 「できたら、とっくにやってますっ!」
- アスランからすげなく返された言葉。
- 言った本人は自分の発言に真っ赤になって動揺し、シスコンのキラはどこか不機嫌モードになり、もはや他人事のバルドフェルドは腹が捩れるほど爆笑し、他力本願のムウはあえなく湯船に撃沈した。
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- フラガの天使湯リフォーム計画案が、『DESTINY PLAN』同様、立ち消えになったのは、いうまでもない。
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- 教訓。
- 不可能を可能にする男も、たまには不可能なことがあるようだ。(他力本願はいけません。by ラクス)
■ おわり(・・・ん?) ■
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itle ■『その後のおまけ』■
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- ■□■ キラ×ラクスの場合 ■□■
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- ラクス 「お風呂の件、残念でしたわね」
- キ ラ 「あれ? もしかして聞こえてた?」
- ラクス 「ええ、まあ(誤魔化すのが、大変でしたけど)」
- キ ラ 「あ、そうなんだ。ねぇラクス、もしかして、他にも誰かいたの?」
- ラクス 「実は・・・マリューさんとカガリさんが・・・」
- キ ラ 「・・・び、微妙な取り合わせだね。大丈夫かなあ、ムウさんとアスラン」
- ラクス 「おふたりとも、大層、ご立腹のご様子でしたが」
- キ ラ 「わっ、それって・・・物凄くマズイかも?」
- ラクス 「そうですわね。今頃、大変かもしれません。アスランとフラガさん」
- キ ラ 「想像に難くないよねぇ。それで、あのさ・・・ラクス」
- ラクス 「大丈夫ですわ♪ あれは、もちろん、ふたりだけの秘密(×お楽しみ)です」
- キ ラ 「うん。そうしようね」
- ラクス 「混浴の件は、このまま、静観いたしましょう(にっこり。触らぬ神に祟りなしですわ)」
- キ ラ 「だね(こちらも同じく、にっこり)」
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- ■□■ アスラン×カガリの場合 ■□■
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- カガリ 「(にこやかに)残念だったなあ。アスラン?」
- アスラン 「なにが?」
- カガリ 「(ガラリと口調を変えて)混浴風呂の件」
- アスラン 「カ、カ、カガリ? ・・・・キミ、まさか!!(滝汗)」
- カガリ 「ああ、バッチリ聞こえてたさ」
- アスラン 「いや、だから、その、あれは・・・(ぐるぐるSTART!)」
- カガリ 「(低音で)真面目なお前なら、真っ先に反対すると思ってたのに。意外だったよ」
- アスラン 「・・・・・。(それは、俺だって一応男だし。カガリとなら・・・やっぱり。フラガ少佐、いや・・・いまは一佐だったな。彼の言う通り、可愛いカガリと一緒に入って、あんなことや、こ〜んなことしてみたいなあ・・・なんて願望持つのは、男として当然だし。キラとラクスだって、一緒に入ってるわけだし。俺たちだって、いや、でもカガリが何というか・・・)(注:ハツカネズミ爆走チュウ)」
- カガリ 「(ジト目で睨んで)ラミアス艦長の言った通りだな」
- アスラン 「艦長が、なにを?」
- カガリ 「男はみ〜んな、ムッツリ助平だとさ」
- アスラン 「(やっぱり、ヘタレ)一言もありません」
- カガリ 「この、ばかっ!!」
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- ■□■ ムウ×マリューの場合 ■□■
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- マリュー 「もう! 貴方ってヒトはッ!!」
- ム ウ 「そう怒るなって。だってさァ・・・」
- マリュー 「記憶と一緒に、頭のネジまで弾けたんじゃないの? いきなり混浴風呂だなんて」
- ム ウ 「いいじゃないか。折角、温泉があるんだしさ。一緒に入らない?」
- マリュー 「(きっぱり)入りません」
- ム ウ 「なんで?」
- マリュー 「(呆れて)あなたねぇ・・・」
- ム ウ 「(にやにやと)お背中、お流ししますよ。マ、リュー、さん」
- マリュー 「結構です。背中流すついでに、子供まで作られそうだわ。貴方と入ったら」
- ム ウ 「おっ・・・それ、いいねぇ。子孫繁栄こそ、男の究極の野望ってね」
- マリュー 「バカッ!!」
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相賀藍様よりフリーとして配布してものをいただいた小説、その3つ目です。
前2つとは趣向が異なりコメディタッチです。
とても楽しいお話でした。
読みながら思わず笑みを浮かべてしまいました。
そしてこんな会話が想像できそうで、改めてよく彼らの事をよく見てこられたんだなあと
感心しています。
前の作品も含めまして、たくさんの素敵なお話を本当にありがとうございます。
これからも一ファンとして応援致しております。
こんな素敵な作品が数多く揃えられている、
相賀様の『CROSS ROAD』はこちら →
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