※「Tea party」→「Coffee party」→「Can you eat dinner ?」の順で読むことをお奨めします。
- オーブ内、カガリ別邸にて、それぞれ女性同士、男性同士の茶話会が行われた後、彼らは一緒に食事を取るために合流した。
- カリダだけは子供達の夕食の準備があるからと帰ったが。
-
- それでも話に花が咲き、話題の尽きない女性達は和やかに談笑を続けながら廊下を歩いていた。
- そうして少し歩いていると向こうから男性達がやってくる。
- だが男性陣に和やかなムードというか、いまいち覇気が無い様に見受けら、その表情はどこか疲れているようにも見える。
- 唯一人イザークを除いて。
-
- 「お前ら、何か疲れてないか」
-
- カガリが彼らの様子に気が付いて、小首を傾げて疑問を口にする。
- 問われてようやく女性達の存在に気が付いたのか、少し驚いた表情で顔を上げるが、その視線はあちこちに泳いで落ち着かない。
-
- 「ああ、まあ、ちょっとな」
-
- アスランは言葉を濁して俯く。
- ハッキリ言ってその雰囲気は、暗い。
- アスランに限らずだ。
- カガリはますます不審げに眉を顰め、何の話をしていたんだと尋ねる。
- 男達はカガリの問いにそれはまずいと目を見開いて止めようとしたが、少し遅かった。
- イザークが一人、勝ち誇った表情でカガリの問いに答える。
-
- 「ふん、ケバブはチリとヨーグルトのミックスが一番だと教えてやったんだ」
-
- 男達の誰もがああと手を顔に当て、予想される展開を嘆いた。
- カガリの性格は、良く知る彼らには手に取るように分かった。
- 再び蒸し返されるあの不毛な言い争いと、数十分後のイザークの成れの果てが。
-
- 「はあっ、何言ってんだ。ケバブはチリソースが一番に決まってるだろう」
-
- 当然の如く、イザークの意見に対してカガリは顔を顰めて言い切った。
- それがイザークのみならず、彼らのこの後の運命を大きく揺るがすことも知らずに。
-
-
-
-
「Can you eat dinner ?」
-
-
-
- カガリの言葉にイザークは再び咆えるように反論しようとする。
- だがそれは女性達の意見にかき消される。
-
- 「ミックスなんて、かなり異端だと思うわ」
-
- そうイザークの意見をバッサリ切り捨てるのは、意外にもマリューだ。
- あまりにも綺麗に切られて、イザークは反論も忘れて固まってしまう。
-
- 「ケバブはあの辛さがしっかりした味になって、美味しいのよ。そんな変な味、よく食べられるわね」
-
- ハッキリ言って変よ、と真面目な表情で言い放つ。
- もう言いたい放題だ。
- そこまで言われたイザークは先ほどの勢いはどこへやら。
- 燃え尽きたボクサーのように虚ろな表情で立ち尽くす。
-
- 「ヨーグルトはどうよ」
-
- イザーク撃沈を見てムウがようやく息を吹き返したように、笑顔を浮かべてマリューに自分の意見に対する同意を求める。
- しかしマリューは右手の人差し指を顎に当てて少し考えてみるが、やがてしっかり首を横に振る。
-
- 「あれも味がアッサリしすぎててダメね」
-
- こちらもバッサリ切り捨てられて、ムウもバルトフェルドも同じように悲しげな表情で視線を漂わせる。
- 一方マリューの意見にディアッカが水を得た魚の様に表情を明るくして、激しく首を縦に振る。
-
- 「やっぱそうなんだよ。ミリィもそう思うよな」
-
- だがミリアリアは、愛称で呼ぶディアッカを睨みつけるように一瞥すると、真っ向から噛み付く。
-
- 「何言ってんの、あんた。ケバブはねえ、ヨーグルトソースの方がアッサリしてて美味しいんだから」
-
- ふんと鼻で笑うように腕を組み、ミリアリアはショックを受けた表情のディアッカを見下ろす。
- そしてミリアリアの意見にぱあっと表情を明るくしたのは、ルナマリアとメイリンの姉妹。
-
- 「ですよね。あの薄味がケバブの素の味を引き立てるんだから。チリソースなんて辛いだけですよ」
- 「辛さで味が分からなくなっちゃいますよ。やっぱりヨーグルトですよねえ」
-
- ホーク姉妹の言葉に、アスランとシンは意外そうな表情で彼女達を見つめている。
- 勝気な彼女達の性格からチリソースの方が好きなのではと勝手に思っていたようだ。
- だがそれに反論するのはもちろんカガリとマリューで、そのまま男性陣も加わってやいのやいのとどちらが美味しいかという言い合いが始まる。
- しばらくそうして言い合っている最中、突然脇から変な声が聞こえてきた。
-
- 「あのー、皆さん何のお話をされているのですか?」
-
- 声のする方を全員が一斉に、えっ、という表情で振り返れば、そこにはニコニコといつもの微笑を浮かべて首をちょこんと傾げているラクスが居た。
- キラを除く誰もが、出た天然、と呆れかえり、キラはラクスの仕草に可愛いなとズレた事を考えている。
-
- 「何って、ケバブにかけるソースの話だけど」
-
- カガリが訝しげな表情でラクスの問いに答える。
- 今までの話で何故話題が分からないという言葉は飲み込んで。
- しかし当のラクスは周囲の空気に気付いていないのか、それとも気にしていないのか、どこまでもマイペースにワンテンポ遅れて話題に乗ってきた。
-
- 「あら、ケバブにはそのようなものをかける食べ方もあるのですね」
-
- 是非一度食べてみたいですわと、新しい発見をした小学生のような、驚きと喜びの入り混じった表情で手を胸の前でポンと合わせる。
- ラクスの言葉に、逆に驚愕の表情を浮かべる他の面々。
- 誰もがチリソースかヨーグルトソースをかける(ミックスも含めて)食べ方しか知らない。
- だがラクスはどうやらその食べ方以外のもので今まで食してたようだ。
- これは全く予想できなかった、新しいパターンだ。
- キラも流石に驚きを隠せない。
- 何て尋ねればいいか誰も分からず、救いを求めるように、また自分の彼女なんだから何とかしろとばかりにキラに視線を向ける。
-
- 「えーっと、ラクスはケバブに何をかけて食べてたの?」
-
- キラが皆の痛々しい視線を受けて、恐る恐る尋ねる。
- ラクスはニコニコと懐かしみながら、一人場の空気が分かっていない様子で答える。
-
- 「はい、確かお手伝いさんに昔作っていただいたケバブというお料理は、イチゴジャムやブルーベリージャムでいただいていましたわ」
-
- 朝食のトーストじゃないんだから、という声が聞こえてきそうだ。
- そもそもラクスが食していたものがケバブかどうかすら怪しい。
- だがその場にいる彼らは予想を超えた答えに激しい混乱の真っ只中にありうまく言葉に出来ず、冷たい沈黙に空気が支配される。
- 言った張本人とただ一人を除いては。
-
- 「へえ〜、そんな食べ方もあるんだね。僕もそれ食べてみたいな」
-
- その一人と言うのは、もちろんキラをおいて他にはいない。
- 普段とても冷静なくせにラクスの言葉にだけは盲目的なところがある彼は、何の疑問も持たずにあっさり同意する。
- その発言に意識を若干取り戻した一同は、このラクス馬鹿と一斉に心の中で突っ込みを入れる。
- あくまで心の中で。
- 2人の世界に入ったキラとラクスに彼らの言葉は届かず、甘すぎる空間に誰も踏み込めず、自分が虚しく
- なるだけだということを誰もが知っているから。
-
- 「では折角ですから、それで食べてみましょうか?今から用意できないか聞いてまいりますわ」
-
- 行動力があり決めたら即実行するラクス。
- カガリやマリュー達が声を掛けるのを躊躇っている間にキラとラクスは2人で話をどんどん進め、それがまとまるとラクスがくるりと一同を見渡して私ちょっと話をしてきますわ、とにっこり微笑む。
- その本当に嬉しそうな笑顔に結局何も言えず、コクコクと頷くだけの女性達と呆然と見つめるだけの男性達。
- そんな彼らに踵を返し、意気揚々と一緒に行くよと言ったキラに甘えるように腕を絡ませて食堂へ向かうラクスの背中を、ポカンと見送りながら誰かが零す。
-
- 「食べられる、と思う?」
-
- その問いに答える者は当然無く、誰もが渋い表情でさあと肩をすくめるしかない。
- キラもラクスも悪気は無い。
- それは分かっている。
- だからこそ本人達は全く自覚が無く、言われた方も強く反発もできないだけに質が悪いのだ。
- 廊下を11人分の諦めにも似た溜息が冷たく吹き抜けていった。
-
- その後彼らが食事をちゃんと食べられたかどうかは、彼らだけが知っている・・・。
-
-
FIN
-
- 日本語タイトル 「ちゃんと食事食べられた?」
― ショートストーリーメニューへ ―