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介護福祉士
ここは地球、南半球のとある街。
数年前の戦争で被害を受け、今尚復興中の場所だ。
街道沿いに続く半壊したままの家屋や地面にところどころ開いた大穴など、戦争でつけられた傷は尚深い。
それでもここに住む人達は懸命にそれらを修復しながら、それでも希望を持って生きている。
誰もが皆、素敵な明日を夢見ているから。
今日もミリアリアはカメラを片手にそんな街を歩く。
戦争の傷跡を忘れぬために、しいてはキラ達の望む平和な未来を築くために。
そして世界中にまだたくさんある、こうした街の戦後復興の支援を世界中に呼びかけるために。
時折メモを取りながらたくさんの写真を撮って、ミリアリアは腕時計に目をやった。
そろそろお昼の時間だ。
お腹も空いてきたことだし、どこかで食事はできないかと辺りをキョロキョロと見渡した。
しかしそこで思いもよらぬ人物を目撃し、その目的は果たされることがなかった。
ミリアリアはその状況に、ただただ唖然とするしかなかった。
「お久!っつっても、前よりは随分と間は短いけどな」
ミリアリアの思いもよらない人物、ディアッカはいつものあっけらかんとした様子で片手を上げて挨拶をする。
その様子をミリアリアは目を見開いてまじまじと見つめた後、何でもなかったかのように彼の横を素通りする。
あからさまに彼とは反対方向に視線を向けたままで。
その状況にディアッカは慌てる。
「っておい!いくらなんでも無視はひどいぜ」
泣きそうになりながらすり違ったミリアリアの腕を取る。
悪態の一つや二つを吐かれることは覚悟していたが、この仕打ちは想定していなかった。
少しくらい話ができなければ、弁解の余地すらないではないか。
ディアッカはせめて話だけでも聞いてくれと嘆願するように、ミリアリアの腕を掴んだ手に力を込めた。
一方で腕を掴まれたミリアリアは、本当は腕を振り払っても良かったのだが、目の前の人物があまりに悲しそうな表情をしているためそれは憚られた。
そんな自分の心境に溜息をつきながら、この再会を諦めて受け入れることにした。
「Restart」
「で、何であんたがここにいるのよ」
場所を手近なカフェへと移した2人は、軽く昼食を取りながらゆっくり話を、という訳にはいかなかった。
ミリアリアはぶすっとした表情でディアッカから極力視線をそらして、黙々と運ばれたご飯を食べている。
ディアッカは何か話したそうにしながらも、とりあえずミリアリアの雰囲気に従って、淡々と食べる。
そこに一切会話はなく、重苦しい沈黙だけが彼らの肩に圧し掛かる。
そんな状況の中で何とか食事も一区切りつき、食後のコーヒーを飲んでいる時に、ミリアリアがようやく低い声で尋ねた。
ディアッカは目の前のコーヒーを一口すすってから、ようやく話をしてくれたと以前と変わらない陽気な笑顔を見せて、問いに答える。
「俺、軍を辞めたんだわ。んで、お前を探して地球に来たって訳」
イザークとかにも色々言われたけどな、と唯の世間話でもするように快活にそう言ったディアッカの言葉に、ミリアリアは最初聞き間違いかと思った。
だがディアッカの表情は笑顔であっても、嘘を言っているようには見えない。
「はぁ~!?あんた何考えてんの?」
しかしそれが聞き間違いでないことを悟ると、さすがに素っ頓狂な声を上げて、ディアッカの方へ向き直る。
ミリアリアの知る限り、彼は情に厚く友達だとかを大切にする人間だ。
それに自分に課されたことはやり遂げる、そんな責任感の強さも持っている。
表面上そっけない態度を取っていても、彼の全てを否定しているわけではない。
その辺りはしっかりと評価していた。
にも関わらず目の前のこの男は、友達をプラントに残して、任務を放り出して地球に降りてきたという。
それも自分を探すために、だ。
彼の行動が理解できないと同時に、信じられなかった。
また仮にも重要なポジションにあるディアッカが簡単に軍を辞められたはずがない。
しかしディアッカはアッサリと答える。
「そうか?キラとラクス様は快く俺の辞表を受けてくれたぜ」
その言葉に、キラとラクスが笑顔でディアッカと対峙している姿が容易に想像できた。
あの2人なら理由を聞けば喜んで辞表を受理しそうだ。
ミリアリアは心の中で少しだけそんな彼らに恨み節を呟いて、盛大な溜息を吐く。
気持ちはありがたくもあるが余計なお節介だと思う。
同時に目の前の男に対する呆れも、溜息には含まれている。
つまりは今現在、ディアッカは無職ということになるのだ。
もう子供じゃあるまいし、後先を考えていないかのような彼の行動には呆れる他無い。
「俺さ、キラやアスランを見て思ったよ」
だがディアッカはまだ不満げなミリアリアを尻目に、一転して真剣な眼差しで、視線はどこか遠くを漂わせながら呟く。
「自分が惚れた女のために、全てを棄ててでもって覚悟で傍にいて守るってのは、すごいよな」
キラはオーブでの平穏な暮らしを棄ててラクスのためにプラントに行き、今も命を賭けて彼女と共に苦難の道を歩いている。
アスランも同様だ。
自分などよりずっと深い傷を心に負いながら、それでも業と覚悟を背負って、愛する誰かのために彼らはいつも一生懸命だ。
その姿はディアッカには眩しく、そして羨ましく映った。
だから自分もそうでありたいと、知らず知らずに願っていたことに気が付いた。
だからまた後悔する前に、ディアッカはここに来た。
例えその望みが薄くても、自分の意志を貫き通すために。
一方のミリアリアはそう話すディアッカの表情を、不覚にもカッコいいと思ってしまった。
それを意識したとたん胸の鼓動が暴れだし、なんだかじっとしていられなくなる。
既に一度彼のことを拒絶したはずなのに何を今更と自分を内心叱責するが、それは一層増すばかりだ。
その気持ちと表情を誤魔化そうとディアッカの話が途切れるや否や、ほら行くわよ、とミリアリアは徐に立ち上がり店を出て行く。
ディアッカがハッと気が付いてそれを慌てて追いかけながら、不思議そうに問いかける。
「なあ、俺も一緒に行っていいのかよ」
ディアッカにすれば願ったり叶ったりだが、突然の行動に少々戸惑っていた。
彼自身も一緒に行動できるにはもう少し時間が必要だと思っていたから。
「あんたもそうなんでしょ」
そんなディアッカの戸惑いを余所に、ミリアリアは急に立ち止まると消え入りそうなほど小さな声で、背を向けたまま呟く。
だがその声はあまりに小さすぎてディアッカにははっきり聞こえず、えっと聞き返す。
ミリアリアは必死に顔が赤くなるのを抑えながらもう一度、だが自棄気味に声を荒げる。
「惚れた女のために、全てを棄てでもって覚悟で、傍にいて守るってことがよ」
言いながら恥ずかしく思ったが、ディアッカはそのためにここに来たに違いないことは明々白々なことを、改めて認識する。
それをうざったいと思う気持ちと、嬉しく思う気持ちが混ざり合って気持ちの整理がなかなかつかない。
ストレートに言うミリアリアに、さすがにディアッカも少し頬を赤くして、ああとしか答えない。
「無職じゃあんたも困るでしょうから、私がアシスタントとして雇って上げるわ。その代わりこき使ってやるから覚悟しなさい」
その返事を聞いたミリアリアは、そう言うなり自分が下げていた荷物をドカッと降ろした。
ディアッカは不思議そうな表情でその行動を見つめていたが、やがて意味を理解するとミリアリアが地面に置いた荷物を肩に担ぐと、嬉しそうに後を追いかける。
その気配を背中に感じながら、ミリアリアは必死に笑顔を堪えていた。
彼女自身は認めないだろうが、胸の内は喜びに溢れていた。
こんなにも思ってくれる人がいることに。
まだ時間は掛かるだろうが、それでも少しずつまた歩み寄ろうと、そんな気になれたから。
こうして2人はようやく再会を果たしたのだった。
FIN
日本語タイトル 「再スタート」
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