- 「ヤッホー、皆元気してた」
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- ミリアリアが元気よくマルキオ邸の扉を開けた。
- それにそこに居た面々も笑顔で応える。
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- 今日はキラとラクスがオーブへと来ている。
- それに合わせてカガリとアスランも休暇を取り、久々にマルキオ邸で集まることになっていた。
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- ミリアリアも揃ったところで、賑やかに談笑を始める。
- 久しぶりの再会に皆話が弾んでいる。
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- そこで唐突に、そう言えばとミリアリアは嬉しそうにキラの名を呼ぶ。
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- 「ちょっと荷物の整理をしてたらさ、昔の写真が出てきたのよ」
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- ミリアリアはニコニコと笑みを崩さず、自分のカバンを引き寄せる。
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- 「何の写真さ?」
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- ミリアリアの表情から嫌な予感がしたキラは、訝しげにそれが何なのかを尋ねる。
- 暗に変なものは出すな、とニュアンスを込めて。
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- 「あれよ、あれ」
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- だがミリアリアはキラの問いに含まれたものには気づかないふりをして、ニンマリと小悪魔のような笑みを浮かべると、ビシッとカバンから写真を取り出して頭上に掲げる。
- 皆にはまだ見せないように裏を向けて。
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- 「キラがヘリオポリスで例のコンテストに優勝したやつ!」
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- 言われたキラは一瞬何のことかと思ったが、昔の記憶を辿って思い当たったらしい。
- 顔から一気に血が引いていくのを、それもその音をハッキリと聞き取れるほど感じた。
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- それはキラにとっては最も忌むべき過去の思い出の一つであり、無意識の内に無かったこととして封印していたはずの記憶だ。
- ミリアリアの表情から察するに絶対そうだ。
- 確信に満ちた答えに、キラはその写真を公開することはさせまいと、写真を手に持ってヒラヒラとさせているミリアリア目掛けて飛び掛ろうとした。
- しかしそれに気が付いたアスランとシンに抑えつけられて止められる。
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- 「何が写っているんだ。俺も気になるぞ」
- 「いいじゃないですか、減るもんじゃないでしょ」
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- アスランとシンも普段滅多に見せない悪戯っ子のような笑みで、キラの胴体に覆い被さって抑えつける。
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- しかしキラはジタバタと手足を動かし激しい抵抗を見せる。
- 余程見られたくないのだろう。
- 離せと怒声混じりに叫んで暴れるキラを誰もが初めて見た。
- それ故、逆にその行為が返って他のメンバーの興味をそそる。
- ラクスも申し訳ないと思いつつ、湧き上がった好奇心が良心を跳ね飛ばし、是非見せてくださいなと言ったところで、最後の牙城は崩れ去った。
- キラは絶望の色をその表情に見せると、ようやく力尽きたように大人しくなった。
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- そんなキラを横目に全員の注目が集まる中、少しもったいぶってからミリアリアはうふっと声を零して、バッと写真を皆の方へと向けた。
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「Beautiful people who ?」
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- ミリアリアが差し出した写真を見て、誰もが目を丸くし言葉を無くした。
- 一瞬誰が写っているのかわからなかった。
- そこには明らかに綺麗で可愛い女の子の姿しか写っていなかったからである。
- 否、そう見えた。
- しかしよく見ていると、泣きそうな表情でトロフィーを受け取っている女の子は、自分達のよく知る人物であることが辛うじて分かった。
- 女性達はたっぷりマジマジと見つめてから、それでも視線は釘づけのままやっとの思いで言葉を搾り出す。
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- 「これは、何と言うか・・・」
- 「とても、綺麗ですわね・・・」
- 「むしろ、反則ですよ・・・」
- 「本当に、なんですよね・・・」
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- 上からカガリ、ラクス、ルナマリア、メイリンの写真を見た感想。
- アスランとシンも思わずドキッとしてしまい、そんな自分に自己嫌悪する。
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- その写真に写っていたのはキラだ。
- 但し、女性の格好をして。
- あらかじめキラだと言われなければ間違いなく女性として、それも誰もが見惚れるだろうと思われるほど、美人だった。
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- 時はまだヘリオポリスで戦争とは無縁だった子供の頃。
- 昔からあまりに綺麗に整った顔立ちのため、女の子に間違われたこともあるキラに目をつけた友人達が、嫌がるキラを無理矢理女装させて、男であることを隠してカレッジのミスコンテストに出場させた。
- しかもダントツのトップで優勝してしまったのだ。
- これには友人達もビックリである。
- 何よりショックだったのはキラ自身だ。
- 会場にいた誰もが喜びに浸っているのだと思っていたが、当の本人は本当に泣きそうなのを必死に堪えていたのだ。
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- 「この後の反響も凄かったわよね」
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- ミリアリアは当時のことを思い返して苦笑する。
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- 当然優勝した女性に対して色々と興味を持つ者はたくさんいるわけで。
- その女性に対する様々な憶測から情報まで、あちこちで飛び交った。
- しかしキラは当然男であり、そんな人物は居ないのである。
- そのため噂だけが過剰に一人歩きを始めた状態になり、ついにはカレッジでは幻の美女を探せということで大騒ぎになった。
- 優勝までしてしまったことで、その正体を知る彼らは本当のことを言うに言えなくなり、必死に隠し通したのだった。
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- そんなエピソードを呆然と聞く一同は、やはり写真に視線は釘づけのまま、キラの女装姿の品評を始める。
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- 「やはりキラは綺麗な方ですわね」
- 「本当ですよね」
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- 嬉しそうに評価するラクスに、メイリンも少し頬を赤くして頷く。
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- 「でもずるいですよ。女の私達よりも綺麗だなんて」
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- ルナマリアは自分も女装キラには勝てないと認識、悔しさを露にする。
- やはり女装した男にミスコンテストで負けるなんてことは、女性としての自信を済崩しにされてしまう気がする。
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- 「そうだ、だいたいあいつの肌は羨ましいくらいスベスベなんだぞ。くそ〜っ!本当は女じゃないのか」
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- 負け惜しみにもう言いたい放題のカガリ。
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- 「昔から女の子に間違われたことはあったが、まさかこれほどとは」
- 「でも、あんな女の人がいたら絶対もてますよ」
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- アスランとシンも照れてしまって写真を直視できない自分に複雑な心境ながら、それぞれ感想を漏らす。
- ミリアリアはそんな皆の反応に一人満足げに頷いていた。
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- しばらくそうしてその写真の話で盛り上がっていたのだが、ふとキラの気配が感じられなくなったのに気が付いた。
- 皆あれ、っという表情で部屋を見渡して愕然とする。
- キラは一人こちらに背を向けて、部屋の隅っこでしゃがみ込んでいた。
- その背中に真っ暗な哀愁を漂わせて。
- さすがに皆しまったと思う。
- ラクスとアスランは慌てて駆け寄り、カガリはオロオロし始める。
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- そんな完璧にいじけてしまったキラを必死に慰めるラクス達を見ながら、メイリンがポツリと呟く。
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- 「ヤキンの戦争が終わった後って、あんな感じだったんですか」
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- キラはヤキン戦の後、傷ついて廃人みたいになったと聞いたことがあったメイリンは、何となくその時の状況を垣間見た気がしてそう尋ねた。
- ミリアリアはキラの落ち込みように少し悪戯が過ぎたかと反省しつつ、その時の状況を思い返して比較してみる。
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- 「別の意味で、あの時の方がマシ、かも知れないわね・・・」
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- 引き攣った表情で、そう答えた。
- シンとルナマリアもミリアリアの言葉に申し訳ないと思いつつ、あまりに想像とはかけ離れたその姿に、キラの伝説とまで言われた活躍に少しだけ疑問を抱いたのだった。
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