このお話はショートストーリー 「Stolen love next !!」の続編となっています。まだ読まれていない方はそちらからお読み下さい。
- キラ、アスラン、シンの3人はアスハ邸にやって来た。
- 早朝から迎えに来いというルナマリアの連絡をシンが受けて、キラとアスランもそこにラクスとカガリが居るのを知って同行したのだ。
- だがどうにも家を出た時くらいから、背中に悪寒を感じていた。
- これは戦士に備わった感とでも言うべきものか、理由は分からないが何やら胸騒ぎがするのだ。
- しかしそれが、これから向かう先へ行くことを躊躇う理由にならない。
- 何と言っても、自分達にとって愛しい彼女が待っているのだ。
- 例えそれが困難な場面であっても、そこに飛び込まないという選択肢は頭に無い。
- 意を決すると、彼女達が待つ部屋の扉を、思い切り開けた。
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- 部屋に入ると、3人の女性が並んで座っていた。
- 3人とも静かな佇まいで笑顔を浮かべているのだが、何か不穏なというか、怒りのようなオーラを感じ取り思わず怯む男3人。
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- 「そんなところに突っ立ってないで、いいからまあ座れよ」
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- 近づくことを躊躇う男性達にカガリはあくまでにこやかに、彼女達と向かい合う形になる椅子に座るように勧めてくる。
- しかしその言葉使いと表情とは裏腹に、声色は有無を言わせぬ強いものがあった。
- 3人は互いに目配せすると、本能的に逆らうことは危険だと察知し、無言のまま、硬い表情で腰を下ろす。
- しかし女性陣は、にこにこと笑みを湛えたままで、何も言わない。
- それが返って恐ろしい。
- またこちらが、あの〜、と声を掛けると眼光鋭く、何か、と笑顔で返されては、それ以上何も言えない。
- 結局いいえ、と肩を竦めて押し黙ると、彼女達が言葉を発するのを待つしかなかった。
- しかし女性陣は誰もが優雅に目の前のカップに注がれたお茶を飲みながら、あくまでも楽しそうにこちらを時々睨むばかりだ。
- 男達は背中に冷たいものが流れるのを感じながら、その異様な沈黙と視線に、身を硬くしてひたすら耐えていた。
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「Stolen love third !!」
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- 「キラ、昨晩はルナマリアさんとどのようなお話をされたのですか?」
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- 重苦しい沈黙を破って、ようやくラクスが口を開いた。
- 完璧な笑顔を崩さずに。
- それは待望の沈黙が破られた瞬間だ。
- しかしキラは全く、喜ぶことはできなかった。
- その口調も表情も、普段と同じように穏やかなのだが、キラには微妙な違い、言うなれば恐怖が感じられた。
- いっそ沈黙したままの方が良かったと思いながらも、必死に思考を巡らせて、何かラクスを怒らせるようなことをしたか考える。
- しかしキラには思いつかず、アスランを横目で見て助けを求めるが、アスランにも思い当たる節は無く、またラクスがちらりと流す視線が怖いので、肩を縮めて押し黙っていた。
- その視線は、暗にアスランは黙っていなさいと言っていた。
- アスランの助けが得られないと悟ると、キラは覚悟を決めて、頬を引きつらせながら、ラクスの問いに答えざるを得なかった。
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- 「えっと、僕とラクスがどうして付き合うことになったか、という話、だったと思います」
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- 何でそんなことを言わなくちゃいけないんだと、少し顔を赤くしながらも、答えない方がまずいことは理解できたので、そこは素直に答えた。
- ラクスはその態度にキラらしいと内心苦笑するが、表面上は全く態度を崩さずに、キラにさらに詰め寄る。
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- 「それで、何とお答えになったのですか?」
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- ラクスは追及の手を休めるつもりは無いらしい。
- 間髪入れずに次の質問を投げてくる。
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- 「えっと、自然の成り行き、みたいなことを答えた、と思います」
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- キラは流れる汗を拭いながら、昨晩のやりとりを必死に思い出して、言葉を紡ぐ。
- ラクスはそれを聞くと、ルナマリアの方を見て答えを確認する。
- ルナマリアはカップを口に運びながら、コクコクと頷いて肯定する。
- それを見たラクスは盛大な溜息をわざとらしく吐くと、しみじみと言葉を吐き出した。
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- 「キラ、私達は恋人同士ですわね?それとも、そう思っているのは、私の独りよがりでしょうか?」
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- これにはキラも心外だった。
- いつもどれだけ大切で愛しい気持ちで溢れていると思っているのか。
- まさかそれが伝わっていなかったとは想像もしていなかったキラは、思わず声を大きくして反論する。
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- 「な、何を言ってるの?僕だってそう思ってるよ。君こそそうだとは思ってないの」
- 「でしたら、何故そうだとハッキリと肯定されないのですか?私が彼女ではそんなにご不満がおありですか?」
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- しかし論述にかけてはラクスの方が一枚も二枚も上手だ。
- キラの言葉を切り返し、明らかに不機嫌と分かる表情を浮かべて、鋭く睨む。
- キラはうっと言葉に詰まり、言われてようやく今ラクスが怒っている原因が何なのか思い当たった。
- 必死にそんなことは無いと首を横に振るが、それだけでラクスが納得するはずが無い。
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- 「ですが貴方の態度は、いつも素っ気ありません。お洋服を変えましても「いいんじゃない」ですとか、「いいと思う」としか感想を言ってくれないではありませんか」
- 「それは酷いですね。女心をちゃんと理解してます?」
- 「だいたいお前は、その辺はいつもいい加減な奴だな。もっとシャキっとしろ!」
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- カガリとルナマリアも、脇から援護射撃を放つ。
- 女性達3人の集中砲火を浴びて、さすがの『フリーダム』のキラもそれをかわしきれない。
- 明らかに撃墜寸前だ。
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- 「アスランから私の気持ちを略奪なさったのですから、もっと堂々としていてくださいな。私はそんな頼りない人に、傍に居て欲しくはありません!」
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- まさに宣言するように、ラクスは言い放った。
- 最後の言葉は本心ではないが、キラにもっと堂々としていて欲しいのは本当だ。
- そのためのショック療法だと、ラクスは毅然とした態度を崩さなかった。
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- 一方の宣告されたキラは、まさかラクスの口からも、ルナマリアに言われたような言葉が出るとは思っておらず、驚いて目を見開く。
- しかしそれも束の間、ラクスからマシンガンのように言葉を浴びせられたキラは、その弾丸に滅多打ちにされて、その場に崩れ落ちるように、ガックリと背もたれに体を預けた。
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- 「アスラン、お前もだ」
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- ラクスのキラへの口撃を、ポカンと傍観していたアスランだったが、キラが敗れると同時に、突然カガリに振られて慌てふためく。
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- 「お前、ザフトに戻った時も、ラクスとの婚約が破棄になってたことをちゃんと言わなかったそうだな」
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- 心なしか、カガリが震えているのは気のせいではない。
- いかに鈍いアスランの目にも、ハッキリと怒りのオーラが立ち上っているのが見えた。
- アスランにしてみればもう過去の話で、色々とそれを言えない事情もあったと心の中で言い訳を並べるが、それが通用しないことくらい分かってしまった。
- 愕然と、言葉を失う。
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- 「お前もいい加減態度をハッキリさせろ。いつまでもフラフラとハッキリしないから、頼りなく思われたり、変な女に付け入られたりするんだ」
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- もう言われたい放題だ。
- だが全て事実なだけに、耳も胸も痛い。
- K.O寸前まで追い込まれていく。
- その状況で、カガリはアスランの本心を尋ねた。
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- 「お前は私とどうしたいんだ」
- 「えっ、いや、それはだな・・・」
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- しかしアスランは恥ずかしがって、しっかりと答えることはできなかった。
- これだけ言っても、もごもごと口ごもってハッキリと物申さないアスランの態度に、ついにカガリはキレた。
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- 「いいか、ハッキリと態度を示すまで、お前はこの家は出入り禁止だからな!」
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- 怒りに顔を真っ赤にして立ち上がり、高らかに宣告するカガリ。
- その言葉にアスランは顔の色を無くすが、こうなっては前言を撤回させることはできない。
- アスランも完全に打ち負かされて、ガックリと力なく頭を垂れた。
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- 今まで堪っていた、彼氏への不満が言えたラクスとカガリは、2人の様子にすっかり満足して、ようやくいつもの穏やかな笑みを浮かべ、またカップのお茶を口にする。
- 後で聞いた話によると、その味はいつもよりも美味しく感じられたとか。
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- 「シン、覚えておきなさいよ」
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- ラクスとカガリがようやく静かになったところで、ルナマリアが目の前のカップを口に運びながら、シンとは視線を合わせずに告げる。
- シンはビクッと肩を震わせて、怯えたような瞳でルナマリアを見つめる。
- 一体自分は何を言われて、キラとアスランのようになるのか、戦々恐々と身構えた。
- それは無意味な抵抗だとは分かっていながら。
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- 「あんたが色々と辛いのは分かってるからまだ言わないけど、いつまでもそんなだと、お隣さん達みたいになるんだからね」
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- ルナマリアは低くドスの聞いた声で、視線は手にしたカップに落としたままで続ける。
- その言葉にチラリと視線を横に向ければ、ガックリと項垂れて今にも灰になりそうな、キラとアスランの呆けた姿が視界に入る。
- シンはブルッと身震いすると、キラとアスランには悪いが、内心それだけで済んだことに喜びを感じながら、深々と頭を下げた。
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- 「誠心誠意努力します」
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- シンの答えにルナマリアも満足そうな笑みを浮かべて、残りのお茶をぐいっと飲み干した。
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- こうして目的を達成した女性人は、すこぶるご機嫌にその日を過ごした。
- 一方の男性陣は、魂が抜けた抜け殻の様に一日を過ごし、周囲から訝しげな視線を浴びていたとか。
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