- アスランは久し振りにあった親友に、喜びの感情を禁じ得なかった。
- 彼にしては珍しく、満面の笑みでキラの手を取る。
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- 「久し振りだなキラ、調子はどうだ」
- 「うん、まあまあだよ」
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- キラもアスランと握手をしながら、嬉しそうに再会を喜んだ。
- その昔から変わらない屈託のない笑顔に、アスランはとても心が和やかな気持ちになち、つい饒舌になる。
- 他愛も無い話を2,3交わし、それから話題はキラ達の子供の様子へと移る。
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- 「子供達は元気か」
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- 産まれた直後に少し見ているが、あれから既に1年が経とうとしている。
- 子供の成長というのは早い。
- 少しずつ言葉を話すようになり、よちよちとだが立って歩けるほどに大きくなっているとは聞いている。
- 自分にとっても義理とは言え甥っ子、姪っ子となるだけに、成長の様子は少しばかり気にはなるのだ。
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- しかしアスランはすぐにその話題を振ったことを後悔する羽目になる。
- キラは待ってましたとばかりに、自分達の子供がいかに可愛いか、延々と語り始め、それは止まるところを知らなかった。
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「Doting parent」
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- 今日は首脳会合ということで、オーブからカガリ、その護衛、補佐としてアスランがプラントに来ていた。
- そして今は、宛がわれた一室で、ラクスとカガリが2人きりで対談している。
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- 以前から交わしている様々な技術協力の話や、お互いの政策についての意見交換など、世界をより良い方向へ導くために彼女達は真剣に考え、諸問題に取り組んでいる。
- 既に為政者として評価の高い彼女らではあるが、それでもまだまだ20歳を越えたばかりで、悩むことはたくさんある。
- それらを助け合いながら頑張っていこうと改めて誓いながら、国の代表として外交交渉を進めた。
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- しかしそれらも一段落つくと、2人の話し合いは旧友達の座談会へと変貌を遂げた。
- 現状の苦労などを愚痴り合いながら、笑みを零し合う。
- そして、話題はラクスの子供達のことへと振られる。
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- 「大変だよな。こうして国の代表を務めながら子育てってのいうのは」
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- 出された紅茶を口に運びながら、カガリが尊敬と同情の入り乱れた思いを込めてそう紡ぐ。
- 自分にはもちろんまだその苦労は分からないが、子育てというのはとても大変だということをよく聞く。
- 国を治めるということももちろん大変なことで、単純比較はできないが、どちらもきちんと行うとすると、その心身の負担は相当なものが予想される。
- それを少しばかり気遣ったのだ。
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- しかし当のラクスはキョトンとした表情を一瞬浮かべた後、笑顔で切り返す。
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- 「いいえ、子育てとはとても素晴らしいものですわ」
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- 確かに色々と気苦労も多いが、子供の成長を目の当たりに出来て、それは幸せを本当に実感させてくれるものだ。
- 無邪気に笑った愛くるしい顔を見れば、疲れなどどこかへ行ってしまう。
- そしてそれがまた頑張ろうという気にさせてくれるのだ。
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- そう説明するラクスの表情は、幸せそのものだった。
- それを見たカガリの胸も、何だか温かいものに包まれる。
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- 「ですが」
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- そこでラクスは少し表情を曇らせて言いよどむ。
- 全く悩みがないわけでもない。
- 今はとりわけあることに頭を悩ませている。
- キラには言えないことで、カガリになら相談できるかもと思った。
- しかし自分の家庭事情の話を、カガリに話しても迷惑になるのではないかと考え、言うのを躊躇った。
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- 一方、突然深刻な表情を浮かべたラクスに、カガリは真剣な表情で実を乗り出し、何でも相談に乗るぞと身を乗り出す。
- これまで幾度彼女に助けられ、励まされてきただろう。
- それを思うと少し相談に乗ったくらいで返せると思っていないが、少しでもラクスの力になれるのは嬉しいことだ。
- 純粋な善意で、カガリはそうラクスに伝えた。
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- 熱くカガリに言われたことで、ラクスは思い切って悩みを口に出した。
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- 「ヒカリももちろん可愛らしいと思うのですが、コウもキラに似てとても愛らしいので、きっと女の子にもてますわ。そんな息子を母親としては喜ぶべきか、心配すべきか困ってしまいます」
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- その表情は真剣そのものだった。
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- ラクスの悩みにカガリは唖然とする。
- 深刻な表情をするからどんな悩みかと思えば、実にくだらない悩みだ。
- 親とすれば心配するのは当然なのかも知れないが。
- しかしそれに対してはカガリも満足に答えることはできない。
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- 「ええ、まあ、心配した方がいいんじゃないか」
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- 何とか言葉を搾り出すが、ラクスの吐露は止まらない。
- 結局惚気と親バカっぷりをたっぷり聞かされ、ようやく話が止まったところで、カガリは少し疲れた表情でフラフラと部屋の外に出た。
- そこにはアスランが何とも言えない引きつった表情で、部屋の前で待っていた。
- それを見て、カガリもアスランの身に何が起こったのかを悟る。
- 2人は顔を見合わせると、盛大な溜息を吐いた。
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- そこにイザークが通りかかり微妙な表情をしている2人を見て、彼もまた何があったのかを理解する。
- アスランは思わずイザークに零す。
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- 「何となく分かる気はするが、ちょっとあれは堪らないな」
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- 彼らが幸せにしていることは素直に嬉しい。
- しかしものには限度というものがある。
- こちらをそれにはあまり巻き込まないで欲しいというのが本音だ。
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- だがカガリ達の愚痴に、イザークは声を荒げる。
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- 「貴様らなどまだマシだ。俺達など毎日だぞ、毎日!」
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- 顔を真っ赤にして怒りをぶちまける。
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- どうやら彼らのあの様子は毎日のことのようだ。
- 特に立場上毎日顔を突き合わせることになるイザークなどは、繰り返し同じような話を毎日聞かされるのだ。
- 一度話を強引に遮った時など、まるでこの世の終わりでも迎えたような顔で落ち込み、仕事どころではなくなってしまったのだ。
- そのため、仕事を進めるためにも、我慢して聞くしかなかった。
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- イザークの怒りに、アスランとカガリも納得しながら、苦笑するしかない。
- 彼らに悪気は無いのだろうが、結局のところあの2人がこれからも周囲を振り回すであろうことだけは、容易に想像がついた。
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