- 双子は可愛らしい顔をこれでもかと歪めて悩んでいた。
- もうすぐ母の誕生日だ。
- この前の自分達の誕生日にはたくさんお祝いしてもらって、プレゼントももらってとても嬉しかった。
- だから母にも喜んでもらいたいと、お返しすることを思いついたのだが、何をプレゼントすれば良いのかまでは思いつかなかった。
- それを必死に2人で考えていた。
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- しかし結局浮かばず、父に助けを求めた。
- 母のことを誰よりも大切に思う彼の人ならば、きっと良い知恵を出してくれるに違いないと。
- 相談された父、キラはしばらくうーんと考え込んだ後、手をポンと合わせると嬉しそうに一つのアイデアを出す。
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- 「自分達で作った歌をプレゼントしよう」
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- 双子は父の提案に少し驚いた表情を見せるが、ぱあっと花が咲くように笑顔を零すと大きく頷いた。
- そして父に言われたとおり、ラクスには内緒で制作作業は開始された。
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- ラクスは双子が一生懸命隠して何かをしていることに気が付いたが、覗こうとしてまだ内緒と可愛く叱られれば苦笑して見てみぬ振りをする。
- キラにさりげなく尋ねてみても、知っているはずなのだが悪戯っ子のような笑みではぐらかすばかりで教えてくれそうにもない。
- でも何だかとても楽しそうなので、ラクスは敢えて深く聞くことはしなかった。
- 家族が幸せに笑っている姿を見ると、自分も幸せな気持ちになれるから。
- だから自分の誕生日に何が起こるかなんて、これっぽっちも想像していなかった。
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「Twin's song」
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- 今年もこの日はやってきた。
- プラント最高評議会議長にして未だトップアイドルのラクス=ヤマトの誕生日。
- 各地でもそれを祝うイベントと祝福の言葉は届けられ、その最も中心たるアプリリウスワンでは、ラクスを招いて盛大なパーティーが開催されていた。
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- 滞りなく催し物は進み、ラクスは祝福してくれた人々への感謝の気持ちを込めて歌を歌う。
- その歌声に聴き入った観客が名残惜しそうに響く一際大きな拍手の中で、嬉しそうな笑顔を零す。
- たくさんの人に祝われて、それはとても喜ばしく素敵なことだ。
- そんな幸福感を抱きながら、ラクスはこれで全てのプログラムが終了したと思っていた。
- 事実前もってキラが告げたのはここまでで、そのつもりでラクスはステージを降りたが誰も何も言わなかったから。
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- 「それではスペシャルゲストの登場です」
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- だがキラの傍らに立ったところで司会者が高らかに宣言すれば、キラを始め観客も待ってましたとばかりに割れんばかりの拍手が起こって、あれっという表情を見せる。
- しかしそれで驚くには早かったとすぐに思い知らされる。
- ラクスは壇上に現れた人物を見て、スケジュールが違うのではという疑問などすっかり忘れて心底驚いたという表情を見せる。
- そこに現れたのは、先ほどまでキラの足元にいたはずの我が子達。
- 確かに今は姿が見えないけれでも、まさか壇上から現れるとは夢にも思わなかった。
- キラの方を振り返るが、キラは優しく笑ってステージの方を指差す。
- その仕草に結局言葉を発することははばかれて、驚きに多少混乱したまま、またステージの子供達に視線を戻す。
- 双子はそんな両親も見守る中、まだ少したどたどしい歩調でステージの中央へと進むとちょこんとお辞儀をする。
- その仕草が可愛らしくてそれを見守る観衆も、頬が思わず緩む。
- 観衆の様子は気にせず、双子は正面にいる母に視線を送りながら、そこに用意された背の低いマイクに向かって話し出す。
-
- 「お母さま、お誕生日おめでとうございます」
- 「いつも優しい母さんに、僕たちから歌をプレゼントします」
-
- その声を合図に会場に柔らかいピアノの音が鳴り響く。
- そして旋律に合わせる様に体を揺らしながら双子は歌いだす。
- 自分達が母の為に作った歌を。
-
-
- お誕生日おめでとうございます
-
- いつも笑顔で
- 私達の頭を撫でてくれて
- その手の温もりがとても温かくて
- とても心地よい夢の中のような
- 羽毛に包まれているよう
- そんな貴女の手がとても大好きです
-
- 誕生日と言わず
- いつも貴女に笑った顔を届けたい
- 貴女の子供で
- 私達はいつも幸せだと
-
-
- お誕生日おめでとうございます
-
- いつも笑顔で
- 僕達に歌を歌ってくれて
- その声の響きがとても心地よくて
- とても気持ちいいお日様の下で
- そよ風に吹かれてふわふわと
- 飛んでいるみたい
- そんな貴女の声がとても大好きです
-
- 誕生日と言わず
- いつも貴女に笑い声を届けたい
- 貴女の子供で
- 僕達はいつも幸せだと
-
-
- 怖い夢を見た後も
- 落ち込んだ時も
- 笑顔で抱きしめられたら
- いつも心の中が満たされていく
- そんな貴女の笑顔が
- 貴女がとても大好きです
-
- 誕生日と言わず
- いつも貴女に幸せを届けたい
- 貴女は僕と私の大切な母だから
- いつもいつでも幸せだと
-
-
- 母親譲りのとても子供らしからぬ歌唱力だが、ストレートに母親への感謝の言葉が綴られた、心が温まる歌だ。
- 静かに音が途切れて歌が終わるとまた盛大な拍手の中でラクスが壇上へと招かれ、にこにこと笑っている双子の前に立つ。
- まだ驚きに思考がついてこないが、ラクスはやっとの思いで尋ねる。
-
- 「この歌は、貴方達が作ったのですか」
-
- 双子は驚いている母に満足そうな笑みを浮かべて互いに頷き合うと、また母の方に向き直って元気良く答える。
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- 「はい、後お父さまもいっしょに作っていただきました」
- 「でも歌詞は僕たちが、いっしょうけんめい考えました」
-
- 双子は感謝の気持ちを歌詞にするため、ああでもないこうでもないと2人相談しながら言葉を並べていった。
- そしてキラが双子が書いてきた言葉をできるだけそのままにしながらアレンジして、それに曲をつけてこの歌は完成した。
-
- 双子の答えにいつなどと聞く必要はなかった。
- それで全てに納得がいったから。
- 子供達が隠れて何をしていたかも、キラが話をはぐらかしていた理由も。
- 自分を驚かせるためにこんなものを用意していたのだ。
- 本当にビックリしたが、戸惑いは一瞬のものだった。
- こんなにも子供達に愛されて、自分は何て幸せな母親なのだろうと、嬉しい気持ちが溢れて止まらない。
- ラクスは思わず嬉し涙を一粒零して双子を抱きしめる。
- 優しく、だが双子が苦しくないほどには力いっぱいに。
- 双子も満面の笑みで小さな手を一生懸命母の背中に回して抱きしめる。
- そんな幸せそうに抱き合う母子を、キラも幸せそうに目を細め、周囲も温かい拍手で見守っていた。
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