- ヒカリとコウは難しい顔をして何かを考え込んでいた。
- その視線の先には、とある所に大きな印が付けられたカレンダーがぶら下がっている。
- その印が付けられた日は彼ら双子の父親、キラの誕生日だ。
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- いつも大きく、でも優しい愛情で包み込んでくれる父に何かしてあげたいと思うが、父は何が好きだろうかと考えていた。
- パソコンに向かっている姿をよく見かけるのでそれが一番喜びそうな気がするが、残念ながら子供には買えない代物だ。
- だがそれ以外に双子にはキラが好きなものが思い浮かばない。
- 双子にとっては、いつも優しい笑みを絶やさないが寡黙な父の印象しかない。
- それ故に父のことを知らない部分もたくさんあるのだ。
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- しかしこれでは父のために誕生日プレゼントを用意しようと思ってもできない。
- 双子は落胆しかかる。
- だが双子にとっては幸いなことに、今キラは出かけている。
- 本来は休日だったのだが、システムのトラブルとかで慌しく呼出されてしまったから。
- 一緒に遊べなくはなってしまったが、今なら父に秘密にしたまま堂々と母に相談することができる。
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- そのことに思い当たった双子は、何とか自分達で用意できる最高のものをプレゼントしようと、母の元目指して階段を駆け下りた。
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「Heart is delicious」
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- 双子に父の好みを尋ねられた母親、ラクスは、キラの為にプレゼントを用意したいという双子を微笑ましく思いながら、目をパチパチと瞬かせると考え込んでしまった。
- キラの好みを知らないわけではない。
- むしろ知りすぎるほど充分に知り尽くしている。
- だがそれは形の無い抽象的なものであったり、子供がプレゼントとして用意するには難しいものであるため、単純に答えられないのだ。
- それもキラから聞いたことではなく、長い付き合いの中でラクスが気づいたり、知ったものであることも影響している。
- いっそもっと単純にあれが好きとか、これが欲しいと言ってくれた方が分かり易いのだが、キラはあまりそういったことを言うことはない。
- 尤もそれはラクスも同じで、キラに文句を言える立場では無いのだが。
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- おそらく双子がおめでとうと言えば、それだけで満面の笑みを浮かべるに違いない。
- その光景はラクスに容易に想像できる。
- けれどもそれでは双子が納得しないだろう。
- 予想外に難しい問題に、う〜んととても2児の母親には見えない愛らしい表情を顰めて、考えを張り巡らせる。
- 期待が込められた眼差しを前に、ラクスは必死に考え、ようやく一つの答えに辿り着いた。
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- 「では一緒にお料理を作りましょうか」
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- 今回ラクスはキラのために料理を作るつもりでいた。
- 仕事のこともあるため料理を作る機会はそう多く無いのだが、キラはラクスの手料理が好きなのだ。
- このところ特に忙しく、料理を作れない日が続いていたのでそう決めた。
- その料理を子供にも手伝ってもらって、一緒に作ろうというのだ。
- それが今の子供達が一番準備し易く、またキラが最も喜びそうなプレゼントとなるだろう。
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- 母の提案により、初めての料理作りをすることになる双子は些か本来の目的を忘れて喜んだ。
- その様子にラクスは苦笑しながらメニューの相談を始めるのだった。
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- そしてキラの誕生日当日。
- 何も知らされていないキラは、いつものように夕食に呼ばれてリビングへと歩を進める。
- そしてリビングへの扉を開けると突然クラッカーの音が鳴り響き、キラは心底驚いたという顔でその音がした方をじっと見つめる。
- そこにはクラッカー手に笑っている双子と、その後ろで支えるように立っているラクスが居た。
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- 驚いた父に満足そうにはしゃぐ双子を、キラは苦笑を浮かべてやんわりと叱りながら、だが次の瞬間には双子に手を引かれてテーブルへとやってくる。
- そこにはキラが好きなものばかりが豪勢に並べられていて、ようやく今日が自分の誕生日だったことに気が付く。
- それを相変わらずですわね、とラクスがくすくす笑みを零しながら説明する。
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- 「誕生日おめでとうございます、キラ。今日は私と子供達からこちらのご馳走をご用意致しました」
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- 双子も一緒に作ったと言われて、キラは思わず目を見張る
- よく見れば明らかに歪な形のハンバーグや、お皿からはみ出したサラダ等が、申し訳なさげにキラの席に並べられている。
- でもそこから一生懸命作ってくれたことがしっかりと伝わってくる。
- キラは思わず顔を綻ばせ、ありがとうと言おうとした。
- だがそれを言う前に、ラクスに手で口を塞がれる。
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- 「ちゃんとお召し上がりになってから、言ってくださいな」
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- ニコニコと笑顔でそう告げる。
- それを受けて、それもそうだねとキラも笑顔を返すと、促されて席に着く。
- どうぞまずは一口お召し上がりください、というわけだ。
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- 双子が不安と期待の入り混じった表情でこちらを凝視していることに緊張しつつ、キラはそれを一口食べると、美味しいと笑顔を見せる。
- ラクスがちゃんとフォローしていたので味付けは問題ないし、何より込められた思いが口の中でいっぱいに広がる気がして、本当に今まで味わったこと無いうま味が感じられる。
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- 父の反応に双子も安堵した歓声を上げて、家族も一緒に夕飯に手をつけ始め、楽しい団欒の時を過ごす。
- それはいつもと変わらない、だが大切な記念日として、彼らの心の中に深く刻まれていた。
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