- 「肝試しでもしたらどうかしら」
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- 唐突にカリダが言い出した。
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- 久々の休みにマルキオ邸に集まったキラ達。
- 普段はなかなか休みの取れない面々も一同に揃い、皆で浜辺でビーチバレーやバーベキューを楽しみ、今回は賑やかな集まりになった。
- 日も沈みかけた今はリビングで寛ぎながら、他愛もない話に笑みを零している。
- そんなまったりとした雰囲気の中で、カリダがした突然の提案。
- 誰もが驚いたような表情で顔を見合わせるが、時間はこれから日が暮れようというところであるし、折角の休みだからたまにはそんなのも面白いと賛成の声が多数上がる。
- だが中にはそれを苦手とする者も当然いるわけで、その人物達は反対する。
- そんな難色を示したのは、意外にもキラとカガリと、イザークだった。
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「Testing courage (First volume)」
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- 「いいねえ、たまにはこうパッと弾けるのも」
- 「そうそう、童心って奴はいつまでも忘れちゃいけないよな、うん」
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- そんなことを言いながら、ムウとバルトフェルドはとても乗り気だ。
- もちろん脅かす役で。
- そのはしゃぎ様ではどちらが子供か分かったものではない。
- マリューはそんな2人にくすりと笑みを零し、しかし自分も脅かし役に密かに胸を躍らせているので何も言わない。
- ノイマン達も、普段はとても頼りになるが、まだ青年期と呼べる彼らをどうやって脅かそうか、今から楽しみだ。
- そう自然と大人組が脅かし役、子供組が脅かされ役と彼らの中では切り分けられていた。
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- 「肝試しっていうのも久しぶりね。いいじゃない、面白そうで」
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- ミリアリアの声をキッカケに、脅かされ役の青年期に入った子供達もすっかり乗り気になった。
- だが未だ抵抗を続けるキラ、カガリ、イザークのおかげで、話はまだまとまらない。
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- キラは怨めしそうに横目でカリダを睨んでいる。
- 何を企んでいるのかは知らないが、自分がこうゆうのが苦手だと知ってて提案したのだ。
- ただで済むとは思っていないから、だからこそ反対している。
- だがカリダはキラの視線に気付かないふりをして、予想外に抵抗を示したカガリとイザークに目を向けている。
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- カガリは目を泳がせながらプリプリ怒りを振りまく。
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- 「だいたい、肝試しなんて子供の遊びだ。私達はもう子供じゃない。いい年になっているんだぞ」
- 「ふん、全くだ」
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- イザークも憤慨した、と言わんばかりに鼻息も荒く腕を組む。
- しかしどこかいつもより落ち着きが無いように見えるのは気のせいではない。
- そんな2人の態度に、ディアッカとアスランはピンときた。
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- 「はは〜ん」
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- 意味深な表情で2人を見つめ、イザークとカガリは何だよと訝しがる。
- だがその態度が明らかに虚勢であることが、一目瞭然だった。
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- 「さては2人とも、怖いんだな」
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- にやにやと笑みを浮かべたディアッカは、ずばり言い切った。
- ギクッと肩を振るわせるカガリとイザーク。
- シンとルナマリアが素早く追い討ちをかける。
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- 「へえ、2人にも怖いものがあったんですね」
- 「まあ偉そうにしている人って、案外そうなんだよな」
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- 何とも失礼な話だが、実に核心をついた言葉にカガリとイザークは声を上げる。
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- 「な、な、何を言ってるんだお前ら。そんなわけ、あ、あるもんか」
- 「だ、だいたいだなあ、何故俺までそんなくだらんことに、つ、付き合わなくてはならん」
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- そう反論するものの、明らかに動揺が見られて、言葉を噛んでいる。
- シホも意外そうな表情を浮かべてイザークを見つめ、それに気がついたイザークがさらに慌てて弁明を試みる。
- しかし最早それも手遅れだ。
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- 「怖いなら怖いって素直に言えば良い。別に強制する気はないさ。行ける人間だけで行けば良いんだからな」
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- アスランはそんな2人に畳み掛けるようにそう言った。
- その言葉にカチンときた2人。
- 特にアスランにはそうゆう弱みを見せたくないだけに、堪らず言い返す。
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- 「こ、怖いものか。よし、そこまで言うなら行ってやる!」
- 「貴様、誰に向かってものを言っている。いいだろう、この俺に怖いものなど、無いことを証明してやる!」
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- 2人は高らかに宣言した。
- 負けず嫌いな2人のことだから、挑発すれば乗ってくるはずだと踏んだアスランは、まんまと2人をその気にさせることに成功したのだ。
- これに一同からおおっと歓声が上がる。
- そして心の中でアスランに、グッジョブ、と親指を立てていた。
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- これで反対していた2人は引き込むことができた。
- 後はある意味予想通りだったキラ1人。
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- 「キラは昔からこうゆうのは苦手だったけど」
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- アスランはどうやって攻め崩そうかと思案しながら、昔のことを思い返す。
- 幼年学校のイベントで一度肝試しがあったが、キラはアスランの腕をがっちりと掴んで離そうとしなかったのはなんとも懐かしい思い出だ。
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- 一方のキラは感慨に浸ることも無く、キッとアスランを睨みつける。
- 余計なことを言うなと、暗にその瞳が語っている。
- アスランは肩をすくめてお手上げポーズを取るが、キラはむっつりと押し黙ったことで、返ってアスランの言ったことを肯定していることに気が付かない。
- しかしその姿勢は、明らかに参加拒否の態度を示していた。
- キラは存外頑固なところがあり、こちらはアスランでも崩せそうにない。
- ならばと皆が目配せでリレーをして、ラクスの隣(もちろんキラは反対側の隣に居る)に座っていたメイリンが、ラクスに耳打ちする。
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- 「キラさんが行かないと、ラクス様はお1人になっちゃいますよ」
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- 言われてラクスが形の良い眉を少しだけ歪めると、あらあらとキラの方を向き直る。
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- 「困りましたわね。私、キラとご一緒に参加したいと思っておりましたが」
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- 頬に手を当てながら、コトンと小首を傾げるその仕草がまた可愛らしかった。
- キラは顔を赤くしながら、己の理性と自制心で必死に抵抗する。
- ラクスが楽しみにしていることだ。
- できれば叶えてやりたい。
- しかし嫌なものは嫌なのだ。
- ラクスの必死の視線に耐えたキラは、結局頷くことはなかった。
- それを見届けたラクスが、ポツリと呟く。
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- 「とても楽しみなのですが、仕方がありませんわね。私とキラはお留守番ということで」
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- とても残念そうな声と表情でそう告げた。
- 同時に、キラに対して明らかな非難の視線が突き刺さる。
- まるで極悪非道だとでも言いたげな周囲の視線に、さすがのキラも怯む。
- 何よりラクスに悲しい思いをさせていることが、キラの心に突き刺さる。
- しばし葛藤したキラは、ついにその圧力に耐え切れなくなり、陥落した。
- ガックリと項垂れると、やっぱり行くと小さく返事をした。
- それを聞いたラクスはパッと表情を明るくして、ありがとうございますとキラの手を握って喜びを表す。
- その手の温もりと笑顔に、キラは喜び半分、ラクスに弱い己の心を半分嘆いていた。
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- これで全ての話がまとまった。
- と思いきや、バルトフェルドがまだだと言わんばかりに声を上げる。
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- 「ダコスタ君、君もキラ達の方で参加したまえ」
- 「はいぃーっ!?」
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- 突然バルトフェルドに呼ばれて素っ頓狂な声を上げるダコスタ。
- これには完全に面食らう。
- 彼もすっかり脅かす役に回るつもりでいたのだ。
- だいたい、いつも裏方やら無茶な仕事を押し付けられるのに、今回に限って脅かされる方でとはどういうつもりだろう。
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- 「男が1人足りんだろう」
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- 言いながらメイリンに視線をくいと向ける。
- 確かに面子を見渡すと、メイリン以外はパートナーが決まっているも同然だった。
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- 「まさかレディーに1人で行かせるつもりか。君も案外冷たい男だねえ」
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- そこまで言われて、断れるダコスタでもない。
- 何を隠そう、実はダコスタもそうゆうのが苦手だった。
- ガックリと肩を落として、分かりましたと承諾するしか無い。
- その様子を満面の笑みで見届けたバルトフェルド。
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- 「よしそれじゃ出発しようか」
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- 話はまとまったと言わんばかりに、パンと手を合わせて宣言する。
- こうして一向は、夜の浜辺へと繰り出したのだった。
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-
TO BE CONTINUE
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- 日本語タイトル 「肝試し(前編)」
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