- 「痛てて、酷い目に遭ったぜまったく」
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- ムウが全身に巻いた青い包帯を取りながら、目の辺りを擦ってバルトフェルドの待つ海岸へとやってきた。
- 手をどけると、そこにはクッキリと青い痣が浮かんでいる。
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- その顔を見て、皆笑いを必死に堪えながらそれぞれの担当場所でのキラ達の状況を報告し合う。
- 皆思ったとおりの、或いは予想外の反応を示してくれたので脅かしがいがあったというものだ。
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- 「こっちもバッチリだったよ」
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- 最後にバルトフェルドがいつの間に用意していたのか、手にビデオカメラを持って大きくOKのサインを出す。
- どうやら落とし穴に落ちた瞬間を隠し撮りしていたらしい。
- 後で鑑賞会だと盛り上がる。
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- 「たまにはいいわね、こうゆうのも」
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- マリューが子供に戻ったような無邪気な笑顔で、肝試しを振り返る。
- いきなりカリダが提案した時は正直どうなるかと思ったが、やってみてこんなに楽しめるとは思わなかった。
- 久々に童心に返ったような、そんな清々しい雰囲気が、彼らの間に漂っていた。
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- 「では皆のところに戻りましょうか」
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- ノイマンの言葉に大人気なかった大人達はゾロゾロと、脅かされた組が待つ場所へと歩き出した。
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- その時、最後尾を歩いていたムウは後ろからポンポンと肩を叩かれた。
- ムウは怪訝そうな表情で振り返るが誰も居ない。
- 首を捻りながら皆の後をついていくが、やはりポンポンと肩や背中を叩かれている感触はする。
- もう一度振り向こうとした時、今度はガシっと強い力で両肩を掴まれる。
- さすがのムウも背筋に悪寒が走り、悲鳴を上げざるをえなかった。
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- 「ちょ、ちょっと待てくれ。俺の後ろに、な、何か居る!?」
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- その叫びに後ろを振り返る一同。
- そして一瞬にして固まってしまった。
- ムウの両肩を掴んでいる青白い手を見て。
- お互いの顔を見渡すが、脅かしていた人間は全員揃っている。
- と言うことは自分達以外の何かが、ムウの肩を掴んでいることに他ならない。
- それを理解した全員が恐怖に慄いた表情で、脱兎の如くキラ達の待つ場所へ我先にと走っていく。
- もちろんムウを置いて。
- ムウはそりゃないぜ、と心の中で嘆きながら捕まれた肩を何とか振り解くと、後ろを一切振り返らずに、転びそうになりながらも必死にマリュー達の後を追った。
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- その後姿を見送ったハルマは、1人頭を掻いてポツリと呟いた。
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- 「いいのかな、これで・・・」
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- その呟きは砂を巻き上げる風にかき消され、誰かに届くことは無かった。
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- 一方で不満そうな表情で脅かし組を待っていたキラ達は、ものすごい形相で走ってきた彼らに面食らった。
- 一体どうしたのかと誰とも無く尋ねる。
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- 「で、で、出たんだよ」
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- 堰を切ったように、ムウが咳き込みながら、目の前にいたシンの肩を掴んで、ゆさゆさと揺らしながら目を見開いて唸る。
- 目の周りの青い痣が、今は恐怖を彩るコントラストとなって、シンはされるがままだ。
- 原因たるイザークは、視線を合わせようともしない。
- 冷静なアスランが何とかシンからムウ引き剥がすと、一体何がと尋ねる。
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- 「本物だよ。俺なんか肩をガシっと捕まれたんだよ!」
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- さらに興奮して喚くムウ。
- しかし不機嫌なカガリはあっさりと突き放す。
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- 「そんな話はもういい。用が済んだんならさっさと帰るぞ」
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- そう言うとまだ怒り心頭といった様子でそっぽを向く。
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- 「本当なのよー」
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- マリューも涙目になりながら訴える。
- バルトフェルドまでもが驚きと興奮に顔を引き攣らせて訴えかけるが、しかしキラ達は誰も信じようとしない。
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- 「これ以上はもういいですよ。多分虫とか水飛沫とか、それと勘違いしてますよ」
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- にべも無くキラは言い放った。
- その言葉に頭に岩を落とされたように、打ちひしがれる大人達。
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- 「あなたグッジョブよ」
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- そんなみんなの様子に、内心親指を立てるカリダ。
- 1人後ろで悪戯っぽく笑みを浮かべる彼女の表情に、誰も気付いていなかった・・・。
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