- 「あつ〜い」
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- ルナマリアは大きな声でそう叫ぶと、だらしなくソファーの上に体を投げ出した。
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- オーブは今夏真っ盛り。
- 彼の国は赤道上にあるため気温はかなり高くなる。
- 環境汚染の問題等で年々気温が高くなっており、今年も過去最高の暑さという言葉がニュースを賑わせている。
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- コーディネータである彼女にとって、この暑さが体調に変調をきたすことは実際のところ無い。
- しかし今まで体験したことの無いまるで溶けてしまいそうなこの暑さには、体よりも気の方が滅入ってしまう。
- 体力に自信のあったルナマリアだけに、まさか自分がこうもへばってしまうことなど思いもよらなかった彼女は、病は気からとはよく言ったもんね、とそれだけは冷静に分析する。
- しかしすぐにそれを考えることも面倒くさくなった彼女がちらりと隣に目をやれば、メイリンも顔を少し赤くして、手にしたうちわでパタパタと仰ぎながら、やはり気だるそうな顔でぐでーっと椅子の背もたれにもたれ掛かっている。
- その姿に私だけじゃないと安堵感を抱いて、また全ての思考を投げ出した。
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- そんな2人にカリダはあらあらと苦笑して、しかし何も言わずに彼女達の分の仕事も片付けていく。
- 子供達でさえもだらしな〜いと笑う始末。
- それでも暑さに耐え難いことには変わりない。
- 何とでも言え、と半ば自棄に思いながら、ルナマリアとメイリンはだらしなく机の上に伏っした。
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「Summer day」
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- 元気に外で遊ぶ子供達を、ルナマリアとメイリンはぼうっ、見るでもなく見ていた。
- 部屋の中はエアコンなどの空調があるためこれでもマシな方だ。
- しかし地球への環境対策などで、それほど温度を下げられるわけではない。
- さっきまでは部屋の掃除のためにエアコンは切っていたし、その残留熱気は彼女達を容赦無く襲う。
- じっとしていても汗は滴り落ちるし、それだけで体力はどんどん奪われていく。
- とてもではないが今の自分達にあんな元気は無い。
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- 数日前はこんな状況ではなかったが、しばらく降り続いた雨雲が流れていくと同時に夏が押し寄せてきた。
- それから一気に気温は上昇してエアコンをつけても熱気がむんむんと立ち込める。
- さすがに気温が上昇した初日は子供達も暑くてだるそうにしていたが、夏が暑いのは当たり前ですぐに慣れて、今でははしゃぎながら外を走り回っている。
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- まったく地球ってどうしてこうも気候の変化が激しいのかしら、と毒づいてみるがそれで涼しくなるくらいなら苦労はしない。
- 情けない話だが、こう気持ちが下向きだと故郷がとても懐かしくなってしまう。
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- プラントは全ての気候が管理されていた。
- 雨の日も決まっていたし、熱すぎることも寒すぎることも決してなかった。
- まあ全てを人工的に作り出していた世界だから、当然と言えば当然かも知れないが。
- だから過酷な環境に耐えられる肉体を持ちながら、それを実感することはプラント産まれの彼女達には無かったのである。
- まさに今、産まれて初めて夏と言うものを体感しているのだ。
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- 「これでちょっとは涼もう」
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- シンがいつまでも熱がっている2人に苦笑しながら、お盆に何かを乗せてやってきた。
- どちらもまだ気だるそうに声のした方に僅かに視線を向けただけだったが、飛び込んできたものに意識を削がれ暑さが少しだけどこかへ行った。
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- シンが持ってきたのは細かい白いものが山盛りに盛られたもので、赤、黄色、緑の液体がかけられている。
- それを訝しげに、しかし興味津々といった感じで2人は口を揃えてこれは何か尋ねる。
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- 「カキ氷って言うんだ。色がついてるのは甘いシロップで、赤がイチゴ、黄色がレモン、緑がメロン味」
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- おいしいよ、とシンが一つずつ指差しながら説明する。
- へえ〜と感嘆の声を漏らしつつ、ルナマリアがイチゴ、メイリンがメロンを選んでスプーンを手に取った。
- 2人は初めての食べ物にドキドキしながら一匙すくって、じっと見つめる。
- それから思い切って口へと運んだ。
- その瞬間、冷たくて口の中、それから頭がキーンとして、思わず目を見開いてしまう。
- しかしシロップの甘い味と香りが広がって、それが体の中に心地良い感触を浸透させていく。
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- 「うん、おいしい」
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- メイリンが笑顔を浮かべて満足そうに声を上げながら、もう次の一口を頬張っている。
- ルナマリアもうん、と首を立てに振りながら笑顔を零して、次の一匙をすくう。
- 2人は完全に暑さのことなど忘れていた。
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- 少しは元気が出た様子にホッと笑みを浮かべながら、シンもカキ氷を口に運ぶ。
- 久し振りに食べたが、おいしくてどこか懐かしい味がする。
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- 「あーーーっ!!シン達だけずるい〜!!」
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- その時家に戻ってきた子供達が、カキ氷を食べているシン達を見つけて騒ぎ出す。
- たちまち非難の集中した年上の3人達は、困ったような表情を浮かべてスプーンを置き、子供達を宥める。
- がちょっとやそっとのことでは彼らの不満は治まりそうも無い。
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- 「はいはい、皆の分もちゃんとあるから手を洗ってきて」
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- そこにカリダがたくさんのカキ氷をお盆に乗せて運んできた。
- ルナマリア達のカキ氷を用意したのもカリダで、彼女はちゃんと人数分のカキ氷を作っていた。
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- それを見た子供達の表情はパッと明るくなり、我先にと手洗い場へ駆け出していく。
- その身の変わりようをシン達は苦笑して見送りながら、再びスプーンを手にとって少し溶け始めた自分の器の中身を急ぎ口に運ぶ。
- 手を洗って戻ってきた子供達も、我先にと競うように嬉しそうにカキ氷を頬張っている。
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- こんな日が続くなら、夏も良いかもしれない。
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- ルナマリアはそんなことを思いながら、冷たさでまた頭に上ってきた痛みに思わず顔を顰めた。
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