- 「誕生日に何が欲しい?」
-
- それはある日の昼下がり。
- 今日は一日快晴の予定が組まれているプラントで、キラは愛娘、ミライに尋ねた。
- もうすぐミライの誕生日だ。
- 彼女のことを愛してやまないキラだが、普段は仕事が忙しくなかなか一緒に居てやることができない。
- それならば誕生日くらい盛大に祝い、そしてミライが欲しいと思う物を何でもあげようと、ヤマト家の毎年恒例の行事だ。
- 兄姉であるコウとヒカリもそうだったが、聞き分けの良い子供というのは、しっかりと親が見てやらなければそれだけ心に何かを抱えてしまうことがあるのだ。
- それだけで万事解決と言うわけではないが、最低限自分達がどれだけ愛しているのかを示す意味でも、せめて誕生日くらいは甘えさせてやりたいと思う。
-
- ラクスのピンクハロと戯れていたミライは尋ねられて、その愛らしい表情を一生懸命にう〜んと歪めて考える。
- 正直特別欲しい物はと聞かれると、すぐには思い浮かばない。
- 大抵欲しい物はすぐ傍にあるか手に入るし、一番の望みは大好きな父と母と一緒に居ることだが、両親が大変な仕事をしていることは理解しているので、その我侭は敢えて封印している。
- しかしもうすぐ6歳になる子供としては、親に無条件で甘えていたい年頃でもある。
- その狭間でもがくミライは、一体何が欲しいのか、何なら両親に迷惑を掛けずに自分も嬉しいのか、必死に考えた。
-
- そうしてしばらく悩んだ後、ミライはふとあることを思いついた。
- 目の前には、本来は母の物であるハロが、耳をパタパタと動かしている。
- それを見つめながら、これ以上ない素敵なことだと思えるその結論は、ミライの欲求も両親達の都合も満たすに違いないと、確信めいたものを得た。
- 一通り自分の中で結論が出たミライは、優しい笑顔を浮かべて覗き込んでいるキラを見上げる。
-
- 「青色と紫色のハロが欲しいです」
-
- そして満面の笑みでそう答えた。
-
-
-
-
「Birthday present」
-
-
-
- ミライの答えを聞いた翌日、仕事を早く終えて帰宅したキラはう〜んと唸ってどうしたものかと考えた。
- とりあえずアスランに聞いて必要な材料は揃えたものの、それを目の前にしてもどこから手を付けてよいのか分からない。
-
- そんな悩むキラに、ラクスがそっと寄り添う。
-
- 「ミライは何と言っていましたか?」
-
- 前の日、キラはミライに誕生日に欲しい物は何かを聞いてようだが、その答えはまだ聞いていない。
- ひょっとしたらミライは具体的に何も答えなかったのかと思ったのだ。
- ラクスの問い掛けに、キラは苦笑を浮かべて言葉を濁す。
-
- 「うん、ハロが欲しいって言われたんだけど・・・」
-
- ミライに答えを言ってもらえなかったのかと思ったのだが、ちゃんと聞き出せたらしい。
- ならば何をそんなに悩んでいるのかと、どこか歯切れの悪いキラの答えに、ラクスはさらに深く聞いてみる。
-
- 「僕、マイクロユニット作成は苦手だからどうしようかなと思って」
-
- あはははと乾いた笑い声を上げるキラ。
- ハロは元々アスランが自分で作った物であるので、市販の物を探しても存在しない。
- となると自分で作るしかないのだが、キラは細かい作業や創作が苦手で、幼年学校時代はほとんどアスランに手伝ってもらってた、と言うかやってもらったというのが実状だ。
- メンテくらいはできても、一から作るとなると彼の手に余る。
- こうゆう時頼りにしていたアスランも、今は遠く離れた所に居て手伝ってもらうことは出来ない。
- それに愛する娘のためだ、自分の手で何とかしてやりたいと思うのだ。
-
- 状況を理解したラクスだが、のほほんと、どうしましょうか、と頬に手を当てて首を傾げている。
- その表情には笑みが浮かんでおり、危機感というものが全く感じられない。
- 何とかなるだろうと楽観的な考えを持っていたし、自分も創作作業をしなければならないことを想像していないようだ。
-
- 「「ただいま〜」」
-
- そこに双子が幼年学校から元気よく帰宅する。
- もう11歳になるヒカリとコウは、子供ながら現在は休日に両親の仕事を手伝い、平日は幼年学校にも通うという生活を送っている。
- 子供らしからぬハードスケジュールだが、本人達は楽しんでやっているので特に苦だとは思っていない。
- 学校には友達もたくさんいるし、仕事についていくと大好きな両親と一緒にいられるからだ。
- ちなみに両親よりも帰りが遅かったのは、友達のところに遊びに寄っていた為。
- 彼らは学校でも人気者で、周囲の期待通りにすくすくと成長していた。
-
- そんな双子は、びみょーな笑みを浮かべている父に、訝しげに尋ねる。
-
- 「うん、ミライの誕生日プレゼントなんだけどね・・・」
-
- そう話し始めたキラは、ラクスにしたのと同じ説明を双子にもする。
-
- 「そうなんだ・・・」
-
- 話を聞いた双子も、乾いた笑みを浮かべる。
- 何を隠そう、この2人もキラに似てマイクロユニットの創作は苦手だった。
- 幼年学校の課題レベルは何とかこなしてきたのだが、ハロは明らかにそれを越えている。
- ヒカリは知識はあるのだが、基本的に細かい作業が苦手だ。
- 片やコウは細かい作業は得意だが、知識に関しては不得手と言える。
- キラは暗に作業を手伝ってと言っているのだが、双子にとってそれはなかなか厳しいことだ。
- 家族の中ではラクスが最も手先が器用だが、如何せん工学に関する知識は専門外のため、彼女に任せることは出来ない。
- 誰もが帯に短しタスキに長しという感じで、決定的な解決策は見出せない。
-
- とは言え、可愛い娘、妹のためなので、何とか希望に沿ってやりたいというのは共通の思いだ。
-
- 結局家族4人総出で2対のハロ作成に取り掛かかることとなった。
- 知識は持っているキラとヒカリが指示をして、細かい作業はラクスとコウが組み立てていくという2人3脚な作業で、仕事や学校の合間を縫ってハロを作っていく。
- 忙しい中でのことなので大変な作業には違いなかったが、家族で一緒にできることは嬉しかったし、何よりミライのためということが彼らの苦労を忘れさせたのだった。
-
-
*
-
- そしてミライの誕生日当日。
- プラントの有力者から幼年学校の友人まで、多くの人を招いて盛大に行われたパーティーで、何とか間に合った2対のハロが、父と母からミライに手渡された。
- それを受け取ってはしゃぐミライ。
- 嬉しそうな表情を見れば4人とも頑張った甲斐があると、満足そうな笑みを浮かべる。
-
- 「でも、何で青と紫のハロなの?」
-
- コウははしゃぐ妹を優しく宥めながら、これが欲しいと言った理由を尋ねてみた。
- ハロが欲しいというのならそれほど疑問は持たないのだが、この2つの色を指定してきたと言うことは、ミライなりの意味があるのではと思ったのだ。
- それに自分のが欲しいのであれば、とても気に入っているようなので同じピンク色の方が良いのではとも思うのだが。
-
- 兄の問い掛けに、ミライは笑みを崩さす元気よく答える。
-
- 「はい、青色と紫色は、父様、母様、兄様、姉様の目の色です。この色だと、家族に見守ってもらっているような気がするのです!」
-
- ミライとて本当は構って貰えずに寂しいに違いない。
- だからせめて家族の瞳と同じ色のハロを持つことで、少しでも寂しさを紛らわせようとしていたのだ。
-
- ミライの言葉に、キラとラクスは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
- 本当であれば自分達がちゃんと傍にいてやらなくてはならないのに、忙しいとは言え、子供にそんな気を使わせるのは親として胸が痛む。
-
- だがミライも、こうして自分のために尽くしてくれる両親のことは大好きだし、プラントや世界の平和のために走り回っているのを、子供心に誇りに思っている。
- 世界中の人達が必要としているからこそ、自分の我侭で独占して、自分が、そして両親が嫌われることになる方がずっと嫌だ。
- 自慢の両親の、自慢の娘でありたいから、ミライはずっと気持ちを押し殺してきた。
-
- その気持ちが良く分かったヒカリとコウは、ミライの頭を撫でてやりながら、そうだねと笑顔で同意する。
- そして両親の方を振り返り、心配ないと首を横に振る。
- 自分達もそうだったが、そのことで両親を嫌いになることもできないし、両親にはあまり気にしないで欲しいのだ。
-
- キラとラクスはそんな子供達の様子に苦笑を浮かべて、優しく抱き締める。
- 自分達には出来過ぎの子供だと自慢に思いながら、ありったけの愛情を注ぎ込むように。
- その確かな温もりを、子供達はしっかりと感じて、家族はまた絆を一段と深めたのだった。
-
- それ以降、ミライは常に2対のハロを肌身離さず持ち歩く姿が世界中で有名なこととなるのは、もう少し先の話。
― ショートストーリーメニューへ ―