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- キラ達が宇宙でデュランダルの暴走を止めてからしばらくして、オーブとプラントは停戦協定を結んだ。
- これにより一先ずの争いは終わりを迎えた。
- しかしまだまだ世界の情勢は実に不安定な状態だ。
- だからこそ、ようやく争いは終結へと向かい始めている今、またこの愚かな行為を繰り返さないためにも、自分が出来ることを精一杯しようと、カガリは協定の詰めの作業やその後の外交交渉、さらには国内の政策の策定と、実に精力的に仕事をこなしていた。
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- 目の前で失ったものもたくさんあったが、それと引き換えに多くのことを学び、一回りも二回りも成長した彼女は、今や立派な為政者だ。
- 倍以上も年上の首長達と対等に論じ合い、自らの意志を堂々と話す姿は育ての父であるウズミの姿とダブってすら見えた。
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- そんなオーブ行政府の忙しい合間を縫って、一人の人物がカガリに面会を求めていた。
- 本来ならばそんな時間も惜しいほどにするべきことがあったのだが、カガリにとっても会いたいと思っていた人物だったので、快く了承した。
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- そして約束の時間。
- 遠慮がちにノックされたドアの向こうから現れたのはキラの母、カリダだった。
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「もう一つのSEED」
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- カリダは沈痛な面持ちでカガリの正面に座している。
- カガリも些か緊張気味で、しかし淡々と先ずは現状の簡単な説明や、キラ達の無事を伝える。
- それにはカリダも安堵したような溜息を一つ吐いたが、すぐに表情を硬くして押し黙る。
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- カガリの話を聞きながらカリダは思い返していた。
- 今も鮮明に覚えている、姉から突如届けられた2つの小さな命。
- それを受け取った時の温かさを。
- そして、その片方をウズミに預けた時のあの胸の痛みを。
- だから何があってもこの手元に残された子供を幸せにしてみせる、亡き姉の分まで。
- そうカリダは強い決意で、キラを我が子として育てることにした。
- 全てのことを秘密にした上で。
- 結果的に子供達を騙すことになろうとも、それが子供達の幸せのためだと自分に言い聞かせて過ごしてきたのだ。
- 実際その判断は間違っていなかった。
- キラはごく普通の少年として健やかに成長していた。
- カリダ自身がその秘密を夢だったのではないかと思えるほど。
- キラを戦争に取られるまでは。
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- 戦争から戻ってきたキラは、別人かと思えるほど傷つき、憔悴しきっていた。
- 親であるはずの自分を拒絶すらしてしまうほどに。
- そこで改めて思い知らされる、自分は本当の親ではないのだと言うことを。
- そしてその戦場でキラとカガリは姉弟ということも知らずに出会い、自分達がひた隠しにしてきた自身の出生の秘密も知られてしまった。
- それがどれほど辛いことだったろうか。
- キラはもちろん、あまり変わらないように見えたカガリも、父と愛してた男が本当の父ではないと知ったときの悲しみは察して余りある。
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- 「本当に申し訳ありません」
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- 唐突にカリダはその目に涙を湛えながら、深々と頭を下げる。
- 真実を知った時、彼女はどれほど傷つき、悩んだだろうか。
- 良かれと思って隠してきたことが、返って子供達を傷つけたのだ。
- それを思うと謝って済む問題ではないが、頭を下げずにはいられなかった。
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- しかしそんなカリダに止めてくださいと、カガリも感情を露にする。
- カガリはそんなことを言って欲しいと、謝罪して欲しいと思ったことは一度も無かった。
- むしろ感謝していた。
- カリダの計らいがなければ、きっと自分はこれほどたくさんの人に愛されることもなかっただろうし、何より生きて来れなかったかも知れない。
- もし自分が同じ立場であったなら、きっと同じ行動を取っただろう。
- 今更ながら、彼女の深い愛情に強く触れた気がする。
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- 「貴女はキラのお母様です。なら、私にとっても母同然です」
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- カガリは涙目になりながら訴える。
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- 今だから分かる、カリダがどれ程の思いで自分をウズミに託したか。
- そしてその思いに守られたからこそ、今ここでこうして向き合うことができるのだ。
- その気持ちを伝えたいのだが、熱いものが込み上げてうまく言葉にできない。
- それでも必死に言葉を紡いだ。
- これまで口に出したことはないが、既にそんな年頃は越えていたので甘えることもなかったが、それでもカリダが姉弟のキラの母である以上、自分にとっても母のような存在だと思ってきた。
- その強い想いを。
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- 一方のカリダは、カガリの言葉に驚いて顔を上げた。
- そして見た。
- 彼女の本当の母であり、自分の姉であるその人の面影を。
- その強い意志の込められた瞳はそっくりだ。
- それを見て、思った。
- この子ははたして姉が望んだように、自分の手で未来を掴んでいるのだと。
- それから当の本人に、自分の行動は間違っていないと肯定されて、心苦しい気持ちと、だたどこか胸の奥がじんわりと温かくなるような、そんな感覚を覚える。
- そしてカガリのことを今初めて、娘として受け入れていた。
- これまでもずっと、ウズミの子でありながらどこか気にかけていた子供だったから、そこに抵抗は無かった。
- カリダは涙をポロポロと零しながら、それでも母として笑顔を見せた。
- カガリも目尻に溜まった涙をゴシゴシ拭くと、同じような笑顔で応える。
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- 今二人は、ようやく親子として向き合うことが出来たのだった。
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