- ミライとヒューは連携して、デスパイア、インフェルノ、シャダーの攻撃をことごとくかわし、そして少しずつその武装を破壊していく。
- 全く連携の取れない3機は、先ほどとは打って変わって苦戦するほどの相手では無い。
- 射撃の狙いも精度はそれほどなく、回避しながら反撃に移れるだけの余裕がある。
- しかも今は1人ではなく2人だ。
- 先ほどまでとは逆に3機の周囲を旋回しながら追い込んでいく。
-
- しかしさすがに地球連邦の最新型のMS、そして基本能力の高いパイロット達だ。
- そう簡単には戦闘不能には出来ない。
- 彼らも要所要所ではコックピットやメインカメラを撃ち抜かせず粘る。
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- そしてアルティメットジャスティス、ヒューの方にも少し問題があった。
- ミライと比べると反応が微妙に遅いのだ。
- そのため、息の合った動きを見せるといってもその初動が遅く、僅かに急所をかわせるだけの隙を与えてしまって追い詰めるまでには至っていない。
- ヒューは特に訓練も受けずに、いきなりアルティメットジャスティスに乗り込み、慣らし運転もないまま実戦に飛び込んでいる。
- MSの操縦という点では今まで操縦していたフレアや他のMSとほとんど変わらないが、握るレバーを含めてコックピットに返ってくるパワーと反動は桁が違う。
- この驚異的なパワーを抑えてコントロールするのは、技術的にも体力的にもとても高いレベルが要求される。
- ヒューはどちらもクリアした、高い能力を持っていることは事実だ。
- それでもまだ慣れないMSのその驚異的なパワーを抑えることに必死で、どうしても反応が遅れるのだ。
- そんなヒューが既に自分の手足の如くアルティメットフリーダムを操るミライに合わせることは、かなり高度な技量が必要で難しい。
- ミライに合わせることに精一杯な己を歯痒く思いながら、オーブ軍と地球連邦軍の戦況も気になるし、焦りが募る。
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- 「焦らなくていい。落ち着いてモニタに映るもの、目の前にあるものを感じてそれを捉まえるんだ」
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- そんなヒューの心を見透かしたように、アルティメットジャスティスのコックピット内に誰かからのアドバイスが響く。
- それを聞いたヒューは一つ大きく息を吐き出して焦るなと自分に言い聞かせると、少し後ろに下がりマルチロックシステムをONにする。
- しかし激しく動く3機の動きを同時に捉えてロックすることはかなり難しい。
- またロックしたら的確にそれぞれの射撃を行わなければならない。
- その難しさは、開発スタッフでもデモンストレーションをうまく作動させれなかったことから考えてもよく分かる。
- ヒューは焦りに汗を一筋垂らしながら、それでも今やらなければ、今それが出来るだけの力が必要なのだと自分を奮い立たせる。
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- それは何のためか。
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- その答えには迷いが無い。
- 心から強く、今この時間を、世界を、ミライを守りたいと思った。
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- その瞬間ヒューの中で何かが弾ける音が聞こえた気がした。
- すると視野が突然広くなったように感じ、3機の動きが個別にしかも手に取るように捉えられる。
- 自分の考えと手足の動きがスムーズに連動しているようにも感じられて、3機のロックが簡単に行えた。
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- 「これならいける!」
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- 自分でも驚くくらい落ち着けてマルチロックシステムを使いこなせたヒューは、躊躇わずにトリガーを引いた。
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PHASE-48 「ヒュー」
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- ヒューはミライと別れた後、捕虜収容施設の独房の中であてがわれたベッドに寝転がり、天井を見つめながらずっと1人で考えた。
- 他に何もすることが無いのだ。
- 考える時間は充分過ぎるほどある。
- 時に食事を取り、転寝をしながら、ゆっくりじっくりと考えた。
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- 今まで自分は何のために戦ってきたのだろうと思う。
- たくさんの仲間を目の前で殺されてきた。
- 戦場であればそれは仕方の無いことだとは分かっていたが、それでも自分の心が傷ついたのは事実だから、悪いのは相手のほうだと思っていた。
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- だがそれと同じくらい、自分とは思想が違うからとたくさんの人を傷つけ殺してきた。
- 砂漠でミライにあってから、そんな当たり前のことも忘れていたことに気付かされた。
- 自分の手は恐らく真っ赤に染まっているのだろう。
- 傷つけ、殺してきた相手の返り血で。
- 痛ましげな目で自分の掌を見つめ、初めて自分が犯してきた罪と向かい合う。
- 今の自分に誰かを責めることも、MSに乗る資格もあるとは思えなかった。
- ゆっくりと掌を覆い隠すように拳を握り締め、口を真一文字に結んでぎゅっと目を瞑る。
- ヒューの胸の内にはこれまでの自分を否定する思いと後悔が渦巻いていた。
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- それからまた時が経ち、オーブに地球連邦軍が攻撃を仕掛けて来た時、アスランがそんなヒューの元にやってきた。
- ヒューのいる鉄格子の扉の前で立ち止まると、静かに名前を呼んだ。
- 声のトーンから尋問などではなさそうだ。
- 尤もここに入れられてから尋問らしい尋問も受けておらず、それほど極度のストレスも与えられていないから、ゆっくりと考えられたというのはあるのだが。
- 呼ばれたヒューは今度こそ尋問かなと言うことを考えながらゆっくりとベッドから上体を起こして座し、あまり答える気分にはなれないがとりあえず話を聞く体勢を取る。
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- 「君はこれからも戦い続けるのか?」
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- アスランはしばし佇んだ後、静かに問うた。
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- 問われたヒューは予想外の質問であったことと、今まさにそのことを考えていたことで黙り込む。
- 正直今は、昔ほど戦うことを良しとは思えない。
- ケルビムを相手に戦って、ミライと刃を交えて、戦うことの虚しさや悲惨さを知ったから。
- ESPEMが戦争を止めるために、という思想を掲げることを綺麗事だと笑えなくなったのは事実だ。
- だが簡単にMSのパイロットを辞めるのかというと、それは分からない。
- それ以外に生きる術を知らずにここまで来たのだから。
- そもそもこのまま捕虜として一生を終えるかも知れない、と言うことも頭の片隅にはあった。
-
- 「それは、分かりません。今の俺はこれからどうすれば良いか、どうなるのか想像がつかないので・・・」
-
- ヒューは膝に肘をつくような格好で、俯き加減にまた自分の掌を見つめて答える。
- それは偽らざる答えだ。
- その姿はあまりにも痛々しく映り、アスランは眉をひそめて小さな溜息を吐いた。
- それに対する答えを残念ながら自分は持ち合わせてはいないし、もし持っていても答えるべきでは無いと思う。
- 自分自身で乗り越えて、答えを見つけなければ前には進めないことを良く知っているからだ。
- 昔の自分達にヒューの姿が重なって見える。
-
- 「でも君はこのままではいけないとも思ってる。そうでしょ?」
-
- 何も答えないアスランに変わって、別の誰かがさらに問うた。
-
- アスランでは無い人物の声に、ヒューは声のした方に顔を上げた。
- そして目の前に現れた人物を見て、口をあんぐり開けて固まってしまった。
- アスランの横に現れたのは、宇宙でバンにやられたと思っていたキラだ。
- あの爆発でよく無事だったなとも思ったが、その手には杖が握られている。
- そしてよく見ると両目は閉じられたままだ。
- アスランの横に立つ時足を引きずるような動作だったことから見ても、やはりあの戦いで相当なダメージは受けたようだ。
-
- 実際キラはシャイニングフリーダムが爆発を起こす直前にコックピットから辛うじて脱出はしたのだが、核爆発に巻き込まれて瀕死の重傷を負った。
- ただ幸いだったのはパイロットスーツに穴が開かなかったことだ。
- そのため酸欠や放射能による即死は免れた。
- 爆風の衝撃で気は失ったが。
- そのまま丸一日近く地球の周回を漂っていたのだが、戦闘後に救援に来たヤマト派に救出され、一命は取り留めたのだ。
- しかし両目は核の光とヘルメットの中に混入した金属片で傷つき光を失ってしまい、熱によるダメージで右腕と右足も切断を余儀なくされた。
- 今のキラの右手は義手、右足も義足だ。
- その体ではもうMSを操縦することも、華麗なキータッチでプログラムを組むことも出来ない。
- それでもキラは絶望を抱かず、生きて前に進むことを選んだ。
- 次の未来を紡ごうとしている自分の子供達の世代に、力と想いを託したいから。
- そんな意志の強さが、目が閉じられた表情から却って滲み出ている。
- その趣はマルキオ導師を思い起こさせる。
- しかしヒューはマルキオのことなど知らない。
- ただキラが生きていたこと、そしてその圧倒的な存在感と佇まいに圧されて、唾をゴクリと飲み込んだ。
-
- アスランはそんな驚き固まってしまったヒューに苦笑すると、警備兵に指示をして鍵を開けると、ヒューを連れ出した。
- 彼らがここに来た目的はここで話をするためでは無い。
- 突然施設から出されたヒューは不安げな表情を浮かべるが、黙ってアスラン達についていく。
-
- 車に乗せられて連れてこられたのはMSの格納庫のような場所だ。
- ヒューは戸惑いながら真っ暗な周囲を見渡していると、急に明かりがつき目の前にMSが闇の中から現れる。
- その威圧感とでも言うべき存在を主張するようなフォルムに、ヒューは息を飲んで見上げる。
-
- 「これはアルティメットジャスティス。俺達の象徴であり、望みを具現化するための剣だ。新しい戦いに備えてジャスティスを最新の技術で作り変えた、最新鋭のMSになる」
-
- アスランはそうヒューに説明した。
-
- ジャスティスの名はヒューも聞いたことがある。
- かつて2度も戦争を終結に導いた英雄のMSの名前で、アスランの愛機だ。
- それがここにあることは驚いたが、感じた威圧感には納得する。
- そして何故か懐かしさも感じられるような不思議な感覚に、吸い込まれるようにアルティメットジャスティスを見つめる。
- そんな見入っているヒューに、アスランがさらに言葉を続ける。
-
- 「君に戦う意志があるなら、これを託したいと思っている」
-
- それを聞いたヒューは見上げたまま一瞬聞き流しそうになったが、その意味するところを理解すると目を白黒させて、冗談だろとアスラン、そしてキラの方を向いた。
- ジャスティスの名を冠するということは、彼らにとっては相当重要な意味を持つMSだということは言われなくても分かる。
- それなのに敵だった自分にMSを、しかもそんな最新鋭の機体を渡すなどどうかしていると思った。
- しかし2人とも至極真面目な表情でヒューを見つめ返すばかりだ。
- ヒューは彼らの真意を図りかねて思わず身構える。
-
- アスランはヒューの態度に、まあ急に言われてもそうだろうと現状の説明から始める。
-
- 「地球連邦軍がオーブ沖に軍を展開している。侵攻してくるのは時間の問題だろう」
-
- アスランの言葉にヒューもさすがに衝撃を受けた。
- さらにプラントやESPEMの状況なども説明を受け言葉を無くす。
- まさか世界の情勢が短期間でそこまで変化しているなどとは予想出来なかった。
- 地球連邦やプラントのお偉方が何を考えているのかも分からないが、バンも一体何を思って行動しているのか、今のヒューには理解出来ない。
-
- ヒューがショックを受けていると、アスランの携帯通信機に連絡が入った。
- そして険しい表情を浮かべると、キラに向き直る。
-
- 「地球連邦軍がどうやら最後通告を行ってきたようだ。だが要求はとても受け入れられるものではないため戦闘は避けられない。そうなると俺はオーブ軍の指揮を取らなければならない。悪いがキラ、後は頼む」
-
- そう言うと、アスランはキラと警備兵を残して司令部へと戻る。
- ヒューはアスランの背を見送ると、力なく拳を握り不安げな表情でもう一度アルティメットジャスティスを見上げる。
- 今の自分がMSに乗って、きちんと操縦出来るかが先ず不安だ。
- しかしそれ以上に、アルティメットジャスティスに託されたものが大きく、重く感じられて、自分では背負いきれないと尻込みをしている。
- それはヒューが臆病なのでは無くて、ごくごく当たり前の反応であり心境であろう。
-
- 「昔、アスランと僕も戦場で戦った、敵として」
-
- そんなヒューの背中を押すように、キラはポツポツと話し始める。
- 自分達の過去のことを、どんな思いで戦ってきたか、そして今までのラクスやカガリの奮闘を。
- その時の苦しみや悲しみも、漏らさずに話した。
-
- キラが話す想像以上の内容に、ヒューはただ息を飲んで聞き入った。
- 英雄と呼ばれる彼らの華々しい活躍の部分しか知らないヒューにとって、それは衝撃と驚きの連続だった。
- 歴史というのがいかに表面的で、光の部分しか伝えていないかが良く分った。
- そして彼らの想いを知らず、自分の都合と基準で理想論、綺麗事だと決め付けてしまっていたことを改めて思い知らされる。
-
- そこに地球連邦軍とオーブ軍の戦闘が始まったことが伝えられる。
- さらにはアルティメットフリーダムがオーブ上空に現れたという情報が伝えられた。
- ヒューにはアルティメットフリーダムにミライが乗っていると、根拠は無いがピンときた。
- 夜の砂漠で、戦場で、そして施設で僅かにしか顔を合わせて話していないのに、何故かミライの思考が行動が手に取るように分かる気がする。
- ミライがその道を選んだことが素直に納得出来る。
- そしてミライはあれだけ傷ついて、苦しんで、悩んでいたのに、それでも戦うことを選んだ。
- あの華奢で幼かった少女が、力強く前に進もうとしている。
- それなのに自分は何をしているのだろう。
- 今のこの状況においては自分の悩みがちっぽけなものにも思えてくる。
- ならば自分もこんなところで立ち止まっている場合では無い。
- どの道MSに乗って戦うことしか自分には出来ないのだから。
- それだけが他の誰かの役に立てることだと信じているから。
- ならば戦い続けようと思う。
- 拳を力強く握り締めると、ヒューはアルティメットジャスティスに乗る決意をした。
- 自分にどこまで出来るか分からないが、今はとにかくミライを助けたいという一心で。
- 決意の篭った眼差しで力強く前を向いた。
-
- 「一つ聞いても良いですか?」
-
- パイロットスーツに着替えてコックピットに乗り込もうとするヒューは、その前に立ち止まって恐る恐るキラに尋ねる。
- キラにはヒューの表情は分からないが、その声色から何か不安があるのだと悟る。
- キラは何だろうと思いながら、首を縦に振る。
-
- 「どうしてこれを俺に?」
-
- ヒューはそれだけはどうしても聞いておきたかった。
- 宇宙では敵として戦い、砂漠では娘であるミライとも死闘を繰り広げた自分にこんな大事な機体を託すなど、普通では考えられない。
- それだけはどうしても他意があるように勘ぐってしまう。
- 問われてキラはああと穏やかな笑みを浮かべて答える。
-
- 「君はきっとケルビムと、ミライと戦って、大事なことに気付いたと思ったから。そして君にはそれを託しても良いと思うだけの力と心があったから」
-
- それはキラがヒューから感じた、潜在能力の高さと人間的な優しさ。
- 目が見えなくなって、だからこそ見えるようになったものもある。
- 深層心理というか、その人の本質をキラは自然と感じ取ることが出来るようになっていた。
-
- 「力はただ力だよ。でも君が言ったように心だけでは何も出来ない。だから心を守る、貫くだけの力が人には必要なんだ。ミライは君と戦ってそのことに気が付いた。それなら君もきっとそうだと、僕は信じる」
-
- そこにはキラのヒューに対する揺ぎ無い信頼があった。
- そして最後にこう付け加える。
-
- 「今の僕にはミライを助けることはもう出来ないから。だから君に助けて欲しいんだ。僕の代わりではなくて、これからあの子達と共に未来を切り開く若い君に」
-
- キラの言葉を受けて、ヒューは胸が熱くなるのを感じた。
- 同時にキラが何故英雄と呼ばれ、ヤマト派として彼を慕う者が大勢いるのかも納得した。
- キラは常に前を見据えて話をして行動をしている。
- それが正しいかどうか分からなくても、自分を信じて、想いを貫き、覚悟を持って戦っている。
- バンがそんなキラをあれほど憎む理由は分からないが、彼らの行動は間違っていると今ならハッキリと言える。
- 理想論だとしても、それが間違いだとは笑えない。
- そして何より、ミライを失ってはならないと強く思う。
- その先のことはまだ不安で一杯だ。
- 戦うことが本当に正しいのかも、敵は誰で自分が何と戦えばいいのかもまだよく分かっていない。
- それでもMSに乗って戦場に出ることを恐れる気持ちは全く無かった。
- まだ胸に渦巻く迷いを振り払うように、力強く操縦桿を握り締めると叫んだ。
-
- 「ヒューリック=ネイサー、ジャスティス出る!」
-
*
-
- ヒューがトリガーを引いて放たれたビームは、デスパイア、インフェルノ、シャダーを正確に捉えた。
- 今度こそ回避する隙を与えず、3機とも右腕をもぎ取られる。
- そのダメージ過多と、戦闘を開始してからもう随分時間が経ったこともあり、3機はエネルギー切れでフェイズシフトダウンする。
- 武装も全て破壊され、これ以上の戦闘は不可能だった。
-
- 「くそっ、こんな筈じゃ・・・」
-
- 警告が煩いくらい鳴り響くコックピットの中で、ドロムは現実を受け入れられずにボソリと呟く。
-
- 施設で訓練を行っていた時は、シミュレーションの失敗は処分を意味した。
- 最初は大勢の自分達と同じような仲間がいたのだが、シミュレーションをクリア出来ずに最終的には自分達3人だけになった。
- その時は処分された他の子供達を無能な奴だと鼻で笑っていたのだが、今まさに自分達が笑われる状況に陥ったことは頭は理解している。
- しかし心がその事実を否定する。
- 全てのシミュレーションをクリアして、こうして実戦に投入された自分達が負ける筈が無い、失敗する筈が無いと。
- 何より初めて自分が処分されること、死に対することに不安と恐怖を覚えていることを自覚する。
- いや正確には不安と恐怖だとは理解していない。
- 今までそんな恐怖などを感じたことなど一度も無かった。
- だからその感情の正体がよく分かっていない。
- ただ心の奥に重苦しい、身震いが起こるような塊が居座っているような気がして、よく馴染んだ筈のMSにコックピットが居心地が悪い。
-
- アリサとロッドも同じような状態だ。
- 大きく肩で息をして、血走った目を見開いて取り乱している。
- その心は現実から逃避している。
-
- 「何でだよ、何でなんだよっ!」
- 「いやあーーーっ!こんなの絶対いやあーーーーーーっ!!」
-
- 彼らのマニュアルにはこの状況をひっくり返すだけの戦術は乗っていない。
- そもそも追い詰められての逆転劇など最初から想定されていない。
- 相手が想定したデータどおりの能力と動きをして、それをシミュレーションしたとおりの戦略で頭から抑え込む訓練しか受けていない彼らにとっては、想定外の相手が現れた時点で既に負けが決まっていたようなものだった。
- しかしそんなことを彼らは知りもしないし、知る術も無い。
- そんな風に訓練した大人達も、それが自分達のせいだとは認めないだろう。
- ドロム達が想定していた力を引き出せなかったせいだと。
- いずれにしてもただ確かなのは、相手に敗れたという事実だけ。
- 今彼らは生まれて初めて、挫折というものに直面していた。
-
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