- C.E.73、プラント最高評議会議長ギルバート=デュランダル議長が提唱したデスティニープラン。
- それは全ての人が生まれながらに自分の役割を知り、その役割に従って生きるように遺伝子からその役割を逸脱する術を取り除くこと。
- 全ての人が役割通りに生きれば争いは起こらないし、全ての人は自分の力を最大限活かすことができる。
- 全ての人が幸福に生きることができ、そして死んでいく。
- 一見それはとても素晴らしいことのように思われた。
- だからプラントも、地球も大半の人々は戸惑いながらもこのプランを受け入れようと考えた。
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- だが自分の役割通りのことをする、それだけすればいいということは、逆に他のことはできない、するなということ。
- 世界が回るための歯車になれと、ロボットになれと言う事に等しい。
- それは争いはなくとも希望も生まれない世界。
- 何も変わることなく、ただ人は世界に存在するだけ。
- 変わらない明日をただ消化するだけの人生。
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- その真の目的を知り、それを止めようとした者達がいた。
- 迷い、苦しみ、傷つきながらもその信念を貫いた、小さくとも強い灯をこの世界に灯した、後に英雄と称される者達。
- だが世界はデスティニープランに向けて動き出し、また最も正しい選択だと思われ、戦いを見守る人々は誰もがデュランダル議長の勝利を信じた。
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- しかし結果は人々の望みとは裏腹に、デスティニープランの実行は阻止された。
- レクイエムは破壊され、メサイアは陥落した。
- そしてそのメサイアの陥落によってオーブ首長国連邦とプラントの両国間に終戦協定が締結された。
- 真に正しい道は何かに人々は気づき始めたのだ。
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- プラント最高評議会はデュランダル議長の戦死によりデスティニープランの廃案を決め、ラクス=クラインに評議会への参画を要請した。
- ラクスも了承してエターナル艦長、アンドリュー=バルトフェルドらと共にプラントに戻り、共に新たな平和を築いていこうと決意を固めた。
- 同時にラクスと行動を共にした者達も共にプラントへと戻った。
- 後に英雄と称されるストライクフリーダムのパイロット、キラ=ヤマト、彼もまたラクスと共にプラントへ身を置いた。
- もう一人の英雄インフィニットジャスティスのパイロット、アスラン=ザラとアークエンジェル艦長、マリュー=ラミアス、他乗組員もプラント、そしてオーブとの関係仲介の協力者として一時プラントへ。
- その後平和のために互いに尽力することを誓いオーブへと戻った。
- オーブ首長国連邦はカガリがオーブ代表首長としてプラント、そして大西洋連邦と和平協定への協議を始め、着実に平和への一歩を踏み出していた。
- 大西洋連邦もロゴス狩りと市民のデモを受け、ブルーコスモス派の主要な幹部を一掃。
- 新たな大統領、指導者の下で平和への道を模索し始めた。
- 指導者を失ったブルーコスモスは国際的なテロリストとして指名手配され、次第に無差別テロとして市民に認知され、居場所を失い暴走していった。
- しかしブルーコスモスに以前のように強大な権力も武力もない今、概ね世界は平和で、人々は徐々に戦争の傷が癒されつつあった。
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- 人は戦わない未来を選ぶこともできる、それが許される世界なら。
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- 終戦直後に全世界に伝えられた一言の言葉。
- その言葉の意味を人々は今更ながら噛み締め、デスティニープランのような世界でなくて良かったと心から思い始めていた。
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- 時はC.E.75。
- 2度目の開戦の引き金となった「ブレイク・オブ・ザ・ワールド」から2年の歳月が流れた。
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PHASE-01 「平和の歌」
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- 宇宙に浮かぶ砂時計の様な円柱型の建造物、”プラント”。
- コーディネータが我が家とする、宇宙の中に存在する人が生きていくことができる人工の生活空間。
- コーディネータとナチュラルの対立が激化する中、コーディネータが安住の地を求めて作った人が創りし大地。
- ここでも人はまた平和を願い、より良い生活を求め奔走する。
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- 「この案件については、予算を10%削減ということでよろしいですね」
- 「仕方ありませんわ。予算には限りがありますので」
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- その首都アプリリウス、プラント最高評議会では予算編成の協議に追われていた。
- その中央に座り、プラントでも最も強い力と称賛と責任を持つ最高評議会議長。
- その役職に就くのは、鮮やかな薄いピンク色をした長い髪を白いリボンで結い、その空色の瞳に揺ぎ無い決意を宿し、黒いロングドレスに身を包み、その透き通るような歌声で人々の心を癒す歌姫であるラクス=クライン。
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- 前議長ギルバート=デュランダルが提唱したデスティニープランによってもたらされた混乱を収集するため、評議会の要請を受けてプラントに戻った。
- そして最高評議会の再編を実行。
- プラント市民の支持も受け、最高評議会議長として終戦から2年の歳月に渡り尽力してきた。
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- 議長職は父シーゲル=クラインを見ていたので大変さはよくわかっていたつもりだが、いざやってみると想像以上のものであった。
- 市民の生活に関することから外交に関する問題まで、プラントでの生活をより良いものにするためにすべきことはたくさんあり、それは形を変え新たな問題となり、全てが片付くことはなかった。
- それでも辛いと思ったことはなく、むしろ平和のために、プラントの未来のためにと気持ちを引き締め、進むことができることは幸せでもあった。
- 平和な世界を築くことは遠く離れた友や仲間達との誓いでもある。
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- そして今日も各委員から提案された案件の内容の検証、その予算枠の決定閣議が行われていた。
- 最高評議会で最も多く費やす仕事である。
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- 最後の案件の予算案に彼女の承認が得られ、全ての予算枠組みが決定された。
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- 「それでは本日の評議会は以上です。お疲れ様でした」
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- その声を合図に評議会議員達は席を立ち、評議会場から退出していく。
- ラクスも小さな溜息をついて一番最後に退出する。
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- 「ラクス様、国防予算についてですが、その、本当によろしいのですか?」
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- ラクスが部屋から出てくるのを待っていた金髪に、深い青色の瞳をした長身の男、評議会の一員で現プラント国防委員長セイ=ミヤマが話しかける。
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- 今回の評議会はセイが強く推したプラント防衛策の強化に予算が増資され、結果として外交予算が一部削減されたのだった。
- 本来ならば軍備に予算の増資はしたくなかったが、地球軍と分裂する形になったブルーコスモスの残党達が月に終結しつつあるという情報もあり、評議会全体でも増資は必要だという結論になったため、その状況ではラクス一人が反対したとてどうにでもなるものではなかった。
- 苦笑しながらラクスは仕方ありません、自分を守る力もまた大事なのですから、とセイに答える。
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- −想いだけでも、力だけでもだめなのです。−
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- かつて大切な人に投げかけた言葉。
- 戦いをしたいわけではない。
- だが言われないまま撃たれることもまた許すわけにはいかない。
- 悲しみに泣くだけの人が作られることはもうたくさんだから。
- それを自分自身にも言い聞かせる。
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- セイは自分が推した予算案だったが、そのためにラクスが胸を痛めていることを重々承知していた。
- そのため議長室へ向かいながらも謝罪の言葉をラクスに投げかける。
- しかしはたから見るとラクスをナンパしているようにも見える光景だ。
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- 「ミヤマ国防委員長、そのくらいでよろしいでしょう。ラクス様も十分お分かりですよ。」
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- そのな光景を見かねてか薄い紺色の髪を肩のあたりでなびかせ、オレンジに穏やかな光を宿した少し年かさの女性、産業技術委員長リディア=カロンがセイをたしなめるように声をかける。
- それを聞いたセイは、これは失礼しましたカロン産業技術委員長と、ラクスと距離を置いた。
- それと同時に国防委員会に所属し、国防委員長の参謀としての任をこなす銀髪に気難しそうな表情のイザーク=ジュール、浅黒い肌に少し癖のある金髪のディアッカ=エルスマンが3人に近づいてきて、ラクス、セイにそれぞれ声をかける。
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- 「お疲れ様ですラクス様、本日は評議会でのお仕事は終了と伺っています。この後のスケジュールの確認をお願い致します」
- 「ミヤマ国防委員長、評議会が終了したら連絡を頂きたいと連絡がありました」
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- セイは分かったと答えると硬い表情で、スケジュールはヤマト秘書官にお任せしましょうとラクスに一礼して、議長室とは反対方向へと歩を進める。
- ラクスも分かりましたと答えた後、セイの態度にまた小さく溜息をついた。
- 前々からそうであるが、セイは明らかにキラを避けている態度を隠そうとはしなかった。
- それがラクスには心配の種であった。
- そんなラクスの様子に何か心配事でもと、リディアは尋ねた。
- そう声をかけられてラクスはハッとしたが、プラントに戻ってから母の様な包容力で包んでくれるリディアにはずいぶん助けられ、今では色々なことを相談する間柄だ。
- 普段は抑え込んでいる本音をポツリと漏らす。
- リディアも子供がいないこともあり、ラクスを議長として尊敬しながらも娘のような感覚で見守っている。
- そんなラクスが20歳とはいえ、まだまだ年頃の女性らしい一面が見れて、リディアは不謹慎かもと思いながらも嬉しく思っていた。
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- 「いえ、ミヤマ国防委員長はキラのことをまだお嫌いでいらっしゃるようなので」
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- 伏目がちにラクスが答えると、リディアは苦笑しながら同意する。
- そうキラはプラントではあまり快く思われていない。
- 地球軍、オーブ軍と所属してきたこれまでの経歴を見れば、プラントの人から見れば理解できないでもない。
- そのためラクスがエターナルで共に戦い、最も信頼している恋人であると公表はしたものの、あえて隠しているという訳でもないが、今でも公にプラント市民の前に出ることはしていない。
- (市民はこの時、アスラン=ザラとの婚約がずっと前に破棄されていたことを知る)
- つまり快く思っていないのは主に評議会などの幹部層の一部だけなのだが。
- しかしそれ故キラは孤立しがちであることは否めない。
- そのことにラクスは心を痛め、またできる限り傍にいることで寂しさを和らげたいと思っている。
- 議長である限りそれはなかなか叶わないことではあった。
- だからこそキラに専属秘書官として共に仕事を、と依頼し、最高評議会メンバーを説得したのだった。
- 自分の意志で議長としての仕事をこなし、辛いと思ったことがないのもキラが傍にいたからかも知れない。
- そんなキラとラクスが一緒に暮らしているのは黙認されているというか、もはやあきらめられているというのが本当のところか。
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- 当初リディアもラクスと共にきたストライクフリーダムのパイロット、キラ=ヤマトを完全には信用していなかった。
- しかしその人柄、紫紺の瞳に宿る強い意志とラクスの信頼が、やがてキラのことも認められるようになった。
- 今ではキラのこともラクス同様息子のように思っている。
- そんな二人が幸せになってくれればと心から願う、プラント内では数少ない二人の理解者でもある。
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- 「そうかも知れません。ですがヤマト秘書官は優秀ですし、なにより素晴らしい人柄の持ち主です。時間はかかるかも知れませんがきっとわかってくれますよ」
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- その言葉を聞きラクスに笑みが戻ってきた。
- その笑顔を見て傍らで話を聞いていたイザーク、ディアッカもほっとしながら議長室の前についた一同はその扉を開けた。
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- テヤンデー。
- トリィー。
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- 開けた瞬間ピンクの球体が緑の鳥が飛び出してきた。
- ラクスはあらあらだめですわピンクちゃん、トリィー、と2つのマイクロユニットに話かける。
- 他の3人は一瞬驚いたが、それは議長室を訪れると度々体験することであり、またかと苦笑した。
- 議長になってもこのあたりは昔のままのラクスの姿にどこかほっとするのもいつものことだ。
- ラクスがハロを手に抱えトリィーを肩に止まらせて議長室の中に入ると、そこには議長席の横に設けられた専用の机に向かってパソコンと睨めっこをしながら、ヘッドセットマイクに向かって話しかけるキラがいた。
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- 「はい、その機能の設計図は今送った通りで。これに沿ってプログラムの構築をお願いします。生殖体調査機能のテストについては、テストケースを別途送付しますので、その後準備と搬送機能との結合テストをお願いします。・・・はい、では明後日までによろしくお願いします」
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- そこまで話すと大きく息を吐きながらマイクを机に置き、部屋に入ってきたラクス達に気が付いて柔らかい笑みをこぼす。
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- 「お疲れ様ラクス、やっぱり少し長引いたみたいだね」
- 「ええ、ですがまあ大きな問題はなく終わりました」
- 「分かった。議事録はすぐまとめるからちょっと待ってて。その承認と机の上の書類の承認をしてもらったら、今日の評議会の仕事は終了だよ。僕の方ができるまで休憩してて」
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- ラクスは努めて平常に言ったつもりだったが、キラにはその微妙な違いがわかる。
- 何か彼女の心を痛めることがあったことは簡単にわかった。
- 彼女はすぐに強がり、無理をするのだから。
- 平和のために戦う覚悟を決めた者同士。
- おそらくその決断に悩み、そのことに心を痛めたことは想像に難くなかった。
- 誰が戦いのために予算を増やしたいと思うだろうか。
- しかし花を植えるためには、その花を植える場所を守る力もまた必要。
- そのこともまたよくわかっていた。
- だからそんなラクスの心を少しでも軽くしようと、キラは微笑みかけたのだった。
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- そしてキラはというと、ラクスにそう言いながら評議会のやり取りを記録したディスクをパソコンに接続すると、相変わらず恐ろしい程の速さでキーボードに入力し議事録を作成していく。
- キラは秘書官としてラクスのスケジュール管理や必要な書類の作成を行っている。
- 最高評議会の議事録作成もその中の一つである。
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- 今でもラクスのスケジュール調整を第一に行っているが、秘書官に就任した直後はラクスが評議会に出ている間、実は暇を持て余していたキラ。
- 元々プログラマー、システムエンジニアになることをカレッジに居たときは志望していたので、暇つぶしに議事録の作成システムを構築したのだった。
- それが幸か不幸か評議会議員のメンバーにも好評で、その高い技術力にリディアはプラントの産業技術の技術顧問への就任を要請したのだった。
- 先ほどの会話はそれに伴い開発を始めた医療技術支援システム、主に不妊治療の研究に利用されるためのものの打ち合わせである。
- 最近はそれ以外にも色々なシステムの開発を抱えており、暇つぶしどころではなかったが。
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- 「おいキラ、その前にスケジュールの確認だ。この後ラクス様はレコーディングに行かれるのではないのか」
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- イザークが厳しい口調でキラに告げる。
- そうラクスは数ヶ月前から歌手としても活動を再開していた。
- 歌に想いを乗せた方がよりプラントの市民や地球の人々に届くからというのだ。
- キラはそれをいつもの優しい笑顔で了承し、スケジュールに組み込めるように働きかけてくれたのだった。
- 復帰後最初に出した歌は久々の新曲ということで大変好評だったため、プロデューサから是非次もとねだられたものだった。
- それもあり本格的な歌手活動も再開している。
-
- ちなみにミーアの歌はあえて偽者が歌っていたということは公表していない。
- ミーアさんはミーアさんなりの気持ちで想いを歌っていたはずですから、とラクスは少しだけ哀しい目をして笑っていた。
- ラクスがその歌を決して歌うことはない。
- それはミーアのための、ミーアの歌なのだから。
-
- スケジュールの確認をがなりながらキラに話しかけるイザークも、信用していない評議会メンバー同様、キラに対して何かと厳しい言い方ばかりしている。
- だがイザークはキラの力、仕事振りを認めている。
- 経歴はともかくラクスが最も信頼していることもあるし、また前の戦争でもその功績は評価しているのだ。
- ただ素直にそれを表現できないだけである。
- それと常にラクスの傍にいることに、少しだけ嫉妬も含まれている。
- 口が裂けても他人には言えない事実だが。
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- 「イザーク、お前もうちょっとその言い方何とかできないの?」
-
- ヤキンドゥーエで共に戦い気心が知れていることもあり、ディアッカはそんなキラのプラントで数少ない友人だ。
- ラクスの信頼も大きく、その時の裏切り行為の全てを許され、今では黒服に身を包みイザークの副官として力を発揮している。
- その立場もあって、イザークとキラの関係も取り持ってくれている。
-
- 「いいよディアッカ、忘れてた僕も悪いし。はいこれがスケジュール。今からだと2時間後にスタジオに入れればいいから、後1時間15分したらここを出ないといけないかな」
-
- そんな2人はキラにとってももちろん、ラクスにとっても本音をぶつけたり、休日を共に過ごしたりできる数少ない友人だ。
- キラもラクスも、イザークの言葉とディアッカの行動には内心苦笑と感謝の気持ちで溢れていた。
-
- キラはディアッカに笑いかけながら、イザーク、そしてラクスにスケジュールファイルを表示する。
- ラクスのSPも兼ねるキラは自分のスケジュールも確認するように、時間を計算した。
-
- 「それでは少し余裕がありますわね。どうでしょう皆さん、少しお茶でも召し上がっていきませんか?」
-
- ラクスはスケジュールを確認して提案する。
- すぐに同意したのはディアッカ。
- そして微笑みながら頷き、応接用のソファーに腰を下ろしたのはリディアだ。
- イザークはディアッカにまた何事か叫ぶが、ラクスが鼻歌を歌いながら紅茶を淹れる準備を始めると、大人しく他の2人と同様に渋々ソファーに腰を下ろす。
-
- 「キラはどうなさいますか?」
- 「ああ、議事録は作ってしまわないといけないから、僕は後で頂くよ」
- 「そうですか。このところまた忙しいようですが、あまり無理をなさらないでくださいね」
- 「うん、大丈夫だよラクス」
- 「キラの大丈夫はあまり当てになりませんが」
-
- 普段穏やかで優しい笑みを絶やさない2人だが、意外というかかなり頑固だ。
- 自分が決めたことは決して曲げない。
- それだけの信念を持っているということでもあるのだが。
-
- それはお互いが理解している。
- いつでも無理をする相手を自分が気をつけてあげなければと思っている。
- お互いを思いやってのことだが、自分自身が無理をしていたり頑固だという自覚がないのはどうだろう。
- 周りにすればただ惚気話を互いにしているようにしか聞こえない。
- ただ二人の会話はもう長年連れ添った夫婦かのような穏やかなやり取りだ。
- この会話を聞いているとリディアは心がとても安らかな気持ちになり、心地よかった。
- イザーク、ディアッカも同じ気持ちだろう。
- さっきの言い争いはピタリと止まり、静かにラクスの淹れた紅茶を味わっている。
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- その穏やかな空気を打ち破るように扉を空けて左目に傷を宿した隻眼の男、アンドリュー=バルトフェルドが勢いよく部屋に入ってきた。
- 相変わらずとぼけたような陽気な雰囲気をかもし出し、遅れてすまんすまんと誤魔化そうとしているのか笑いながら謝罪の言葉を述べる。
- しかしこれはバルトフェルドだからこそ許される態度であろう。
- このプラントでラクスとキラの両名を呼び捨てにできる者など彼一人しかおらず、二人も兄のように慕い信頼している。
- また軍人としての優秀さはキラ、ラクスとも十分承知し、そして最も頼りにする仲間の一人だ。
- これは他の者には極秘裏に行っているが、オーブ、それもかつて行動を共にしたアークエンジェルとの極秘通信の管理を任せている。
- それもあり、ある程度の権限を持たせるためにラクスは議長就任後ただ一人、FAITHに任命していた。
-
- イザークはそんな態度にまた何事かと叫べば、ディアッカがそれをいさめ、キラはやれやれといった感じで苦笑を浮かべて仕事を続け、ラクスは微笑みながら共に来た部下のダコスタの分と紅茶を淹れ始める。
- ダコスタも半ば諦め顔でバルトフェルドの代わりに本来の目的を果たすため、持ってきた資料をキラに手渡す。
- ラクスの計らいで黒服に身を包んでも、やることは今までと何も変わらなかった。
-
- そうこうしているうちにキラは議事録を作成し終え、ラクスが紅茶を一旦置き、他の書類とともに承認をしていく。
- そしてラクスのサインが全て終わった頃、キラも揃ってささやかなお茶会が催された。
- ラクスの淹れてくれた紅茶はやっぱりおいしいとキラが笑えば、ラクスが少し恥ずかしそうにでも幸せそうに頬を薄く染める。
- 若いねえとバルトフェルドが突っ込めば、ディアッカは口笛を吹き、イザークは顔を赤くして固まり、ダコスタは二人から目を反らす。
- その様子をただ穏やかな笑みで紅茶を飲みながら見守るリディア。
- それはどこにでもありそうな幸せな家族と友人達の団欒にしか見えない。
- プラントは今日も平和だった。
-
- 「それではそろそろ参りましょう、キラ」
-
- 楽しい時は過ぎ、あっという間に移動する時間が訪れた。
- 名残惜しそうにしながらもラクスはキラの手を取り立ち上がり、キラもそれに笑顔で応えて素早く荷物を持って準備を整えた。
-
- 今度の歌は<平和の歌>。
- たとえ浅はかだと笑われても、この穏やかな平和がいつまでも続きますように祈りを込めて。
- もう誰も傷つくことがありませんようにと。
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