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- ラクスは手術室の前の椅子に座り、祈るように手を組んでいる。
- 議長としては色々とすべき事はあるのだが、今の状況ではまともに仕事ができるとは周囲もラクス自身も思わなかった。
- それにリディアが付き添っているように言ってくれたおかげで、今こうして手術が無事に終わるのを待っている。
- だが何もしないのは返って色々なことを考えてしまい、時折髪を触ったり溜息を吐いたりと落ち着かない。
- ダコスタも扉の前を落ち着かない様子で行ったり来たりして、バルトフェルドに落ち着けと窘められている。
- 言いながらバルトフェルドも神妙な面持ちで手術室のランプを見たり、ラクスの方を見たりと視線が定まらず些か”砂漠の虎”らしからぬ態度だ。
- その時病院には相応しくない大きな足音を立てて、イザーク、ディアッカが手術室の前へと駆け込んでくる。
- バルトフェルドが呆れた様な表情を作るが、イザークは意に介す様子も無く、早口で現状の報告を述べる。
- ディアッカやヒルダ達はAPSに自分のMSを破壊されたが、幸いコックピットには影響は少なく本人は無傷で、すぐにゴンドワナに回収された後、イザークと共にキラがエターナルから搬送されるのを見送り、負傷したザフト兵の救助、そして"FOKA'S"のAPSや自爆したナスカ級戦艦の破片の回収、テツの捕縛を行っていた。
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- ザフト兵の救助を行って、改めてザフト軍の被害は相当なものだと実感し驚愕する。
- 負傷した兵の数、修繕の必要なMS、戦艦とこれらを修復するには相当な人手とお金、そして時間が必要だ。
- 何より大きな問題はストライクフリーダムとザフト軍の戦闘能力の差だ。
- かの機体程ではなくとも、APSとまともに戦えるだけの性能をもたせたMSを開発しなければ、また攻め込まれた時今度こそお終いだ。
- 戦力数も大幅減となってしまった今、防衛策としてはそれが急務となる。
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- 一方テツの方はというと興奮気味で今は聴取できる状態ではないが、落ち着けば"FOKA'S"のことを知ることが出来るだろう。
- とりあえず今は捕虜として牢に入れている。
- 多少気が紛れたのかそうですかと相槌を打ったラクスだが、視線はすぐに目の前の手術室の扉へと映る。
- イザークらも渋い表情で同じ扉を見つめる。
- 中ではキラの緊急手術が行われている。
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- 戦闘終了後、ストライクフリーダムは直ちにエターナルに回収された。
- バルトフェルドとラクスも直ぐに駆けつけ、コックピットを強制開放する。
- するとそこから血と思われる赤い水滴が飛び出してくる。
- それをしかめっ面で腕で払うという無駄な行為をしながら、バルトフェルドは中を覗き込み思わず息を飲む。
- そこにはキラがまるで死んでいるかのようにぐったりと横たわっていた。
- パイロットスーツは両腕と掌、両腰の辺りから流れたと思われる血で足まで汚れており、バイザーにも血がベットリ付着していて、作業員の何人かは思わず視線を逸らす。
- 呼びかけても全く反応する様子は無い。
- すぐにコックピットから引きずり出してまだ息があるのを確認すると、担架に乗せて医務室へと運ぶ。
- ラクスもキラの名を必死に呼びながら医務室まで付き添った。
- 医師はすぐに診察を行うが、医師も思わず顔を歪めるほどの状況だ。
- 核爆発に巻き込まれているということで放射能計測を行ったが、放射能には犯されておらずそれにはラクスも一先ずホッと胸を撫で下ろす。
- だが頭の切創からの出血、両腕の骨折、その骨が皮膚を突き破ったことによる出血、両脇腹からの出血、右大腿骨の骨折、左足首の骨折、さらに全身の打撲、擦り傷と挙げればキリが無い程傷だらけだ。
- いずれも先ほどの戦闘でできた傷ではない。
- この怪我で動けたことすら奇跡的なのに、この状態でMSを操縦しあれだけの戦闘をできたというのだから夢でも見ているとしか言いようが無い、というのが医者の見解だった。
- その点はバルトフェルドらも同感だった。
- この状態でザフト軍総掛かりでも退けられなかった"FOKA'S"を、たった一人で全滅させたと言っても、見ていない者は誰も信じないだろう。
- とにかく緊急に手術が必要なのだがこれ程の重症患者は戦艦の医務室ではきちんとした治療ができないということで、輸血と応急処置を行った後、すぐにプラントの病院への搬送を手配する。
- エターナルはエンジンをやられ動けないため、プラントから迎えのシャトルを用意し、ラクスらが共に乗り込んで急いでプラントで最も医療施設の整った病院へとキラを運ぶ。
- そこでは事前に連絡を受けていたため既に準備は整っている。
- 病院に到着すると速やかに医師達はキラを手術室へと運ぶ。
- 手術室に入る前にラクスは涙目で担当医のエミリーにすがる様に嘆願する。
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- 「どうかキラを、お願いします」
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- 微かに震えているラクスを見てエミリーは真剣な表情で全力を尽くしますと言って、手術室の扉を閉める。
- その音がラクスの心にはいやに大きく響いたように感じられた。
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PHASE-29 「彷徨う心」
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- プリテンダーが爆発する直前、キラは壁に向かって腹部の複相ビームを放ち、その爆風を利用して壁から離れてプリテンダーを引き剥がす。
- その衝撃にコックピットを激しい振動が襲うが、このまま自爆に巻き込まれるよりはマシだ。
- そして残っている左足で蹴りを入れると、プリテンダーのボディ部はオッディスの悲鳴とともに先ほどの砲撃でできた穴の中からコロニー内へと消えていく。
- その直後眩いほどの光と衝撃がストライクフリーダムを襲う。
- 咄嗟にビームシールドで防ぐが、その衝撃にストライクフリーダムは宇宙空間に勢いよく飛ばされる。
- 目の前が真っ白になりながらキラはその光が核であることに気が付いた。
- ストライクフリーダムと同じ核エネルギーで動くMSがあることに信じられないと思いながら、その意識は暗闇の底へと落ちていった。
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- 次に気が付くと薄暗い天井を眺めていた。
- 死んだのかなとぼんやり考えながら起き上がろうとすると体中に激痛が走る。
- よく見ると汚れているが体にはしっかり包帯が巻かれている。
- 右目が見えないと思い触ってみると、頭にも包帯が巻かれているのがわかる。
- そこでようやくここが何処か、ということに思考が移る。
- 自分はベッドに寝かされているようだが、周囲は無機質な灰色の壁に覆われているだけだ。
- ふと傍らを見ればガラス越しにボロボロのストライクフリーダムが見える。
- よく見ると左腕や右足を失っただけでなく、あちこち装甲が溶解したり細かい傷だらけなのが見て取れる。
- それを悲しげな表情で見ながら、また襲ってくる痛みに呻き声を上げる。
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- キラに背を向けて座っていた一人の男が、そんなキラに気が付いて振り返る。
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- 「ほほ、気が付いたようじゃな」
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- 深く白い顎鬚が特徴的な白髪の老人だ。
- どうやら彼が手当てをしてくれたらしい。
- それに気が付くとキラは痛みに少し顔を歪めながら、ありがとうございますと礼を述べる。
- それからここがどこなのか尋ねる。
- 老人はここはL4コロニー群の最も地球から遠い、今は破棄されたコロニーだと言う。
- 施設の大半は死んでいるということだが、幸いにも水や空気は豊富にあり長年ここでひっそりと暮らしているということだ。
- そしてボロボロのMSが漂ってきてその中に人がいたもんじゃから驚いたわい、とキラを運んだ状況を説明する。
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- 老人はここから核の光を見ていた。
- その方角からしばらくしてストライクフリーダムはこのコロニーへと流れ着いたのだった。
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- 「メンデルが核で消失したことでプラントも大騒ぎじゃろう」
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- その言葉にキラは僅かに目を見開く。
- キラは自分が生きていると分かった時に夢だったのかと思ったが、あの時の光はやっぱり核だったということに愕然とする。
- そしてそれはキラの命を狙うために使用されたということに胸が痛む。
- 人は何故あの恐ろしい力をまた手にしてしまうのだろうか。
- それからふとプラントに残っているラクスのことを想う。
- 自惚れかも知れないが、ラクスが自分のことを心配しているだろうことを確信していた。
- もしかしたら死んだと思い、嘆き悲しんでいるかも知れない。
- それを思うとできることならすぐに無事であることを連絡して安心させたい気持ちはある。
- だが自分が生きていることがわかれば"FOKA'S"はまた自分を狙ってくるだろう。
- 今このまま戻ってもまたラクス、そしてプラントの多くの人に迷惑を掛けるだけだ。
- 一方プラントでは核爆発に巻き込まれたことで、自分はまたMIAに認定されたのではと考えた。
- またというところに小さく自嘲するが、色々と秘密裏に行動するにはその立場を利用するのも手だ。
- そう考えたキラはそれを利用して一人で"FOKA'S"に立ち向かうことを決意する。
- ラクスはプラントの議長として重責を負っている。
- キラはこれ以上ラクスに重荷を背負わせたくなかった。
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- そう決めたキラの行動は早かった。
- キラは老人に端末を借りて何かを入力し始める。
- しかし手も負傷しているようだ、キーを一つ叩くたびに手にも激痛が走り苦悶の表情を浮かべる。
- 老人はそれを見て、直るまで休むように言う。
- だがキラはその申し出を頑なに拒否する。
- 老人はよっぽどのことがあったのかと思い、そこまでする理由を尋ねる。
- キラは迷ったが、ポツポツとメンデルでの出来事を話す。
- その中でキラは自分のせいで、"FOKA'S"の彼らが失敗作と呼ばれ世界を憎むようになったと、血を吐くように言葉を搾り出す。
- そんなキラに老人は痛ましい表情を浮かべて、キラの思いをやんわりと否定する。
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- 「君のせいで彼らが産まれたわけではないじゃろ」
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- 失敗作を産み出したのは、その人工子宮を作った研究者達だ。
- キラが成功体として産まれたのはただの結果、偶然の産物に過ぎない。
- キラが望んで分かたれた結果ではない。
- それでも自分を憎む存在がいることにキラは納得できない。
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- 「それでも僕は、彼らを止めなきゃならないんです」
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- キラは感情を露にして声を荒げる。
- 老人はそんなキラに黙るしかない。
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- だがキラは"FOKA'S"のことを何も知らない。
- 相手のことがわからないのでは止めようも、説得のしようも無い。
- そのためには情報が必要だ。
- 自分が出生の秘密を知ったのは4年前。
- 両親の優しさ故に伏せられていたためだ。
- その両親の気持ちには感謝をしているが、キラは自分に関する秘密を知らなさ過ぎると感じていた。
- 自分の秘密を知ることがおそらく彼らに繋がるのではないかとキラは思う。
- 人工子宮の研究で失敗作として生まれてしまった自分の兄弟と呼べる者達。
- 彼らの気持ちを思うと胸が痛くなるが、だからといって彼らの行動を容認することは到底出来ない。
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- それから2週間、キラは大した治療もせず痛みに耐えながら、老人に借りた端末から"FOKA'S"へのハッキングを行っていた。
- 老人は時々キラの包帯を替えたり作業を手伝いながら、その姿を黙って切なそうに見つめている。
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- "FOKA'S"はかなり用心深く情報をやりとりしているようで収集は容易ではなかったが、キラは持ち前の技術で次々と情報を集めていく。
- そしてキラは自分の出生の秘密を知れば知るほど、"FOKA'S"のことを知れば知るほど胸に深い影を負う。
- 同時に当時の研究者達に激しい怒りと憎悪を感じる。
- 命は決して人が作り出すものではないということを、改めて思う。
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- そうしてとあるネットワークにハッキングしたキラは、"FOKA'S"がプラントを襲撃する計画を立てていることを知る、自分を誘き出すために。
- 一番に思ったのはラクスのことだ。
- 自分の守りたい人を失う辛さも怖さも知っているから。
- 赤い髪の少女が炎の中に消えていく様子を思い出し、唇をギュッと噛み締める。
- もう2度と失いたくない、失うわけにはいかない。
- キラは罠とわかっていながらプラントに戻って、ラクスを守る決意をする。
- 自分のためだけでなく、ラクスはこれからの世界に必要な人物だと固く信じているから。
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- 老人に今まですみませんでしたといいながら、キラはこれまで入力したデータをディスクに移しまだ痛む腕でしっかり持ったのを確認すると無重力空間の中に浮かび上がる。
- そんなキラに老人は何も言わず一冊のノートを差し出した。
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- 「ここに、当時の実験の関係者と被験者のリスト、実験結果が載っておる」
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- 受け取ったキラは訝しげな表情でノートの中身を確認し、その中には予想外の人物の名前もありキラも戸惑う。
- 予想以上にプラントは危険な状態にあることを認識する。
- キラの中にはラクスの笑顔が浮かんでは消え、胸を締め付ける。
- だがそこでハッと気付いてマジマジとその老人を見つめる。
- 何故この老人がこれを持っているのかとキラは目で尋ねる。
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- 「わしは贖罪したいだけじゃよ」
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- 無駄な足掻きだとわかっていてもな、と老人は自嘲気味に目を細めてキラの視線に答える。
- その答えに何となくわかったような気がしたキラだが、目を見開いて貴方はと尋ねる。
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- 「わしの名はポーター=マーカス。かつてメンデルでユーレン=ヒビキ博士と共に研究をしていた、今はただの浮浪爺じゃよ」
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- そう言うポーターの表情はキラへの謝罪にも、かつて命を弄んだことへの後悔と自責の念に苦しんだ想いが込められているようにも見える。
- それを見てキラはこの人も犠牲者なのかも知れないと思い、研究者達に抱いていた憎悪が胸の内からすっと消えていくのを感じた。
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- しばらくキラは黙ってポーターを見つめるがやがて無言のまま踵を返し、ノートを少し挙げてありがとうございますと言いながらMS格納庫へと流れていく。
- ここが無重力で良かったとキラは思う。
- 無重力でなければ歩くこともままならなかっただろう。
- 格納庫に着いたキラは呻き声をあげながらやっとの思いでストライクフリーダムのコックピットに座る。
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- 「悪いけどもう少し僕に力を貸して」
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- そう語りかけながらまだ動くことを確認して、ボロボロのストライクフリーダムで宇宙へと飛び出す。
- その後姿を悲しそうにポーターは見送り、目を瞑った。
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- 手術が成功し一命を取り留めたキラは、ラクスに付き添われて静かに眠っていた。
- 全身包帯だらけで腕には点滴、顔には酸素マスクをつけて何かの機械と繋がっている状態に痛々しいことこの上ないが、とにかく無事でよかったとラクスは愛おしそうにキラの寝顔を見つめる。
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- ラクスにはとてつもなく長い時間の様に感じられた後、エミリーは少し疲れた様子でようやく手術室から出てきた。
- 弾かれたように立ち上がったラクスを見て、エミリーはにこりと笑って手術は成功ですと告げる。
- ラクスは心底安心したように、そして張り詰めていた緊張が切れたのだろう、涙を零す。
- その場にいた一同からも安堵の溜息が漏れる。
- そしてラクスは病室に運ばれたキラの横に座ると、そこから動こうとはしなかった。
- しばらくエミリーは呆れた様子でそんなラクスを見守っていたが、ラクス様もお休みになってください、と声を掛ける。
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- 「そのお体は今は新しい命を宿しているのです。無理をなさってもしその子に何かあったら、ラクス様ももちろんでしょうが、キラ様も悲しまれますよ」
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- そう言いながらエミリーはずっと付き添っているのを見て、ラクスがどれ程キラを想っているか理解した気がした。
- またキラがどれ程ラクスを想っているかも。
- エミリーは手術が始まる前に、キラが微かにラクスの名を呼んだのを聞いたのだ。
- それを聞いてあれだけの重症で普通は動くことすらままならないはずなのに、おそらくラクスの危機を知り助けるために命懸けで戦場に現れたのだろうとエミリーは推測する。
- 正直それだけお互いのことを想うことができるなんて羨ましい。
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- ラクスはエミリーの言葉にキラの態度を想像する。
- 多分自分を看病したことや心配を掛けたことでラクスが体調を崩したりすれば、キラは自分自身を責めるだろう。
- お腹の子供もとなればどれだけ彼が傷つくか計り知れない。
- それはラクスが一番良くわかっていることだ。
- まだ静かに眠っているキラの髪をそっと撫でて、ラクスは改めて自分のキラへの想いを再認識する。
- ええそうですわね、と淡く微笑んで返事をしたのを見てエミリーは苦笑するとまた様子を診に来ますので、と言って部屋を出て行く。
- だがその後もラクスはじっとキラの寝顔を眺めていた。
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- そこへ静かにバルトフェルドが入ってくる。
- バルトフェルドもキラが助かったのが嬉しいのか、先ほどよりは随分と雰囲気が明るくなっている。
- そんなバルトフェルドにラクスも幾分明るく微笑んだが、バルトフェルドは真面目な表情で1冊のノートと2枚のディスクをラクスに差し出す。
- それはストライクフリーダムのコックピットにあったものだと説明する。
- バルトフェルドはキラを運び出した際、他の作業員達にストライクフリーダムのコックピットを調べさせた。
- そこで見つけたのがこのノートとディスクだ。
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- 「キラのことだ、あの"FOKA'S"とかいう連中の情報を仕入れているかも知れん」
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- このノートとディスクにその情報が入っているかも知れない、というのがバルトフェルドの意見だ。
- そうであれば今後の対策を取る上で非常に重要な情報だ。
- だがキラの出生の秘密に関わることも同時に含まれ、キラの心を深く傷つけるできごとかも知れない、非常にデリケートでもある情報で扱いが難しい。
- オーブと連絡を取った時にアスラン達が言いよどんだのも、おそらく彼らはこのことに気がついていたからだろうと推測した。
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- 「お前はキラの妻としてそれを見る権利があり、プラント最高評議会の議長として確認の義務がある違うか?」
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- これからキラの妻としてキラを支えていくんだろ?
- それならにラクスになら見せられる、ラクスにしか見せてはいけない気がしてな、とラクスに持たせる。
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- 「お前が見て、俺達にも話せる内容なら必要なことだけ話してくれ」
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- お前ならそれが判断できるだろう、とバルトフェルドは少し口元に笑みを浮かべて肩をすくめる。
- ラクスは戸惑った表情のまま、少しの間を置いてはいと返事をする。
- バルトフェルドはその返事に満足すると、踵を返して手をひらひらと振って部屋を出て行く。
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- バルトフェルドが部屋を出て行った後、ラクスはしばらくそのノートとディスクを手に持って眺める。
- キラの過去を暴くことになるかも知れないことに戸惑いと恐怖を覚えるが、意を決してノートを開いて目を通し、ラクスは驚いた表情でキラの寝顔を見つめる。
- ラクスはキラが何と戦ってきたか、背負ってきたものを理解した気がした。
- そして何故すぐ戻ってこなかったかも、今戻ってきたかも知ることができた。
- 自分を守るために無理をして痛みに耐えながら戦ったことに、喜びと深い悲しみが込み上げる。
- ラクスは想いが溢れ出して涙を一筋流し、キラの手にそっと自分の手を重ねる。
- しばらくそうした後、決意の表情でキラの頬に一つ口付けを落とすとすくっと立ち上がる。
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- 「キラ、少しだけ待っていてください」
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- そう言うとくるりと踵を返し、凛々しいまでの表情で部屋を後にした。
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