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- プラントのシャトルターミナル。
- ここはプラント間の連絡船、そしてオーブとの外航船が入る宇宙港だ。
- そこにはラクスを始め評議会議員達が緊張した面持ちで、今しがた到着したシャトルを見つめている。
- そのシャトルから先ずカリダが、やはり緊張した様子で無重力空間に飛び出してくる。
- それから子供達が初めて体験する無重力に戸惑いを感じながらも、はしゃいだ様子で次々と飛び出してくる。
- だが慣れない無重力空間では思うように進むことができず、あらぬ方向へ流れていく子供もいる。
- その様子に苦笑しながらもラクスは自ら宙に飛び出して子供達の手を取り、周囲のザフト兵達も手伝ってようやく全員がフロアにしっかりと立った。
- 子供達は何とか自分の立場が落ち着くと、今度は口々にラクスに無重力の感想や、地球での出来事を興奮気味に報告し始める。
- プラントの大人達はこの様子に戸惑うばかりだ。
- ラクスは1人冷静にあらあらと微笑みながらしばらく聞いていたが、詳しいお話は後でお聞きしますから、と優しく子供達の言葉を遮って、子供達の様子を一歩引いたところから見守っているカリダの方にゆっくりと向き直り、潤んだ瞳で頭を下げる。
- それを見たカリダは優しく微笑みながらラクスへと近づき、久しぶりねと一言だけ声を掛ける。
- その言葉を聞いてラクスは何故かホッとするような気がしていた。
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- キラはオーブでの戦闘の後、キサカやマルキオらと話をして、カリダと子供達をプラントで一時保護することを決めた。
- 再び"FOKA'S"がカリダを狙わないとも限らないし、万が一の時はキラの傍にいることが一番安全だと判断したからだ。
- その連絡はプラントにも伝えられ、ラクスもそれを了承し、すぐさま宇宙へと上がってきたというわけだ。
- 子供達は遠足かどこかに行くようなはしゃぎようだったが。
- そしてオーブを出発したシャトルはシャイニングフリーダムに守られながら、道中トラブルも無くこうして無事にプラントに到着した。
- キラはシャトルがターミナルに入ったのを確認すると、機体を専用格納庫に収めるためにここを離れ、今はここには居ない。
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- 「カリダさんに何のご相談もなくこのようなことになって、申し訳ありません」
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- ラクスは開口一番、申し訳なさそうにカリダに謝る。
- キラが傷ついたこと、キラと結婚することを何の相談もなく決めたことで、それがカリダにも迷惑をかけたという思いが、ラクスにその言葉を言わせた。
- カリダはそんなラクスに微笑むと、静かに頭を振る。
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- 「いいのよ、貴方の方が辛かったでしょう?」
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- そう言ってラクスを優しく抱き締める。
- その優しさをとても嬉しく思うラクスだが、プラント議長としての責任感が彼女を甘えさせることを躊躇させる。
- またその激務は望もうと望むまいと、時として周囲にも重責を背負わせてしまうことをラクスは知っている。
- 多分カリダもその辺りはわかっているはずだ。
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- 「ご迷惑ではありませんか?」
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- ラクスは恐る恐る、だが尋ねずにはいられなかった。
- こんな自分を本当に大切な息子の嫁として、妻として認めてくれてるだろうか。
- そんなラクスの心配を余所に、カリダは優しい笑みを湛えたまま、何が迷惑なのと否定する。
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- 「私は嬉しいわ、義理でも貴方みたいな人の母親になれて」
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- カリダは偽りの無い本音を語る。
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- 「そんな、私がカリダさんの娘だなんて」
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- ラクスは照れながら、遠慮がちに告げる。
- ラクスにとってカリダはキラを育てた偉大な母親として認識されているのだ。
- 血も繋がっていないのにおこがましいですわと謙遜する。
- だがラクスの言葉にカリダは少しだけ寂しそうな瞳で、首を横に振る。
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- 「私もキラとは血は繋がっていないわ。それでも私はあの子の母親だし、あの子は私の息子なの、絶対にね。親子って、そうゆうものじゃないかしら」
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- その言葉にラクスはハッと気が付く。
- 他の親子と異なりキラと血が繋がっていないことで、カリダはこれまで何度も苦しい思いをしてきただろう。
- 申し訳ないことを言ってしまったと思いながら、今更ながらキラの優しさはカリダから授けられたものなのだと改めて思う。
- それが血の繋がりよりも濃い絆が、2人の間にはあるのことを実感させる。
- 自分の子供ともそんな絆を築きたいと心に決めると同時に、自分もその絆の中に加えてもらえることがとても嬉しく、自然と強張っていた表情が笑みに変わる。
- そのラクスの表情の変化をカリダは満足そうに見つめると、今度はカリダから口を開く。
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- 「私の方こそ、キラのことを改めてお願いね。あの子はすぐに一人で悩みとかを抱え込んでしまうから」
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- キラが自分の出生の秘密を知って傷ついた時から、カリダはキラと同じ立場で、同じ目線で支えてくれる人が必要だと思っていた。
- 親としては寂しいことだが、それは自分ではできないことを知っている。
- だからそれができる人物にその思いを託すしかなかった。
- それがラクスなら安心して任せられると、共に暮らしていた時から思っていたから、この結果はカリダにとっても願ったり叶ったりなのだ。
- 唯一心配なのは、ラクスにとってキラが重荷にならないかということだ。
- そんなカリダの心情を察して、ラクスはお任せくださいと力強く頷く。
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- 「大丈夫ですわ。キラの行動の一つ一つが私の心を満たしてくれますから」
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- そう母親に向かって惚気とも取れることを平然と言ってのける。
- カリダはそんなラクスに驚いた表情を向けて、だがラクスの態度が可愛くも可笑しくて、やがてクスクスと笑い出す。
- ラクスも釣られて笑い出し、2人の新しい母娘は返事の変わりに微笑み合った。
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PHASE-39 「力の定義」
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- 「ちょっといいかな」
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- キラは、ラクスと自宅に来ていたアスラン、カガリに話し掛ける。
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- カリダ達がプラントに来て数日後、調査に向かっていたアークエンジェルも戻ってきた。
- シュウ達の攻撃を退けた後も付近に点在するいくつかのポイントを調査して回ったが、これといった成果は得られなかった。
- 既にどの場所でもデータは抹消された後だったのだ。
- これでは調査のしようもない。
- そのため彼らは一旦プラントに戻り、策を練り直すという結論に至った。
- アークエンジェルが戻ると、唯一得られた新型APSの性能検証と今後の方針を評議会は検討に入った。
- それまではしばしの休息ということで、アークエンジェルのクルーにはプラント内を見て回る許可が下りたのだ。
- シン達はヴィーノ、ヨウランらと思い出のある場所の散策に、マリューとムウは約束を果たすためとある人物の元へ、その他のミリアリアを始めとするクルー達もディアッカ、バルトフェルドの案内でアプリリウス市内の観光へと繰り出していた。
- アスランはというと、カガリが寝食で世話になっているヤマト邸に、挨拶へと訪れていた。
- 子供達とカリダは使用人に案内をお願いして、プラントの遊戯施設へと遊びに行っているため邸内はとても静かだ。
- それからアスランももてなされた茶菓子と紅茶を飲みながらカガリ、ラクスと一緒にお茶を飲みながらのんびりと過ごしていたところだった。
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- 「一緒に来て欲しい所があるんだけど」
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- 休みのところ悪いけど、とキラは少し言いにくそうにしながらそう続ける。
- その様子を3人は互いに頷き合ってからキラに笑顔を向ける。
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- 「ああ、私達は構わないぞ」
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- カガリが代表して応える。
- キラはホッとした表情でありがとうと言うと、各人に出かける準備をお願いして自らも準備をしようと部屋を後にしようとする。
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- 「で、どこに行くんだ」
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- アスランはキラの背中に肝心なことを投げかける。
- 行くのは構わないが、行き先がわかなければきちんとした準備ができない。
- アスランの言葉にキラはまた渋い表情になり半分だけ顔をアスラン達の方に向けて、あんまりいい所じゃないよ、と小さな声で答える。
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- 「ナブディアに、確かめたいことがあるから」
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- キラの答えに3人は一様に驚いた表情を浮かべる。
- 犯罪者などを収容する施設の名前を上げたからだ。
- そしてナブディアは、その中でも最重要人物や第1級犯罪の容疑者を収容するところだ。
- そこには以前の戦闘で捕らえた"FOKA'S"のメンバー、テツが収容されている。
- つまりそこに行くということは、キラはテツと向き合おうとしていることがわかる。
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- 「僕一人だとまた一人で突っ走ってしまいそうだから。それに君達には真実を知っていて欲しいと思うから」
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- キラは拳を握り締めながら申し訳なさそうに呟く。
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- 「そんなこと今更気にするなよ、いつものことじゃないか」
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- しばしの沈黙の後、そんなキラにアスランは幼い頃のことを引き合いに出し、苦笑しながら小さく息を吐いて応える。
- キラはアスランに、それは昔のことじゃないかと少し膨れっ面をして部屋を後にしながら、そのやり取りで随分と心が軽くなった気がすることに、アスランに心の中で感謝した。
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*
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- ベッドの上に寝そべって目を閉じていたテツは、近づいてくる足音を聞きつけると目を開く。
- だだっ広い施設のたくさん牢屋がある中で、今はその内の一つがテツのために使用されているだけだ。
- 施設は幾つかのブロックに分かれているが、ここのブロックにはテツ以外は誰もいないことから、新しい捕虜が収容されるか、でなければテツに用があるかのどちらかだ。
- だがテツはそこから動こうとしない。
- またかという様なウンザリした表情で再び目を閉じる。
- 今まで新しい捕虜が収容されたことなどなく、テツの中では後者と決め付け、それは別段珍しいことではないからだ。
- プラントは"FOKA'S"の情報を聞き出そうと、頻繁に尋問に訪れるため、誰が来ようとも全く興味はない。
- そしてこれまでいくつもの尋問を受けてきたが、テツは口を割ることは無かった。
- 尤も、テツも彼らの最終的な目的を聞かされてはいないため、話したくても話せないという事情はあるのだが。
- 立場的にその事を信用されていないことはわかっているが、それでもテツにしてみれば知らないことを手を変え品を変え同じことを聞かれる、それの繰り返しに正直苦痛を感じているのも事実だ。
- 人の気配は自分の寝ている牢屋の前で止まり、テツは心の中で舌打ちをする。
- 無理矢理出されるまで無視しようと決め込み再び目を閉じ、だが特にすることもないこの状況に耳だけはその人物の言葉に傾ける。
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- 「初めまして、と言うべきかな」
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- キラは自分でも間抜けな事を言った気がしたが、何と声を掛ければいいのか分からず、こうして顔を合わせるのは初めてなので結局そう言った。
- 一方のテツは言葉よりもその声に驚き、ベッドから体をガバッと起こす。
- その声は忘れるはずも無い、戦闘中にストライクフリーダムから聞こえてきた声だ。
- それは相手がキラ=ヤマトだということを示している。
- キラがここに来たということは、さすがにテツも予想外だった。
- 驚きの表情でキラを品定めする様にマジマジと見つめるテツだが、やがてその驚きが引っ込むと怒りを含んだ暗い瞳でキラを睨む。
- キラもテツを観察するように見つめていたが、鋭い視線に気が付き苦笑しながら意を決して口を開く。
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- 「君達の目的は何?」
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- 未だ緊張の解けないキラは、端的に疑問を投げかける。
- "FOKA'S"の目的は自分の抹殺にあることは分かっている。
- だが一人の人間を抹殺するにしては大げさとも言える整備された戦力、宣戦布告までしてラクスやカリダを襲うその行動には疑問がある。
- さらにもっと大きな何かを最終的には企んでいるのではないかという意見もちらほらとあり、キラとラクスもその疑念を抱いている。
- そんな彼らを救うには、まず彼らの考えを知らなければならない。
- そのためにキラはナブディアを訪れて、テツに尋ねる決心をしたのだ。
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- 一方のテツはキラの質問を少しだけ心の中で反芻する。
- テツにはキラに対する憎しみの気持ちは、他の"FOKA'S"メンバーに比べて薄い。
- だが"FOKA'S"の組織のことは知っていても、メンバーの深い傷を知らないと取れるキラの言葉には何だかふつふつと怒りが込み上げてくる。
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- 「お前を殺すこと以外に、何がある」
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- テツは怒りを堪えながら、低く唸るように答える。
- お前のために皆苦しい思いをしてきたのに、と勝手な言い分でキラに毒づく。
- キラもそれはわかっており、そのことには少なからず責任を感じ、唇を噛み締める。
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- 「貴様達は他に何か考えていることがあるだろう」
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- はぐらかすようなテツのその態度が癇に障ったカガリが横から詰め寄るが、アスランにここはキラに任せようと窘められる。
- カガリは少し納得が行かない様子だが、テツに向かい合うキラの様子を見てぐっとこらえると、わかったとアスランと同じようにキラの数歩後ろに下がる。
- それを横目で確認したキラは、一つ息を吐いてから続ける。
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- 「それも聞きたいことだけど、ちょっと質問を変えるよ。何でそんなに僕を殺したい?」
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- キラからすれば普通の人とは違う生まれをしたことは大きな心の傷だ。
- それはテツやセイと何も変わらないと思っている。
- だからキラにはそこまで激しく憎まれる理由がわからない。
- 否、薄々は分かってはいることだ。
- だが分かりたくないというのが本音なのかも知れない。
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- 「お前が唯一の成功体だからだ。俺達は失敗作としてお前という存在を産み出すために実験体となり、或いは処分された」
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- 知らないとは言わせない、とテツは歯軋りをしながら苦々しげに吐き出す。
- テツに実験体としての記憶は無いが、ホドスからその苦い記憶と苦しみを聞かされていた。
- 傍から見ていてもその苦しみが自らの体験として錯覚してしまうほど苦しげな表情で語るホドスに、言葉が胸に突き刺さる思いでテツは聞いていた。
- その苦しみが今再びテツの胸に込み上げ、自らの悲しみを押し殺すように声を荒げて答える。
キラはやっぱりと心の中で大きな溜息を吐く。
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- 「でも君は君だ、僕とは違う人間だ。僕も君も、この世に唯一人の人間として産まれた命なんだ」
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- そんなテツを、キラもまた自分の胸を痛めながら見つめ、キラは説得するように言葉を紡ぐ。
- だがテツは全く聞く耳を持たない。
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- 「だが貴様には全てを手に入れる力がある。俺達には無い力がな」
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- テツは吐き棄てる様に返す。
- 現に戦闘ではボロボロのストライクフリーダムにアッサリ負けている。
- 敵を倒す力を欲していたテツにとっては、成功体だろうが失敗作がそれだけで憎しみ、嫉妬の対象になり得る。
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- キラはテツの言葉に俯くとぎゅっと唇を噛み締める。
- キラは自分に力があると思ったことは一度もない。
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- <最高のコーディネータ>
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- 自らの存在意義を見失った男も、思い通りに行かない世界に絶望した男もキラのことをそう評していた。
- こんな自分のいったいどこが最高のコーディネータで、何の力があるというのか。
- もし本当にそんな人達の言う力があるのならば、これまで救えなかった人達、傷つけてきた人達を救うことができたはずだという思いがキラの中にある。
- その思いがキラの心を掻き乱し、感情を爆発させる。
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- 「だったら何で、今僕に君達を救う力がないんだ!」
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- キラは珍しく声を荒げて叫び、自分の拳でテツとの間を隔てている鉄格子を殴りつける。
- 鳴り響いた鈍い鉄の響く音に、テツは思わずビクッと肩を揺らす。
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- 「君達の言う力は何?MSを扱う力?人を殺す力?そんなものがあったって誰かを傷つけることしかできない、辛い思いをするばかりだ。そんなものがいったい何になるって言うんだ!」
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- テツはその迫力に気圧されキラの言葉に呆気に取られると同時に、返すべき言葉が見つからず言いよどむ。
- キラの反応にはラクス達ですら驚いた。
- 3人とも普段キラがこれほど激情を露にしたところを見たことがなかったからだ。
- そしてキラがそれだけ今回の事件のことで思い詰めていたことを悟り、ラクスは寄り添って自分の手をキラの手に重ねる。
- キラはラクスの温もりを感じて僅かに落ち着きを取り戻し、弱々しくその手を握り返して小さな声で大丈夫と呟く。
- そしてラクスの方を振り返らままキラは、今にも泣きそうな痛々しいほど傷ついた表情でテツに訴えかけるように言葉を紡ぐ。
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- 「昔の僕はいつも、自分の無力さに苛まされてきた。守りたい人を守れず、結局他人を傷つけることしかできない。君達が言うような力が僕に本当にあるのなら、そんなことなかったはずだ」
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- キラの脳裏に思い出される、炎の中に消えた赤い髪の少女や折り紙の花をくれた女の子の事が、撃たなければならなかった顔も知らない相手の事が胸を締めつける。
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- 「僕を殺したって、君達の存在が変わるわけじゃない。どんなことがあっても、君達と僕は別の人間として産まれて、今を生きてるんだから」
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- まして同じ苦しみを知る自分と彼らが、何故憎しみ合い、戦わなければならないのか。
- 思いに耐え切れなくなったキラの目からは涙が零れる。
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- 「僕にしかできないことがあるように、君にしかできないことがあるんだ」
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- それだけ振り絞るように言うと、キラは鉄格子を握り締め寄りかかるように頭を垂れる。
- ラクスはこれ以上は無理だと判断し、キラに外に出るように促す。
- キラは涙を拭きながら弱々しくラクスに従い、踵を返すとその場を後にしようとする。
- アスラン達もキラを心配しながら、黙って後ろについていく。
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- 「俺はセイの目的を本当に知らない。組織でも立場は低かったからな、詳しいことは何も教えて貰えなかった」
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- ベッドに座ったままのテツは視界から消えた後のキラ達の気配を探っていたが、ポツリと呟く。
- テツの言葉にキラ達は立ち止まって振り返る。
- 感情のままに言葉を連ねたため、もう一つ確認しなければいけないことの答えがまだだったことに、4人は今更気が付く。
- そしてテツが突然そのことを話し始めたことに驚き顔を見合わせるも、その場で耳を傾ける。
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- 「正直俺は他の奴ほどアンタを憎んでいない。物心ついた時には小汚い施設にいたからな。アンタのことや自分の出生のことなんて知らなかったし、これっぽっちも気にしたことなかった。他の奴はアンタを産むそのために、実験体として色々と辛い目にあったみたいだがな」
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- 俺もそうなるはずだった、とそこまで言って黙り込む。
- テツはホドスのことを思い出してまた、胸に込み上げる思いを堪える。
- そのだんまりが、テツの話に信憑性を持たせた。
- 沈黙がしばらく続いたところで、キラはありがとうとテツに告げると、少しだけ表情を明るくして4人は施設を後にする。
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- キラ達が完全に去ったのを感じ取ると、テツは再びベッドに横になり薄暗い天井を見上げる。
- キラに対する怒りは心の奥には燻っている。
- 心の寛大さを見せつけられた様で、成功体と失敗作の違いを改めて実感してしまう。
- だが今までの自分に何か疑問を投げかける自分もいた。
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- 「自分にしかできないこと、か」
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- テツは表情は穏やかにポツリと呟く。
- そんなことは考えたこともなかった。
- 本当にこんな自分にもそんなものがあるのだろうか。
- 結局眠ってしまうまで、そんな思いが頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
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