- ヤマト家に新しい家族が増えてから数年後。
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- 今日のプラントは小春日和の休日だ。
- そんな気持ちの良い日に、双子はミライを連れて散歩に来ていた。
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- ミライは茶色の髪を肩の下で垂らし、愛らしい大きな紫紺の瞳を持った女の子だ。
- キラとラクスの子供というだけでなく、新しい避妊治療により産まれた最初の子供としてその一挙手一投足が注目を浴びている。
- またキラを彷彿とさせる容姿が可愛らしくて、また活発に愛らしい笑顔を振りまく姿が話題で、プラントでは既にアイドル並みの人気だ。
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- そんなミライは、兄と姉である双子に手を引かれて訪れた公園で感嘆の声を上げた。
- 初めて見る鮮やかなピンク色で咲き誇っている桜並木に感動して、見入っている。
- そしてその小さな手を一生懸命伸ばして、ゆらゆらと散る桜の花びらを掴もうとジャンプする。
- しかし花びらはそんなミライの手をすり抜けて、地面にそして彼女の頭に降り注ぐ。
- 自分の手から逃げてしまった花びらに不服そうに口を尖らせながら、それでも懲りずにまた次の花びらを捕まえようと手を伸ばす。
- 双子はその様子を微笑ましくも苦笑しながら見守っている。
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- 「あんまりはしゃぎ過ぎると転んじゃうよ」
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- コウが兄さん風を吹かせて、ミライに注意を促す。
- 実際ほとんど足元を見ずに飛び跳ねているので、それを心配した兄心というやつだ。
- しかしミライは意に介さない様子で、笑顔を浮かべたまま双子の方を振り返る。
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- 「だいじょうぶですわにいさま。ねえさまもはやくきてください」
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- まだ舌足らずな口調でそう言うと、ミライは双子を置いてたっと奥の方へと駆け出していく。
- その様子にヒカリも一つ息を吐くと、ポツリと呟く。
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- 「また言うことを聞いてもらえませんでしたわね、お兄様」
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- 悪戯っぽく言い置いて、ミライを追って走り出す。
- 口には出さなかったが、ヒカリもコウと同じことを心配したから、ミライから目を離さずにいようと言う訳だ。
- 取り残された格好になったコウは、ポリポリ頭を掻くとヒカリの言葉に少し頬を膨らませてから2人の後を追いかける。
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- この頃のミライはやんちゃなくらいに活発で、色々なことに興味を示しては勝手に出歩くこともしばしばだ。
- その度にヒカリやコウは注意するのだが、彼女の好奇心を抑えることはできず、そのことにいつも苦心している。
- それを諌めたり言うことを聞かせられるのはキラとラクスだけなのだ。
- 両親の言うことなら、ミライは素直に聞くのだ。
- それを見て、双子は改めて両親のことを尊敬している。
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- ところでこの場に、3人の子供の両親たるそのキラとラクスの姿はない。
- このところ2人はますます忙しそうにしている。
- 休日も家を空けることが多くなり、子供達とも話をする機会も少ない。
- だからミライの面倒を見るのは双子の役目だ。
- キラやラクスとしては申し訳ない気持ちで一杯なのだが、それを言うと双子は笑って首を横に振る。
- 両親がどれだけ大変な仕事をしているか、今ではしっかり理解しているつもりだし、可愛い妹の面倒を見ることは少しも嫌だとは思わないから。
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- それに双子も、少しずつ両親の仕事の手伝いを始めていた。
- そして少しは同じ目線に立てたことで、この世界の情勢、自分が何をすべきかということを考えるようにもなっていた。
- そんな双子に周囲も少しずつキラとラクスの後継者として、期待の眼差しを向けるようになり始めていた。
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- 時代は少しずつ、だが確実に未来へと動いていた。
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FINAL-STAGE 「そして未来へ」
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- 双子はこれまでは何をするにもずっと一緒で育ってきたのだが、この頃は一緒にいないことも増えてきた。
- 別に喧嘩をしているわけではなく、各々自分の潜在能力を発揮する中でそれぞれの異なる分野に興味を持ち、それ故に別々の道を歩み始めているのだ。
- 双子離れしてきた、とでも言うのだろうか。
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- ヒカリはキラに教えを請い、プログラミングなどの技術を勉強している。
- 元々見よう見まねながら独学である程度スキルを身に付けているだけあって、その実力はかなりのもので、キラが率いている開発チームのスタッフも舌を巻くほどだ。
- キラも軽い驚きを見せながら、それでもまだまだ発展途上の力だったので、システム構築の基礎や構造の説明等、自分の知識をヒカリに教授していく。
- そしてヒカリはそれを湯水の如く吸収していき、それもまたキラを驚かせる。
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- ミライの誕生でプラントの少子化問題も改善の兆しを見せている。
- キラにはそのさらなる発展、また他の新しい技術適応へのシステム開発の依頼が多数あり開発案件は山ほどある。
- しかしキラはラクスの秘書官としての仕事も多忙を極めるため、一つの開発をヒカリの勉強も兼ねて任せることにしていた。
- システム構築を学ぶには、基礎が大事なのは確かなのだが、ある程度のことが身につけばあれこれ言うよりも経験を積むのが一番なのだ。
- もちろんサポートはするつもりだが。
- それだけの実力は既に身についていると、キラは判断した。
- ヒカリはそれを純粋に喜び、張り切っている。
- 今は暇を見つけては一生懸命、仕様書と睨めっこをしている。
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- コウはラクスに教わりながら政治学の勉強をしている。
- ラクスは人と話す時の姿勢や、自分がどんな気持ちで演説に臨んでいるかなどを話して聞かせる。
- また政策を行うことはどうゆうことか、状況に応じた判断や他人と意見を交換し合う時の留意点など、経験も踏まえて教えていく。
- 尤もこれらは教えられてできるものではないため、ラクスも必要最低限のことを教えたら、後は実践あるのみだと思っている。
- だからいずれそういった場を経験してもらうつもりだ。
- その一環として、既に一度メディアの前にラクスと並んで立ち、その演説を傍らで聞かせている。
- 自ら言葉を発する機会はさすがに無いが、これにより人前に立つことやメディアに晒される意味を、その身で体験させているのだ。
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- またレコーディングスタジオにも連れて行き、歌手としても発声の勉強などをさせている。
- ラクス自身発声の勉強が、演説での声の張りなどにも生きていることを実感しているので、歌も歌わせてみたのだが、コウの歌唱力は想像以上に高く、スタッフ達を驚かせていた。
- ラクスも予想以上にコウの歌がうまく、またこれらに興味を持っていることを頼もしく思い、時折ラクスから進んで仕事場に連れて行くようになっている。
- そしてまずは歌手としても本格的なデビューの話が進み、それらの練習をこなしている。
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- どちらも子供にとっては初めての経験で、難しいことばかりだ。
- しかし双子は辛いとは思わなかった。
- 確かに一筋縄ではいかないが、自分が大人になったような気がして。
- 何より両親の手伝いができるということが、双子にとって何よりも喜ぶべきことだ。
- 幼い頃から両親のようになることは、ずっと夢見てきたことなのだから。
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- とは言っても、キラとラクスには幼年学校を休ませてまでやらせるつもりは毛頭なかった。
- まずはしっかりと基本的な勉強、そして友達付き合いを学校生活の中で学んで欲しいと思っているから。
- だから双子もまず幼年学校の生活ありきで、それらを勉強している。
- それに学校には大好きな友達もいるので、そのことに不満も無い。
- 両立させることは大変だが、それは充実感に満ちた時間であり、その心には大きな未来が思い描かれていた。
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*
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- 3人の子供がじゃれ合っている中で、突然ミライが双子の後ろにある何かに気がついて走り出した。
- 何だろうと思って双子も振り返ると、2人ともやはり驚いた表情を見せる。
- そこには両親が立っていたからだ。
- 今日はやらなければいけない仕事があると言って朝早くから出掛けていたので、双子がこうしてミライを花見がてら散歩に連れてきたのだが、まさかそこに両親が現れるとは思っていなかった。
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- 双子も表情を崩すと、妹に遅れじと駆け寄る。
- 随分と大人びたと言っても、双子もまだまだ両親が恋しい年頃の子供だ。
- 満面の笑みで両親に抱きつく。
- コウは笑顔を見せながら、どうしてここに居るのか尋ねる。
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- 「仕事はもういいの?」
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- 三様に飛びついてくる子供達を何とか受け止めながら、キラはにこりと笑みを返して答える。
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- 「うん、何とか今日の仕事は片付けたからね」
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- キラとラクスはこれからの世界のために、様々な活動を行っている。
- 地球圏の平和のために地球上の全ての国に呼びかけて、新たな組織の立ち上げを提言している。
- やはりというか各国の反応は思わしくないが、それは予想された話だ。
- それでも諦めるわけにはいかない。
- 彼らは双子が産まれる前から、そうやって戦っていくことを心に決めたのだから。
- そのために根気よく呼びかけを続けながら、具体的な案を詰めているところだ。
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- しかしながら自分の家族との時間も大切に出来ないで、愛する者への精神やその大切さを、どうして全ての国家に平和への訴えって行くことができようか。
- そのためにも子供達と一緒にいる時間も大切だと思う彼らだから、それに彼ら自身双子のことも、ミライのことも愛しているから、何とか見切りを付けると仕事を終えて戻ってきたのだ。
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- 「では今日は、ご一緒にお花見ができますわね」
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- ヒカリが嬉しそうに提案する。
- 折角家族が揃ったのに、このままお花見をしないのは勿体ないというわけだ。
- キラとコウもいいねと笑顔で賛同する。
- ミライは意味が分かっているのか、おはなみ〜、と満面の笑みで言って、喜びを体で表現するようにラクスの足元でぴょんぴょん飛び跳ねる。
- ラクスもそんなミライの頭を優しく撫でながら、笑顔で同意を示す。
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- 「今年も、綺麗に咲きましたわね」
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- それから視線を桜の方に上げて、目を細める。
- そうだね、とキラも同意して頭上に咲く満開の桜を見つめる。
- 両親に釣られるように、双子もミライも空を仰ぎ見る。
- そこには白い光をバックに、淡い桜の花が風に揺れていた。
- まるで何かのリズムを刻むように。
- その光景はとても鮮やかに見えて、家族はまた柔らかい笑みを零す。
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- 双子はこの穏やかな時間をとても愛おしいと感じていた。
- そしてこの時間を永く大切にしたいとも思う。
- 少しずつ両親から学んでいる、その未来を築いていくのは、両親が築いた世界を引き継いでいくのは他ならぬ自分たちなのだから。
- そんな決意をしながら、コウは母の、ヒカリは父の片方の手を握り、もう片方は未来の手を握って桜を見上げる。
- 両親も未来も笑顔を浮かべてそんな双子の手を握り返す。
- その手から伝わる温もりは、とても温かい気がした。
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- 桜の花の隙間から零れる眩い光が、そんな彼らの未来を祝福するように降り注いでいた。
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