- ESPEMの事務所が設置されたマンティウスクレータは、地球から見ると表面と裏側の境目辺りにある。
- 地球圏の監視者であることを示すと同時に、他国の政治への介入はしないことを意志表示するため、この場所を選んだ。
- もちろんその周辺空域はESPEMの管轄下にあり、他国が進入するにはそれなりの許可を要する。
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- その上空は今日も穏やかな星空が照らし出されている。
- いや、そのように見えていた。
- 流れてきた小さな岩石が、何もないところで、突然何か硬い物にぶつかったように砕けた。
- そこにはミラージュコロイドでカムフラージュした戦艦が旋回していた。
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- 「ヒュー達はうまくやってますかね」
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- その戦艦<セントルーズ>のブリッジでは、艦長席に座したナトー=セバスティが、ポツリと上官に投げかける。
- まっとうな正規軍ではないとは言え、こうして条約で禁止されているミラージュコロイドまで使って、不可侵とされるESPEMの領域内に進入しているのだ。
- 気を揉むなという方が難しい。
- MS奪還のために潜入したヒュー達も、それに自分達もかなりのリスクを背負っていることは承知している。
- 尤も生粋の軍人である彼はヒュー達の身を案じたのではなく、任務の成功をただ心配したに過ぎないが。
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- 質問を受けた上官たる人物は、顔に薄いグレーのマスクをつけており、僅かに口元だけが晒されている。
- 見慣れぬ者には異様な光景だ。
- しかしクルー達の誰一人としてそのことに口を出さない。
- 何も言わずに上官の指示に従うのが軍人と言うものだ。
- 尤も、あっても口を出せないのかも知れないが。
- その上官、バン=ショウキは躊躇うことなく非情に答える。
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- 「どっちだろうが時間になったら仕掛けて離脱する」
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- 抑揚のない冷たい声に、それを聞いていたクルー達の背筋に戦慄が走る。
- バンは常に冷静、冷酷な態度を崩さない。
- それを知っているクルー達にとってバンの言葉は当然のものだったが、そのあまりに威圧のある声に何度聞いても背筋に冷たい者が走るのだ。
- クルー達にピンと張り詰めた緊張感が広がっていく。
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- だがバンとてヒュー達ならできると判断したから潜入させたわけで、ただ冷酷なだけではない。
- 冷静に状況の把握や戦力分析が出来る、優秀な指揮官なのだ。
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- その時突然目の前で大きな爆発が起こった。
- と言っても、自分達が攻撃されたわけではない。
- ESPEMの戦艦が爆発したのだ。
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- 「定刻どおりだ。主砲を発射、狙いは港口だ。外すなよ」
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- それを見たバンが命令を下し、クルー達はテキパキと作業を進める。
- そしてミラージュコロイドを解除すると、主砲を港口目掛けて発射した。
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- バン達が会話をしている頃、イリウス=パッカードは密かに先行して、ESPEMの防衛部隊の真っ只中にいた。
- もちろんミラージュコロイドでカムフラージュしたMSで。
- 虚ろな表情に焦点の合っていない目はまるで亡者のようだが、その口元には薄っすら笑みを浮かべ、どこか狂気じみたものも感じさせる。
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- イリウスは本来こうしてじっと待っていることが苦手だ。
- 目の前に自分に快楽をもたらすものがこんなにたくさんあるというのに、据え膳を食わせないとはバンはどういうつもりだ、と内心毒づく。
- しかしバンの言うことを聞かなければ後でどれほど苦しい思いをしなければならないか知っている。
- それを思い出すと思わずブルッと震えるが、すぐに雑念を払うとこれから起こることに思いを馳せる。
- 戦闘は彼にとって唯一人生の楽しみだ。
- 弾ける光、立ち込める炎、無残に崩れるMSや人々の姿だけが虚ろな彼の心を満たしていく。
- それ以外の感情はイリウスの中には存在していなかった。
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- まだかまだかと時計と睨めっこをしていたイリウスだが、定刻が来たのを確認すると、急に喜びに溢れた表情でモニタを見据え、迷わず目の前の戦艦に向かって引金を引く。
- 放たれたビームは真っ直ぐ1隻の戦艦のブリッジを貫き、その爆光は明々と深闇の宇宙を照らす。
- それを見たイリウスはニタリと笑みを零して次のターゲットに狙いを定めていく。
- 彼は心の底から喜びの奇声を上げて、また引金を引いた。
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- 突然の攻撃に慌てたのはESPEMの防衛部隊だ。
- 何も無いと思われた空間からの突然の砲撃に、状況は混乱している。
- だがともかくそれを止めなければならないと、慌しく防衛にあたるMSや戦艦を発進させてくる。
- しかし港口はセントルーズの主砲によって破壊されており、しばらく援軍は出せないだろう。
- それでも港の外に展開していた部隊はまだ健在だ。
- それらをイリウス1人で相手をするには些か厳しい。
- がそれも予想の範疇内だ。
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- 「少し時間を稼ぐ。艦はこのままの位置で待機。定刻通りに撤退信号を出せ」
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- それを認識したバンは落ち着き払いそれだけ言い置いてブリッジを後にすると、MSデッキへと向かう。
- そこで自分の専用のMSコックピットにのっそりと座ると、カタパルトへ移動する間、何かを考え込むように静かに目を閉じる。
- それは戦場に出る気持ちの高まり、そして生まれる恐怖を抑えるかのよう。
- しかしオペレータから発進どうぞと声が掛かると一転、かっと前を射抜くように目を見開いて鋭く唸る。
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- 「バン=ショウキ、ストライクイージス、出るぞ」
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- 掛け声と同時にセントルーズのカタパルトから赤紫の機体がモノアイを怪しく光らせて、ESPEM部隊の真っ只中へと飛び出して行った。
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PHASE-03 「死の恐怖」
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- ケルビムがゆっくりと港へ向かって進む中、エミリオンは4機の新型MSに向かって通信を送る。
- 最大望遠でも4機が交戦状態であることしか確認できない。
- とにかく情報収集を迅速に行わなければ策の立てようが無い。
- ブリッジを緊迫した沈黙が包む中、しばらくして答えたのはジローだ。
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- 「タクミは裏切りおった!ライジンは今は敵や!」
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- 叫びながら切り込むライジンの斬撃を紙一重でかわし、攻撃の間隙を縫って自らもビームサーベルを振り下ろす。
- それをザンテツケンで受け止めたライジンと、機体の額を擦り合わせるような至近距離で鍔迫り合う。
- 言いながらようやく実感が湧いてくる。
- 目の前に居る、よく知った相手が敵だということが。
- それがジローの心に漣を立て、苛立ちとも戸惑いともつかない複雑な気持ちを抱かせる。
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- 一方のブリッジではジローの答えにざわめきが起こる。
- まさか自分達の部隊から、それも最新鋭の機体を任された者が裏切るという予想外の出来事に、レイチェルは咳き込みながら残り2機の状況についても尋ねる。
-
- 「フリーズは、フレアはどうなってるの?」
-
- 映像で捉える限りでは、フレアとフリーズもまた戦闘中なのだ。
- 状況から見てどちらかは敵に奪われ、どちらかは味方が乗っていると思われるのだが。
- しかし通信の故障かスイッチをOFFにしているのか、どちらからも連絡は無い。
- 結局返ってきた答えではそれを判断することはできない。
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- 「分からん。けど、クラスタはタクミに撃たれてしもた」
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- ジローは苦々しく言いながら迫るライジンから距離をとろうとしたが、通信に気を取られたことで反応が遅れたため間に合わなかった。
- 攻撃は受け止めたが、鍔迫り合いから伸ばした腕の反動で大きく弾き飛ばされて、フウジンは背中からMS格納庫の壁に激突し瓦礫の中に埋もれてしまう。
- ジローはコックピットを激しく揺らす衝撃に呻き声を漏らす。
- その間も機体に覆いかぶさるように瓦礫の雨は降り注ぎ、モニタが暗くなるほど完全に瓦礫の中に埋もれしまった。
- 操縦桿を必死に動かせるがそう簡単には起き上がれない。
- やられる、と焦ったジローは奇声を上げてビームシールドを瓦礫の中で必死にかざし、僅かに銃口が瓦礫の外に出ているビームライフルを闇雲に発射する。
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- 瓦礫の下でそうしてもがくフウジンを、デタラメな攻撃を避けながらしばし見下ろしたタクミは、クルリと背を向けると脱出のためにバーニアを吹かして飛び上がる。
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- 「時間だヒュー。このまま2機だけ持って帰還するぞ」
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- 作戦が完全には成功しなかったことは苦々しいことのはずだが、フウジンとの戦闘が一先ず終了したことをホッとした気持ちでいることに、モヤモヤとした感情を押し殺しながらそれだけ言葉を搾り出すと一目散に港口を目指す。
- 彼らの指揮者は冷酷だ。
- 時間に遅れると置いて行かれることは必至で、それは自らの死を意味する。
- 死を恐ろしいとは思わないが、こんなところで死んでたまるかという気持ちはある。
- これ以上無駄な時間を使っている暇は無いからフウジンに止めを刺さなかったのだと自分に言い聞かせる。
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- 通信を受け取ったヒューは分かってると短く叫ぶと、イーゲルシュテルンをフリーズに向けて放ちながら上空へ飛び上がる。
- そのまま外へ通じる港目指してバーニアを吹かして、フリーズに背を向けるとライジンの後を追う。
- フレアの攻撃にシールドで防御したフリーズは大きく距離を開けられる。
- 牽制だった攻撃に思わず地団駄を踏んで、させませんわ、とミライはペダルを踏み込んで後を追う。
-
- その行動もケルビムの管制は捉えていた。
-
- 「ライジンとフレアが離脱していきます。さらにフリーズがその2機を追っています」
-
- エミリオンが鋭く叫ぶ。
- その声にまたブリッジ内に緊張が走る。
- 状況からして敵の手に奪われたのはフレアのようだ。
- しかしフリーズに誰が乗っているかは依然として掴めない。
- 既に2機は敵の手に奪われているのだ。
- それを奪還することは重要な目的に違いないが、不用意に深追いしているフリーズまで失うことになっては、それこそ目も当てられない。
- ここは一度立て直す必要があるのだ。
- フリーズの行動を止めようとブリッジはまた騒がしくなる。
-
- 「おい、フリーズには誰が乗っている。エデューは何所だ?」
-
- ブリッジのやりとりをMSのコックピットで準備をしながら聞いていたザイオンは、もう1人、本来の新型機のパイロットであるエデューの名を呼んだ。
- しかし答えたエミリオンからは、また予想外な言葉が返ってくる。
-
- 「エデューは医務室に運ばれたのを確認しています」
-
- エデューは最初の爆発で崩れた格納庫の壁の下敷きになっていた。
- 命に別状はないものの足を負傷し今は医務室で治療中だ。
- 彼は目の前で自分の機体であるフレアが奪われるのを目撃していた。
- さらにフリーズにも見知らぬ女が乗り込んだのも見ている。
- ようやく自分の実力を認めさせて、新型機のパイロットを勝ち取ったというのに、どこの馬の骨ともつかぬ者にそれを奪われたとあっては、心中穏やかでいられない。
- しかしこの怪我ではMSの操縦は不可能だ。
- 医務室のベッドに横たわりながら、悔しさに顔を真っ赤にしてその屈辱に耐えるようにじっと天井を睨みつけていた。
-
- 思わしくない状況にザイオンは舌打ちして、通信機のスイッチを押しながら呼び続ける。
-
- 「フリーズ、応答しろ。誰が乗っている。深追いするな、戻れ!」
-
- フレアとの戦闘に集中していたミライは、そこでようやく通信が入っていることに気がついた。
- 何やら追うなと聞こえるが、それでは折角ここまできたのにみすみす逃してしまうことになる。
- ミライにはそれが気に入らない。
- モニタには逃げるフレアとライジンをしっかり捉えたまま通信機をONにすると、強い口調で反論する。
-
- 「それではこのまま逃げられてしまいますわ」
-
- その瞬間、ブリッジはおろかザイオン達も通信機の向こうから聞こえてきた声に驚いた。
- そしてモニタの回線に映し出された姿にさらに驚愕する。
- その声、その姿は紛れもなくミライ=ヤマトのものだったからである。
- 彼女がラクスとキラの娘であることは、もちろん誰もが知っている。
- しかしESPEMに所属する者ではなく、彼女自身はあくまでも一民間人なのだ。
- そんな自分達の組織のトップの娘が、まさか何故どうしてそんなところにいるのか。
- 一同は驚きで声も出ない。
-
- 「そこで何をされているんですか。早く降りてください」
-
- 何とか気を持ち直したレイチェルが、焦った様子で捲し立てる。
- ミライに万が一のことがあっては自分の首などで済む話ではない。
- 一体どれだけの関係者の首が飛ぶか分からない。
- まして彼女はコーディネータと言えどもまだ16歳の、それも何の軍事訓練を受けていない子供だ。
- レイチェルは自分の身の可愛さよりも、純粋にミライの身を案じた。
-
- 「ですが、今あの2機に一番近いのは私です。私が追わなければ本当に逃げられてしまいます」
-
- しかしミライは彼女らの心配などどこ吹く風で、このまま自分が追うと勇ましく答える。
- 確かに逃げようとする2機に追いつけるのは、今のところフリーズだけだ。
- 代わりの手立てが思いつかない以上、ミライの言葉にはぐっと詰まるしかない。
-
- その頃、ようやく瓦礫の中から脱出したジローは、怒りをたぎらせながら機体を大きくジャンプさせる。
-
- 「逃がさへんで!」
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- その声は通信機の向こうにも大きく響き渡る。
- 熱くなっているジローに対して、また悩みの種が増えたとザイオンは溜息を吐きながら、ようやく準備が整った機体のハッチを閉じてカタパルトへと移動させる。
- 素人であるミライと頭に血が上ったジローだけでは、奪われた機体を相手にするには分が悪い。
- 部隊の初陣としては最悪の状況だが、しかしこのまま彼らを放っておくわけにもいかない。
- また溜息を吐きつつも腹を括ると、ザイオンは表情を引き締めて操縦桿を強く握った。
-
- 「ザイオン=バークス、リックディアス、出るぞ」
-
- ザイオンの機体が飛び出し、続いて彼の部下が操縦するMS、ESPEMの主力量産機グロウズが後に続く。
- その中にはこれが実戦で初めてMSを操縦するという、ルーキーのリュウ=サイオンジもいる。
- リュウは緊張した面持ちで、とにかく僚機に遅れまいと必死に操縦桿を操作している。
- まさかいきなりこんな厳しい状況で戦場に出るなどと、彼自身も思っていなかった。
- 様々な不安が彼の心に、波の様に押し寄せては引いていく。
-
- 大丈夫、シミュレーションどおりにやればいける。
-
- リュウは気持ちを落ち着かせようと呟きながら、操縦桿を握り直す。
- そこにザイオンからの指示が飛ぶ。
-
- 「MS部隊はフリーズとフウジンの援護に向かう。ケルビムは外の様子を確認、そちらを援護だ」
-
- 行くぞ、と自分にも一つ気合を入れると、間もなく港口へ到達しようとしているフリーズ達3機のMSを追いかけて加速する。
- リュウも慌ててザイオンに倣い、機体のバーニアを吹かしてフリーズを追いかけた。
-
- 脱出のために港口に向かうヒューはまだ追ってくるフリーズにしつこいと舌打ちして、くるりと後ろを振り返ったかと思うとライフルの引金を引く。
- しかしミライは機体を一回スピンさせて、追撃体勢を崩すことなく回避する。
- まだ僅かな時間ではあるが、だいぶ操縦にも慣れてきた。
- 大丈夫、いける、とミライは自信を持ってフットペダルを踏み込む足に力を入れた。
-
- だんだんと動きがよくなるフリーズに、ヒューは戸惑いながらもライフルを連射するが、攻撃はことごとくかわされる。
-
- 一体どんなパイロットが乗っているんだ。
-
- 相手の技量にヒューはただ舌を巻くしかなかった。
- その様子を横目に見ていたタクミも危機感を募らせた。
- これ以上追われては厄介だ。
-
- 「なら、接近戦で仕留めてやる」
-
- 言うが早いかくるりと方向転換すると、フリーズ目掛けて一気に加速する。
- ライジンはフレアが放ったビームを追い越すように、ザンテツケンを振りかぶって接近する。
- フリーズは振り下ろされた斬撃を辛うじてビームサーベルで受け止めるが、その勢いと衝撃にバランスを崩して地上へと落下する。
- 地面すれすれで何とか持ち直すが、その隙を逃さずライジンが再び迫る。
- その突進力は速く、防御を構える時間を与えてくれそうに無い。
- 構えられた切っ先は、真っ直ぐフリーズのコックピットを狙ってくる。
-
- その攻撃が直撃することを予見した時、初めてミライは恐怖した。
- MSでの戦闘、そして自らの死に。
- ゆっくりと近づいてくるような錯覚を受けながら、避けることも忘れて、思わずぎゅっと目を瞑りモニタから逸らす。
-
- だが2機の間を一筋の光が通り、ライジンが動きを急に変え、フリーズに攻撃が届くことはなかった。
- ようやく追いついたリックディアスから放たれたビームが、間一髪ライジンの攻撃を牽制したのだ。
- タクミは舌打ちをして、再び港口目掛けて飛び退る。
- ザイオンも苛立ちを募らせながら、すぐさま後を追う。
-
- ミライはまだ衝撃が襲ってこないことに、恐る恐る目を開け、自分が助かったことを理解すると安堵の息を零した。
- しかし次の瞬間、先ほどの迫るライジンのビジョンがフラッシュバックし、両手で自分の肩を抱いて、恐怖に震える。
- ハロ達がそんなミライの状況を無機的に、脳波レベル低下、と叫んでいるが、その声さえも届いていない。
- コックピットに入った時は、自分が死ぬなんてことを考えもしなかった。
- ただ無我夢中でこの機体を操縦して、相手の思い通りなんかにさせるわけにはいかない、という安っぽい正義感だけで乗っていた。
- ミライはポロポロと涙を零しながら、自分の軽率な行動を後悔した。
- 自分は何の訓練も受けていない、キラとラクスの娘とは言え普通の女の子なのだ。
- 押し寄せる現実に、ミライはただ怯えた。
-
- ザイオンは急に動かなくなったフリーズの状況を察して、だから言わんこっちゃない、と舌打ちする。
-
- 「素人には無理です。機体を動かせるならともかく戦艦に帰還してください。これは子供の遊びではありません」
-
- 佇むフリーズを横目にそれだけ告げると、スピードを落とすことなくフリーズの頭の上を通り過ぎていく。
- 追いついてきたフウジンも、その後を追って港口の中へと消えていく。
-
- しかし負けん気の強いミライは、ザイオンの言葉に反発心を抱いた。
-
- 誰が遊びでこんなものに乗るものですが。
-
- あの状況では自分が乗らなければ、この機体も確実に奪われていた。
- それを何の労いもせずに、遊びで乗るなと言われては黙っていられない。
- 少しばかり気持ちが落ち着き、死に対する恐怖を強い反発心が何とかねじ伏せる。
-
- 「遊びでないことを証明して見せますわ」
-
- ハロがミライを奮い立たせるように、また一斉にエールを送り始める。
- それに背中を押されると、まだ溢れる涙をゴシゴシ服の袖で拭いて、恐怖と苦痛に引きつった表情ながら操縦桿を握り締め、再びバーニアを吹かして、港口の向こうに消えたフレアとライジン、そしてリックディアス達を追いかけた。
- そして宇宙へと飛び出したミライの目に飛び込んできたのは、迸る光の塊だった。
- あちこちで一際明るく光を放ったかと思うと、しばらくすると残光を残して消えていく。
- それが星明りではなく、戦闘による閃光だということを理解するのに、そう時間は掛からなかった。
- ミライの心にはまた恐怖と、そして絶望が溢れた。
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