- 目の前のモニタに敵機を確認すると、バンは無造作にコントロールパネルを起こし、モニタに映る機体を次々とロック、発射トリガーを躊躇わずに引く。
- 次の瞬間ストライクイージスから複数の閃光が迸り、それらは6機ものグロウズのコックピットを確実に貫き、宇宙に赤と黒の花が咲いた。
- それを見届けると、余韻に浸ることなくまた次のターゲットを探して狙いを定めていく。
- このストライクイージスは、従来では並みの操縦者が扱うことが出来ないマルチロックシステムを採用していた。
- 一度に複数の機体を撃ち落すことができるこのシステムによって、彼らの戦力数の差は無いに等しい状況にあった。
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- その様子を発進カタパルトでスタンバイしながら見ていたグリム=エドワードは、相変わらず凄いな、と味方の攻撃力に抑揚の無い声で感嘆を漏らす。
- とりあえず彼が味方で良かった、と心の中で呟いて、目の前に広がる暗黒の空間を見据えて操縦桿を握り締める。
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- 「グリム=エドワード、マラサイ発進する」
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- それを皮切りにセントルーズから今度は頭に傘を被ったような形状の赤い機体、彼らの部隊が使う量産機マラサイが数機飛び出す。
- そして一斉にESPEM防衛部隊に攻撃を仕掛けた。
- マラサイを加え、次々とESPEMの機体を撃ち落していくバン達。
- 防衛部隊の劣勢は明らかだった。
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- そこにESPEMの港から見慣れぬ機体が飛び出してくる。
- その形状は奪還を企てた機体のものだった。
- ようやく戻ってきたことにブリッジでも安堵の言葉が漏れる。
- しかし2機しかないことをバンもグリムも訝しく思う。
- 情報では新型機は4機あるはずで、それら全ての奪還が任務の内容だ。
- バンはすぐに回線を開く。
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- 「どうした、何故2機しかいない」
-
- 通信を受けたヒューが残念そうに、そして短く答える。
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- 「ドラウとヨウナは失敗だ。追っ手が来るぞ」
-
- これには普段ほとんど表情を変えない2人も渋い表情を作る。
- 危険な任務であることは承知していたが、まさか2機も強奪に失敗するとは計算外だった。
- 彼らにとってドラウとヨウナを失ったことよりも、相手の機体を奪えなかったことが大きな痛手だった。
- そしてヒューの言葉が終わるか終わらないうちに、ビームがMSの頭や肩先を掠める。
- 4人は舌打ちするとすぐに散開し、追っ手を向かい撃つ体制に入る。
-
- ザイオンは宇宙に飛び出すと目の前に広がる惨状に思わず息を飲む。
- 既にいくつもの戦艦の残骸が辺りを漂い、元はMSだったと思われる破片があちこちに散らばっている。
- それが物語る状況は想像に難くない。
- 状況に歯軋りしながら、ザイオンはライフルを構えると、フレア、ライジンと集まっている4機のMS目掛けて威嚇射撃を放つ。
- だがやはりと言うか、4機は散開するとそれぞれが反撃に転じてくる。
- そしてその内の1機がこちらへ向き直り、機体からいくつもの閃光が迸る。
- ザイオンは逸早く気がついて回避行動を取ったが、後方についていた2機のグロウズは回避行動もままならないまま光が突き刺さり宇宙の藻屑と化した。
- それを呆然と見たザイオンは一気に緊張感が全身を駆け巡り、思わず操縦桿を握り直す。
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- 奴は、強い!
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- ザイオンの頬には、冷たい汗が一筋流れた。
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PHASE-04 「光広がる宇宙」
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- 何とか気持ちを持ち直したミライだが、まだ全てにおいて冷静になれたわけではない。
- 最初はあちこちで起こる光に見惚れるように、しかし恐怖に揺れる眼差しでボーっと見つめていた。
- 戦争など遠い国の出来事で、それを無くすために頑張っている父と母の姿をずっと見てきたミライにとっては、まさか自分が巻き込まれるなどということは夢にも思っていなかった。
- しかし現実に今、自分はMSに乗ってそれを操縦している。
- それさえも夢の中の出来事のようで、ミライの思考は様々な思いが入り乱れているような、それでいてポッカリと穴が開いたような、そんな状態だった。
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- 流れ弾のビームがフリーズのすぐ近くを通過して、そこでミライはハッと我に返る。
- 直撃すれば一撃で死に至る閃光が飛び交う中で、ボーっとしていては非常に危険だということに今更ながら気がついた。
- それから焦った様子でモニタやレーダーで敵の位置を確認しようとする。
- しかし焦りのあまり何度か操作ミスをしてしまう。
- 何度か落ち着けと自分に言い聞かせてようやくビームが交錯している場所を見つけて映像を拡大し、そこをじっと見つめる。
- おそらくあそこに敵に奪われた機体があるはず。
- だがそこに飛び込むことには躊躇う気持ちがある。
- 先ほど命の危機にさらされた恐怖が脳裏に甦り、体が自然と震えてくる。
- 自分の手で両肩を抱きしめながら、このまま逃げ出してしまい衝動に駆られる。
- しかし自らの覚悟の程を思い返した時、先ほどザイオンに言われた言葉が甦り、今度はふつふつと怒りにも似た感情が湧いてくる。
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- 私は決して遊びでなど、乗っていません。
- 戦争を引き起こそうとする彼らを、許せないだけです。
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- 幼い正義感が僅かに恐怖を上回った。
- 無重力を楽しむかのようにパタパタと頭上を漂うハロ達に、もう少し大人しくしていてくださいな、と言い聞かせると操縦桿を強く握り締める。
- そしてフットペダルを踏み込んで、奥歯を噛み締めて、だんだんと大きくなるモニタの光を凝視する。
- 相手を倒すことでも機体を奪還することでもない、自分が遊びで乗っているわけではないことを証明することが、今のミライの最優先事項だった。
- しかしそれは戦争とは程遠い感覚で、それが遊びで乗るなと叱責された理由だと言うことに、彼女自身気付いていなかった。
-
*
-
- その頃ザイオン達とバン達は激しい戦闘の真っ只中にあった。
-
- ザイオンは部下への指示を飛ばしながら6つの砲撃を同時に放ち、それらを味方機に確実に当ててくる敵機を目の前に焦燥感に駆られる。
- このまま攻撃をさせておくことは、こちらにとって不利だ。
- とは言っても、あの攻撃を掻い潜って接近する術を今の彼は持たない。
- 牽制のビームを放ちながら一定の距離を保って追いかけ、ストライクイージスを抑える方法を必死に考える。
- しかしバンの方はそれを悠長に考える間を与えない。
- リックディアスに乗っているのが隊長クラスの人間だと見抜くと、リックディアスに狙いを絞り、
- ビームサーベルを抜いてバーニアを吹かして加速する。
- ザイオンもビームサーベルを抜いて構え、擦れ違い様に振り下ろしたそれが交錯して放電現象が起こったかと思うと素早く離れて光は消え、しかしすぐ次の攻撃がまた光を放ち、それを数度繰り返す。
-
- 「お前達の目的は何だ?」
-
- ビームサーベルを交えながら、ザイオンは問い掛ける。
- 見るからに正規軍ではないが、見たことも無いMSを扱っている等、ただのゲリラにしては装備が過ぎている。
- 何よりESPEMを襲撃するなど、正気の沙汰とは思えない。
- 何か途方も無いことが起きようとしているのではと、直感的に感じた。
-
- しかしバンは答えない。
- バンにとってこの奪還作戦は上からの指示に過ぎず、目的や意志などはどうでもよかった。
- 指示通りに作戦を遂行する。
- 彼にとって生きる理由や意味はそこにしかなかったから。
- 否、真に生きる目的は一つあるが、それは今ここでは関係の無いことだった。
- ただ聞こえる男の声が少し耳障りだな、という感想だけ抱いて、殺意の篭った眼差しでリックディアスを睨みつける。
-
- 「お前が俺に勝てると思うなよ」
-
- 凶暴な言葉を漏らしながら、バンは再びトリガーに指を当てて躊躇い無く引く。
- 再びストライクイージスから6つの閃光が走り、ザイオンは呻き声を上げながらシールドをかざして必死にそれを避け続けるしかなかった。
-
*
-
- リュウは目の前で咲く光の花にボーっと見入った。
- 初めて飛び出した戦場で、いきなり激戦の中に放り出されて、正直どうすれば良いのか分からない。
- 戦場のざらついた血生臭い感覚に、ただ圧倒されるばかりだ。
-
- そこにバイアランが右腕を前に突き出して、その掌からビームを放ちながら接近する。
- 攻撃を受ける前に接近に気がついたリュウは思い切り操縦桿を引き絞って旋回し、紙一重でバイアランと交錯しながら回避する。
- しかしそれで安堵したのも束の間、バイアランも急旋回すると再び襲ってくる。
- リュウはビームサーベルを抜くと、今度は擦れ違い様に腕を切り落としてやろうと考えた。
- しかしイリウスはそれを読み、ビームクローを構えると振りかぶって切りかかる。
- リュウは読み違えたことに焦ったが、何とかビームサーベルで受け止る。
- だが相手の動きは速い。
- 鍔迫り合いになるかと思いきや、器用に足を折りたたんだかと思うと、それを伸ばして強烈な蹴りをグロウズに喰らわせる。
- 機体は慣性に従って後ろに流れながら、衝撃に呻き声を漏らすリュウ。
- その隙を逃さず、バイアランは続けざまにビームクローで切りかかる。
- リュウは体勢を立て直すと、何とかビームサーベルで攻撃を受け止める。
- しかしこのまま鍔迫り合いをしていてはジリ貧だ。
- 最初に攻撃を回避したことで、一時の混乱から脱したリュウは、相手のボディーが無防備であることに気がつく。
- 同時に体が反応し、機体の空いている左腕にライフルを取らせる。
- そして銃口をバイアランに押し当てると、引金を引く。
- 今度はイリウスがその行動に気がつき、腰部を掠めてギリギリでかわした。
- リュウはよけられたことに舌打ちして、銃口の狙いを定めながら逃げるバイアランを追う。
-
- その間中、イリウスはずっと虚ろな笑みを浮かべていた。
- 彼は相対した思わぬ強敵に、心から喜びを感じていた。
- ちりちりと肌が焼け付くような緊張感は、彼に生きているということを実感させる。
- そしてそんな強い相手を殺すことだけが、彼の虚ろな感情を唯一満たしてくれる。
- 今この瞬間だけが、彼に生の喜びを与えるものだった。
- イリウスはよだれを垂らさんばかりに口の端を持ち上げて笑うと、唾を撒き散らしながら唸り声を上げて再び切り掛かった。
-
*
-
- 迫るグロウズを切り捨てたタクミは急速に接近する機体をレーダーに捕らえて、そちらを振り返った。
- それは通常のMSではありえないスピードで接近し、シグナルもそれが相手が誰だかを示している。
-
- 「もう許さへんで!」
-
- ジローは叫びながらビームサーベルを横に構えて、高速でライジンに接近する。
- そしてスピードに乗せた一撃をライジンに浴びせる。
- タクミは攻撃は辛うじて受け止めるが、その衝撃にコックピットは激しく揺れ機体は大きく傾ぐ。
-
- 「お前もしつこいな!」
-
- 毒づきながら、衝撃で軋むシートの上でぐっとくぐもった声を漏らす。
- クラスタを撃ったことは彼の中では正当な理由があり、今更何の後悔も無い。
- しかしそのことをこうも責められることは不愉快以外の何ものでもない。
-
- そんなタクミの感情など理解できないジローは、機体の持ち前の機動力ですぐに旋回させると、今度はビームライフルを構えてビームを連射する。
- タクミは素早く上に飛び上がりビームを回避すると、肩にマウントされたビーム砲で応戦する。
- 尾を引いて伸びる光は、互いの機体を後数センチというところを掠め、闇の彼方へと消えていく。
- そのコックピットの中で、怒りに燃えた瞳でジローはライジンを睨みつけ、タクミは冷めた目でフウジンを見つめる。
- そこにお互いの主張を受け入れる余地は無かった。
-
- 「俺達の邪魔をするなら、お前も倒すまでだ」
-
- 射撃の止んだその隙にタクミは背中の“ザンテツケン”を抜くと、切っ先をフウジン向けて構える。
- 殺意が刀身を覆い尽くし、先ほど自分の中に湧き上がった不可解な感情を振り払うと、タクミは気合一閃、一直線にフウジン目掛けて加速し振り被った“ザンテツケン”を上から下へと薙ぎ払う。
- ジローもライジン目掛けて加速し、叫び声を唸らせてビームサーベルを力一杯振り被る。
- 最早2人の決別は決定的だった。
- 同時に振り下ろされたサーベルの交わった光が、2人の心の中とは対照的に周囲を明るく照らし出した。
-
*
-
- 確実に1機ずつライフルで撃ち落していたフレアに、1機のグロウズが近づいてくる。
- ヒューは敵機の接近を知らせる警告音に従って、そのグロウズを狙いロックした。
- しかし通信機の向こうから聞こえてきた声に心底驚いた様子で目を見開く。
-
- 「待て、俺だ。ヨウナだ」
- 「ヨウナ!?お前、生きていたのか?」
-
- それはESPEM基地で置き去りにしてしまったはずのヨウナだった。
-
- ヨウナは新型機の奪還に失敗した後、ESPEM兵士達の銃撃を掻い潜ってグロウズに乗り込み、何とか脱出を果たしたのだ。
- 仲間が生きていたことに安堵の表情を浮かべるヒュー。
- しかしそれも束の間、そこに閃光が襲い掛かる。
- 三度フリーズがフレアに挑んできた。
-
- 「そのMSを返しなさい!」
-
- ようやくフレアを見つけたミライは唸りながら、ライフルを連射して接近する。
- まだ追ってくるフリーズにヒューは舌打ちして迎撃体勢を取る。
- しかしそれよりも早くヨウナが強烈に反応した。
-
- 「その機体は、俺のだーーーっ!」
-
- 強奪し損ねた機体を見たヨウナは一瞬驚いて目を見開いた後、憤怒に満ちた真っ赤な顔でフリーズに襲い掛かった。
- ヨウナにとってもバンは味方でありながら恐ろしい存在だ。
- 作戦が失敗したとあれば容赦ない叱責と制裁が待ち受けている。
- また自分の力には絶対の自信を持っていた。
- そのプライドをズタズタにされた私怨が、ヨウナの心を鬱陶しいほど逆撫でする。
- グロウズはフリーズにショルダータックルを喰らわせると、そのまま組み付く。
- そしてそのままコックピットだけを刺し貫いてやろうと、ビームサーベルをフリーズ目掛けて一直線に構えた。
-
- ミライは味方だと思っていたグロウズの体当たりに驚きながら、コックピットに伝わった衝撃に悲鳴を上げる。
- そして身動きが取れないように組み付かれたかと思うと、刺し貫こうとビームサーベルを振り被るグロウズの動きを、スローモーションでも見るようにゆっくりと捉えながら、ミライは再び恐怖した。
- しかし今度は目の前に迫る死に抗った。
- こんなところで死んでたまるものですかと、自棄にも似た感情の爆発が体を突き動かす。
- その感情に突き動かされるように、フリーズはビームサーベルを手にし、思い切り振り上げる。
- それは間一髪、グロウズのビームサーベルがコックピットに届くよりも早く、その右腕を切り落とした。
- 攻撃手段を失ったグロウズは空きだらけになる。
- ミライは考えるよりも早く体が動き、グロウズの横っ腹に蹴りを入れてそれを振り払う。
- グロウズは体勢を崩して宙を漂う。
- ミライはすかさずライフルを構えて、宙を回転しながら流れるグロウズに狙いを定めてトリガーを引く。
- その銃口から伸びる光は、真っ直ぐグロウズの中心へと吸い込まれようとしていた。
- そこにフレアがグロウズとフリーズの間に滑り込み、放たれたビームをシールドで受け止める。
-
- 「ヨウナ、その慣れない機体ではこれ以上無理だ。下がれ」
-
- ヒューがヨウナを庇ってシールドでフリーズの射撃を防ぎながら指示を出す。
- しかしそれを素直に聞くヨウナでは無い。
- 完全に頭に血が上ったヨウナはヒューの静止を振り切って飛び掛る。
- そこに考えも何もあったものではない。
- ミライはグロウズの動きに、冷静にライフルを合わせてグロウズの左腕を撃ち抜く。
- 最早完全に武装を失ったグロウズはただの動く塊に過ぎない状態だが、それでもヨウナは妄執的にフリーズに接近を試みる。
- ヒューはそんなヨウナの行動を止め、またフリーズからヨウナを庇うように動いているため、反撃が思うようにいかない。
- そこにグリムの乗ったマラサイが援護に駆けつける。
-
- グリムは不甲斐ない2機の行動に苛立った声を上げる。
-
- 「何をしている」
-
- 叫びながらフリーズ目掛けて、一射、二射とライフルを放つ。
-
- しかし今のミライには、それら一つ一つが冷静に見えていた。
- 先ほどの危機を乗り切ったこと、そしてグロウズを戦闘不能に追い込んだことで、自信と興奮が完全に恐怖を凌駕していた。
- 一射目を右に動いてかわし二射目をシールドで防ぐと、お返しとばかりにライフルのトリガーを引く。
- だが数発撃ったところで、指にトリガーから帰ってくる衝撃が軽くなった。
- 同時に銃口からは何も出てこない。
- ライフルのエネルギーが無くなったのだ。
- 攻撃方法を失い焦るミライ。
- しかし戸惑いは一瞬だった。
- ミライはすぐに頭を切り替えると、キーボードを目の前に引き出して別の武器を探す。
- そして左腕にあったそれを見つけると、ただ無我夢中で操作する。
- するとフリーズの左腕にマウントされたビームシールド発声装置がパージして、マラサイ目掛けて加速する。
- シールドがビームを唸らせて、それがまるで肉食動物の様にマラサイに襲い掛かり、トリッキーな武器にグリムの反応が一瞬遅れて機体の右足を失う。
-
- 「何だ。ドラグーンの一種か!?」
-
- 衝撃に揺れるコックピットの中で、グリムは珍しく驚いた表情を浮かべる。
- まさかビームシールドをパージして攻撃するということが予想できなかった。
- そしてビームシールドはまるでそれ自体が一つの生き物のように、マラサイの周囲を飛び交い再び攻撃してくる。
- その動きに翻弄され、呻き声を漏らすグリム。
- ヒューはそんなグリムを援護するように、フレアの腰に高収束エネルギー砲を構えて発射する。
- ミライの意識は防御へと傾く。
- すると周囲を飛び交っていたビームシールドが、主を守るかのようにフリーズの前に立ちはだかって攻撃を遮断する。
-
- それを見たヒューはまたも目を見張った。
- そしてフリーズの持つ新しい武装の性能もさることながら、それをいきなり戦場で使いこなせるパイロットに羨望と嫉妬の感情が入り乱れる。
-
- その時また宇宙が眩い光に照らし出された。
- しかし今度のものはMSの爆発などではない。
- セントルーズから撤退信号が上がったのだ。
-
- 「時間だ、撤収するぞ」
-
- それを確認したグリムが少しだけ悔しさを滲ませるように眉をひそめ、まだ奇声を上げて飛び掛ろうとしているヨウナのグロウズを強引に脇に抱えてセントルーズ目掛けて飛び去る。
- フレアはそんな2体を守るようにフリーズの前に立ちはだかりながら、離脱を確認したところでくるりと旋回して2機の後を追う。
-
- ヒューは帰還しながら、くそっと自分自身に悪態を吐く。
- 奪った機体だからということもあるが、まだ機体の性能を充分に引き出せていない。
- それに引き換え相対したフリーズのパイロットは、機体をああも自在に操っていた。
- そこにフリーズのパイロットに対する劣等感を僅かに抱きながら、悔しさに歯軋りを抑えることが出来なかった。
-
- 「に、逃げるのですか?」
-
- 突然こちらに背を向けて飛び去る相手に驚き、ミライは追いかけようと操縦桿を握り直した。
- そこにケルビムからも撤退の発光信号が上がり、通信が入る。
-
- 「こちらの被害も甚大です。一先ず撤退してください」
- 「ですが、このままでは」
- 「フリーズのエネルギー残量ももう僅かです。それではむざむざやられるだけです」
-
- 尚も食い下がるミライに、レイチェルはピシャリと言い放つ。
- 確かに言われたとおりフリーズのエネルギー残量は危険域を示しており、これ以上追撃することはできない。
- まだ恐怖と興奮でミライの頭の中はぐじゃぐじゃだが、レイチェルの言っていることが理解出来るほどには落ち着きを取り戻していた。
- 悔しさの滲む表情で撤退していく相手を見つめながら、ミライは渋々とレイチェルの帰還指示に従うのだった。
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