- ケルビムには帰艦指示を受けたMSが次々と着艦してくる。
- しかしその数は出撃した時よりも明らかに少ない。
- また帰艦したものの多くは被弾し、腕や足などが無くそこからコードがむき出しになっている、無残な状態だ。
- それらを直すべく修理の箇所や順番の意見を述べる整備クルー達の怒号がドック内を飛び交っている。
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- そんな喧騒の間を縫って、リックディアスも所定の位置に着艦した。
- そのコックピットの中でザイオンはMSの駆動が停止したのを確認すると、ヘルメットを取って膝の上に置き、そこに覆いかぶさるように伏して深い溜息を吐く。
- まだ任命式も済んでいなかった部隊の初陣だというのに、考えられないような問題が目の前に山積している。
- ベテランの隊長であってもおそらく経験したことが無い、うまく対処できるか分からない状況だ。
- ましてまだ若く初めて部隊を率いることになったザイオンには些か無理難題のようにも思え、ここで彼が判断を誤ったとしてもそれを無能だと責めるのは酷な話だ。
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- だがザイオンの切り替えは早かった。
- パッと顔を上げたかと思うと、口を真一文字に結んで意志の篭った精悍な顔つきでMSのコックピットから飛び降り、すぐに近くのインターフォンに飛びつきテキパキと次の指示を飛ばす。
- 事情はどうあれ新型機は元々部隊に配備されるはずだったものだ。
- それをこのまま黙って機体を奪われたままにはしておけない。
- 幸か不幸か、この新造戦艦ケルビムは最新鋭の高速艦だ。
- 今から追えばまだ強襲部隊を追いかけることができる。
- 仕掛けるかどうかは別にしても、彼らを追跡することは重要なことだ。
- ザイオンはすぐにブリッジに追跡の指示を送った。
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- しかし彼の頭には一つの疑念というか、大きな悩みの種がある。
- それを頭の片隅に置きつつ自分の機体の調整のことを整備員と話をしているところに、その問題のフリーズがドックへと滑り込んできた。
- それを確認したザイオンは整備員に後を任せると、すぐにMSの足元へと飛んでいく。
- 先ほどは突然のことだったので驚き、またそれどころではなかったのでそれ以上の追求はできなかったが、ミライがフリーズに乗っていたのは彼女がヤマトの娘であろうと無かろうと大いに問題だ。
- 隊長としては色々と聞かなくてはならないことがたくさんある。
- ミライが知り合いであるだけに、何よりそのことが一番気が重かった。
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PHASE-05 「視線」
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- ミライは慣れない手つきで機体を戦艦のドックに着艦させると、大きく息を吐いてシートに背中を預けて天を仰いだ。
- その表情はひどく疲れきっている。
- ハロがそんなミライを励ますように、ゲンキ〜オマエモナ〜、と飛び跳ねているが、それに微笑みかける余裕すら無い。
- いつも笑顔を振りまく明るい性格とはいえ、戦場というところを実際に体験して、その直後にはしゃぐことが出来るほど暢気でもない。
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- 今まで話や資料で知らなかった戦争。
- 悲惨な出来事なのだということは理解していたつもりだったが、その中に突然放り出されて、想像以上に激しく血生臭い過酷なものだということを痛感する。
- 引金を引いた指の嫌な感触が未だにこびり付いて離れない。
- そして何より命の危機が背中に冷たいものを流させる。
- それを思い返すとブルッと震えて、現実世界へ繋ぎ止めるようにまた自分の肩を抱く。
- もし撃たれていたらこんな思いすらも一緒に消失していたのだ。
- 戦場に出ている人達はずっとこんな恐怖に怯えながら戦っているのだ。
- 改めて戦争とはあってはならないものだということを実感していた。
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- しばらくコックピットの天井を見つめて呆けていたミライは、何とかシートから体を持ち上げるとハッチを開いてコックピットから飛び降りる。
- どうすれば戦争を止める事ができるのかまだ分からないが、父や母と同じように自分も何かしなければいけない、何かしたいということだけは強く思った。
- そんなことを考えながらゆっくりと戦艦へと降り立ったミライだが、床に足が着いたところでようやく周囲の視線が自分に集まっていることに気がつく。
- 普段から見知らぬ人に注目を浴びることには慣れているが、それは羨望や好意を持ったものがほとんどだった。
- しかし今は違う。
- 感じる全ての視線は好奇と不信感に溢れ、冷ややかに一瞥をくれるだけだ。
- 初めて味わう空気に、さすがにミライも萎縮してしまいその場で固まってしまう。
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- その空気を突き破るようにザイオンがミライの元に寄ると、厳しい口調で作業に戻るようにクルーをちらりと睨んで指示を飛ばす。
- それは既に経験豊富な隊長のような風格すら漂っていた。
- その威厳ある態度に、クルー達は慌しく自分の作業へと戻っていく。
- 空気が解き放たれたように視線が自分からはずれていくことに、ミライは内心ホッと溜息を吐く。
- そして知り合いの顔を見て、緊張が一気に解れていくのを感じる。
- ミライもザイオンのことは良く覚えていた。
- 兄姉と一緒に遊んでもらったこともある、気の良いお兄ちゃんという印象だけが彼女の中にはあった。
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- 「貴女が何故そんなところに乗っていたのか、お聞かせ願いませんか」
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- しかしザイオンは厳しい表情のまま、他人行儀な言葉遣いで問い詰める。
- それが彼を自分の知る人物とは別人のように思わせ、再び孤独感の中に突き落とされる。
- その態度に、今自分がいかに場違いな場所にいるかを思い知らされていた。
- 所詮ここは軍艦であり、ミライ自身は軍に所属する者ではなかったのだ。
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- フリーズに乗っていた人物のことは、瞬く間に艦内全てのクルーの間に広まっていた。
- 当然それはエデューの耳にも入り、聞いた途端彼はいてもたっても居られずに医務室を飛び出した。
- 医者が呼び止める声が背中から追い掛けてくるが、それには一切耳を貸さずにどんどん遠ざかる。
- 彼はどうしても確かめたかったのだ。
- 自分があれほど苦労をしてようやく掴んだ新型機のパイロットの座を、たまたまその場に居合わせた子供が横取りしてしまったなどということが本当かどうか。
- それはまるで、今まで築き上げてきたものが音を立てて足元から崩れるような衝撃だった。
- 幸いにしてこの宇宙では無重力なので、足の怪我があっても艦内を移動するのに困ることは無い。
- むしろ慣性に従ってしか進むことができない状況に苛立ちすら覚える。
- 一刻も早く真相を確かめたいと言う衝動的な思いがエデューの心を支配し、苦痛を奥歯で苦虫を噛み潰すように眉間に幾重もの皺を寄せた表情で、エデューはひたすら隊長室を目指した。
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- その隊長室ではザイオンが溜息を吐きつつミライの話を聞いていた。
- レイチェルとジローもその横で戸惑ったような表情で聞き入っている。
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- 最初ミライは自己紹介をしたが、されるまでもなく誰もが彼女のことは知っていた。
- まだプラントに居た頃から、彼女は英雄キラとラクスの娘としてメディアに露出していたためである。
- そして親にそっくりな容姿に見間違えるはずもない。
- だが両親がそんな偉大な人物であるだけに、彼らはミライとどのように接すれば良いか図りかねていた。
- ザイオンだけが慣れた様子で、普通に話し掛けてミライの話を確認するように言葉を綴る。
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- 「では貴女は爆発が起きた時にたまたまフリーズの傍に居て、奪われまいとそれに乗った、と」
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- とは言え、尋問することは、妹のように可愛がったこともあるミライを前に、いささか気が引けるものではあった。
- その居心地の悪さを何とか腹の奥に押し留めると、あくまで一定の距離を保つように突き放した口調で続ける。
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- 「何故そんなことをしたんですか」
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- 額に手を添えながら渋い表情を作ると俯き、声だけをミライに向ける。
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- 彼女の双子の兄、姉とは幼年学校からの幼馴染であるザイオンにとって、ミライのことは昔からよく知っている。
- 大人しい両親、兄姉と違って、ミライはとても活発な子供だった。
- しかし決して考えるよりも先に行動するタイプでもなく、物事の分別もつく頭の良い子だと思っていた。
- それがどうしてこんな浅はかな行動を取ったのか。
- 時々突飛な行動をする一家であることは周知の事実だが、よりによって何故MSに乗って戦闘までしたのか、正直ザイオンには理解できなかった。
- 暗にその判断は間違いだったと、諭すような口調で続ける。
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- 「それがどんなに危険なことになるか、考えもしなかったのですか」
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- 兄弟全てに言えることだが、ミライ達は自分達の両親が偉大な人だという認識はあるものの、それを自慢したり自分達が偉いと勘違いしないところは良いところだ。
- 両親も自分達を特別ではなく普通であるかのごとく振る舞い、その教育の賜物だろう。
- しかしそれが故に、周囲がラクスやキラの子供として見ている事を自覚していない。
- 彼らの存在は一般人からすればやはり特別な存在なのだ。
- それ故に彼らの言動一つ一つは大きな影響を及ぼす。
- それに振り回されたことが何度あったことか。
- 周囲からすればもう少しそれは自覚して欲しいところだ。
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- 「では、あのままあれも奪われた方が良かったというのですか」
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- しかしミライは強気に言い返す。
- ミライにもザイオンの言わんとすることは分からないではない。
- だが自分がもしフリーズに乗らなければそれも奪われていた可能性が高く、被害はこんなものでは済まなかった筈だ。
- 自分は間違ったことはしていないと、あの時の判断は正しかったと思っている。
-
- ザイオンは反論されて、一つ忘れていたことを思い出す。
- 彼女は負けず嫌いで、並みの大人では簡単に論破されてしまうほど、頭の回る非常に論述に長けた少女なのだ。
- このまま論戦をやり合っても彼の望む答えは得られそうも無い。
-
- 一方でザイオンは理解もしていた。
- ミライの一連の行動は、安っぽい正義感によるものだということが。
- 戦争というのは複雑な思惑が絡み合うところだ。
- 単純な善悪の物差しでは計れない。
- そんなものでMSで駆け回られてもこちらとしては困るというものだ。
- 彼女の言うことは結果論に過ぎない。
- 尤もミライはそれを認めないだろうが。
-
- そこにエデューがノックもせずに隊長室に入ってきた。
- レイチェルがエデューを咎めるように睨むが、エデューはそれに全く気付かないままミライを見て固まる。
- まさか本当にこんな少女がフリーズを操縦していたなんて思いも寄らなかった。
- 噂というのは背ひれ尾ひれが付くものだから、何かの冗談だと思っていた部分もあった。
- しかしその願いにも似た思いは、脆くも崩れ去った。
- エデューは苛立ちとも怒りともつかない感情にわなわなと震えたかと思うと、ミライに詰め寄り胸ぐらを掴んで怒号を上げる。
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- 「戦いは綺麗事でも子供のおままごとでもないんだぞ!」
-
- エデューもミライが如何なる人物なのかはもちろん知っている。
- だが彼ににとっては、事務総長の娘だろうがそんなことは知ったことではないし、怒りに彼女が何者かなど考えている余裕も無かった。
- ただ自分が血の滲むような努力をした上でやっと掴んだ、新型MSのパイロットという立場だっただけに、突然現れた新参者にそれを奪われたことが我慢ならなかったのだ。
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- 突然の愚行に慌ててジローがエデューを羽交い絞めするようにミライから引き離し、ザイオンがミライを庇うように間に入る。
- エデューの怒りが分からないでも無いが、相手は自分達の上官たる事務総長の娘だ。
- そんな贔屓をするラクスではないが、唯でさえ多くの問題を抱えている現状なだけに、これ以上無用なトラブルを起こして問題を増やしたくないというのが切実な本音だ。
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- 一方のミライは、いきなり胸ぐらを掴まれて激しい剣幕で捲し立てるエデューに驚き、そして怯えた。
- 生まれて初めて憎悪の込められた瞳で見つめられ、純粋に恐怖を覚えた。
- 引き離された後も、反論することすら忘れて身を縮めてエディーを怯えた表情で見つめる。
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- 「ミライ様を部屋に案内してくれ」
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- その表情を見て取ったザイオンは、今はこれ以上の尋問は今は無理だと判断すると、ウンザリした表情で指示を出す。
- レイチェルが少ししょげた様子のミライの背中を支えるように部屋を後にし、ジローもまだ怒り心頭な様子のエデューを連れて部屋を出る。
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- ようやく自分以外誰も居なくなった自室で、ザイオンは盛大な溜息を一つ吐き出すと、この問題をどう解決すれば良いのか文字通り頭を抱え込んだ。
- エデューが事務総長の娘であるミライに掴みかかったことも問題だが、結局彼女を乗せたまま強襲部隊の追跡を行っており、彼女の扱いというものが今ここではとても重荷だ。
- 思わず自分の運命という奴を呪いたくなる。
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- 「ちょっと良いですか」
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- その時、通信機が電子音で着信を知らせる。
- 相手は整備班のチーフであるブレイン=マットソンで、ザイオンに相談だと通信してきた。
- 何だろうと思って耳を傾けたザイオンはブレインの言葉に、思わず聞き返す。
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- 「はい、ソフトが大幅に書き換えられています。微調整中だったところは仕上がっていますし、機体の性能をめい一杯引き出せるようになっています」
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- そのため整備もままならない、ということだ。
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- 一体何故、という疑問が浮かんでくるが、それが可能だった人物は1人しか居ない。
- しかしまさかそんなことになっているとは俄かには信じ難かった。
- 立場的に開発していたことは知っていたとしても、その開発内容や性能については知らないはずだ。
- ならば一体何時ソフトが書き換えられたというのか。
- まさかあの短時間でそれが出来る人間が居るとは思えない。
- だが現実にその人物によってソフトは書き換えられており、何とか元に戻さなければ他の誰にも扱えない代物と化している。
- とは言え、ソフトを元に戻すということはスペックダウンを意味する。
-
- また湧いてきた新たな問題に、ザイオンは再び頭を抱えたい気持ちになる。
- しかしその間も与えぬまま別の通信が入る。
- 苛立ちを何とか押し殺して通信に出ると、エミリオンから状況が報告される。
-
- 「追跡中の艦影を捕捉しました」
-
- ブリッジでは先ほどの強襲部隊をレーダーに捉えていた。
- まだ距離はあるが最大望遠で小さく見えるほどには近づいていた。
- エミリオンは見失わないようにレーダーの調整を慎重に行う。
- だがその最中にMSの発進を示す熱源を捉える。
- 追いつかれたことに気がついた相手が、先に手を打ってきたのだ。
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- 「敵艦よりMS発進、数は5、いや、6」
-
- エミリオンは切迫した声でレーダーに映った状況を説明する。
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- その甲高い声を聞きながら正直眩暈がしそうだった。
- 何故こうも次々に問題が起こるんだ、と愚痴を零しそうになる。
- しかしここで愚痴っていても何も解決しないし、事態は急を要する。
- 喉の奥まで出掛かったそれを何とか飲み込むと、矢継ぎ早に迎撃の指示を出し自分も出撃のためにドックへと向かった。
-
- 向かいながら頭の中で戦力の比較を始める。
- 敵の戦力6機に対して、こちらで今すぐ使えるMSはそう多くない。
- パイロットもエデューがまだ怪我が完治していない等、戦力不足な感は否めない。
- フリーズも出なければ戦力的に厳しい状況にある。
- しかしフリーズはミライにしか動かせない代物と化している今、おのずと選択肢は限られていた。
-
- 「ミライ様にフリーズのソフトの戻し作業を依頼してくれ」
-
- ザイオンはパイロットスーツに着替えながら、ドックのブレインに向かって声を張り上げる。
- 猫の手も借りたい状況ではあるが、これ以上ミライを戦場に出すわけにはいかない。
- スペックダウンも正直痛いところだが、ミライを乗せない以上そのままにして宝の持ち腐れにしておいては論外だ。
- 尤も現状ではそのパイロットもいないという問題もあるが。
- だが今無いものやどうなるか分からない今後のことを考えても今は仕方がない。
- コックピットに座ったザイオンは雑念を振り払うようにバイザーを勢いよく下ろすと、発進のGを普段よりも重く感じながら戦場へと意識を集中した。
-
*
-
- 部屋に案内されたミライは、意気消沈した表情でベッドに腰を下ろす。
- 明らかに先ほどエデューに胸倉を掴まれたショックを引きずっていた。
- レイチェルはその様子に、ミライのことを世間知らずなお嬢様育ちと勝手に評価を下していた。
- 元プラントの最高権力者で、今もESPEMのトップに就いている人物の娘だ。
- そう見られても仕方ないのかも知れないし、事実お嬢様育ちであることは間違いない。
- だがそのことを嫌いだとかそんなことは思わない。
- このまま落ち込まれているのは、何となく彼女の気持ち的に治まりがつかないのだ。
- 何とか励ましの声を掛けられないかと考えたが、その時緊急事態を知らせる警報が鳴り響く。
- 直後に第1種戦闘配備の館内放送が響き、後ろ髪を引かれる思いではあったが、ではと短く挨拶すると慌しく部屋を後にして一目散にブリッジを目指した。
-
- レイチェルの去った部屋では、ミライはじっと考え込んでいた。
- あれだけ憎悪を向けられたショックはまだ残っているが、それよりも今の自分に何ができるのかということがずっと引っ掛かっていた。
- 自分は正しいと思うように行動し、遊びの気持ちも無かったことは確かだ。
- しかし今ここに居る人達の目にはそうは映っていない。
- 両親や兄姉、自分を取り巻いていた全ての人は常に優しく包み込んでくれていた。
- そんな今まで自分が知っていた世界はごく狭い範囲のものだったのだと、改めて思い知らされていた。
-
- その時、突然通信機の呼び出し音が鳴り響く。
- その音にビクッと肩を震わせて顔を上げどうしたものかと思ったが、ここには自分しかいない。
- 恐る恐る通信を出る。
- 通信はやはりミライ宛てのもので、相手は整備担当のブレイン=マットソンと名乗った。
- そして単刀直入に用件が告げられる。
-
- 「貴方が書き換えたフリーズのソフトを元に戻して欲しいのですが」
-
- 一瞬何のことかと驚いたミライだったが、すぐに思い当たった出来事にああと納得する。
- しかし元に戻せといわれても、あの時は必死だっただけで元の形がどんなものかもうほとんど覚えていない。
- それに書き換えながらソフトの仕様についての感想は少し抱いていたのだが、どうにも効率の悪いコーディングや無駄なロジックが埋め込まれていたのを思い出す。
- よしんば元に戻せたとしても、それはスペックダウンすることがミライには容易に予想がついた。
- 遠まわしにそのことを告げると、それでも戻さなければクルーの誰も扱えないと返ってきた。
- その答えに自分はやはり間違いを犯したかもしれないと、弱気な気持ちが少し湧いてきた。
-
- だがもう一方で、仮にも訓練を受けて来た人達があれを扱えないことに苛立ちも覚えた。
- 少なくとも自分はそれを使って何とか戦闘をこなしたている。
- 他人に出来ないことが理解できない。
- ミライもまた両親や兄姉と同じように、自分の能力を過小評価する傾向にあった。
- 幼年学校時代から、ミライの成績は全ての面において抜群に優秀だった。
- その両親から受け継いだと思われる才能が、他者を圧倒していることに彼女自身気付いていないのだ。
-
- その相反する2つの気持ちがぶつかり合い、しばらく葛藤したミライだが、一つの決意を固めると返事をする。
-
- 「分かりました」
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- 通信を切ったミライは勢いよく立ち上がると部屋を飛び出す。
- 元来ウジウジと悩んでいるのは嫌いな性質だ。
- どうなるか分からないことはとにかく行動して次の道を切り開くというのが、彼女のこれまでのやり方だった。
- ミライは強い意志の篭った表情でドックへと続く道を流れていく。
- ハロがそんなミライに遅れまいと、耳をパタパタと羽ばたかせてその背中を追いかけた。
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