- ジローは忸怩たる思いでケルビムへと帰艦した。
- タクミはいかに同じ部隊に配属された仲間であっても、タクミは今や味方を撃って裏切った憎い相手だ。
- しかしいざ目の前にして止めを刺そうとすると、ギリギリのところで躊躇してしまう自分が居る。
- かつての思い出が指の引金を引かせないのだ。
- だから攻撃の精度も甘くなる。
- それが故に、結局説得することも、倒すこともできないまま、こうして無為に刃を交えることばかりしている。
- それがジローの心に影を落とす。
- 自分の甘さを悔やみながら疲労感漂う表情でヘルメットを脱いだ。
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- だがいつまでもこうしてうじうじしても仕方が無い。
- 本来そうやって落ち込んでいるのは嫌いな質だ。
- 一つ大きく息を吐いて気持ちを切り替えると、どっこいしょとシートから腰を浮かせた。
- そうしてコックピットから出ると、いつもと違う雰囲気を敏感に感じ取る。
- どうもドック内が騒がしいというか、落ち着きのない感じがするのだ。
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- 「何かあったんか?」
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- フウジンの整備のためコックピットに上がってきた若いクルーに尋ねる。
- 尋ねられたクルーはああと苦笑して事情を説明する。
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- 「ええ、また事務総長の娘がフリーズで出撃しましてね」
-
- エデューも艦長の許可も無いまま出撃したということで、彼らにどんな処罰が下るのか、興味半分、不安半分といったところだ。
- しかし落ち着きがないのはそれだけではない。
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- 「しかも、相手のエースを撃退したんですよ」
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- 興奮気味に話すクルー。
- その言葉にジローは驚きに目を見開きながら、何とも暢気な言葉を漏らす。
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- 「そら凄いな。うちで働いてくれたら俺も楽できるなあ」
-
- 確かに相手のエースを撃退できるほどの腕を持ったパイロットであれば、戦力アップ間違いない。
- 先の戦闘での被害を考えれば、喉から手が出るほど欲しい人材だ。
- しかしクルーはジローの言葉に何とも言えない苦笑を浮かべる。
-
- 「でも正直複雑なんですよ。ソフトは勝手に書き換えられて僕らには手が出せなくなったし、両親は偉い人だからどう接していいかも分からないし」
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- 一般人はなかなか接することができないESPEMの事務総長、ミライはその娘だ。
- そして本人も既に演説に姿を現したり、また歌を発表したりしている有名人だ。
- 顔は知っていてもこうして直に合うのは初めてで、そんな遠い存在に思える人物に自分達が話しかける言葉や態度が想像もつかない。
- それに処罰が本当にきちんとできるか分からない。
- 彼女の両親の部下たる隊長達が、その娘に下さなければならないのだ。
- 万一処罰を下したとして、そのことで事務総長の怒りを買って自分達にもとばっちりが来ないか、そちらの方がよほど心配だ。
- 言われてジローもうーんと考えてから苦笑を浮かべ、そうかもなと同意した。
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PHASE-08 「亡者の叫び」
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- ミライはフリーズから降りるなり、再び隊長室に連れてこられた。
- 今度はエデューも一緒だ。
- エデュー自身は険しい表情で、ミライと視線を合わせようとはしないが。
- ミライもそんなエデューを避けるように、反対方向に視線を向けている。
- そこには反省の色など皆無だ。
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- 「君達は自分が何をしたか、本当に分かっているのか?」
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- 呆れたような溜息を吐きつつ、ザイオンは鋭い目線で2人を交互に見る。
- しかしエデューはぶすっとした表情で前を向いたままだし、ミライは少し落ち込んだ表情ながらも何故怒られなければならないのか、という不満の色を浮かべて答えない。
- またミライの横では、2体のハロがその場の雰囲気にそぐわない暢気な電子音を発している。
- それが彼に疲労と脱力感を与える。
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- あの時の状況では、確かに2人の援護がなければ全滅していたかも知れない。
- しかし軍というのは、自分勝手な判断で行動して良い所ではない。
- 自己裁量が認められるザフト軍においても、その軍規というのは厳しく統制されている。
- 指揮官の命令に背くということは、それなりの理由と責任が個人に掛かるということだ。
- しかし少なくとも、今の2人にその責任を背負ったという自覚が見えない。
- きちんと自らの正当性を主張すればまだどちらに非があったかを検証する材料にもできるのだが。
- それがザイオンが隊長室にて、彼らへの処遇をどうしたものかと思わせる要因だった。
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- 反省の態度が見えない2人に、レイチェルもふうっと大きく息を吐き出して額に手をやる。
- 正直ESPEMの軍というのは、様々な国や種族の人間で寄せ集めの集団だ。
- 其れ故、チームワークの問題ということは、辞令を受け取った時からずっと危惧していた。
- 果たして自分がそんな寄せ集めを、うまくまとめていくことができるのか、という不安と共に。
- しかしこうも見事に体験することになるとは、さすがに予想していなかった。
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- 基本的に選抜された人員は、最新の戦艦やMSを配備されるというだけあって、かなり優秀な人間が揃っている。
- だが個々の能力は高くても、バラバラに行動してはその綻び故に全員が命を落とすことになりかねない。
- 戦場とは命のやり取りをするところだ。
- そしてMSのパイロットというのは、艦のクルー達の命も預かるのだ。
- その覚悟も無くMSを操縦されてはこちらもいい迷惑だ。
- 何の訓練も受けていないミライならまだしも、正規の訓練を受けたはずのエデューまで勝手な行動を取って、どうなるか分かっていたはずなのに。
- 初対面から突っかかる言い方しかしてこなかった彼だが、まさかこれほどの問題児だったとは。
- レイチェルはこの機会に一度ガツンと言わなければならないと思った。
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- だがレイチェルが口を開きかけたその時、けたたましく通信機が鳴り響く。
- ザイオンがやれやれといった表情で通信機を取り、勢いを削がれたレイチェルが溜息を飲み込んで、うんざりしたように眉間に皺を寄せる。
- しかし通信機の向こうからは、そんな2人を叱責するかの如く、怒号が飛び交っている。
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- 「正体不明の熱源が接近中。このスピードはMSです。数8」
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- エミリオンはレーダーを見つめながら、通信機に向かって焦った声で報告する。
- しかもシグナルは先ほどの強襲部隊とは別のMSであることを示している。
- つまりケルビムは新たな敵に遭遇したのだ。
- ミライとエデュー、それにレイチェルもまたなのかという驚きの表情を浮かべて、通信機から漏れる声に聞き入る。
-
- ザイオンは報告を聞きながら、次々と襲ってくる災難にまた頭を抱えたくなった。
- 一気に10歳は年を取ったのではないか、と言うくらいその心労は蓄積されている。
- だがそうしている間にも敵は迫ってくる。
- 一つ大きな息を吐き出すと、通信機越しにキビキビ命令を飛ばす。
- それに伴い、艦内にはコンディションレッドの警報が発令され、クルー達はまた慌しく戦闘準備に入る。
- 次にザイオンはドックのブレインに通信を繋ぎ、MSの発進準備を急がせる。
- その連絡が終わると、ザイオンは通信機のスイッチを切り、ゆっくりと2人のほうに向き直った。
-
- 「懲罰は後だ。エデュー、さっきあれだけやれたんだからまた出撃できるな?」
-
- 睨みつけるようにエデューを見つめ、そう問い掛ける。
- それはつまり、さっきの独断行動を不問にするということを意味する。
- 驚きにエディーは目を見開いてザイオンを見つめるが、すぐに当然です、と敬礼すると隊長室を飛び出していく。
- 処罰の覚悟はしていたが、自分はMSのパイロットとして戦うためにここに居る。
- 敵を屠るために。
- 己の力を認めさせるために。
- それが叶うことは彼にとっては重要なことであり、喜ばしいことだ。
- その表情には薄っすらと笑みが滲んでいた。
-
- その背中を見送ったザイオンは、やれやれとのっそり腰を上げる。
- そしてミライの方をじっと見つめたかと思うと、思いも寄らぬ言葉を発する。
-
- 「ミライ様もフリーズに搭乗してください」
-
- ミライもまた驚きの表情を浮かべる。
- 自分が間違ったことをしたとは思わないが、確かに自分は軍の人間ではないし、戦闘をしたかったわけではない。
- ただ目の前で起こっているできことから、何もせずに目を逸らしたくなかっただけだ。
- だからMSに乗ることはもう無いだろうと思っていた。
- それがまさかザイオンからまた乗るように言われるとは、思ってもみなかった。
- 聞き間違いかとザイオンを見つめ返すが、厳しい表情ながらうんと頷き、いよいよそれが間違いでなかったと確信する。
- それは自分の実力、そして考えを認められたと捉えるには充分だった。
- 今彼女の力はそこに必要とされている。
- ミライはそれが純粋に嬉しかった。
- 嬉々とした表情を浮かべると、元気よくはいと返事をしてから踵を返して部屋を出て行く。
- それを慌てて追いかける2体のハロの様子から再び戦闘する緊張感の欠片もなかったが、立続けに起こる問題に疲れたザイオンの心を少しだけ癒してくれた。
- ザイオンは苦笑を零す。
-
- 一方のレイチェルは呆然とその背中を見送ったが、我に返ると勢いよくテーブルに両手を突いて身を乗り出し、ザイオンに詰め寄って反論する。
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- 「待ってください。ミライ様に出撃させるなんて本気ですか?」
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- 旧知の知り合いらしいが、まさか昔のよしみでそんな戯言を言っているのではあるまいかと本気で疑った。
- ミライがどんな人物で自分達が今どんな立場に立たされるのか、分からないわけではあるまい。
- 彼女の実力はレイチェルもモニタで見ていたので分からないでもないが、しかしエデューの件も含めて特定の人間に勝手を許すのは、クルー達の不満を増長してしまう。
- そのためにも、懲罰を課さないまでも、ミライをフリーズに乗せるのは止めるべきだと強く主張する。
-
- ザイオンもレイチェルの言わんとすることは分かる。
- しかし今は2人に頼らなければ満足な戦闘にもならない。
- グロウズの部隊は壊滅し、唯一生き残ったリュウも医務室で治療中だ。
- 自分とジローの2機では結果は目に見えている。
- それに先ほどの戦闘を見て、ミライの実力のほどはよく分かっている。
- 自分達が生き残るために、ましてミライ自身を死なせないためにはその方が最も確率が高いのだと言わざるを得ない。
- 何とも情けない話だがそれが現実なのだ。
- そんな自分に心の中で盛大な溜息を吐きながら、彼は決定を覆すことはできない。
- 部隊の部下達の命を守るという意味においても。
-
- それでも尚も食い下がるレイチェルに、ザイオンは苛立ちに思わず語気を強めてピシャリと言い放つ。
-
- 「周囲の反対を押し切り俺の責任において判断した。航海日誌にそう明記するように」
-
- それだけ言うと、レイチェルの反論を振り切って一目散にドックへと急いだ。
-
*
-
- ケルビムはエンジンの応急処置をしながら、ESPEM本部であるアリストテレスを目指していた。
- 満足に加速できない状況では強襲部隊を追いかけることはできないし、これだけの被害を受けては一度補給を受けなければならない。
- また今回のできごとをきっちり報告をしなければならない責任もある。
- だからケルビムはアリストテレスへの最短ルートを航行していた。
-
- しかし一応の索敵をしているとは言え、そのルート選択は少し慎重さに欠けていた。
- 戻るまでのリスクがきちんと計算されていないのだ。
- 現にそのコース上にある、無数に散らばる星の欠片の影からそんなケルビムのことをじっと見つめる影がある。
-
- 「あれがESPEMの新造戦艦か」
-
- ここはプラントに程近い、小惑星群の中。
- 昔からここには盗賊や、テロリストの隠れ家等に利用されることが多い宙域だ。
- 例に漏れず、今もザラ派を名乗る過激派のアジトが近くにあった。
-
- 彼らはじっと息を潜めながら時を伺っていた。
- この世界の根本を覆すために。
- そのためにこのアジトを拠点としてMSや武装の増強を行っている。
- その最中に近くで起こった戦闘。
- 一部始終を彼らは見ていた。
- そしてチャンスと捉えた。
- 新造戦艦、そしてMSを奪取できれば戦力は一気に整う。
- コーディネータによる新しい世界を築くことが出来る。
- その悲願を達成するためのものが目の前にあるのに、黙って見過ごすことは出来なかった。
- すぐさま強奪を決断し、行動に移した。
-
- ESPEMの機関に攻撃や危害を加えることは、地球圏法廷の制定により禁止されている。
- それを犯したものは、地球圏の平和を脅かす侵略者として罰せられることになっている。
- 尤もESPEMの思想に共鳴し協定を結んだ国の間での取り決めごとだけに、テロリストたる彼らにはそんなことは関係の無いことだ。
- それにキラやラクスの言うことなど、彼らには片腹の痛い戯言でしかない。
-
- ジール=スカッタスはコックピット内で発進シークエンスの手順を踏みながら、冷たい瞳を光らせてケルビムを睨みつける。
- コーディネータこそが人類の新たな種だと信じて疑わない彼にとって、ESPEMのラクス達の思想は邪魔者以外の何者でもない。
- この優れた力を知らしめ、ナチュラルを根絶やしにすることこそが、真に世界を平和に導くことができると妄執的に信じていた。
-
- かつてプラントの最高権力者の地位についた男が語った言葉。
- 未だにその今は亡きかてつの指導者の言葉に踊らされる者がいることは悲しいことだ。
- しかし現実にその思いはザラ派の胸の内にあり、パトリックは彼らの中で生き続けているのだ。
-
- 「分かってるな。新型は奪取。パイロット、クルーは確実に殺せ」
-
- 物騒な指示を確認すると、ジールは行くぞ、と声を掛けて影から飛び出す。
- そして真っ直ぐケルビムに向かって加速した。
-
*
-
- パイロットスーツに身を包んだミライは、気持ちの高ぶりを必死に抑えていた。
- 先ほどの宇宙服と違って、体にフィットしていてごわごわした感じが無い。
- そして両脇から足元に向けて両腕の側面にある淡いピンクのラインが何となく自分に合うデザインで、それに心ときめかせてもいる。
- 実に乙女チックな感覚だが、もちろん気持ちが高ぶっているのはそれだけではない。
- 戦闘がしたいわけではないのだが、こうしてパイロットスーツに身を包んでシートに座っていると、自分が偉大な戦士にでもなったような、そんな高揚感が満ちてくるのだ。
- 父はこんな気分で昔戦っていたのだろうかと思いを馳せる。
- まだ戦争の本当の恐ろしさを知らないミライは、ただ無邪気に父の姿を、格好良い戦士としか想像できなかった。
-
- その横ではエデューが眉間に皺を寄せて発進準備をしている。
- エデューはまたもミライがフリーズで出撃することが不満だったが、現状の戦闘力不足と切迫した事態が分からないわけではない。
- 苛立ちをぐっと堪えて、しかし準備が整うとフリーズの回線に接続して一言告げる。
-
- 「出る以上きっちりと仕事をしてもらうぞ」
-
- ミライの戦いぶりをまだ見ていないエデューにとっては、彼女が足手まといにならないか心配だった。
- それに事務総長の娘だか知らないが、ミライを守りながら戦うつもりなど毛頭無い。
- あくまで彼の目的は、敵を1機でも多く屠ることなのだ。
-
- 「分かっていますわ」
-
- 挑発的なエデューの言いように、ミライは少しカチンときて語気を強めて言い返す。
- そして心の中で、黙って見ていなさい、と毒づく。
- エデューはミライの小生意気な返事にふんと鼻で息を吐き出すとモニタを切り、機体を発進カタパルトへと移動させる。
-
- 「エデュー=フィレンチェ、グロウズ、出る!」
-
- ドスの利いた声で告げると、颯爽と宇宙へと飛び出していく。
- グロウズは背中に通称ランドセルと呼ばれる大型のエネルギーパックを背負って、左手には大型のランチャーを持ったバスター装備で出撃する。
- 対MSでは対艦戦、接近戦使用のカッター装備よりも、遠距離攻撃が高まるバスター装備の方が有利だと判断したからだ。
- エデューは機体のモニタ越しに、宇宙の風を感じながらその快感に少しだけ笑みを零す。
- だがすぐに表情を引き締めると、既に宇宙に飛び出しているリックディアスの左後方につく。
- 続いてジローのライジン、そしてミライのフリーズも宇宙へと飛び出し、リックディアスの右側に展開して編隊を組む。
-
- 「悪いけど期待させてもらいますよ。相手のエースを撃退したっちゅうその力」
-
- 一言声を掛けて、ジローはフリーズの横につける。
- ジローは純粋に彼女の力に期待していた。
- まだ目の当たりにしていないその戦闘力に興味があり、また自分達が生き残るためにも、ミライの力がブラフでないかどうかは重要な問題だ。
- だからジローは激励のつもりでそう言った。
-
- 「ご期待に応えてみせますわ」
-
- だがミライはまた侮られたと口を尖らせ、少し不機嫌な声で素っ気無い返事をする。
- ミライにすれば言われるまでもなく全力を出すつもりだ。
- 相手を嘗めているわけでもないが、2度の戦闘で彼女はすっかり自信を得ていた。
- ミライの中ではやれるということは確信にも近かった。
-
- 「もうすぐ接触するぞ。油断するな!」
-
- そんな彼らの軽口を諌める意味も込めて、ザイオンは気を引き締めるように促す。
- 言われて3人は厳しい表情を浮かべて、もう目の前に迫っているMSに目を向けた。
-
- 7機はザフト軍でも採用されているザクVだが、1機は見たこともない機体だ。
- ドムにも似た形状だが、コンピュータはUNNKOWNを示している。
- それはジールの駆るドライセン。
- ドムに改良を加えた、裏ルートでしか手に入らないMSだ。
- 今のザイオン達には知る由も無いが、彼らもまたじっと息を潜めながら用意周到にその力を蓄えていたのだ。
-
- 「分かっていますね。あまり離れすぎないようにしてください」
-
- ザイオンはミライに一応の釘を刺す。
- いかに潜在能力が高かろうとも、ミライは何の訓練も受けていない素人だ。
- 洗練された連携戦術を前にしては単独では敵うまい。
- またこちらもお互いうまく力を合わせなければ勝てるかどうか分からない。
- それを理解したミライも、緊張に手に汗を感じながらはいと返事をする。
-
- しかしジールから見れば、ザイオンも修羅場を潜っていない点ではミライとそう大差は無い。
- 先の戦闘、それに今の編隊飛行をを見ればそれが分かる。
- まだまだ洗練されていない、若いパイロット達のそれなのだ。
- いかに機体の性能が良くとも、あんな小僧どもに遅れを取ってなるものか。
- ジールはそう思いながらライフルを一発放った。
-
- 「ひよっ子どもが!」
-
- 次の瞬間には、閃光がザイオン達の頭上を通過していく。
- 牽制の一発だが、4機のMSは無意味な回避行動で、僅かだがその編隊飛行を崩す。
- その隙にジールは先頭のリックディアスに、ビームグレイブを振り被って迫る。
- セオリーどおりなら先頭にいるのが隊長機だ。
- ならば先頭の1機を倒せば、他のメンバーの士気を下げて連携を分断することができる。
- それもまたセオリーどおりの戦術だが、最も効果的な戦い方だった。
-
- パトリック=ザラが取った道こそが正しき道。
- 人類を、地球を救う唯一の方法なのだ。
- ジールは強くそのことを思いながら、ビームグレイブを振り下ろした。
-
- だがザイオンはそうは思っていない。
- 彼はキラやラクスが示した未来を信じている。
- コーディネータだから、ナチュラルだからと言って、互いを滅ぼしかねないほど憎しみ合って、戦わなければならない世界など間違っている。
- それは尊敬する兄貴分と共に、彼らの傍でそれを見てきたザイオンだからこそそれを強く思い、こうしてESPEMで力を振るう決心をした。
- だから自分は負けられない。
- 強い意志を持ってザイオンはビームサーベルで抜いて、振り下ろされる一撃を受け止めた。
-
- 互いの思いも、考えも、相手が誰なのかも知らない。
- しかし相成れない2人の意志が今ぶつかる。
- その思いを具現化するように、ドライセンとリックディアスは激しい光を零して交錯した。
-
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