- レイチェルは不機嫌極まりない表情で、艦長席に腰を下ろしていた。
- 喜怒哀楽の表現がストレートに顔に出る彼女が、怒ったりすることは珍しくない。
- しかし今回の怒り方は今までのものとは比べ物にならないほどだった。
- ブリッジクルー達は、恐怖と戦闘の緊張感もあって、誰もレイチェルと視線を合わせようともしない。
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- そんなクルー達の緊張を他所に、先ほどの隊長室での出来事を彼女はまだ納得していなかった。
- ミライを今度は正式にパイロットとして出撃させるなど、正気の沙汰とは思えない。
- 彼女がどんな立場の人間か、それにより与える影響がどんなものなのか、それはザイオンの方がよく分かっているはずだ。
- 自分の保身からそんなことを思っているのではない。
- ミライに万一のことがあった場合、それが世界に与える影響は計り知れないのだ。
- あのキラとラクスの娘ということは、そうゆうことなのだ。
- 本人にもその自覚は無いようだが。
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- そこまで考えてレイチェルは頭を振った。
- 今更それについて自分がどうこう言っても仕方が無い。
- 言われたとおり、航海日誌にでも記してお偉方に判断してもらうしかない。
- それよりもやるべきことは、目の前の敵に対して対応することだ。
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- それにしても襲ってきた部隊はどこの誰なのか。
- 扱っている機体からしても、先ほどの強襲部隊とは別の組織のようだが、いずれにしても厄介な相手に違いない。
- ほどなくしてMS同士が戦闘を始めるが、しばらく光が飛び交ったかと思うと相手MSの一部がこちらに向かって来た。
- 傷ついた今のケルビムでは満足に迎え撃つことは難しい。
- かと言って逃げられるわけでもなく、レイチェルにとってこの怒りをぶつけるにはちょうど良い機会だった。
- 先の戦闘からこのかた、ずっと理不尽な戦闘に追い回されていたレイチェルのストレスはピークに達していた。
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- 「取り付かせるな。取り舵20」
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- いつもより凄みを増した掛け声で、レイチェルはクルーに必死の指示を飛ばすのだった。
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PHASE-09 「援軍」
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- ドライセンは何度もビームグレイブを振り被っては、リックディアスに叩きつける。
- それをリックディアスはビームサーベルで全て受け止め、ダメージを与えることが出来ない。
- ならばと、ビームグレイブを打ち下ろした体勢のまま、胸部の複相ビーム砲で狙いを定める。
- しかしそれも逸早く反応したリックディアスは、足を強引に両機の間に割り込ませると、そのままドライセンを蹴り飛ばす。
- その反動で大きく傾いだ機体から放たれたビームは、リックディアスから大きく逸れる。
- ジールは舌打ちしながら、強いと素直に今相対している相手の実力を認めた。
- しかしそれでもまだまだジールの方が一枚も二枚も上手だ。
- すぐに体勢を立て直すと、今度は一転ライフルを連射してリックディアスの接近を許さない。
- ザイオンも相手の技量に舌を巻きながら、紙一重でかわして必死に食らいついていた。
- 負けるものかと攻撃の間隙を縫って反撃のライフルを撃った。
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- その頃、残りのザクVはフリーズ、フウジン、グロウズを取り囲んでいた。
- 息の合った四方からの連携攻撃に防戦一方になる3機。
- 数的にも不利であるため、反撃には3機の協力が不可欠だ。
- だが元々連携攻撃の苦手なエデューに、訓練を受けていないミライでは満足な連携ができるはずもない。
- ジローは何とか2人に合わせようとするが、てんでバラバラに動く2機に合わせることができない。
- ミライは相手の攻撃をかわすとこにばかり必死になり、反撃ができないほど援護の無い状況に少し不貞腐れる。
- エデューはエデューで混戦の中、僚機がそこにいることを疎ましくさえ思っていた。
- 誰もが他の2人に煩わしさを感じながらの戦闘だった。
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- その動きの固さに見切りをつけたザクVのパイロット達は、ケルビムにも狙いを合わせる。
- 彼らの目的は新型MS、及び新造戦艦の強奪だ。
- 新型ということで警戒もしていたが、MSの相手に7機も必要無いと判断した。
- 互いに目配せして作戦を確認すると、回避行動で精一杯になっている隙を突いて、2機のザクVがケルビム目掛けて飛んでいく。
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- 接近したMSの反応に、ブリッジには警報音が鳴り響く。
- その中でレイチェルが必死の命令を飛ばし、アールが操舵桿を傾ける。
- ケルビムはバレルロールしながら懸命に弾幕を張って反撃しているが、如何せん片方のエンジンが使えない今、回避行動もままならない。
- このままではケルビムは落とされてしまう。
- 母艦を失うと言うことは、パイロットにとっては帰る家を失うに等しい。
- それは避けなければならない事態だ。
- MSのパイロットというのは、母艦を相手のMSから守るという役割も担っているのだ。
- エミリオンからも悲鳴混じりに援護に戻るように通信が入ってくる。
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- ジローはすぐに援護に向かおうとケルビムの方角を確認した。
- しかし他の2人にこの場を任せることを、同時に不安に思った。
- 数的にも不利な状況で、味方でありながら互いにいがみ合うような者同士、ケルビムの援護に行っている間に落とされでもしたら寝覚めも悪い。
- ここはどちらかに行ってもらった方が良いのでは、とも考える。
- しかし相手の攻撃を掻い潜って追いつくには機動力の高いフウジンが一番であり、2人に援護に行くという意志は見えない。
- 迷いを振り切ると、ジローは2人に通信を送る。
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- 「エデューと娘さんは、そいつらを頼んます。俺は艦を」
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- 言いながら、既にフウジンはケルビムに向かってバーニアを吹かす。
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- それを阻止しようと周囲のザクVがフウジン目掛けてライフルを撃つが、ミライがその間に割って入り、ジローをケルビムへと急かす。
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- 「早く艦をお願いします」
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- エミリオンの要請とジローの通信を聞いて、ミライは自分が出撃した本当の理由を思い出す。
- 父と母が守ろうとする世界を守る、そのために今はケルビムの人達を守るために、フリーズに乗っている。
- ならば自分はまずは彼らの援護にまわろう。
- ミライは軍人で無いので、功績を立てる必要がないのだ。
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- ミライの援護に口の端を持ち上げてどうも、と短く答えると、ジローは一目散にケルビム目掛けて飛んでいく。
- その背中を見送りながら、ミライは改めてザクV達と向かい合った。
- 皆を守る、その気持ちを強く持って。
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- 「お前達の相手は俺だ」
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- エディーは叫びながら、尚もフウジンに銃口を向けるザクVに斬り掛かった。
- 自らの危機にフウジンを狙うことを諦め、相手もビームアックスを抜いてその攻撃を受け止める。
- だがそれはエデューの予想の範疇だ。
- すかさず砲身の長いランチャーを横に薙いで、棒で叩くように吹き飛ばす。
- その衝撃にザクVは無防備な姿を晒して宙を流れる。
- それを狙い撃とうとランチャの銃口を向ける。
- しかし別のザクVからの攻撃に、ランチャーを放つことができない。
- 舌打ちしながら、撃つことを諦めて回避行動を取る。
-
- エデューはミライからの援護が無かったことに苛立ちを覚えつつ、そんな無駄な期待をした自分を叱責して操縦桿を握り直す。
- 初めからミライなど当てにしていない、と言うか、当てにしてはいけないと思っている。
- いかに隊長が操縦を認めたと言っても、ミライは素人だ。
- フリーズをどんなプログラムに書き換えたか知らないが、あんな小娘に俺が負けるはずが無い。
- それを証明するためには、この戦闘でミライよりも自分が優れていることを証明しなければならない。
- その一番の方法とは、自分1人でこの5機のザクVを倒すということだ。
- どうすればそれが叶うか、ということに思考を張り巡らせる。
- しかし相手もなかなかの手だれで、そうそうこちらの思惑通りにはいかない。
-
- そのうち2機のザクVが対角線上に、エデューのグロウズを挟み撃ちにするように並んだ。
- その瞬間にエデューは閃いた。
- そして思い立ったが吉とばかりに、正面に来たザクVに対してランチャーを構えて発射した。
- と同時にそれを手放すと、その反動を利用して後方に加速する。
- 後ろから迫っていたザクVのパイロットは完全に虚を突かれた。
- 回避行動もままならずグロウズの接近を許す。
- エデューはその勢いのままビームサーベルを垂直に構えると、ザクVのコックピットに突き立てる。
- しばらく苦悶するように痙攣を起こしたザクVだが、やがて目の光が消えピクリとも動かなくなった。
- ようやく1機倒したことに、笑みを浮かべるエデュー。
- しかしそこに一瞬の隙が生じた。
- グロウズの背後から、別のザクVのライフルが襲う。
- 一転悔しさに唇を噛み締めながら、エデューは己の死を覚悟した。
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- その瞬間、攻撃に気がついたミライは機体を回転させながら、咄嗟にビームシールドをパージした。
- ビームシールドはグロウズとライフルを撃ったザクVの間に滑り込み、直撃する前に攻撃を防ぐ。
- エデューは一瞬驚きと、助けられたことに歯痒い思いを抱くが、すぐに相手を倒すことに意識を戻す。
- ビームシールドを飛び越えるように跳躍すると、上空から一気に加速してビームサーベルで真っ二つに切り裂く。
-
- その間に、フリーズが錐揉みしながら宙を舞ったかと思うと、グロウズが手放したランチャーを掴む。
- 素早くそれを腰に構えるとランチャーを放ち、ビームが1機のザクVの右腕をライフルごと撃ち抜く。
- 遠距離攻撃の術を失ったザクVは、残った左腕にビームアックスを構えてフリーズ目掛けて突っ込む。
- フリーズもランチャーを手放すと、ビームサーベルを抜いて相対する構えを取った。
- だが振り向きざまに放ったグロウズのライフルが、そのザクVの体を貫いて、フリーズと交錯する前に爆発を起こす。
- ミライはその爆風を避けるように旋回すると、するするとグロウズと背中合わせに残ったザクVからの攻撃を警戒する。
- そこにはもう一部の隙も無かった。
-
- 完全に劣勢に陥った残りのザクVのパイロット達は、信じられないという表情を浮かべて焦燥に駆られる。
- これで3機のザクVをたて続けに失ったことになる。
- 突然、無茶苦茶だが、フリーズとグロウズはまるでもう何度も一緒に戦っていたかのような連携を見せた。
- 先ほどの動きの固さが何所にも無い。
- 戸惑いながら、反撃の糸口を掴めず責めあぐねる。
-
- 連続攻撃を繰り出したことで少し肩で息をするエデューは、呼吸を整えながらフリーズの動きに、ミライは思っていたよりも出来ると評価を改め始めていた。
- 命を助けられたのは少し癪だが、3機とも落としたのは自分だという事実に心を落ち着けると、このまま共闘しても大丈夫、という気持ちが芽生えていた。
- 一方のミライもグロウズの動きに一瞬目を奪われた。
- 同じ機体なのにこれまで見たグロウズとはまるで別のMSかのように、素早い動きを見せる。
- エデューが口だけではない男なのだと評価を改める。
- 今の2人は、不本意ながらも一緒に戦う限り負けないと確信が持てた。
- 俄然やる気の増した2人は、一気呵成に残りの相手に向かって加速した。
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- ケルビムのブリッジでは、取り付こうとする2機のザクVを必死に追い払おうと怒号が飛び交う。
- しかし機動性はMSの方がずっと優れている。
- 小回りの利かない戦艦では、死角へ回ろうとするMSを追いかけることができない。
- 死への恐怖がじわじわと喉元へ上がってくるのを感じながら、アールは必死に言うことを聞かない舵を傾ける。
- だがついにザクVに弾幕の内側に入られた。
- ザクVがブリッジの眼前に迫った時、クルー達は恐怖に表情を引きつらせた。
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- しかし間一髪、フウジンがザクVに強烈なショルダータックルをお見舞いして、ブリッジの前から引き剥がす。
- そのままジローはビームサーベルを振り回して、ケルビムから離れさせる。
- そしてビームサーベルで斬り掛かると思われたが、不意にフウジンはビームサーベルを収めた。
- 相手は相当に訓練を受けた熟練のパイロットだ。
- 単純な攻撃ではそう簡単に倒すことは出来ない。
- ならばこの機体の最大の力を今こそ見せる時だと、ジローは決意を秘めた表情でキーボードを目の前に取り出し、ロックの解除コードを入力する。
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- 「フウジンのスピードを嘗めとったらアカンで!」
-
- 叫びながら操縦桿を引き絞り、フットペダルを目一杯踏み込んだ。
- フウジンのスラスターが全てオープンになり、バーニアから吹き出る光が一段と大きくなる。
- するとフウジンのスピードが格段に速くなった。
- フウジンは普段はそのスピードを抑えるために、バーニア出力の制限ロックを掛けている。
- エネルギーの消耗も激しいため、通常は60%の出力しか出していない。
- しかしロックの解除コードを入力することで、バーニアの出力を100%にすることができるのだ。
-
- フウジンはその最大出力でストップアンドスタートを繰り返しながら、ジグザグに2機のザクVの周りを飛び始める。
- 次第にフウジンの姿が二重三重に、ブレて見え出した。
- かと思うと、はっきりとその残像がその目に焼きつく。
- ザクVのパイロット達には、何機ものフウジンが周りを取り囲んでいるように見えた。
- そのスピードはどんどん増して、パイロットの目でも、レーダーでさえもフウジンの姿を的確に捉えることは出来ない。
- これこそがフウジンの真骨頂。
- この機動力こそがフウジンの最大の武器なのだ。
-
- そのスピードのまま不意にフウジンが急旋回したかと思うと、ザクV目掛けて突撃する。
- 慌てて複数に見える機体に向けてライフルを撃つが、攻撃はどれも当たらない。
- まるで機体をすり抜けるかのように、ビームの残光はフウジンの遥か後ろへと消えていく。
- ザクVのパイロットが恐怖でパニックになる中、ようやくその姿を捉えた時にはフウジンは目の前だった。
- その手にはライフルがあり、銃口を至近距離で押し当てられた状態からは成すすべなく、フウジンの放ったビームはザクVを貫いた。
- 激しい爆発を起こしながらザクVは粉々に吹き飛ぶ。
- それはフウジンも巻き添えにして、赤い花を咲かせたように見えた。
- しかしフウジンは迫った時と同じようなスピードで、ライフルを撃ったと同時にザクVの爆発に巻き込まれないように遠ざかっていた。
- まるで接近などしていないかのように悠然と佇んで、その光景を見つめている。
- それをもう1機のザクVのパイロットは唖然と見つめることしかできなかった。
-
- ジローは撃ち貫いたザクVの反応が完全に消えたのを確認すると、次、と唸りながらもう1機のザクVの方を振り返る。
- 明らかに相手はこちらのスピードについてこれていない。
- 勝利は時間の問題だった。
- それにあまり長引かせるとこちらのエネルギーがもたない。
- 一気にケリをつけようと操縦桿を握り直した。
-
- その時突然、上空からビームの雨が降り注いだ。
- そのビームが残りのザクVを撃ち落す。
-
- 「何や!?」
-
- ジローは予想外の攻撃に、驚きの声を漏らす。
- ミライとエデューも、残った2機がその砲火の中で爆散したことに驚き、機体を急停止させる。
- そして戸惑うミライ達は身構えながら、ビームが飛んできた方を振り返る。
- そこにはナスカ級戦艦が数隻と、襲ってきた部隊とはカラーリングの異なるザクVの一団が、こちらに迫ってくるのが確認できる。
-
- 「今度はどこの部隊?すぐ確認して」
-
- レイチェルは新たな敵かと、汗を一筋垂らしながら解析を指示する。
- すぐに発信コードを解析したエミリオンは、一瞬驚きに言葉を詰まらせてから答える。
-
- 「このコードはザフトです。ザフトのMS部隊です」
-
- 返ってきた答えにレイチェル、エデュー達も驚きを隠せない。
- ザフト軍は正規にESPEMにも登録されている、プラントの防衛軍だ。
- それが何故ここで出てくるのか。
- 相手に対してのみ攻撃をしていることから、一応こちらの味方らしいが。
- まあESPEM所属のコードを持つこちらを攻撃したらどんなことになるかは、正規軍であれば周知の事実であろう。
-
- だがまだ安心はできない。
- 出向者も多く所属するとはいえ、全く組織の異なる相手だ。
- 不用意に攻撃を仕掛けることも、味方だと背を向けることも、この状況では何が命を落とす要因になるか分かったものではなかった。
-
- ジールとザイオンは、弧を描くように目まぐるしく旋回しながら、ようやくザフト軍の存在に気がついた。
- それにザイオンはしまったと舌打ちする。
- この宙域はプラントの領海線にほど近い。
- 戦闘中はそのことを気にする暇がなかったのだが、知らないうちにそれを犯したかも知れないのだ。
- だとすると、自分達は不法侵入ということで狙われているのかも知れない。
- ドライセンの動きに注視しながらも、ザフト軍の動きにも気を払う。
-
- 一方のジールは、予想外な援軍の登場に焦る。
- ザフト軍も彼らにとっては敵だ。
- 軟弱なヤマトの口車に乗り、偽りの平和で怠惰を重ねる、コーディネータの風上にも置けない奴ら。
- ジールは今のプラントをそう思っていた。
- 自分にはコーディネータの目を覚まさせて、正しい世界のあるべき道を示す使命があると思い込んでいた。
- だから今ここでアジトを見つかるわけにはいかない。
-
- ジールはリックディアスの顔面に蹴りを入れると、その反動を利用して慌てて飛び去っていく。
- ザイオンは激しく揺れるコックピットの中で呻き声を上げて体勢を立て直すが、既にドライセンは射程外へと離れていた。
- 追いかけようとしたが、それよりも早くザフト軍のMS2機がリックディアスを追い越して追撃する。
- そして残りの機体がリックディアスを取り囲み、ザイオンはモニタのMSを睨みながら動きを止める。
-
- 「こちらに貴官らとの戦闘意志は無い。しかしとりあえずご同行は願いたい」
-
- 通信機から聞こえる声に、ザイオンはしばらく沈黙した後、了解したと低い声で答えた。
- ケルビムとフリーズ達にもザフト軍の指示に従えと命令し、MSはケルビムへと着艦する。
-
- 一方、ナスカ級艦のブリッジでは、ざわざわと落ち着き無いざわめきが起こっていた。
- 戦闘の光をキャッチしたということでこうして出撃してみれば、まさかESPEMの新造戦艦とMSがザラ派と戦闘しているとは思わってもみなかった。
- しかもとても傷ついているのが、目に見えて分かる。
- つい先ほど慌しくESPEMの所属コードが伝えられたばかりで、任命式もまだ済んでいない部隊の艦とは思えないほどに。
- 襲撃事件の報は既にプラントにも届いており、おそらくその部隊との交戦などでこのような状況になったのだろう。
- まあ彼らがここで戦闘をしていなければ、ザラ派の動向を探ることもできなかった訳だし、その点は感謝してもいい。
- だが彼らと関わることは、慎重にしなければすぐに国際問題に発展してしまうようなデリケートなことなのだ。
-
- 世界は確かに平和が保たれている。
- ESPEMのお陰で。
- しかしそれはとても微妙なバランスの中で成り立っているものであり、ふとしたことで一気に崩れる危険を孕んでいた。
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- 「やれやれ、面倒な事になりそうだな」
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- その部隊を指揮する戦艦の中で、テツ=ソウマはシートに背中を預けながら溜息を吐いた。
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