- 新しく建造されたコロニー、ラニヤリウス。
- ここはプラントの新興技術を象徴する、産業技術委員が新たに拠点を置く新都市だ。
- その中にある委員長室で会話を交わす2人の男女。
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- 「ここがこの値だと問題があるんじゃないの」
- 「はい、ですからここからバイパス回路を通して数値を8%下げます。それで解決できますわ」
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- 問題点を指摘する男性だったが、女性の示す解決策に自分の意見を取り下げて納得する。
- 彼らは現在新たに開発を進めているシステムの打合せをしているようだ。
- その男性の名はコウ=ヤマト、女性の名はヒカリ=ヤマト。
- 前プラント最高評議会議長にして、プラントの英雄中の英雄、ラクスの双子の姉弟だ。
- ラクスがESPEMを立ち上げることになった時、既に自立していた2人はプラントに残り、平和の維持と発展のために尽力する道を選んだ。
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- コウは技術産業委員長として、プラントの新興技術事業の管理と評価を行い、評議会にも参画している。
- 彼はラクスから引き継いだ政治学を如何なく発揮し、親の七光りでなく、若くして評議会でも一目置かれる存在だ。
- いずれは最高評議会議長の座に納まるであろうと期待されている。
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- ヒカリは産業技術開発の開発局長として、新技術開発の実行を一手に引き受けている。
- 彼女はキラから受け継いだ技術力で、次々とプラントの暮らしを豊かにする新しい開発を行ってきた。
- それによりプラントでの暮らしは格段に豊かになった。
- その功績もあって、何か新しいものを開発しようとする時は彼女の力なくしてありえないとまで言われる。
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- 2人とも、ラクス、それにキラの子供ということで、幼少より周囲の過剰な期待を一身に浴びてきたが、それに臆することも、また奢ることもなく応えてきていた。
- 既にプラント市民からの信望は両親に勝るとも劣らず厚い。
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- 「失礼致します」
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- そこにいかにもきっちりとした感じの女性が、キビキビした様子で部屋に入ってくる。
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- 「ヤマト委員長、ヤマト開発局長、ちょっとよろしいでしょうか」
- 「ミレーユ、僕とヒカリしか居ない時は、昔からの呼び方で良いって言ってるでしょ」
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- コウが柔らかい笑みを浮かべて、入ってきた女性に優しく諭す。
- ヒカリもそうですわ、と笑顔で頷く。
- 言われた女性、ミレーユ=マグダナはその笑顔に薄っすらと頬を赤くしながら苦笑を浮かべると、一つ咳払いをして、分かったわと返す。
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- ミレーユはコウの秘書官として、スケジュールの管理や情報収集の仕事を担っていた。
- そしてヒカリとコウとは幼年学校時代からの幼馴染でもあり、2人が心を許せる数少ない友人でもあった。
- だからコウ達は、人目の無いところでは今までどおりに接するように嘆願していた。
- 互いの立場は変わっても、彼らにとって大切な友人であることには変わりなかった。
- ミレーユはそんな昔と変わらない人柄の2人が好きだ。
- 尤も彼女が頬を染めた理由はそれだけでは無いのだが。
- しかし今はそんなことを考えている場合ではないので、用件をさっさと伝えることにする。
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- 「ちょっと面倒な報告が入ってきたわ」
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- 言いながら表情を曇らせて携帯モニタの内容を告げる。
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- 「貴方達の妹のミライ様が、ESPEMの最新鋭MSを操縦していたそうよ」
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- それを聞いたコウとヒカリは、心底驚いた表情を浮かべてがたがたと席から立ち上がった。
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PHASE-10 「予期せぬ再会」
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- ミレーユの報告が信じられない2人は、話し合いも忘れて詰め寄る。
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- 「何、それはどうゆうこと?」
- 「そんな、あの子が本当に?」
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- 2人の剣幕にミレーユは一歩後ずさりしながら、何とか言葉を搾り出す。
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- 「く、詳しいことは私にも分からないけれど、プラントの領海線付近で戦闘していた部隊があったらしくて調査したみたい。そうしたらESPEMの新鋭部隊とザラ派が戦闘していたということよ」
- 「それとミライとどう関係が?」
- 「ミライはお父様とお母様と一緒に、月の本部にいるのではないのですか?」
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- 2人の頭の中には、月本部で父母と笑顔で暮らしている妹の姿しか想像できない。
- 活発な子だったが争いなどを好むような子でなかったし、何より父と母が一緒なのだからその仕事の手伝いをしているものだとばかり思っていた。
- そう信じていた。
- それなのに何をどう間違ったら、ミライがMSの操縦をすることになるのか。
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- 「報告筋だと、そのESPEMの部隊のパイロットの中にミライ様がいたらしいの。これからアンダーソン議長もモニタで確認されるそうよ。それから部隊の隊長はザイオンが務めているらしいわ」
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- ミレーユも奇遇と言うか、色々と信じられないといった様子で答える。
- その答えを聞いてしばらく呆然としていたヒカリとコウだが、顔を見合わせて頷くと慌しく部屋を出て行こうとする。
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- 「ちょっ、どこへ行くの」
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- ミレーユは慌てて呼び止め、コウは扉に手を掛けながら少しだけ振り返る。
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- 「決まってるよ、議長の所さ。僕達もミライのことを確認したい」
- 「ザイオンも一緒に居たのでしたらますます納得がいきませんわ」
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- もう開発案件の打ち合わせどころではなかった。
- 渋い表情で継げたコウは踵を返すと扉の向こうへ消え、走り去る足音だけが廊下に響き渡る。
- ミレーユもそんな2人の後を急いで追いかけた。
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*
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- ケルビムのドック内は異様な緊張に包まれていた。
- それもその筈、ザイオン達がケルビムに帰艦したのと同じくして、テツが銃を持った兵を従えてランチでやってきた。
- MSもケルビムの周囲を取り囲んで不測の事態に備えている。
- その様子にケルビムのクルーは誰もが不安で一杯だった。
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- 「この艦の責任者は誰だ」
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- テツはよく通る声で尋ねる。
- 彼はザフトの国防委員参謀として、プラントの領海での戦闘を監視、部隊の指揮を行っている。
- 公証はしていないが、キラとは異父母の兄弟ということになる。
- それもあって、キラ達はテツに全幅の信頼を置いており、密かに自分達が居なくなった後のプラントを託していた。
- その思いを受けて、テツは若い議員達にとって相談役として頼りにされる存在となり、プラントの中枢を支えている。
- ザフトに在籍したことのある者にとってはまさに偉大な有名人だった。
- メカニッククルーの何人かは直立不動でテツの言動に注目している。
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- 問い掛けに対して、リックディアスから飛び降りてきたザイオンが慌ててテツの前に立って名乗ろうとしたのだが、その顔を見て思わず驚きの声を上げる。
-
- 「テ、テツ兄!?」
-
- 両親の居ないザイオンは孤児達を預かる施設で育った。
- そこで良き兄貴分として可愛がってもらった、彼が兄と慕う男がいる。
- それが今目の前に居るテツだ。
- よもやこの状況で再会するとは思いもよらなかった。
- テツの方もそうだろう。
- 目を見開いて次の言葉を言えずにいる。
-
- だが、ザイオンは言ってしまってからハッと気付く。
- テツはザフト軍の参謀、自分はESPEMの一部隊の隊長。
- ザフトからの出向とは言え、今は異なる組織の上に立つ立場だ。
- そして色々と質問を受けなければならない状況なのだ。
- 時と場合をわきまえた言動をしなければ自分の態度は奇妙に映るし、部下への示しもつかない。
-
- 「失礼しました、ザフト軍ソウマ参謀殿。私がESPEM第4艦隊第3小隊隊長のザイオン=バークスであります」
-
- 敬礼して、他人行儀な口上を述べ直す。
- テツは軽い衝撃を受けながら、複雑な思いでザイオンの姿に目を細める。
- お互いの立場から仕方の無いことだとは理解していても、弟のように可愛がっていたザイオンから他人行儀な挨拶をされるのは少し寂しい。
- しかしその敬礼する姿は、一部隊の隊長としての風格が身についている。
- その成長振りは喜ばしいものだった。
- そんなザイオンの心に応えるべく、テツも気を取り直すと質問を投げ掛ける。
-
- 「そうか、バークス隊長。では貴官らがこの宙域で戦闘していた訳を教えていただきたい」
- 「はい、ESPEM本部へ帰還途中正体不明の武装集団の襲撃を受け、防衛のためにやむなく応戦しました」
-
- そしてその時の状況を説明し、あくまで正当防衛として応戦したのだということを強調する。
- 相手がお互いによく知る人物であるということが、ここでは幸いした。
- その意見は聞き入れてもらえ、テツは艦やパイロットの被害状況を心配してくる。
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- 「彼らがそのパイロット達です」
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- ザイオンが少しホッとしながら降りてきたパイロット達を呼び寄せ、そちらは無事だということを告げる。
- 呼ばれたエデューとジローは緊張した面持ちで並び、硬い動きで敬礼する。
- だがミライもまた、知った顔に驚いたような表情を浮かべている。
- テツとは父の兄弟ということで、ずっと以前に会ったことを覚えていた。
-
- テツもパイロットの中にミライが居ることにも驚いた。
- 今度はテツの方が立場を忘れて声を上げる。
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- 「ミライが何故パイロットスーツを?」
-
- 呼び捨てにしてしまったことも気付かず、ザイオンに問いかけるような視線を投げかける。
- だがザイオンはバツが悪そうに眉を顰め、口ごもる。
- これに関しては、知り合いだと言うことが悪い方に出た。
- 咄嗟に弁明することも出来ず、きちんと話せば色々と長くなるため、一言では説明できない。
-
- テツはザイオンの様子に、事情はさらに複雑なようだということを悟った。
- 話を聞くにはもっと時間が必要だろう。
- またクルー達の疲労や艦の傷つき具合からみて、ここでの話は切り上げるべきだと判断した。
-
- 「とにかく、近くの駐留基地に同行願いたい。いいかな」
-
- テツの問い掛けに、ザイオンは頷くしかなかった。
-
*
-
- 近くのザフト軍駐留基地に連れてこられた一同は、とりあえずの修理と休息は約束してもらえるということで、一時の緊張感から解き放たれて安堵の溜息を零した。
- 休息もままならないほど連続して襲撃を受けたため、彼らの疲労はピークに達していた。
- 艦から降りられないのは少し窮屈だが、それでも襲撃の心配をせずに休めるのはありがたかった。
- クルー達は思い思いに、一時の休息に身を委ねていた。
-
- その頃、ザイオンとレイチェル、それにミライはその基地の会議室へと通されていた。
- ESPEMが他国の領域で戦闘行為を行う場合は、その国の代表者に説明する責任があるのだ。
- 彼らはプラント側の責任者にその説明をするために、こうして休む間もなく呼び出されていた。
-
- 会議室に入ると、そこには現プラント最高評議会議長であるジャック=アンダーソンが渋い表情でモニタに映っている。
- ジャックはラクスが退陣した後に議長に就任し、過去には同じ評議会のテーブルにも就いていた人物だ。
- それは周知の事実だし、ミライもプラントに居た頃に何度か会ったことがある。
- またジャックが相手に出てくることは予想できたことなので、それに対しては驚かなかった。
- しかしその両脇に並んでいる人物を見て、ミライは驚きの声を上げる。
-
- 「兄様、姉様!?」
-
- それは見紛う事なき自分の姉と兄。
- 姉兄と会うのは、2人がプラントからの特使としてESPEM事務所に訪れた時以来、1年振りになる。
- それからまさかこのような形での再会になるとは、思いもしなかった。
- どうやら自分がMSに乗っていたという話を聞いて、心配で同席したらしい。
- 偶然が続く時には続くものだ。
- しかし今はあまりありがたくない。
- 久し振りに顔が見れたのは嬉しいのだが、状況が状況だけにその心中は複雑だ。
- ミライはぎこちない笑みでお久し振りですと取り繕う。
- コウも久し振りだね、と苦笑するしかない。
- 対照的に、ヒカリは口を真一文字に結んで、じっとミライを見つめる。
- その表情には無事で良かったという安堵と、自分達や両親に心配を掛けたことに対する怒りが滲んでいた。
- それを見たミライは少し肩を小さくした。
-
- 「ミライ様、貴女がMSで出撃したというのは本当ですか?」
-
- 一通り兄弟の再会の挨拶が済んだところで、ジャックが事実を確認しようと問い掛ける。
- 彼らにはまだミライがMSを操縦していたことが信じられなかった。
- ひょっとしたら何かの間違いではないのか、という淡い期待も抱いていた。
- しかしそれをアッサリと打ち砕くように、はい、とミライは頷く。
-
- 「ミライ、貴女は一体何を考えているのですか」
-
- ミライが肯定したことで、ヒカリの気持ちはついに抑えきれなくなった。
- ジャックの後ろから身を乗り出すように、ミライを問いただす。
- 今の世界の情勢、ESPEMが担っている役割がどういうものか、ヒカリも重々に承知していた。
- だからこそまだ微妙なバランスで成り立つ今の状況で、ミライの行動は父と母にも多大な影響を与える。
- それが分からないミライでも無いだろうに、軽率な行動は慎みなさい、と言う。
- そしてその矛先はザイオンにも向けられる。
-
- 「ザイオン、貴方が居ながら何故このようなことになったのですか」
-
- 正規の軍人でないミライにMSを任せるとは、一体どんな判断をしたというのか。
- よく知る、信頼している友人だからこそ、尚許せなかった。
- ザイオンは返す言葉も無く、申し訳ありませんと頭を下げるしかない。
- 彼もまた、ヒカリとコウの姿に軽い衝撃を受けていた。
- ザイオンもミレーユと同様に、ヒカリやコウとは幼年学校からの幼馴染だ。
- ましてザイオンはヒカリにほのかに恋心を抱いている。
- ミレーユがコウを意識しているのと同じく。
- だからザイオンはヒカリに、ミレーユはコウに弱いのだ。
- そして今の状態では、自分に非があることも自覚しているだけに、言われるがまま大人しく聞くしかない。
-
- レイチェルはヒカリの会話の内容を聞きながら、どうやらザイオンはミライだけでなくヒカリとも
- 知り合いらしいことを知り、彼の人脈の広さに内心驚く。
- そしてザイオンとヒカリの微妙な関係も見抜いていた。
- この場でザイオンが反論の可能性は薄いと見て、レイチェルは諦め半分、心の中で盛大な溜息を吐いた。
-
- その間もヒカリの叱責は続く。
- 姉として妹の心配をするヒカリの怒りは尤もだ。
- だがそれを大人しく聞くミライでは無い。
-
- 「では姉様は黙って他の人達が殺されるのを見ていろと仰るのですか」
-
- ヒカリの言わんとすることは、ミライも分かっている。
- だがあの状況では、自分がMSに乗って操縦する以外選択肢は無かった。
- そうしなければMSがもう1機取られるところだったし、ESPEM本部ももっと酷い被害を受けていた。
- また自分を認めてくれたザイオンを、ヒカリが一方的に責めるのは我慢ならなかった。
-
- 「そうは言っていません。ですが貴女のすべき事は戦うことなのですか」
- 「私は、私が出来ることをしただけです」
-
- そう、自分は自分が望むことのために出来ることをしただけだ。
- ただそれがどんな結果をもたらすのか、考えが及んでいないところがあるが。
- ヒカリとしてはそのことを指摘したいのだが、感情が先に立ってうまく伝えられない。
-
- 「では、貴女は戦いたいのですか?戦争がしたいのですか!?」
- 「誰もそんなこと言ってません。姉様、状況を考えて仰ってください!」
-
- ミライも戦争がしたかったわけはない。
- しかし自分がMSに乗らなければ、ケルビムも、自分自身だってどうなっていたか分からないのだ。
- その状況も分からずに、ただ責められることはミライには納得がいなかい。
- ますます姉の言葉に噛み付いていく。
-
- 「ヒカリ、熱くなりすぎだよ」
-
- 激しさを増す姉妹の口論に、コウがヒカリの肩をポンと叩いて落ち着けと諭す。
- 論理立てて話をすることにかけて、ヒカリはコウに敵わない。
- ヒカリはまだ怒りと不満を浮かべているが、確かに感情的になり過ぎていると反省してとりあえず押し黙る。
- その様子に呆れて苦笑に息を吐き出してから、コウはミライの方へ向き直りヒカリの後を引き継ぐ。
-
- 「ミライ、君はまさか、月に行ってからMSパイロットの訓練を受けていたわけじゃないよね」
-
- とにかく、ミライにMSに乗ることは間違っているのではないか、ということを考えて欲しいのだ。
- コウは冷静に一つずつ事実を確認することで、その方向へ話を持っていこうと考えた。
- ミライは幾分落ち着いた様子で、コウの問いにコクンと頷く。
-
- 「ならMSの操縦は、パイロットの人にやってもらうのが筋じゃないかな」
- 「ですが、誰も扱える人が居なかったのです」
-
- 自分が扱えるように書き換えたソフトのことを付け加えて、自分が操縦するのはあくまで止むを得なかったと主張する。
- まさか戦闘のプロたる彼らが扱えないソフトとは、俄かには信じられない話に、コウは驚いた表情を見せる。
- そしてザイオンに本当なの、と尋ね、ザイオンは苦しげな表情で当時の状況を説明する。
- 正直コウは愕然としたが、その時のことを今更責めても仕方が無い。
-
- 「なら、君がこれからやるべきことはまた戦場に出ることじゃなくて、他の人にも扱えるようにすることだよ。それに戦争を無くそうと父さんや母さんが頑張っている時に、君が戦争をしていましたというのは拙いんじゃないかな」
-
- コウの言っていることは正しい。
- ミライの立場からすれば、それがどれだけ両親に迷惑を掛けるか分からないわけではない。
- ミライは少し不満顔ながら、分かりましたと返事をする。
-
- しばらくやり取りを静観していたジャックだが、一つ咳払いをしてヒカリとコウを制する。
- だいたいの事情は理解できた。
- となると、プラントとしてはこれ以上、話を拗れさせないように深入りしないことだ。
-
- 「交戦していた相手はザラ派に間違いないのだな」
-
- ジャックはテツに確認する。
-
- 「はい、恐らく傷ついたケルビムを見て勝算を見出し、自らの戦力に取り込むべく襲撃したものと思われます」
-
- それならばESPEMの戦闘記録、そしてプラントからの補給には何とか正当な理由が付けられる。
- 今回の修理と補給のことで、プラントだけがESPEMに特別な便宜を図ったと言われては、地球の各国家から抗議が殺到する。
- 色々と文句を言う国もあろうが、とりあえずそれを回避するカードを手に入れたことで、ジャックは安堵の息を吐いた。
-
- 「とにかく、マンティウスまで航行できるような修理と補給、必要な資材は出来る限り提供しよう。だが戦闘行為はともかく、今の状況は非常に問題であると言わざると得ない。よってこの会合のことはここを出たら一切忘れるように」
-
- つまりはミライの出撃に関しては、見なかったことにしようと言うのだ。
- その決定にザイオンとレイチェルは心から安堵した。
- 万一自分達のせいで、また国家間の緊張が高まるのは笑い話にもならない。
- 尤も、査問会はESPEMに戻ってからのほうが大変だろうが。
-
- 「いいかいミライ、MSのソフトは何とか他の人も扱えるように書き換えるんだよ」
-
- それからコウがミライに念押したところで、モニタの電源が落ちた。
- 部屋が明るくなると、テツが溜息を吐きながらザイオン達の方に向き直って苦笑する。
-
- 「とにかく、修理が終わるまでは艦内でゆっくり休めってことだな。ミライ様はソフトの書き換えでそうもいかないかも知れませんが。それから、今回のことは外部への口外はくれぐれも厳禁だぞ。いいな」
-
- テツの念押しに、ザイオンとレイチェルは分かりましたと敬礼しながら、体が鉛でも詰め込まれたように重くなったのを感じていた。
-
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