- ESPEM本部の襲撃後、すぐにオーブへ戻ったシンは、休む間もなくオーブ代表首長であるカガリ=ユラ=アスハの元を訪れてその時の状況を詳しく報告した。
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- 「そうか・・・」
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- カガリはシンの報告に相槌を打つと、渋い表情で押し黙る。
- 行政府にもその事件の一報は入ってきていた。
- ESPEMに関するニュースは、毎日の様に世界各地で報道される。
- 彼らの活躍だったり立場を批判するものだったり様々だが、少なくともカガリ達、オーブはESPEMを全面的に支援し、世界の平和、調和のために尽力していた。
- その動向は世界の平和を左右するものとあって、その注目度が高いのは当然のことだ。
- 今回の新しい部隊の設立に関しても、賛否両論ある中でオーブは真っ先に支持を表明し、出向者の選定も押し切ったのだ。
- それだけにこの問題はオーブの立場として、また地球圏に住む人々にとって大切なことで、かつ微妙で悩ましい問題でもあった。
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- でもまさかそんな大事な時に襲撃する愚か者がいるとは、正直思いもよらなかった。
- そしてそれを予見できなかった自分達の考えの甘さも悔やむ。
- もしかしたら混乱が目的だったかも知れないと思うと、むしろもっと警戒すべきだったと後悔するが今更遅い。
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- カガリの夫であり、代表首長の優秀な補佐官でもあるアスラン=アスハが溜息を吐きながらテレビのスイッチを入れる。
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- 「それでこの有様か」
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- テレビの向こうでは、大西洋共和国の大統領、エルリック=エドソンが何やら喚き散らしている。
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- 「ESPEMが清廉潔白な中立機関だというのは、真っ赤な嘘であります」
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- 言いながらどこから手に入れたのか、その時の襲撃による戦闘の映像を流して、ESPEMのラクスは世界を支配しようとする独裁者だと嘯いている。
- それを聞いてカガリは何を戯言をとぼやく。
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- エルリックが権力に取り付かれた男だと言うのは、最早有名な話だ。
- そしてコーディネータ嫌いであるということも。
- 彼にとってESPEMのラクスというのは、地球圏を支配するという権力を手に入れた羨むべき存在なのだ。
- ブルーコスモスの息が掛かった者では無い、というのが救いだが、表向きだけの話かも知れないし、これから接触があるかも分からない。
- 何よりこの発表が世界にまた混乱と争いをもたらさなければ、と心配になる。
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- それにしても、とアスランはエルリックに対してまた溜息を吐く。
- 彼は市民からは大変不評でいつ更迭されてもおかしくないとは言われているのだが、言われ続けて数年、未だ大統領として権力を握り続けている。
- その執念だけは見事なものだ。
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- 「ユウキ、よく覚えておけ。誰もが同じ平和を望むわけじゃない。だからこそ我々は時に立ち向かわなければならないんだ。武器を持たずにな」
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- カガリはテレビから視線を外すと、1人息子のユウキ=ナラ=アスハに視線を向けて説く。
- 傍らに控えていたユウキはカガリの言葉を、はい、と心配そうな表情を浮かべながら頷く。
- 彼はまだ若いがその潜在能力は高い。
- 他の首長達や市民からも、次期代表首長としての期待は高いのだ。
- だからこそ一つでも多くの現実を知り、そこから平和を築くとはどういうことなのか、ということを学び取って欲しいというのが両親の願いだ。
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- 「ラクス達も大変だな」
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- アスランが親友達を憂いてポツリと零す。
- おそらくESPEM本部には各国や市民から様々な問い合わせ、苦情が寄せられていることだろう。
- その対応にてんやわんやしている様子が目に浮かぶ。
- もちろんこれから自分達もオーブ国民に対して、その対応を迫られるのは明白だ。
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- だがそれだけではなく、彼にはもっと嫌な予感もある。
- 自分達が大きな戦争に巻き込まれていった背景に、必ず新型機の強奪という事件が絡んでいたからだ。
- 一度は自分が起こしてしまったことではあるが。
- これが何かの予兆でなければ良いのだが、と不吉な思いが過ぎったことを慌てて振り払う。
- 世界はようやく平和な道の上を歩き始めているのだ。
- 出来ることなら取り越し苦労であって欲しい。
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- それに自分達もだが、キラ達はこのような逆境には何度も立たされてきた。
- その度に諦めずに立ち向かい、乗り越えてきたことも知っている。
- だから今回も彼らを信じるしかなかった。
- いや、そんな彼らだからこそ信じていた。
- この局面も乗り越えて、世界に正しい道筋を指し示してくれることを。
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- アスランとカガリは、眩しそうに窓の外に広がる空を仰ぎ見た。
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PHASE-11 「出港」
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- ザフト軍の駐留基地に入港して数日が経過。
- 急ピッチで進められていた艦の修理と補給が、ようやく終了した。
- それを受けてすぐに出港の予定時間が話し合われ、その準備に慌しく人が行き交っている。
- もちろんケルビムのクルー達も各持ち場で、その作業に追われている。
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- 「これから私達、どうなるのかしら?」
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- オペレータ席で搬入物資のチェック等の作業をしながら、エミリオンがポツリと零す。
- とりあえずの身の安全は保障されているので、今はそれほど深刻な心配をしていない。
- だが本部に帰った後の方が、色々と心配事が多い。
- 自分個人はまだそうでもないが、被害の規模やミライの出撃問題のことを思うと、ザイオンの責任問題としては穏やかではいられなさそうだ。
- 最悪、部隊の再編などで、ケルビムを降りることになるかも知れないのだ。
- まだほんの短い期間しか乗っていないのだが、既に3度も戦闘を潜り抜けたからだろうか。
- 想像以上の激務だとは感じているが、既にケルビムに、そして部隊の同僚達に愛着が湧き始めていた。
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- 「確かに、既に色々とありすぎたからな」
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- エミリオンの呟きを聞いたアールも、艦のメンテナンスの手を止めて少し物思いに耽る。
- 彼もまた同じような気持ちを抱いていた。
- ドキドキしながら初めてケルビムの操縦桿に触れたのが、もう遠い昔であったかのようだ。
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- 初めは出身も、育った環境も、ナチュラルかコーディネータかさえ違う中で、うまくやっていけるのか不安もあった。
- しかし特異な環境下とは言え、戸惑いながらも一つの思いに向かって共にあれたのは、仲間意識を植え付けるのには充分だった。
- まだ本来の出向の任期は長い。
- 出来ることなら、このまま同じメンバーで次の任務に就きたいものだ。
- 他のブリッジクルーもそんな淡い希望を抱きながら、間近に迫った出港に向けて準備をしていた。
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*
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- ザイオンは隊長室で通信を受け取っていた。
- その相手はミレーユだ。
- ヤマト産業技術委員長の代理、と言うことで通信を求めてきた。
- ケルビムの修理に当たっていた人員は産業技術委員のスタッフだ。
- 彼女は秘書として修理完了の報告や割いた人員、資材の調整結果を、部隊の責任者たるザイオンに連絡をしたのだ。
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- そんな形式ばった連絡のやり取りが終わると、ザイオンは表情を崩す。
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- 「久し振り。そっちは相変わらずみたいだな」
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- 先のヒカリ、コウともそうだが、ミレーユとも1年振りの再会だ。
- 懐かしさが込み上げ、ついお互いの立場を忘れて、思い出話に花を咲かせた。
- そんな中でザイオンがふと口にする。
- 幼馴染だからこそ、互いの思いを知っている。
- 自分がそうだから、尚更相手の辛さや苦しさが分かるのだ。
-
- ミレーユはコウとの関係を指摘されて、少し膨れっ面になって言い返す。
-
- 「そっちも大して変わんないんじゃないの」
- 「俺は連絡だって取れる状況じゃないだろう」
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- ザイオンもヒカリとの関係を指摘され、慌てて反論する。
- しかし言ってから、まあな、と溜息を吐く。
- ミレーユも少し切なそうに眉を曲げて、そうねと苦笑して同意を示す。
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- どちらも確かに想いは抱いているのだが、未だにハッキリと口にできないでいる。
- 傍から見ていればそれは一目瞭然なのだが、当の本人達はそういったことには鈍く、またあれよあれよと言う間に出世してしまって、話を切り出す機会を逸してしまった。
- そして今に至る。
- 鈍感で遥か人の上に立つ存在を好きになった者同士、その気持ちは痛いほど分かり合えた。
- だからと言って、そう簡単に諦めるほど、この想いは軽くない。
- 2人はそれを互いに確認し合った。
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- 「大変でしょうけど、頑張ってね」
- 「ああ、そっちもな」
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- 久し振りの幼馴染との会話に、笑顔で通信を終了する2人。
- だが通信機が切れると、ザイオンはすぐに渋い表情になって、シートの背もたれにもたれながら天を仰ぐ。
- ESPEM本部に戻った時、自分はどんな処罰を受けるか分からない。
- それを考えると怖くはなかったが、果たして幼馴染の彼らにどんな顔をして会うことが出来るのか。
- 自分ことを期待して送り出してくれただけに、それを裏切ってしまったことに対して、申し訳ない気持ちで一杯だ。
-
- ちゃんと彼らに心配を掛けずに、笑顔で会えるのか。
- それだけはとても心配していた。
-
*
-
- 「他の人にも扱えるように、と言われましても」
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- ミライはぶつぶつ言いながら、ケルビムの中に与えられた部屋の中で1人パソコンのモニタと睨めっこをしていた。
-
- あの話し合い以降、彼女はフリーズのソフトの書き換え作業を行っていた。
- もちろん他の人でも扱えるように、かつ今のスペックを落とさず。
- だがそれはとても難しいことだ。
- あの時は無我夢中に機体の性能を自分自身が最大限生かすように、無我夢中で今のソフトを作ったのであって、その後のことをきちんと想定していたわけではない。
- それにどちらかと言うと、ミライがそのシステムに合わせた操縦術を短期間で、戦闘をしながらマスターしたと言う方が正しい。
- それだけに、いざソフトの書き換えを行おうとしてもとても難しかった。
- どうしても人の扱う部分を考えると、リンケージのコントロールやネットワーク構成がスペックを維持できない。
- 本来ソフトウェアというのは、誰でも扱えるようになっているのが良い物ということになる。
- 確かにどんなに優秀なシステムでも人が使えなければ宝の持ち腐れで、システムに応じて人が使い方をマスターするというのは本来ナンセンスなことだ。
- その辺りが分かっていないのが、ミライがソフトウェアの開発者としてまだまだ未熟なところだった。
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- またミライは様々な分野においてずば抜けた才能を発揮しているが、当の本人はそれほど優秀だとは自覚していないため他人が扱えない方が難があると思っている節がある。
- 自分に出来ることは、大抵は他の人もできるはずだと信じていた。
- もし自分に出来て他人に出来ないならば、それは自分に一番向いている仕事や作業のはずだ。
- だからその時は、自分がそれを行うべきだとも思っていた。
- 両親からずっとそうやって教わってきたのだから当然と言えば当然なのだが、加えて勝気な性格で時にそれを実行して1人突っ走り、それがこうして周囲を巻き込んでいく。
- その辺は両親、姉兄から脈々と受け継がれたヤマト家の血なのかも知れないが。
- しかし今の作業に対して乗り気になれないこともあり、思うように捗らず、出てくるのは溜息ばかりだ。
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- 「やはり、私が乗った方が効率が良いと思いますわ〜」
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- 思わず愚痴を零して仰け反るように天を仰いだ。
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- その背後から鋭く声が掛かる。
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- 「色んな人に言われたんじゃないのか。自分の立場を考えろ、っていうようなことを」
-
- 声を掛けたのはエデューだ。
- 物資の搬入をMSで手伝っていた彼だが、それも一段落つき、ソフトの書き換え作業の様子を見に来た。
- ちょうどその時、開けっ放しにしてある扉の向こうからミライが愚痴を零す声が聞こえてきたので、堪らず注意したのだ。
- 彼自身はミライのことをそれほど特別視していない。
- 事務総長の娘であっても、与えられた仕事はきっちりすべきというのが彼の持論だ。
- そしてそれは正論だ。
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- 言われてミライは一瞬驚いた表情を見せた後、頬を膨らませて、分かっていますわ、と小さく呟く。
- 初対面がいきなり胸倉を掴まれるという最悪なものだったからだろうか、ミライはエデューのことが苦手だった。
- だからエデューの視線から逃れるように、画面から目を離そうとしない。
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- そんなミライの思惑を知ってか知らずか、エデューはしばらく黙って作業の様子を見ていたが、唐突にポツリと呟く。
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- 「フリーズには俺が乗る」
-
- 本来ならばフレアのパイロットとして部隊に配属されたエデューだ。
- だがその機体は奪われ、フリーズに乗るはずだったクラスタが死んでしまっているこの状況では、エデューがフリーズを操縦するのはむしろ妥当なことだ。
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- 「俺が必ず乗りこなしてやる。だからお前は安心してソフトの書き換えをすればいい」
-
- それは自分自身に対しても言い聞かせている言葉だ。
- 彼自身がミライの書き換えたフリーズを操縦できないことを一番歯痒く思っていた。
- 自分はMSを駆って戦うためにザフト軍に入り、そして今ここにいる。
- それが出来ないと言うことは、己のアイデンティティを失うようなものだ。
- だから彼はフリーズの操縦をこなす必要があった。
- 何より自分自身のために。
-
- 余りにも力強く宣言されたものだから、ミライも思わずエデューの方を振り返る。
- 今まであまりエデューの顔をしっかりと見たことは無かったのだが、女性にもてそうな整った顔立ちの中に、強い意志が込められ、それがとても大人びて見えた。
- 自分と2つしか年齢は違わないのに、自分の意志をしっかり持っていることを羨ましく、そして純粋にすごいと思った。
- 2人はしばし無言のまま互いを見つめ合う。
-
- 見つめているうちに、エデューはだんだんと顔が火照ってきたのを感じる。
- こうして見ると、ミライは見た目はけっこう可愛い女の子だと思う。
- 基本的に明るい感じの娘は嫌いじゃない。
- それにヤマトの娘だからではなくて、ミライを1人の女の子として、危険な目に合わせたくないと思った。
- その辺はエデューも所謂普通の男というわけだ。
-
- 「お前はやはりMSに乗るべきじゃない」
-
- エデューはぶっきらぼうに背を向けて告げると、足早にその場を立ち去る。
- 正直なところ、自分の地位をいともあっさり奪っていったミライのことは嫌いだった。
- いづれは蹴落とすべき対象だと思っていた。
- だがつい今しがた、自分でも理解できない感情が湧き上がり、ミライのことを直視できなくなった。
- それは言うなれば、幼い頃に淡い想いを抱いた初恋のような。
- しかし理解は出来ても、エデューにはその手の経験が全く無い。
- ミライのことを考えると、ドキドキと胸の鼓動が治まらない。
- そんな自分の感情に戸惑い、自嘲しながら彼は自分の部屋へと戻っていった。
-
- 1人取り残された格好となったミライは、その不器用な物言いと態度に、クスリと笑みを零してパソコンに視線を戻す。
- まさかエデューの中にそんな淡い想いが芽生えたとは気付いていないが、さっきまでと違って、随分と気持ちが楽になって、温かなものに満たされていく。
-
- ミライは自分のことをお前なんて呼ぶ人間とは、今まで出会ったことがなかった。
- 大抵の人はミライ様と崇めるように呼び、腫れ物を触るように自分とは距離を置いて接する。
- まるで自分が特別な存在であるかのように。
- だから彼女には、対等な立場で語り合える友達がいなかった。
- 彼女自身がそれを望んでも、その生まれと立場がそれを許してはくれなかった。
- それ故、両親の教えと現実のギャップに苦しんだこともある。
- 今もほとんどのケルビムのクルーは、自分とは一定の距離を置いている。
- 折角だから仲良くしようとミライから話し掛けても、誰もが緊張感を纏って声を上ずらせて、まともな会話にならない。
- その中でミライは一層孤独感を募らせていた。
- それだけに、エデューが自分のことを普通の人間だと扱ってくれているように強く感じた。
- それは彼女にとって、とても喜ばしいことだ。
- ミライの中でもエデューに対する意識が、少しずつ変わり始めていた。
-
*
-
- 「準備は全て整った?」
-
- ブリッジの扉を開けるなり、レイチェルはクルー達に尋ねる。
- その言葉には抑揚が無く、彼女が疲れているのか、怒っているのかよく分からない。
- ただ不機嫌なことだけは理解できた。
- ブリッジに緊張感が張り詰めていく。
- レイチェルは考え事をしていて、その空気に気付かない。
- 実は彼女は別に疲れているのでも、怒っているのでもない。
- ただ考え事をしていると、発する言葉に抑揚が無くなる癖があるのだが、それを知らないクルーが勘違いしているだけだった。
-
- 「はい、物資の搬入も全て完了しています。ただ、フリーズのソフトの書き換えはまだ終了していないようです」
-
- エミリオンが慌てて搬入作業の進捗状況、それにフリーズのメンテナンス記録を確認して答える。
-
- 駐留基地に滞在中の作業スケジュールには、フリーズのソフトの書き換えも組み込まれていた。
- しかしその履歴にはソフトウェアの書き換え、インストール作業完了は入っていない。
- 作業がミライ1人でしか行えないのでは捗らないのだろうと周囲は勝手に解釈していたので、その遅れに誰も文句を言わない。
- 否、思っていても言える者は1人もいないだろう。
- それがミライがケルビムの中で孤立する要因でもあり、彼女との思いのズレを浮き彫りにしている。
- 尤もそれに気付いている者すら居ないのが現状だが。
-
- エミリオンの返事を聞いたレイチェルは、そう、と言ってさらに考え込む。
- 本当であればそれが終了するまで出港は見合わせたいところだが、そうもいかない。
- ESPEM本部に早く戻って報告しなければならないことはたくさんあるし、やはりザフトの基地に居るというのは少々落ち着かない。
- このことがどこかに漏れたらザフトもESPEMもどんな言い掛かりをつけられるか分からない。
- さっきから考えているのは、ずっとそれらのことだった。
- それにソフトの書き換えがいつ終わるかは、分からない状況だ。
- 航行に支障が無いのなら、早く出港した方が良いだろうと考える。
- それに彼女自身、早く出港したいと思っていた。
- ザフト側の相手が大物過ぎて、またミライの面倒を見るのは正直荷が重くて、早く何とかしたいと言う思いを抱いてたためだ。
-
- レイチェルはその考えをザイオンにも報告し、彼も出港を指示する。
- その決定が下ったことで、ケルビムは予定通り、数刻後に出港することが正式に決まった。
-
- 「それではソウマ参謀、お世話になりました」
- 「ああ、気をつけてな」
-
- テツもドックの司令室からケルビムの出港を見守っている。
- まだザラ派を追っていった小隊が結局ジールを発見出来なかったと言うことで、再び交戦するのではという不安がある。
- それにESPEM本部を襲った謎の部隊の存在も気に掛かる。
- これが何かの前触れで無ければいいのだが、と不吉な予感を慌てて振り払う。
- 今はそんな無駄なことを思っても仕方が無い。
- ただ一つ確かなのは、まだ若い彼らにはこれから先も厳しい現実が待っていることだろう。
- しかしそれは彼らが自ら乗り越えなければならないことだ。
- 心の中でそっと健闘を祈る。
-
- その祈りに応えるように、レイチェルの命令が響き渡る。
-
- 「各員持ち場につけ。ケルビム発進、ESPEM本部へ帰還する」
-
- レイチェルの叫びと共に、ケルビムのメインエンジンに火が灯り、その巨体がゆっくりと前進する。
- そしてその姿全体が宇宙に出ると一気に加速して、駐留基地の制空権外へと飛び出していった。
- テツはその後ろ姿を、少し憂いを帯びた瞳でじっと見つめていた。
-
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