- ケルビムが激闘を広げている頃、その宙域に向かう1隻の戦艦があった。
- ESPEM所属のエターナル級戦艦<エトワークス>。
- そのブリッジでは緊張した面持ちのクルー達が座していた。
- それもそのはず、そこにはとある1人の男が居たからだ。
- ESPEMでも一目置かれるどころではない、凄い人物が。
- 尤も、その男はそんな周囲の雰囲気に気付かない様子で穏やかな表情を浮かべていたが。
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- 「前方に戦闘らしき光があります」
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- 最大望遠で目視出来ようかと言うことろまで近づいた時、レーダーを確認していたオペレータが突如叫ぶ。
- コードを照合した結果、片方は間違いなくザイオン率いる部隊だということが確認できた。
- しかもESPEM本部を襲った部隊と、再び合間見えているという状況に、ブリッジの中にざわめきが起こる。
- ケルビムの援護に来たのは間違いないのだが、次に与えられるべき任務のために、当面の目的は合流だけだったはずだ。
- それがまたも戦闘に巻き込まれているという事態に、クルー達は何とも言えない表情を浮かべる。
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- 「数的にかなり不利な状況です」
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- 続けてオペレータから戦況を知らせる報告が入る。
- 男は1人冷静に報告を聞くと、しばし考え込んだ後指示を飛ばす。
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- 「君達はここで待機してて。僕が行って彼らの援護をしてくるから」
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- 男の言葉にまたブリッジには違ったどよめきが起こるが、男はそれを苦笑して受け流すとブリッジを後にする。
- 向かった先はMS格納庫。
- グロウズが立ち並ぶドックの中に、一際目立つ、グレーのMSがあった。
- 男はその自分の愛機の前に立ち、その顔を見上げる。
- こうして向き合うのは本当に久し振りだ。
- 不測の事態に備えて積んで来たが、まさか本当に必要になろうとは思わなかった。
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- 彼がMSに乗るのは実に10数年振りだ。
- あまりに久し振りのため、きちんと操縦出来るか、一抹の不安もある。
- しかしいざ操縦桿を握ると、指や体は過去に何十回と繰り返してきた発進シークエンスをしっかりと覚えていた。
- 少しの躊躇いも間違いも無く操作を終えると、MSの目に光が灯る。
- そしてコックピットに響くその駆動音に、すっかりと気持ちは落ち着いた。
- これまで幾度も自分の剣となり、道を切り開く術を与えてくれたこの力を再び手にし、懐かしさと切なさが同時に溢れてくる。
- 争いが無くなれば良いと願いながら、その一方で今も持ち続ける力の矛盾に悩みが尽きることは無い。
- それでもここまでその覚悟を持って、10年以上も突き進んできた。
- 今更躊躇いなど無い。
- 力強く操縦桿を握ると、目の前に広がる宇宙空間を見据える。
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- 「またよろしく頼むよ」
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- 言いながらエネルギーレバーを押し上げ、フットペダルをゆっくりと踏み込んでいく。
- そしてボディーがゆっくりと白を基調とした赤と青のトリコロール、そして間接部と青い翼の下が黄金に染まっていき、伝説と評されるそのMSとパイロットが今再び目を覚まし、漆黒の宇宙に光を照らすように飛び出した。
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- 「キラ=ヤマト、フリーダム、行きます!」
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PHASE-13 「甦る伝説」
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- 「くそっ!何で当たらない!?」
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- エデューが苛立ちながら、スコープを覗き込んでトリガーを引く。
- しかし正確に狙ったはずの射撃は、またもガザにひらりとかわされる。
- まるでこちらの攻撃を見透かされているかのように、紙一重で避けられるのだ。
- ならばと対艦刀を振り被って切り掛かるが、バイアランやマラサイにその行く手を阻まれ、それも適わない。
- リュウも必死にランチャーのトリガーを引いてエデューを援護するのだが、こちらの攻撃もガザに面白いようにヒラリとかわされる。
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- エデューの心の中では、量産機のガザをまずは片付けて、それから残りのバイアランとマラサイを切り捨てるつもりでいた。
- それは簡単なことだと高を括っていた。
- それなのに片付けることはおろか、攻撃がかすりもしないという事態に、焦りと苛立ちは募るばかりだ。
- その内にリュウのグロウズはランチャーを破壊されてしまった。
- エデューも対艦刀をへし折られて、いよいよ切羽詰った状況に追い込まれる。
- その隙を逃さず、ガザ3機が一斉にエデューのグロウズをターゲットにライフルを連射する。
- 体にかかるGも構わずに、エデューは機体を加速してその攻撃から逃れる。
- しかし正確で素早い攻撃をかわしきれず、何とかシールドで防いだものの、まともに攻撃を喰らってしまった。
- その衝撃でバランスを崩す。
- そんな無防備な姿を晒す形になったエデューに、ヨウナが狙いを定める。
- 相手がフリーズでないことが残念だったが、とにかく誰かを殺れるということはヨウナにとっては歓喜の瞬間だった。
- ターゲットロックされたことに、エデューは己の死を覚悟し、歯噛みした。
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- しかし次の瞬間、突然ヨウナのマラサイの右腕が吹き飛んだ。
- 爆発の衝撃に揺れるコックピットの中で、ヨウナは攻撃されたことを理解するのに時間がかかった。
- 一方で、ヨウナ以外の者はその瞬間をしかと目撃していた。
- 一筋の光が、マラサイの右腕を貫いたのを。
- その場に居た者が一斉に、光が飛んできた方向を振り返る。
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- そこにはかつて、いくつもの争いに終止符を打ってきたと言われる伝説のMS、シャイニングフリーダムの機影があった。
- その佇まいは威風堂々として、強烈な存在感を放っている。
- 貫禄に満ちたその姿に、誰もがしばし見惚れるようにシャイニングフリーダムを見つめていた。
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- 「何故フリーダムがこんなところに居る」
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- グリムが驚き、ぼそりと呟く。
- その伝説的な力はMSパイロットの間では有名だが、この10数年はその姿を見た者は無く、また核エネルギーを使用した機体であることから、既に破棄されたという見方が一般的だった。
- しかしその憶測は間違いだったと思い知る。
- 現実に今目の前に居る。
- かの伝説は今もまだ生きていたのだ。
- だがフリーダムが製造されたのは20年も前の話だ。
- それからさらに技術が進歩した今の新型MSが相手では、いかに伝説の機体と言えどついて来れるはずが無い。
- そう計算を立てたグリムは、ガザにシャイニングフリーダムへの攻撃指示を出す。
- ガザは素早くライフルを構えると、瞬きする間も与えないように連射する。
-
- しかし伝説は今も錆び付いてはいない。
- キラはそれらの攻撃に逸早く反応して機体を右に左に振り回し、射線軸からうまく逃れる。
- その動きの間に両手にライフルを構えると、シャイニングフリーダムから19条の光が迸る。
- それらはまず3機のガザを確実に捉え、その頭部と武器、腕を破壊した。
- その動きは20年も前の旧型のものではなかった。
-
- シャイニングフリーダムの動きに感覚と自信を取り戻したキラは、これで3機の戦闘力を奪ったと頭の中で計算した。
- しかしガザは、武器を失って尚シャイニングフリーダムの周囲を旋回している。
- 一定の距離を保って、攻撃する隙を伺っているかのように。
-
- 「まさか、APSか!?」
-
- その通常ではありえない動きを見せるガザに、キラはその可能性を疑った。
- かつてキラをも苦しめた、人の手を介さず自動でMSを操縦する悪魔のシステム。
- 人の手を介さず人を殺めることができるこの道具は、命が失われる悲劇を感じることすら人から奪っていくとして、国際条約で禁止、破棄されたはずだった。
- それがどういった経緯でまた作られたのかは分からないが、本当にAPSを搭載した機体なら由々しき出来事だ。
-
- キラは可能性だけであってほしいと願いながら、それを確認するため、1機のガザに接近して捕まえると、コックピットハッチだけをサーベルで切り裂く。
- 果たして思ったとおり、シートには誰も座っておらず、それでも抵抗するようにバーニアを吹かしている。
- キラの胸に鈍い痛みが込み上げる。
- 人はあれだけ悲しい目にあっても、あれだけ苦しんでも、それでもまだ戦いを続けるためにこんなものまで復活させたことに。
- しかしこれで決意が一層固まる。
- このシステムを存在させてはいけないという使命感が燃え上がる。
- 素早く腰のレールガンで捕まえた1体を粉々に破壊し、続けざまにライフルを水平に構えると、両脇のガザを2機同時に撃ち落す。
- その間隙を縫って、ヨウナがビームサーベルを残った左手に持って切り掛かる。
-
- 「お前も俺の邪魔をするなーっ!」
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- またしても良い所で邪魔されて、完全に頭に血が上っていた。
- ESPEMの本部を襲撃してから、やることなすこと全て邪魔が入ってうまくいかず、ストレスが溜まる出来事ばかりが起こる。
- これ以上の失態は彼の立場を危うくするばかりでなく、その精神も崩壊寸前のところまできている。
- エクステンデントとしての彼は、戦闘で力を発揮すること以外に価値を見出されていない。
- そのことはヨウナ自身が一番よく分かっている。
- だからこそこの戦いは負けられないのだ。
- 気迫を込めてシャイニングフリーダムに襲い掛かった。
- しかしキラはその動きをしっかりと捉えており、マラサイの方を振り返るや否や、ビームサーベルを横に一閃しその頭部と左腕を切り離す。
- 雌雄は一瞬で決した。
- モニタがブラックアウトしたコックピットの中で、ヨウナは悔しさに打ちひしがれていた。
- 自分の存在価値というものに危機感を持ち、同時に自信を無くしていた。
- 過去の全てと引き換えにこの力を得たと言うのに、それが全く相手に通じなかったことに。
- 失くしたはずの涙が頬を伝っていることに、ヨウナ自身気付いていなかった。
-
- シャイニングフリーダムの戦い振りを見て、イリウスは背中が震える。
- 強敵と出会えた歓喜なのか、それとも初めて味わう恐怖なのか本人はわかっていないが、とにかく今までに無い戦いができる予感に、虚ろに血走った目を大きく見開く。
- そしてバイアランの両手を突き出してビームを放ちながら、奇声を上げて襲い掛かる。
- その攻撃をキラは落ち着いてかわすと、ドラグーンをパージして、小型のビーム兵器を巧みに操ってビームの雨を降らせる。
- イリウスは正面からのビームには瞬時に反応でき、機体をくるりと反転させて避ける。
- それでも後ろや横から飛んでくるビームを、その視界に捉えることはできなかった。
- 光の中に飲み込まれるように、バイアランはドラグーンのビームの攻撃を受けた。
- 結局バイアランはあっと言う間にボディー部だけを残して破壊された。
- 敗北が未だ信じられないイリウスは、怪しい笑みを浮かべて操縦桿を何度も引き直す。
- しかし機体はうんともすんとも反応せず、その表情は次第に怒りへと移り変わる。
- 自分が負けたのではなく、機械が故障して自分の戦いの邪魔をするのだと、MSに八つ当たりを始める。
- イリウスは怒声を上げて、目の前のコンソールを何度も拳で殴り続けた。
-
- ガザばかりか、ヨウナとイリウスもあっさりと敗れたのを見たグリムは、舌打ちをしながらも射撃を試みる。
- だかキラは螺旋を描いて華麗に避けると、再び全ての火器からビームを放った。
- グリムはぐっ、とくぐもった声を漏らして必死に機体を捻るが、頭部や腕を貫かれてしまった。
- 予想以上のパワーに、これが本当に20年も前に開発された機体なのかと、珍しく驚きと苦悶の表情を浮かべている。
-
- 今のMSも主要エネルギーはバッテリーだ。
- 昔に比べれば格段に効率の良い消費率ではあるが、それでも一定の時間しかエネルギー供給できず、強大なパワーを長時間維持することはできない。
- そのため、パワー出力は極力抑えて、稼働時間を長くさせるというのが理想系とされていた。
- だから核エネルギーで稼動するシャイニングフリーダムの一動で出せるパワーには、まだまだ及ばないのが現状なのだ。
- その課題点が改めて浮き彫りになったことをグリムは冷静に分析するが、だからと言ってこの状況を覆すことはできない。
- グリムは唇を噛んで、他の僚機に敗北と撤退の通信を送ることしかできなかった。
-
- その場のMSが全て戦闘不能になったのを確認すると、キラは他の光が交錯しているところに目を向ける。
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- 「君達はケルビムに帰還するんだ。後は僕が何とかする」
-
- エデューとリュウにそれだけ言い置くと、他の戦闘を援護すべく光の尾を引いてあっと言う間に飛び去っていった。
-
- 「これが、伝説のMSとパイロットの力・・・」
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- エデューもリュウもその圧倒的な力を目の当たりにし、ただ呆然とその様子を見つめることしかできなかった。
-
*
-
- ミライは攻撃をかわすことに必死だった。
- ガザの攻撃はとにかく正確で素早い。
- さらにストライクイージスの攻撃は荒いが、その火力をまともに喰らえば一撃で破壊されてしまう。
- 2つの異なるタイプの連続攻撃に、反撃の糸口すら掴めない。
-
- ついにストライクイージスの攻撃がフリーズを捉えた。
- ミライはシールドでそれを防御する。
- 機体にダメージは無いが、攻撃の衝撃はコックピットを揺らし、機体はバランスを崩した。
- その隙をついて、フリーズ目掛けてガザが狙いを定める。
- 体勢を崩しているフリーズでは、その攻撃を避けることも防ぐこともできない。
- ミライは直撃を覚悟し、思わず目をキュッと瞑った。
しかしそれは何時まで経っても来ない。
- 恐る恐る目を開けると、自分を庇うように1機のMSが間に入って、ガザの攻撃を受け止めていた。
- 助かったことにホッとしたが、自分は見たことも無いその機体にすぐに警戒心を強めて身構える。
- だが通信から聞こえてくる声に、ミライの警戒心は脆くも崩れ去る。
-
- 「下がるんだミライ!」
- 「その声、父様!?」
-
- 通信で聞こえてきたのは父の声だ。
- ミライは父がMSの操縦をしていることに驚いた。
- 史実として、過去にパイロットとして活躍していたことは聞いたことはあるが、それは嘘なのではないかというほど穏やかで優しい父の姿しか知らないミライにとって、MSを操縦する姿は想像できなかった。
- だが今それを目の当たりにして、それは事実と知った。
- ある意味で愕然とするミライ。
-
- そんな呆けるミライを余所に、キラはドラグーンを放つとその幾筋もの閃光でガザを飲み込んでいく。
- ガザは成す術なく、光の中で藻屑と化した。
- そして、ストライクイージスの方に向き直る。
-
- 一方のバンは、シャイニングフリーダムの姿を認めて衝撃に震えた。
- ガザの攻撃を何でもないようにかわし、アッサリと破壊したその力は正に伝説に違わぬものだ。
- しかしそれもバンの目から見れば、道化にしか映らない。
- 最高の力を持って産まれながら、それを知らずに育ち、今も偽りの平和の中で怠惰を重ねる男が、彼は憎かった。
- キラをこの世界から消し去ることが、自らの意志で望んだ最初の夢だった。
- その出生のために苦しんだことに、彼は産まれた時からずっと、その機会に巡り会うことだけを生き甲斐にここまでやってきた。
- それが叶う機会が今与えられたのだと、全ての感情のボルテージが上がった。
-
- 「キラァ、ヤマトォー!」
-
- バンが獣のような唸り声を上げて、シャイニングフリーダムに襲い掛かる。
- ビームサーベルを、真上から一刀両断にせんばかりの勢いで振り下ろす。
- キラはその攻撃を2本のビームサーベルを頭上でクロスにして受け止める。
- 2機はそのまま拮抗した状態で回転しながら宙を滑るが、バンは力を込めてフットペダルを踏み込み、シャイニングフリーダムを押し込んでいく。
- キラはパワーで押し負けていることに舌打ちすると、クロスしたビームサーベルの角度を少しずらしてストライクイージスの体勢を崩し、そこに蹴りを入れて振り払う。
- バンは衝撃に呻き声を上げるが、すぐに体勢を立て直して振り返ると全ての火器を連射しながらシャイニングフリーダムに迫る。
- その砲撃をシールドで防ぎながら、巧みに避けるキラ。
-
- その時キラは対峙しながら、ストライクイージスから発せられる不思議な感覚に戸惑った。
- まるで血の繋がった身内と、否、自分自身と向き合っているかのような、そんな気配に。
- しかしもちろん自分にはそんな血縁者はいるはずもなく、否いなくもないがその相手が今ここで対峙している人物な訳は無い。
- 頭を振って戸惑いを振り払うと、両手に構えたライフルと胸のビーム砲、腰のレールガンを一斉に発射する。
- だがストライクイージスは機体を器用に捻って、その射線を全て紙一重にかわした。
- 相手の不思議な感覚以上に、技量の高さにキラはさらに驚き目を見開く。
- これほどの相手と対峙した経験は数えるほどしかない。
- しかも長いブランクがあることに、一抹の不安を抱えたままなのだ。
-
- しかしキラは冷静まで失ってはいなかった。
- すぐに体の奥底で何かが弾けるような音を響かせると、その鋭い視線でストライクイージスの動きをしっかりと見定める。
- それは怒りに満ちた凶暴な動きで、だが逆に行動パターンは単調になっていた。
- その動きを見極めると両手にビームサーベルを構え、腕を胸の前で交差させてストライクイージスに向かって加速する。
- ストライクイージスもビームサーベルを振り被って、シャイニングフリーダム目掛けて加速し、2機は激しく衝突するのではという勢いで交錯した。
- その擦れ違いざま、花が開くようにシャイニングフリーダムの両腕を大きく開き、それに沿ってサーベルの光がクロスして、ストライクイージスの右腕を切り落とした。
- バンは右腕が切り落とされたことに舌打ちするが、すぐに反撃に転じるために、機体を振り向かせようとした。
- だがキラの方が僅かに速かった。
- 器用にサーベルの柄を回転させて逆手に持つと、背を向けたまま後ろにビームサーベルを後方に突き出して、その切っ先がストライクイージスの左足を刺し貫く。
- 加えてくるりと機体を回転させると、下からビームサーベルを振り上げてストライクイージスのスラスターを切り裂く。
- これによってストライクイージスは、思うように身動きが取れなくなった。
- さらにエネルギー切れを知らせるアラームが、コックピットに鳴り響く。
- バンはキラとの戦いに敗れたのだ。
-
- キラは傷ついたような表情で、ボロボロのストライクイージスを見つめる。
- 覚悟はあっても、結局こうして力でねじ伏せるのはその度に胸が痛むものだ。
- それでも戦い続けなければいけないことに、やはり少なからず虚しさがその胸に去来していた。
-
- 戦闘を見守っていたミライは、その驚異的な力を固唾を飲んで見つめることしかできなかった。
- これが伝説とまで言われた父の本当の力だということに、嬉しいような悲しいような、複雑な感情が沸き起こる。
- 争うことを好まない性格だということは、よく知っている。
- 一体父はどんな気持ちでMSに乗っているのだろうか。
- それを思うと、ミライの表情には辛い気持ちが溢れた。
-
- 一方のバンは敗れたことに、激情に荒れていた。
-
- バカな、バカな、バカな!!
- 俺がキラ=ヤマトに負けるなどありえない。
- 俺は最高の力を持っている。
- それがこんなところで、偽りの平和の中で力を眠らせて、怠惰を重ねた奴に負けるはずがない。
- あれが最高のコーディネータなどと、俺は絶対に認めない!
-
- 心の中で激しい葛藤を重ねた後、マスクの下で僅かに覗く口元からも感情が分かるほど怒りに歯を食い縛り、うわあぁー、と叫び声を上げると、拳を思い切りコンソールに叩きつけた。
-
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