- 男は自分のMSのコックピットに座って、目をじっと閉じていた。
- 何かを憂いて物思いに耽っている訳ではない。
- ただこれから起こる出来事を想像し、それを静かに心で噛み締め、そして興奮を堪えていた。
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- ここ数年で活動を活発化させ、再び世界を席巻し始めた過激派テロ組織、ブルーコスモスの宇宙部隊<ヒュドラ>。
- その1個師団が、キラが飛び込んだその争いの宙域を目指していた。
- 上官たるブルーコスモスの今の盟主、ヴォード=アルビレスからの命令で、ESPEMの新造戦艦の部隊と、そこから新型MSを強奪した部隊の戦闘に介入し、全ての新型機の強奪、もしくは破壊を行うために。
- 男はその部隊の指揮官であり、MSパイロットのエースだ。
- だが男にとっては上官の命令など、どうでも良かった。
- ブルーコスモスに所属はしているが、青き清浄なる世界のためとか、コーディネータを殲滅するといったことには全く興味が無い。
- 戦い、相手を殺すということが合法的に許されるから戦争をやっているだけだ。
- ただそれができれば、自分が楽しめれば、それだけで良かったのだ。
- 今回のこともそこに行けば間違いなく戦いができるから命令に従う、ただそれだけだ。
- 既にいくつかのザフト軍の部隊やザラ派のコーディネータ部隊と戦ったが、どいつもこいつも雑魚ばかりで、心を満たすような戦いにはならなかった。
- それでも相手を撃ち殺すという快感は得られたが。
- もう雑魚の相手ばかりはうんざりしていた。
- そこに伝えられた次の任務。
- 今回の相手はESPEMの新型だと言う。
- ならばこれまでのつまらない相手よりも、少しは心躍る戦いができるだろう。
- 期待はずれでいないでくれよと願いながら、新しい戦いができることが、彼の心を歓喜で満たしていく。
- それを思うと笑みが止まらなかった。
- 堪え切れず、喉の奥でクックッ、と卑下た笑みを零す。
- その心は凶悪な色に染まっていた。
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- ほどなくして、目的の場所に到着したとの知らせが入る。
- その報告を聞くと待ってましたとばかりに、舌なめずりしてその笑みを飲み込むと、男はキッと前方の漆黒に染まった宙を見つめた。
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- 「フォルエンス=ノットー、ランサープリッツ、出るぞ」
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- 男の掛け声と共に、漆黒に染まったMSが戦艦から飛び出してきた。
- 目の前の敵をただ殺すことだけに染まった、黒い意志で。
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PHASE-14 「さらなる混沌」
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- ミライは呆然とシャイニングフリーダムの背中を見つめていた。
- あそこに父が乗っているのだと思うと、未だに不思議な感じがする。
- それにどんな言葉を掛ければいいのか分からない。
- ミライは語るべき言葉を捜して、全く周囲の状況に注意を払っていなかった。
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- その時、頭上からビームが槍のように降り注いだ。
- 突然のことにミライは反応できず、光がフリーズを容赦なく襲う。
- だがビームが直撃するよりも早くキラが反応し、フリーズを抱きかかえるように掴んで回避行動を取る。
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- 「ミライ、ボーっとしてちゃダメだ!」
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- キラがミライを叱責し、蛇行しながらフリーズを抱えていない方の手のシールドを頭上にかざして、攻撃をやり過ごす。
- ビームの雨が止んだと思ったら、今度はMSの大群が頭上から接近してきた。
- それは特徴的な黒いMS。
- 今やブルーコスモスの象徴ともなっている量産機、ダガーメッシャーだ。
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- 「あのMSは、ブルーコスモスか」
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- それを知っているキラが吐き棄てるように呟く。
- 今この状況で攻撃を仕掛けて来るとは、彼らの意図が見えない。
- しかしブルーコスモスの目的なら一つしかない。
- コーディネータの皆殺しという、人類最大の愚行。
- そんなことをしても何の解決にもならないというのに、自分より優れているという嫉妬が、時にその思いを間違った方向へ暴走させる。
- そんなことはこれまでさんざんやってきて分かっていることだが、こうして未だにコーディネータとナチュラルと言う違いだけで争いの火種になることは悲しいことだった。
- だが悲しんでいても、今戦闘を避けることはできない。
- そうそう自分の目の前で誰かの命を奪うことをさせるものかと、キラは決意を再確認して一つ息を吐くと、ダガーメッシャーの射線を機体を捻ってかわし、肩や足のビーム砲を撃ち、次々に戦闘不能にしていく。
- フリーズを脇に抱えたままでだ。
- ミライはキラの操縦技術の高さに、呆然と抱えられているままだ。
- 父に直に抱かれて守られているような、そんな安心感すら抱く。
- しかしその体勢も長くは続かない。
- ランサープリッツが凄い勢いで迫ってきた。
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- フォルエンスはシャイニングフリーダムの姿を認めると、驚いた表情を見せた。
- あの伝説と謳われたかの機体が何故ここに居るのかと。
- しかしすぐにそんなことはどうでもよくなる。
- その圧倒的な戦闘力を目にしたフォルエンスは、伝説が本物であったと知る。
- ならばその無敵の伝説を終わらせて、自分の名を伝説に刻んでやると意気込む。
- そして相手にとって不足はない、否、この相手こそが自分が今まで求めてきた相手だと、彼の中にある戦いに狂った本能が頭の隅で囁く。
- それがまた彼の歪んだ心に、歓喜を満たしていくのだ。
- 瞬きするほどの間に、それだけの感情の遍歴を受けたフォルエンスは、まるで子供の様に嬉々とした表情を浮かべると、シャイニングフリーダム目掛けて加速した。
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- 「さあシャイニングフリーダム、その力で俺の渇きを満たしてみせろ!」
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- ランサープリッツのビームジャベリンが、容赦なくシャイニングフリーダムに襲い掛かる。
- キラはクッと歯の間から呻き声を漏らして、その攻撃をシールドで受け止める。
- UNNOKWNと示されるその機体の性能と、相手の力量の高さを瞬時に感じ取ったキラは、同時に抱えていたフリーズを投げ出して、その手にビームサーベルを握って反撃する。
- フォルエンスはそのキラの素早い攻撃に反応し、切り裂かれる前に後ろに跳び退ってかわす。
- かと思うとスラスターを吹かして、壁を蹴ったかのようにシャイニングフリーダムにまた接近し、ビームジャベリンを振り回す。
- キラはもう片方の手にもビームサーベルを掴み、クロスしたそれで攻撃を受け止め、力で薙ぎ払う。
- ランサープリッツはジャベリンを弾かれて体勢を崩すが、すぐにシャイニングフリーダムと向き合う。
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- 「ふふふ、いいぞフリーダム。俺をもっと楽しませろよっ!」
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- 予想に違わぬ力に、フォルエンスは凶暴な笑みを浮かべて、三度シャイニングフリーダムに襲い掛かる。
- キラもミライを近づくなと制すると、ランサープリッツを真っ向から迎え撃った。
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- その一方で、戦局が混乱に沈む中、ヒューは状況をモニタリングして舌打ちする。
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- 「ちっ、バンもやられたのか」
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- 伝説のシャイニングフリーダムが突然戦闘に介入して、グリム達を倒したことには気付いていた。
- しかし自分は目の前の相手に手一杯だったし、伝説と言えど20年も前の旧式MS相手に、バンなら負けることは無いだろうと高を括っていた。
- その結果がこれだ。
- バンの力を買いかぶり過ぎたと、自分の判断の甘さを悔やむ。
- 否、フリーダムの力を侮りすぎたといった方が正しいかも知れない。
- だがどちらにしても、今更そのことを悔やんでも仕方が無い。
- それに部隊の指揮官はバンだ。
- 扱いにくいイリウスやヨウナは、彼でなければ命令をきちんと聞かせることができない。
- その意味でも彼も連れ戻さなければ、部隊は機能しなくなる。
- しかもブルーコスモスの介入で混乱状態にある。
- これ以上の戦闘を諦めたヒューは、動かなくなったストライクイージスを回収すべく、機体が漂っている宙の辺り目掛けて飛び去る。
- その眼前にダガーメッシャーが3機立ちはだかるが、ビーム砲1撃で3機を貫く。
- しかしエネルギー残量が残り少なくなってきた。
- これ以上無駄な戦闘をするわけにはいかない。
- ダガーメッシャーへの反撃を諦め、射線を機体をジグザグに駆りながら、ストライクイージスの居る場所を目指す。
-
- ザイオンはフレアを追いかけようとするが、こちらも3機のダガーメッシャーに邪魔される。
- ぐっとくぐもった声を漏らして、3機のライフル攻撃を避ける。
- 無理に機体を捻った時に零れた金属の擦れる嫌な音に顔を歪めて、反撃の狙いを定めるとトリガーを引いた。
- しかし1機のダガーメッシャーを撃ち落したところで、ライフルからビームが出なくなった。
-
- 「こんなところで弾切れ!?」
-
- ザイオンはそう吐き棄てると、ライフルを投げ捨て、ビームサーベルを抜いて迫る2機の間を擦り抜けるように加速し、胴体から真っ二つに切り裂いた。
- 通り過ぎたリックディアスの後ろで爆発を起こすダガーメッシャー。
- だがその間にフレアを完全に見失い、新たなダガーメッシャーがリックディアスに攻撃を仕掛けてきた。
- ザイオンは舌打ちすると、頭を切り替えて目の前のダガーメッシャーの相手に集中した。
-
- ダガーメッシャーの攻撃を何とか掻い潜って辿り着いたヒューは、ストライクイージスを抱えると、フリーズに気がついた。
- しかしシャイニングフリーダムの戦闘に見惚れているらしく、こちらに注意を払う様子も無い。
- ならばガザにフリーズを攻撃するように指示を出して、戦闘宙域から離脱する。
- 後々少しでも有利に働くように、また自分達が離脱するまでの時間稼ぎをするように、彼はガザを文字どおり使い捨てた。
- どうせ誰も乗っていない唯のプログラムだ。
- このまま失われようとも、そこに良心の呵責が挟む余地は無かった。
-
- ストライクイージスが回収されたのを確認すると、タクミもフウジンに牽制の射撃を放って、ガザをけしかけて、その場を後にする。
- バンが敗れた時点で自分達の敗北は濃厚で、あのままだとESPEMに捕まっていただけに、ブルーコスモスの介入は彼らにとっては正直ありがたかった。
- 尻尾を巻いて逃げると言うのは少し癪だが、自分達は世界のためにもっと大きなことを成そうとしている。
- そのために、今は生き残る方が先決だと言い聞かせて胸のわだかまりを抑え込むと、セントルーズ向けてまっしぐら飛んでいく。
-
- ジローは逃げるなと喚いてライジンを追いかけようとするが、ガザに追撃を断たれる。
- くそっと毒づいてフットペダルを踏み込むと、あっと言う間にガザの目の前に接近し、ビームサーベルを振り下ろして縦に真っ二つにする。
- しかし今度はダガーメッシャーが3機、フウジンをターゲットにして迫る。
- ジローは舌打ちしながらも、その攻撃を持ち前の機動力で避けていくが、ガクンとバーニアの出力が突然弱くなて、機体の急制動が掛かった。
- 慌てて何やとコンソールをチェックすると、エネルギーが危険領域だというワーニングメッセージが赤々と表示される。
- このためバーニアの出力制御のロックが自動的に入ったのだ。
- こんな時に、と愚痴が零れるが、相手は待ってはくれない。
- ジローはすぐに気持ちを切り替えると、寄ってきたダガーメッシャーに擦れ違いざま、抜いたビームサーベルで切り裂いた。
- しかし焼け石に水とばかりに、次から次へとダガーメッシャーの攻撃は続く。
- しかもライフルは弾切れで、反撃する術は限られている。
- 圧倒的に不利な状況だ。
-
- 「こらかなりヤバイで。俺達も帰艦した方がええんとちゃうか」
-
- 焦燥に駆られた表情で、もう1機近づいてきたダガーメッシャーを切り裂き、ジローはザイオンに帰艦を促す。
- 同じく群がるダガーメッシャーを切り裂いたザイオンも、それは分かっていた。
- リックディアスのエネルギー残量も心許ない。
- 他の味方も同じような状況だろう。
- この消耗しきった今の状態では、いつまでもダガーメッシャーの猛攻に耐えることはできない。
- 既にフレアやライジンを追撃しようという気持ちは、欠片も無かった。
-
- 「分かっている。各機ダガーメッシャーの攻撃を潜り抜けて、ケルビムへ帰艦しろ」
-
- ザイオンは鋭く命令を飛ばす。
- しかし攻撃を潜り抜けることは、もう各自の力量に任せるしかない。
- そのための策を授けることは、今の彼にはできなかった。
- 己の無力さに唇を噛みながら、自らも必死にケルビムを目指した。
-
- エデューとリュウのところにも、ダガーメッシャーが攻撃を仕掛けてくる。
- 既に装備していたモジュールを失っている2機は、ビームサーベルを振りかざして近づく相手を切り捨てていく。
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- 「了解、エデュー機、リュウ機も帰艦します」
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- ザイオンからの通信に、エデューもさすがに声を上ずらせて応答する。
- リュウも必死の形相で、ダガーメッシャーの射撃をかわしてフットペダルを踏み込む。
- しかしエネルギーが残り少ない機体では、それほどの加速は得られない。
- それを歯痒く思いながら、それでも2人とも必死にケルビムを目指してグロウズを進ませる。
- すると目の前で、そのケルビムから信号弾が上がった。
- 撤退を示すそれは自分達の帰る目印になるし、これでこの宙域での戦闘は、一先ず終了となるはずだった。
- しかし撤退の信号弾が打ち上げられたにも拘らず、ダガーメッシャー達は攻撃の手を緩めようとはしない。
- それは条約違反、戦争におけるルール違反になるのだが、今や正規の軍でもなく、国家に所属もしていない彼らはお構いなしだ。
-
- 「しつこいんだよ、お前ら!」
-
- エデューは叫びながら、目の前に立ちはだかったダガーメッシャーをサーベルを横一線、一撃で薙ぎ払い道を開くと、ひたすらケルビムを目指した。
-
- その頃ミライは、父の援護をしようとランサープリッツにライフルを向けようとしたが、ガザの接近に気がついてそれは叶わなかった。
- フリーズ目掛けて迫るガザを、擦れ違うようにやり過ごすが、ガザは直ぐに反転してまたフリーズに執拗に特攻を掛けてくる。
-
- 「邪魔をしないでください!」
-
- ミライはシールドをパージすると、それをコントロールしてガザ目掛けて飛ばす。
- ガザはシールドを振り払おうと高速で螺旋状に移動するが、ミライの操るシールドの方が速い。
- しばしの追いかけっこの後、シールドがガザを捉えた。
- その先端を鉤爪のように開いて、がっしりと挟み込む。
- そしてそのまま真っ二つに切断した。
- 息つく暇も与えず、今度はダガーメッシャーの射線が襲う。
- ミライはシールドを呼び戻すと、ライフルを迫るダガーメッシャーに向けて構えた。
- しかしエネルギー切れのアラームがコックピットに鳴り響き、銃口がちかちかと点滅するだけだ。
- 続いて聞こえてくるザイオンの帰艦命令。
- フリーズもキラが援護に来る前の戦いでかなり消耗していた。
- これ以上戦闘を続けることはできない。
- さらにシャイニングフリーダムとの間に、ダガーメッシャーが2機割り込み、援護に向かうこともままならない。
- 父の駆るMSの姿はすぐそこに見えているのに、その間の距離は果てしなく遠く感じられた。
-
- キラの元にもザイオンの通信は聞こえていた。
- 自分の援護を考えている娘の気持ちをありがたく思いながら、早く撤退しなければ命が危ないという事態に肝を冷やす。
-
- 「ミライ、僕なら大丈夫だから早く帰艦するんだ!」
-
- 焦って叫ぶと、フリーズに迫るダガーメッシャーの頭部を両手に構えたライフルで同時に撃ち落す。
- ミライは後ろ髪が引かれる思いで、シャイニングフリーダムに背を向けるとケルビムに向かって飛び去る。
- それを安堵の表情で見送るキラ。
-
- 「余所見をするとは余裕のつもりかっ!」
-
- フォルエンスは、シャイニングフリーダムが先ほどからちらちらとダガーメッシャーの動きにも注意を払っているのが気に入らない。
- 彼は自分の力に絶対的な自信を持っていた。
- それを目の前のフリーダムは自分の攻撃をあしらいながら、嘲笑うかのように他の機体も相手にしてみせる。
- まるで自分の方が強いんだと言わんばかりに。
- その行為がとことんまで気に入らなかった。
- フォルエンスは怒声を上げてランサーダートを放つ。
- キラはドラグーンのビームで膜を作り、それらを破壊、直撃を許さない。
- フォルエンスはムキになってシャイニングフリーダムにシールドビームを連射するが、それもひらりとあっさりかわされるざまに、苦虫を噛み潰したような表情で執拗にシャイニングフリーダムに挑みかかる。
- しかし実力差はそれでは到底埋まらないことは、彼にも分かってはいた。
-
- その頃、フリーズを始め、ESPEMの各機は何とかケルビムまで辿り着いた。
- しかしホッとしたのも束の間。
- ダガーメッシャーの部隊はケルビムに帰艦するところを狙い撃ち、またケルビムもその集中砲火を浴び始める。
- MSは無事なようだが、今度はケルビムが爆発に包まれていく。
- ブリッジではレイチェルが必死に反撃の指示を飛ばし、アールが操舵を動かすが、攻撃を回避しきれない。
- ダガーメッシャーの攻撃が当たるたびに艦内は激しく揺れ、あちこちで悲鳴が上がる。
-
- ランサープリッツのしつこい攻撃をかわしながら、その行為を目にしたキラの胸に、言いようの無い悲しみと怒りが去来する。
- この行為は戦争ではない。
- 虐殺だ。
-
- 「どうしてそんなに人の命を、奪いたがるんだぁー!」
-
- キラは吠えると、機体の全ての火器から立続けに光を放ち続けた。
- その光は的確にダガーメッシャーの頭部と腕だけを破壊し、次々と戦闘不能にしていく。
- 圧倒的な大群で攻めて来たはずのヒュドラの部隊だったが、既に9割以上の機体が戦闘不能となっていた。
- それでもキラはまだ攻撃の手を緩めず、ケルビムを取り囲むMS全てを破壊していく。
- シャイニングフリーダムのその光はランサープリッツも襲い、フォルエンスは必死の形相で操縦桿を右に左に倒すが、キラの正確で素早い、四方からの連続攻撃を避けきれない。
- 右腕と左足にビームが触れて吹き飛ぶ。
- 攻撃を受け止めたシールドも破損して、備えられたビーム砲も使用できない。
- 味方機からは次々と戦闘不能や宙域を脱出するという報告が寄せられる。
- これではこれ以上戦闘を続けることは不可能だ。
- フォルエンスは悔しさに顔を歪めて、ギリギリと歯噛みした。
- こんなところで死ぬことは、彼とて本意ではない。
- 戦いに狂った男ではあるが、戦況を対極的に見て、その場の的確な状況を判断する能力には優れたいた。
-
- 「帰艦できる者は帰艦、この宙域を離脱する」
-
- フォルエンスの苦々しげな叫びと共に、戦艦からは発光信号が打ち上がる。
- 同時にダガーメッシャーがぞろぞろと引き上げていく。
-
- 「このカリは必ず返すぞ!」
-
- フォルエンスも棄て台詞を吐くと、その宙域を後にした。
-
- それでようやく戦闘が終わった。
- 宇宙には静寂が戻ったものの、そこらじゅうに今の戦闘で壊れたMSの一部が漂っている。
- キラは予想外の乱入者との長い戦いに、少し肩で息をしながら、その戦いの後に悲しそうに目をくれる。
- それから目を逸らして通信機のスイッチを入れると、ケルビムの方にようやく連絡を入れる。
- 本来の彼の目的を達成するために。
-
- 「こちらはキラ=ヤマト、事務総長からの命令書を持って来ました。着艦許可を願います」
-
- キラの通信を受けた途端、ケルビムのブリッジではレイチェルが驚いた声をあげ、その後ろではクルー達がざわざわとどよめく。
- シャイニングフリーダムの登場には驚いたが、キラ本人がケルビムに着艦を求めるとピーンと緊張が張り詰めた。
- 色々と問題はあるが、ミライのことで彼らはキラに何と報告すれば良いのか分からず、ただ慌てふためいた。
- そんなこととは知らないキラは、通信の向こうのどよめきだけ聞き取って、まあ皆そんな反応はするよね、と1人納得して、ようやく苦笑だが笑みを零した。
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