- 「そんな、バカな・・・」
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- ザイオンは光が溢れる方角を見て愕然とした。
- 爆破地点でようやく感知できたシャイニングフリーダムのシグナルが、爆発と同時にロストしたのだ。
- そしてその爆発の光が核によるものだと言うことを知っている彼は、それが意味することろを理解する。
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- フリーダムが、キラさんが、負けた?
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- 幼馴染の父親であり、孤児の自分にも優しく接してくれた大きく温かな存在。
- 自分が兄と慕う男も絶大な信頼を寄せており、目の当たりにした伝説の力に大きな希望を見出していた。
- 何よりMSのパイロットとしても憧れであった彼の人物が、死んだという現実を受け入れきれない。
- 戦闘の最中であるにも拘らず、ザイオンのリックディアスは呆然と立ち尽くした。
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- ケルビムのブリッジでも、エミリオンが信じられないと言った表情で、声も絶え絶えに状況を述べる。
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- 「シャイニングフリーダム、シグナルロスト、しました」
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- レイチェルもアールも、眩しい光をただ呆然と見つめることしかできない。
- まさか伝説の英雄であるキラが、フリーダムが敗れるなどと、彼らは微塵も考えていなかった。
- 夢でも見ているのではないかと言う衝撃がクルーの中に走り、誰もがすぐに次の行動に移れなかった。
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- 先ず最初に意識を取り戻したのはレイチェルだ。
- 接近するウィンダムウェーブの攻撃に気がつき、回避ーっ、と大声で叫ぶ。
- アールもその声にハッと我に返って、慌てて舵を切り事なきを得る。
- それからすぐに弾幕を張って、ウィンダムウェーブを追い払うことができた。
- 安堵の息が零れるブリッジ。
- しかし状況が好転したわけではない、今もケルビムは戦火の真っ只中だ。
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- 「隊長!このままではケルビムも」
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- レイチェルが悲壮な声で叫ぶ。
- ケルビムは他の部隊に頭を抑えられて、浮上できない状況になっていた。
- キラを回収するためと地球側に寄ったことが、今となっては仇となった。
- このままでは身動きが取れなくなってしまう。
- 唯一の逃げ道は地球だけだ。
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- レイチェルからの通信にようやく我に返ったザイオンは、迫っていたウィンダムウェーブのライフルをかわして、カウンター気味にライフルで撃ち抜く。
- そこで自身も地球軍と強襲部隊に取り囲まれた状態であることに気がつく。
- 攻撃こそ受けていないが、そこを抜けるのは相当難しいことに思えた。
- 足元に目を移せば、すぐに全体が見渡せないほど青い地球が大きく見える。
- こんなにも近いのかと少し驚きの感情が過ぎり、その時閃いたものがあった。
- 苦肉の策だが、それしかない以上あまり躊躇っている時間は無い。
- すぐに返信する。
-
- 「ケルビム、地球への降下シークエンスを進めろ」
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- しかし、ザイオンの予想通りレイチェルが声を上げる。
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- 「地球に降りるんですか、この状況で!?」
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- この混乱状態で地球に降下することですら無茶なのに、今ESPEMは地球への降下を拒否されている。
- その行動が一体どれだけ外交的に影響を及ぼすのか、想像もつかない。
- 確かに逃げ道はそれしか残されていないように思えるが、レイチェルには踏ん切りがつかない。
- だがレイチェルの迷いは尤もだが、このままでは全滅してしまう。
- それに一見無謀に思えても、地球軍や強襲部隊が一緒に降下してくる可能性はかなり低い。
- カルツの性格からして艦隊を動かすことは考えられないし、強襲部隊も母艦はどこか戦闘宙域外で待機しているに違いない。
- それを思うと、混戦の中で止む無く地球に落下したという不慮の事故として、降りてしまった方がよほど安全だった。
- 何より隊長として、ザイオンに選択の余地も迷いも無かった。
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- 「もうこれは非常事態だ。万一の時は後の全ての責任を俺が取る!」
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- ザイオンのその強い口調に、レイチェルはしばし黙り込んだ後エミリオンに指示を飛ばす。
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- 「全クルーに通達、ケルビムは地球に降りる。速やかに降下シークエンスの準備に移るように」
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- 続いて撤退の信号弾を打ち上げ、パイロットにも帰艦を促す。
- 同時にレイチェルも艦長として、ザイオンだけに責任を取らせまいと覚悟を決めた。
- 何としてもここは生き延びて、今回のことを世間に知らしめ、本当の悪を暴くのだと。
- 自分の首と引き換えだとしても。
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- 信号弾の光を見届けたザイオンは、背後から迫ったAPSザクVを振り向きざまビームサーベルを横に薙いで切り捨てると、地球の重力に引かれて動きの鈍ったリックディアスのフットペダルを目一杯踏み込んで、必死にケルビムを目指した。
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PHASE-19 「目覚めし力」
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- 地球の重力に引かれて少しずつ落下しつつあるフリーズのコックピットの中で、ミライはずっとすすり泣いていた。
- 自分のせいで父が死んだという自責の念が、ミライの心の中で津波の様に押し寄せる。
- 父との思い出が、走馬灯の様に頭の中に心に浮かんでは消える。
- 今地球に徐々に落下をしていて自分の身にも危険が迫っているのだが、そのことに注意を払えないほど彼女の心は悲しみの色に染められていた。
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- バンに言われた台詞が未だに頭の中に苛立ちとなってこびりついているヨウナはそんなフリーズを見つけると、これ幸いと奇声を上げてフリーズ目掛けて加速する。
- 既に地球の重力に引かれるギリギリの高度で戦っているため、これ以上高度を下げると地球の重力に囚われてしまうのだが、ヨウナの頭からはすっかりとそのことが抜け落ちた。
- とにかくフリーズを奪うことだけが、彼の思考を占領していた。
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- 「バカ、ヨウナ!これ以上高度を下げると地球に落ちるぞ」
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- ヒューが慌てて制するが、ヨウナは全く聞かずにフリーズに近づいていく。
- 舌打ちしてヨウナを連れ戻そうとそちらに移動しようとしたが、爆発の衝撃がコックピットを襲いそれは叶わない。
- 何事かと顰めた顔を上げると、目の前にはグロウズが立ちはだかっていた。
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- 「ここで会ったが、と言うやつだ。フレアは置いていってもらおうか!」
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- そう叫ぶと、エデューはグロウズのライフルを連射しながらフレアに迫る。
- エデューもヨウナ同様、本来の自分の機体を見つけたことで、それを取り戻そうと感情が先走った。
- その表情には鬼気迫るものがある。
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- ヒューはまた舌打ちして、重い動きのフレアを叱咤するようにライフルの射線軸から移動させる。
- 地球の重力の影響は既にこの高度でも受けている。
- 機体を引きずるように旋回して攻撃を回避すると、グロウズも体勢を立て直すのに時間が掛かっているのが見える。
- その隙にビーム砲を腰に構えて発射する。
- しかし重力による推進率の低下でビームは真っ直ぐ飛ばず、オートロックも重力に抗う揺れのために狙いが定まらない。
- 出来ればもう少し高度を上げて、しっかりとビーム砲を狙える状況に持っていきたい。
- しかしヒューには、まださらに下の高度で戦っているヨウナを放って置くこともできず、上昇する動きが取りきれない。
- そうであれば目の前の相手をまずは倒すことだ、と開き直る。
- 射撃の狙いがつけられない条件なのは、あちらも同じだ。
- ならば、とガトリングキャノンを放ちながら、敢えて不得手な接近戦を挑んだ。
- エデューも上等、とライフルを投げ捨てるとビームサーベルを振り被って斬りかかる。
-
- 「エデューさん!?」
-
- リュウは帰艦途中に交戦を始めたことに戸惑う。
- 既にケルビムは降下シークエンスに入っており、後数分で戻らなければ帰艦することはできない。
- 帰艦できないということは、この宙域に取り残されるか、単機での大気圏突入を意味する。
- どちらにしても危険なことこの上ない。
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- 「心配するな、まだ少し時間がある。それまでに戻るしここでケリを着けてやる。お前は先に戻ってろ」
-
- しかしエデューはリュウの心配を余所に、戻ろうという気配を見せずにフレアと鍔迫り合う。
- リュウは援護をどうしたものかと悩む。
- だが立ち止まったリュウのグロウズを良い標的だと思ったのか、1機のウィンダムウェーブが動きの止まったグロウズを狙ってくる。
- 頭上から放たれたライフルをリュウはビームシールドをかざして防ぐと、落下に逆らいながら狙いを定めてライフルの引金を引く。
- 1発でコックピットを貫き、爆発した破片が地球目掛けて赤い炎の塊となって落ちていく。
- しかしそれは地表に届く前に燃え尽きてしまった。
- その光景をゾッとした思いで見つめながら、エデュー機と距離が離れてしまったことでリュウは援護を諦め、ビームの雨の中をケルビムへと急いだ。
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- 他方では高速で交わっては離れながら、フウジンとライジンが激しく競り合っていた。
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- 「この重さはフウジンには痛いなあ」
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- ボヤキながらジローは、さすがに引き時かと離脱のタイミングも計っていた。
- 近年のMSは、単機で大気圏突入が可能なように開発されている。
- だから理論上は、フウジンもライジンも大気圏に突入しても大丈夫なはずだ。
- しかしそれをナチュラルでやってのけたものはいない。
- 落下の時にはコックピット内は高熱に達し、それがパイロットにどれほど影響を及ぼすのか分からないのだ。
- 肉体的にタフなコーディネータでなくても一応大丈夫とは言われているが、実験をして立証した者はいない。
- 自らがその最初になってやろう、という冒険をする気も無い。
- ライジンと決着が着けられないのは残念だが、自分の命を粗末にしてまでそれを果たそうとは少しも思っていなかった。
- そしてジローの中ではやはり話し合いで説得して、もう一度こちらに戻ってきて欲しいという思いが強く根付いていた。
-
- タクミもこのまま地球に落下する危険性を充分に認識していた。
- しかしフウジンに背を向けることに強い抵抗があるのも事実だ。
- 背を向けた途端にやられるかも知れないと言う危険はもちろんだが、ケルビムと共に地球に降りてしまうと今度はいつ決着が着けられるかも分からない。
- これまでもジローに止めを刺しきれない己の甘さが結局これだけ戦いを長引かせているのだと思うと、それを払拭したいという強い願いがタクミにはある。
- そのためにジローを討ち取ることで非情さを身に着けようと、タクミの心は複雑に揺れながらも決意を新たにしていた。
-
- ジローとタクミの考えの違いは、2つのビームの精度に違いとなって現れていた。
- ギリギリのところを掠めていくフウジンのライフルと、シールドで弾けるライジンのライフル。
- 2人の思いは、最早交わる道を探せないほど擦れ違っていた。
-
- その頃マラサイの攻撃に気がついたミライは、何とか操縦桿に手をやるとレバー引いて上体を起こす。
- しかし既に地球の引力に引かれている状況では、その動きは鈍くどこか心もとない。
- それにミライ自身もキラの死のショックからまだ立ち直っておらず、動作が緩慢だ。
- シールドで防御はするものの、回避する気配すら見られない。
- さらにシャイニングフリーダムの爆発の光景がフラッシュバックし、死への恐怖が再びミライの頭から足先へじわじわと浸透してくる。
- 父もこんな恐怖を味わいながらあの光の彼方へ消えてしまったのかと思うと、また一層の虚しさがミライを包む。
- キラの笑顔が炎に焼かれて消えていくビジョンが、ミライの脳裏に何度も浮かぶ。
- そのビジョンにミライの胸は張り裂けそうになって、もう止めてと、ヘルメットの耳の位置に両手を当てて叫んだ。
- それから逃れるように、身を屈めて目をギュッと閉じる。
- それでもキラの笑顔が、ゆっくりと炎の中で真っ黒な炭になっていく様子が目の前に広がる。
- そこまで見せ付けられると、次第に何故父が死ななければならなかったのか、と言う疑問が湧いてくる。
- 思考は段々とそちらに傾き、その原因を思い起こすと、そこには1つの思い当たるものがあった。
-
- この世界に争いを持ち込んだ者が居たから。
-
- その答えに行き着いた時、ミライは顔を上げて正面のモニタをキッと睨む。
- そこにその相手が存在している。
- それが例えキラに手を下した相手でなくとも、目の前に迫るマラサイに激しい怒りを露にする。
- 父を殺した相手と仲間であるならば、それは同罪だ。
- それは憎しみと言い換えても良いほど、ミライに今まで経験したことのない激情を植えつける。
-
- 貴方達が戦争など仕掛けるから、父様が死んだ。
- 貴方達が力など振るうから、父様が消えた。
- 貴方達が父様を私から、母様から奪った。
- 貴方達のような人が居るからっ!
-
- とてつもない悲しみと、どうしようもない怒りが、小さなミライの体から飽和して溢れ出た。
- その瞬間、ミライの中で何かが弾けた音が聞こえたような気がした。
- さらに目の前に種子が弾けたイメージが見えた気もしたが、あまりそのことを気にしなかったし、深くも考えなかった。
- とにかく目の前のマラサイをただ倒す、と言う怒りの衝動だけがミライを突き動かした。
- するとどうだろう。
- 先ほどよりもずっと鮮明に、マラサイの動きが見える。
- フリーズの動きもずっと自分の動きに素直に反応して、馴染んだようにも感じられる。
- 死への恐怖もいつの間にか消え失せていた。
- その感覚に乗ってくるりと体勢を変えると、マラサイを真正面から迎え撃つ。
- マラサイの放ったライフルをシールドで受け止めると、気合を発して地球の引力に逆らい、マラサイ目掛けて突撃する。
- そのままシールドの平面で体当たりをすると、マラサイを後ろに大きく弾き飛ばす。
- さらにすばやくシールドをパージすると、内蔵されたキャノン砲を放つ。
- その動きはとても洗練された、無駄のない素早い動きだった。
- マラサイは防御する間もなく、ビームに左腕を肩から吹き飛ばされる。
- その爆発の衝撃に、マラサイはさらに後方に吹き飛ばされ高度を下げた。
- ヨウナは自分の予想を遥かに超えた動きを見せたフリーズに、一瞬驚いた表情を見せる。
- 突然動きが、まるで別の機体のように早くなった。
- 少なくとも自分がついていけないレベルに。
- それが一層腹立たしさを募らせる。
- 左腕の爆発の衝撃に耐えながら、ヨウナは怒りに満ちた表情で操縦桿を握りなおして、再びフリーズに突っ込もうとした。
- しかしフットペダルをいくら踏み込んでも、機体はフリーズの方へ加速はおろか、近づくことさえ無い。
- マラサイは既に地球の重力に完全に捉えられ、最早浮上できないところまで来ていた。
- そこでようやく高度を下げすぎたことに気がついて舌打ちするが、後の祭りだ。
- 被弾したこの機体で、何とか大気圏突入をしなければ生き残る術はない。
- フリーズ迎撃を諦めて機体の向きを変えると、姿勢制御を取って生き残ることに全力を注いだ。
-
- ミライは無表情に感情の色の無い瞳でマラサイを見据えると、ライフルを構えて撃ち抜こうとした。
- しかしフリーズも地球の重力に捉えられ、銃身が激しく揺れ、攻撃はかすりもしなかった。
- そこでようやくミライも自分の置かれた状況に気がつき、上昇しなければ危険だと理解した。
-
- 「地球に引かれているのですか?」
-
- 呟いて必死にフットペダルを踏み込むが、全く機体が上昇する気配は無い。
- そうこうしている間にも機体はどんどんと高度を下げて、ついには大気圏まで到達してしまった。
- 大気圏に入ったことで、コックピット内の熱も段々と上昇してきているようだ。
- 暑さと焦りで嫌な汗が一気に噴き出してくる。
- 先ほど流した涙と汗が、バイザーの中でミライの顔や髪をぐちゃぐちゃにしていく嫌な感触が溜まっていくが、そんなことを気にしている場合では無い。
-
- 「MSには大気圏に突入できるスペックがあるはずですわ」
-
- そのことを思い出したミライは慌ててキーボードを取り出すと、素早くキーを叩いて大気圏突入システムを調べる。
- 目的のそれはすぐに探し当てられ、手順どおりにシークエンス操作をする。
- ミライの操作に合わせてフリーズは姿勢制御を取り、シールドを前に掲げて大気圏突破の構えを取る。
- これで何とか機体が燃え尽きることは防げるはずだ。
- 同時に冷却装置も働き、コックピット内の気温の上昇を緩和する。
- それで少しばかり気持ちは落ち着いたが、まだ地球まで数分は要し、油断は禁物だ。
- その時間を恐ろしいほど長く感じながら、ミライは機体の姿勢制御に集中した。
-
- ヒューはどんどん地球に落ちていくマラサイが、もうここまで上がれないのだと気がつくと、全ての火器を一斉に放ってエデューを牽制し迷わずヨウナの元まで高度を下げた。
- エデューはそれを追いかけようとするが、ケルビムに着艦出来たリュウに止められる。
-
- 「エデューさん、これ以上は本当に地球に落ちます!」
-
- 言われてエデューはくっと呻くと、後ろ髪を引かれる思いで何とかケルビムに着艦する。
-
- フウジンとライジンも、高度を上げるどころか方向転換することすらままならない状況になっていた。
- こうなってはもう相手を攻撃する余裕も無い。
- ジローはリミッターを解除して最後の力を振り絞り、後残り僅かだったケルビムとの距離を詰める。
- そしてMS発進口が完全閉鎖される直前に、辛うじて機体をドック内へと滑り込ませた。
- ジローは離脱するタイミングを計りながら、ケルビムへ少しずつ近づいていたのだ。
-
- だがタクミはそうもいかない。
- うまくケルビムに逃げ込んだジローに憤りを感じながら止む無く腹を括ると、姿勢制御を取って大気圏の突入に備える。
- レーダーにフレアも突入しているのを知ると、降下ポイントをフレアに合わせる為にライジンもスラスターを全開にして落下速度を一瞬遅くして、機体の進入角度を変えた。
-
- 「生きて地球の空気がまた吸えるかは、神のみぞ知るだな」
-
- そんな呟きを漏らしたタクミは自分に嘲笑すると、すっと目を閉じて地球に到達するのを待った。
-
- 最後に何とか戻ってきたジロー達を確認しながら、ザイオンはあることに気がついて青ざめた。
- ミライの姿がフリーズ共々見当たらないのだ。
-
- 「ブリッジ、フリーズは、ミライはどこだ?」
-
- 慌ててブリッジに確認を取る。
- 敬称を飛ばしたことに気が付かないほど、ザイオンの心は焦っていた。
- キラを失ったばかりか、ミライにまで万一のことがあっては、それころラクスに申し訳が立たない。
- 何より純粋に妹分であるミライの生存は心配だ。
-
- 通信を受けて騒然とするブリッジで、エミリオンが辛うじて真っ赤に燃えているフリーズの姿を発見する。
- とりあえずまだ健在だが、安堵は出来ない。
- 既に降下を始めたこの状況では回収することなど不可能だ。
- 一応フリーズも単機で大気圏に突入が可能なスペックを保持している。
- 後は訓練もしていないミライがそれを発揮できるかだ。
-
- しかしその心配もできぬまま、新たな問題が浮上する。
-
- 「フリーズとケルビムの進入角度にズレがあります。このままではフリーズと逸れてしまいます」
-
- エミリオンが降下予測ポイントを表示する。
- そこにはケルビムとフリーズが、全く異なる場所に下りることが示されていた。
- レイチェルも事態を飲み込んですぐに指示を出す。
-
- 「船体を出来るだけフリーズに寄せて。絶対に見失わないでよ」
-
- もうMSの推進力では方向を変えるだけの力は無い。
- ならばまだ力の出る艦をフリーズに近づけるしかない。
- モニタに機影を捉えながら慎重に、力の限り船体を移動させる。
- しかしその言葉と思いとは裏腹に、大気圏突入による電波障害で映像が途切れてしまう。
- ケルビムはその間もサイドのスラスターを噴出して、出来る限り予想ポイントの示すフリーズの方へと移動する。
- その間、エミリオンはただミライの無事を祈りながら、時間的には短い、しかし感覚的にはあまりにも長い間大気圏通過の緊張感に身を委ねた。
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