- ヒューは燃え盛る炎の中にいた。
- 正確には、その中で立ち往生するフレアのコックピットの中に。
- その手にはタクミとヨウナの乗る機体が掴まれている。
- 状況が飲み込めていないが、あれこれ考えている内に2機は炎の熱に耐え切れずに大爆発を起こした。
- そしてフレアも炎の中に飲み込まれていく。
- それと同時に体中を焼け付くような熱が走り、ヒューは叫び声を上げた。
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- そこでヒューはパチリと目を覚ました。
- そして今見ていた光景は夢だったことにホッとする。
- それから一瞬、自分はどこにいるのだろうかとぼにゃり考えた。
- 自分が寝ていたのはテントのような簡易の住居で、砂の上に敷かれた薄いシートの上だった。
- いつもの目覚めと違う、だが懐かしい感触に、ここは地球の砂漠だということを改めて思い出す。
- 背中に嫌な汗を掻いているため、少し風に当たろうと思い至りゆっくりと起き上がる。
- 外に出てみると月明かりの眩しい、風の音以外は何も聞こえない静かな夜だった。
- 風がヒューの体を撫でて通り、そのひんやりとした感触が心地よい。
- それに身を委ねて空を見ると、そこにはまん丸な月が輝いていた。
- 月をこうして見上げるのも久し振りだな、としばし感慨に浸る。
-
- 「もう起きても大丈夫なのか?」
-
- 突然後ろから声を掛けられて、ヒューはパッと振り返る。
- そこには立派な顎鬚を蓄えたガッシリとした体格の男が立っていた。
- その手には湯気の立っているカップが握られ、片方をずいとヒューに差し出す。
- ヒューは表情を崩すと、サンキューと呟いてそれを手に取った。
- 1口をそれを口に運ぶと熱と苦味が口の中に広がり、それがまだ少しボーっとしていたヒューの意識をしっかりと覚醒させていく。
- ヒューが顔を顰めながらゴクリと飲み込むのを男は苦笑を漏らして見つめてから、自分もカップに口を付けた。
-
- 男の名はグロッグ=ブラハム。
- 砂漠でアフリカ連邦政府の政策に異を唱え、過激活動を行うテロリストグループ『砂鯨』を率いるナチュラルの男だ。
- 彼はナチュラルとコーディネータを分け隔てすることなく、同じ志を持つ者は皆同志だという考えの持ち主だ。
- そしてヒューもかつてこの組織に属したことがあり、彼とは顔馴染みだった。
- と言うよりは、地球で唯一の知り合いと言っても良い。
- 幸いに降下ポイントは砂鯨の活動拠点に近かった。
- それ故ヒューは地球に降下し電波状況が回復した直後に、意識も絶え絶えの中でグロッグに連絡を取ったのだった。
-
- 「MS単機で大気圏突入とは、相変わらず無茶をやる男だな」
-
- グロッグは連絡を受けた時は正直驚いたが、昔助けられたカリは返さないとなと快諾しこうして回収したというわけだ。
- ヒューはほっとけとぶっきらぼうに応えると、再びカップに口を付ける。
- 無茶をやったのは自覚があるし、助けられた身であるので反論できない。
- そして先の夢はそのせいかと1人納得した。
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- 「タクミとヨウナは?」
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- それよりもと、ヒューは一緒に地球に降下した仲間達の身を案じた。
- コーディネータである彼はまだ大気圏降下時の熱に耐えられたが、タクミとヨウナはナチュラルだ。
- 自分でもさすがに数日間は寝込み、ようやく体の不調も脱したところだ。
- 直後はぐったりとしていたことからも、彼らの体には相当な負荷が掛かったと見るべきだろう。
- 特にヨウナの機体は大きく被弾していたため、精神的にもギリギリのところだった筈だ。
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- グロッグは予てから、ヒューを優秀だが戦士になるには心が優しすぎると評価していたのだが、相変わらずな彼にグロッグは笑って心配するなと答える。
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- 「大丈夫だ。まだ体の熱が高いが命に別状は無い。少し混濁した状態だが意識も戻った。じきに起きられるだろう」
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- その答えにホッと安堵の溜息を吐き、またカップを口に運ぶヒュー。
- 口に含んだコーヒーが1口目よりも苦くないのは、気のせいではないだろう。
- グロッグも何も言わずにコーヒーを飲み干す。
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- そこにグロッグの部下である男が慌しく報告にやって来る。
- そしてグロッグに耳打ちすると、彼の表情が俄かに険しくなった。
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- 「よし、すぐに先遣隊を出すぞ。俺も部隊を率いて後方で待機する。グズグズするな」
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- まだ床を離れられない時にヒューがケルビムの存在を知らせ、グロッグは代わりにそれを探していた。
- 今それが見つかったという報告を受けたのだ。
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- 「俺も行こう」
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- ヒューは真剣な表情でグロッグに告げる。
- ケルビムを相手にするならば自分も黙っては見ていられない。
- こうして地球に予定外に降下したのは、かの艦が原因でもあるのだから。
- しかしグロッグは笑って切り返す。
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- 「病み上がりのお前はもう少しここで休んでいろ。今回はどちらかというと戦力分析が目的だ。必要な時はちゃんとお前の力も借りるさ」
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- そう言ってひらひらと手を振ると踵を返し、大声で部下達に指示を出す。
- 確かにまだ体に若干のダルさを感じているヒューはその背を見送りながら、結局グロッグの言葉に従うしかなかった。
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PHASE-21 「憎悪の渦」
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- ミライの様子に何とも言い難い空気が食堂を支配する中で、突然敵襲を知らせる警報が鳴り響いた。
- エデュー達はガタガタと慌しく席を立つと、MSブリッジ目指して走り去る。
- 他のクルーも焦った表情で持ち場へと急ぐ。
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- そんな中でミライは1人じっと座ったまま、肩をブルブルと震わせていた。
- エミリオンもブリッジに行こうと食堂の入り口まで走ったが、その様子のミライに気がついて戻ってくる。
- そして大丈夫ですか、と声を掛けようとした。
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- しかしエミリオンは最初ミライは怖がっているのだと思っていたのだが、顔を上げた彼女の表情を見てその考えが間違いであったと悟る。
- ミライは今まで見せたことも無い感情をその顔に浮かべていた。
- 愛らしい可憐な少女には余りにも似つかわしくない、目を吊り上げて怒りに満ちた表情。
- とても彼女とは思えない表情に、エミリオンは恐怖すら覚えて固まってしまった。
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- ミライはそんなエミリオンに気付くことなく勢いよく立ち上がると、エデュー達の後を追って食堂を後にする。
- 彼女を駆り立てるのは明らかに憎悪。
- その胸には復讐と呼べるドス黒い感情が渦巻いていた。
- 彼女自身それに気付かず、ただ険しい表情で脇目も振らずにMSデッキを目指して走った。
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- 「地球ってのは重力があって面倒だな」
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- エデューは愚痴を零しながら、いつもより乗りにくそうにコックピットの中へと身を滑らせる。
- 宇宙では無重力のため、軽く飛び上がればシートに座ることができた。
- しかし地球に降りた今はそうもいかない。
- よっこいしょと足を掛けてコックピットに入り、腰を下ろす位置を慎重に見定めて方向を変えてやらなければならない。
- プラントで普通の生活していた時も重力は掛かっていたが、プラントのそれとまた勝手が違って体もこちらの方が重く感じる。
- 地球に降下してもう4,5日になるが、それに未だ慣れない自分を自嘲してMSのスイッチをONにした。
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- 「相手は何処ですか」
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- ONにするなりミライの怒声が通信機に響き渡る。
- だがあまりにも彼女らしからぬ低い声に、エデューは面食らった表情でモニタを見た。
- そこには怒りに満ちた表情のミライがフリーズのコックピットに座していた。
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- 「お前、そんな状態で出て大丈夫なのか?」
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- 先ほどの食堂で憔悴しきった姿を目にしていたエデューやジローは、ミライが果たして戦闘できる状態なのかを心配した。
- しかしミライは心配無用と鼻息も荒く返事を返す。
-
- 「父様の意志は私が継ぎます。この世界から争いが無くなるまで戦い続けます。ですから早く出撃命令を!」
-
- さっきとは別人のような強い物腰の言い方に、エデューも気圧されて押し黙る。
- その姿、威圧感からは、皆に愛される歌姫という一面を想像することすらできない。
- 親しい者の死で人はここまで変われるのかと、妙な感心すら抱いた。
-
- エミリオンはあの後何とか復活してオペレータ席に辿り着くと、再びミライの変わりようを目の当たりにして心を痛めた。
- やはりそれほどキラがMIAとなったことがショックだったようだ。
- 改めてどうして負けてしまったんですかと、責めても仕方がないことだと分かっていながら、それでもキラを内心で責めた。
-
- レイチェルも目を見開いて、鬼気迫る表情で吠えるミライを見つめた。
- ミライの心情も理解出来ないわけではない。
- 果たして自分にも同じことが降りかかったとき、同じような行動を取ると思われたから。
- だが怒りに我を忘れた状態では、彼女自身も部隊も非常に危険だ。
- どこで暴走するか分かったものではない。
- もともと言うことを聞く彼女ではないが、果たしてこのまま出撃させて良いものか悩んだ。
-
- 「どうします、隊長」
-
- 溜息を吐きつつレイチェルは判断をザイオンに委ねた。
- ザイオンもレイチェルと同じことを危惧したが、先ずは敵機の位置と数を確認する。
- レーダーにはケルビムの前方の左右60度の位置から、かなりの速度で迫るMSの信号が6つあるとエミリオンから返ってきた。
- フリーズも出た方が戦力的には5分に持っていけるのは明らかだった。
- まして慣れない砂漠という局地での戦闘。
- ザイオンは溜息を吐きながらも、ハキハキと指示を出す。
-
- 「俺とリュウは艦の右舷、エデューとジローはミライ様と左舷に展開。あまり艦から離れるな。ミライ様も良いですね。深追いは絶対禁物です」
-
- ミライに念を押しながら自分のMSを発進カタパルトへと移動させる。
-
- 「ケルビムもMS出撃後浮上して前進、出来るだけ低空飛行で進路を南に取れ」
-
- 同時にケルビムも動き時だろうと、先ほど隊長室で話していた行動を開始することにした。
- レイチェルはコクリと頷くと、MSの発進を確認して、艦の浮上と微速前進を命令した。
-
- ケルビムのエンジン音が甲高く響き始めると同時に、リックディアスがカタパルトから飛び出す。
- 他の機体もそれに続いて夜の砂漠へと飛び出していく。
- だが地球に慣れないザイオン、エデュー、ミライは飛び出した直後にバランスを崩して、慌てて姿勢制御のスラスターを吹かせる。
- 無重力の宇宙と異なり、地上では重力が働くためバーニアやスラスターをしっかり調整しないと出撃直後に地上に激突してしまう。
- そのことを危うく失念していたザイオンは、頭を振って自分に喝を入れると目の前に迫る脅威に集中する。
- ミライもこんなことでは父様みたいになれないと、自分を叱責してモニタをじっと睨む。
-
- その先には勢いよく砂煙を上げて迫る、動物のような姿が映し出された。
- 否、あんな機械的な動物など存在しない。
- ケルビムの左右から仕掛けてくるのは、砂漠での局地戦を重視して開発されたガルゥだ。
- バクゥの後継機で獣の様に4つの四肢で大地を走り、その先にマウントされたキャタピラで砂漠に足を取られることなく自在に駆け回る。
- 正規ルートではザフト軍しか持ち得ないのだが、彼らはあちこちにある裏ルートを介してこれらを手に入れていた。
-
- だが今は何故、どうやって彼らがガルゥを所持しているかなどどうでも良い。
- 空を飛べるフリーズなどはまだ良いが、グロウズは飛行可能な仕様になっていない。
- 通常のMSの脚部では流砂に足を取られて仕方がない。
- ここでの戦闘は、グロウズでは明らかに不利だった。
- そのためエデューとリュウは、先制攻撃をしかけようとMSの足を1歩踏み出す。
- しかしその途端に崩れる砂地に足を取られて倒れこむ。
- その隙を逃さす、ガルゥは背中にマウントされたミサイルポットからミサイルを発射する。
- エデューはくそっと悪態を吐いて、バーニアを全開にして何とか体勢を起こして回避する。
- だがまだ若いリュウはそうもいかなかい。
- シールドで防いだが、ミサイル攻撃をまともに喰らった。
- 思わず悲鳴を上げるリュウ。
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- 「リュウ、大丈夫か!」
-
- リックディアスがリュウを援護しようと上空からライフルで狙い撃つが、熱気と大気によるビームの減衰率が合っていないのか射撃は掠りもしない。
- それを嘲笑うかのように、ガルゥは順応無尽に砂地を駆け回る。
- ジローの方もそれは同じだった。
-
- 「ちょこまかと。ちっとはじっとしとれや!」
-
- 舌打ちしながら、必死にスコープを除いてトリガーを引いた。
- しかしそのどれも全く当たる気配も見られず、苛立ちは募る。
-
- ミライも自分の周囲をグルグルと回るガルゥ目掛けてビームを放つ。
- しかしそれらは狙ったところとは異なる砂地の中へと消えていく。
- 予想以上に戦いにくいステージのようだと認識したミライは、ガルゥの速い動きを確認しながら、連携を取った方が良いかも知れないと考え、砂地に足を取られながらも機体を一旦着地させると仲間の状況を振り返った。
- しかしグロウズは砂地に足を取られて姿勢制御に手一杯だし、フウジンも1機のガルゥに翻弄されライフルを闇雲に撃つばかりで連携などとても望めそうに無い。
- その状況に溜息を吐いく。
- ここは自分で切り抜けなければならないが、かと言って相手は砂漠で戦うことにかけては腕も機体も上だ。
- そんな相手にどうやって勝てば良いのか、と弱気な気持ちももたげる。
- そこでハッとしたミライはふるふると顔を横に振ると、キッとガルゥを睨む。
- こんなことでは父の意志など継げない、仇を取ることなど出来ない。
- 父はもっと逞しくて、強かった。
- その意志を継ぐと言った以上、ここで負けることも甘えることも許されない、もう誰も死なせてはいけないと自分自身に吠えた。
-
- その瞬間ミライの中で再び何かが弾ける音が聞こえた。
- それから視界が急激に広がっていき、ガルゥの動きが鮮明に捉えられる。
- 乗っているパイロットの息遣いさえ聞こえるのでないか、と思えるほど五感は周囲の状況を拾い集めた。
- 同時に閃いた頭が考えるよりも早くキーボードを目の前に取り出し、ビーム減衰率と砂の流砂の修正値を入力する。
- その間も視界の端でガルゥの動きを捉えていたミライは、近づいてくるガルゥの横っ面を思い切り蹴飛ばしEntarキーを押した。
- すぐにキーボードを押し上げると、ライフルを構えて狙い撃つ。
- それは正確に前から迫るガルゥの右前脚と右後脚を一撃で貫き、ガルゥはバランスを崩して頭から砂に突っ込む。
- 続けてエデューを追い込んでいるガルゥ目掛けて飛び上がると、上空からライフルを放った。
- しかし寸でのところでかわされて、ミライは舌打ちして着地する。
- 上からの射撃はいくら補正値を訂正しても当てにくい。
- ならばと瞬時に作戦を切り替えて、ミライは同じ平面の上で相対することを選んだ。
- 様々な局地で運用可能となるように設計されているフリーズは、砂漠上でもホバー機能を使って足を取られることは無かった。
- ブンと低い振動音を唸らせて、砂煙を上げてすごいスピードで移動する。
- ホバーで砂地を行くフリーズのスピードはガルゥにひけを取らない。
- そのままスピードに乗ったミライは、一定の距離を保って旋回していたリズムを崩すと気合を発して一気にガルゥとの距離を詰めた。
-
- 「はあぁぁぁっ!」
-
- 前傾姿勢で砂上を滑るように加速したフリーズは、擦れ違いざまにビームサーベルを抜いて4本の脚を切り裂いた。
- 四肢を失い、胴体と頭だけで砂の上を滑るガルゥ。
- やがて砂の摩擦でそれは止まり、二度と動くことはなかった。
- 僚機をやられたことに怒り心頭のもう1機が大きく旋回してフリーズの後ろに回ると、ジャンプして飛び掛る。
- しかしミライには飛び上がって頭上から襲い掛かるガルゥの存在も、まるで後ろに目があるのではと思えるほどしっかりと予測し手に取るように行動が分かっていた。
- 機体を砂漠に仰向けに倒れこむように後ろに逸らせて、ガルゥの口にくわえられたビームサーベルをかわすと、すかさずライフルをガルゥの方に突き出して、2本の後脚を撃ち抜く。
- それで起こった爆発にバランスを崩したガルゥは、成す術なく頭から砂に突き刺さるように落下する。
- 一方のフリーズは砂に倒れこむ直前、背中のバーニアを吹かせて上空へ高く舞い上がる。
- 同時にまだ倒れこんでいるリュウに襲い掛かろうとしたガルゥの顔面を撃ち抜き、機体は横に吹き飛んで仰向けに倒れる。
- さらにケルビムの真下へと回り込もうとするガルゥに接近すると、ビームサーベルを縦から横へと流れるように薙ぎ頭と前脚を切り飛ばして、それらを失ったガルゥは他の獣に食い千切られた後の様に横たわった。
-
- これで戦況は決した。
- ミライは僅か数分で5機のガルゥを戦闘不能に追い込んだ。
- あっと言う間の出来事に相手は愚か、味方も呆然とするばかりだ。
- 残った1機は怖気づいたように後ずさると、そのまま砂煙を上げて逃げていった。
-
- ミライはまだ血の通っていないような冷たい眼差しで、獲物を探す野獣のようにモニタで討つべき相手を探す。
- そして何とか脱出を試みようともがいているガルゥの姿を認めると、ゆっくりとその前に立つ。
- そして全く表情を動かさずに、身動きの取れないガルゥに対して止めとばかりにビームサーベルを真っ直ぐに振り下ろそうとした。
- それをエデューのグロウズが腕を掴んで寸でのところで止める。
-
- 「おい何をやってる。それ以上そいつを攻撃しても何にもならない。もう終わったんだ」
-
- 言われてミライはハッとした。
- 何故自分は今、身動きもできないものに止めを刺そうとしたのか。
- 力なくフリーズの腕を下ろすと、自分の手で肩を抱いた。
- 戦っている間はまるで自分が自分でなくなってしまったような、そんな感覚もする。
- 確かに意識と記憶はあるのに、まるで冷徹な機械のように相手に止めまで刺そうとして理性が利かなかった。
- 未だに自分の行動が信じられない。
- 何か胸の中のもやもやがミライの中で濁流となって押し寄せるような、そんな気持ちの悪さがせり上がってきて、俯き激しく肩を上下に揺らして息を吐き出す。
- ミライは必死に吐き気を堪えながら、自分の中に芽生えた衝動に恐怖を覚えた。
-
- 一方、戦闘の様子を遠くから望遠鏡で覗いてたグロッグは思わず感嘆の声を漏らした。
- まさかここまで短時間で、しかも一方的にやられるとは思ってもみなかった。
- 宇宙でヒュー達の部隊が取り逃がした相手だから、相当優秀な隊長かパイロットがいるのだろうとは思っていたが、フリーズはグロッグの予想を遥かに上回る活躍を見せた。
- それとも自分の部下達の能力を過大評価していたのだろうか。
- そしてグロッグは砂漠でガルゥにひけを取らない動きを見せ、ほとんど圧倒的な力で退けたフリーズに非常に興味が湧いた。
- 一体どんなパイロットが乗っているのか。
- あれほどMSの動きを引き出せるパイロットなど、そうそうお目に掛かれるものではない。
- 貴重なものが見られたのだ。
-
- だがこちらの被害を改めて再確認して、表情を曇らせる。
- 結局貴重なガルゥを5機も失い、フリーズ以外の機体は砂漠戦にまだ不慣れだということくらいしか分からなかった。
- 加えてケルビムと今後もやり合うということは、あのフリーズをまた相手にするということだ。
- そうなれば相当な被害をまた覚悟せねばならずじっくりと作戦と準備が必要だが、今のところ倒せそうな手はすぐには思い浮かばない。
- いかにしてあれを倒すか。
- 撤収するジープの助手席で風に吹かれながら、グロッグは眉にしわを寄せてじっとそのことを考えていた。
-
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