- ミライと別れたヒューは本来の任務を思い出して、少し離れた砂の小山の上からケルビムの様子をじっと双眼鏡で観察した。
- 小1時間ほどそれを行い、ケルビムが今晩はここに停泊するつもりだと悟ると、グロッグの部隊が陣を張っている場所へと急いで戻り、攻撃を仕掛けるチャンスだと再度の攻撃を勧めた。
- もちろん自分もフレアに乗って出撃するつもりだった。
- 本音を言えばあまり戦闘などしたくない気分だったが、今の自分の立場上仕方が無いことだと思っていたし、彼自身あの艦に因縁めいたものを感じていた。
- 自分でも拘りすぎのような気もしているのだが、理由は自分でも分からないが胸のうちの何かがそう駆り立てるのだ。
-
- しかしグロッグはヒューの進言を聞き入れなかった。
-
- 「そこで仕掛けると町にも被害が出る。俺は町を破壊したいわけじゃない」
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- グロッグの故郷を愛する気持ちは重々承知の上だが、それでも予想外の反応にヒューは思わず言葉を無くした。
- 確かにグロッグの言うとおりかも知れないが、ケルビムが足を止めている今は再度攻撃を仕掛けるチャンスなのだ。
- 町から離れての停泊のため、町に被害が出ないように戦うことは充分可能な距離にある。
-
- だが町に被害が出ると言われて、ヒューはミライのことが頭に思い浮かびそれ以上の反論を飲み込む。
- 町に被害が出て彼女の親しい人達が亡くなればまた悲しい思いをしてしまうと、切なげな笑顔を思い浮かべてそう思った。
- 出会って少ししか話をしていない少女のことを何故心配したのか、ヒュー自身でも疑問に思い、浮かんだ幻影を追い払う。
- これまで戦う時には他人のそんな心配などしたこと無かったのに自分でも戸惑った。
- しかしヒューはそんな甘い考えは戦いに於いては必要ないと自分を内心で叱責して、口を開きかけた。
-
- 「貴方も存外無粋な子ね。何でもかんでも奇襲で仕掛ければ良いってものではなくてよ」
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- しかし艶やかな声色で言葉を被せられ、結局言うことはできなかった。
- 言いかけたヒューを遮ったのは、グロッグの傍らに立っている健康そうな褐色な肌をした女性、ララファ=アブラスだ。
- 彼女はグロッグの愛人として部隊に同行し、戦士としても能力が高い。
- また頭の回転も早く、作戦参謀として数々の成果を挙げてきた彼女の行動に誰も口を挟めない。
- そしてヒューは昔からこの女性が苦手だった。
- 能力を評価していないわけではないのだが、その原因はララファの格好にあった。
- 女性としてもかなりのプロポーションを持っているのだが、それらを曝け出すような露出の高い服装を好む傾向があるらしく、今もタンクトップの上にジャケットは羽織っているが肩や鎖骨は丸見えで、前はほとんどはだけた状態だ。
- それに自分を子供扱いし、しかも論戦を交えればことごとく言い負かされるということが繰り返されては、苦手意識を持つのは当然と言えた。
- ヒューは最後の抵抗とばかりに口を尖らせて目のやり場に困ると視線を逸らす。
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- ララファはグロッグに背中から腕を回してしな垂れかかるように体を寄せると、初心な反応を示すヒューに妖艶な笑みを投げ掛ける。
- 彼女にとって純情なヒューをからかうのは一つの楽しみでもあった。
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- 「あんまりからかってやるなよ」
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- そんな2人の様子にグロッグが苦笑を浮かべてララファの腕を撫で行動を諌めると、ララファは、は〜いと不機嫌そうに、だが甘ったれた声で返事をして口をつぐんだ。
- 口を尖らせてはいるがその目は笑っており、気を悪くした様子は無い。
- グロッグはララファの態度に安堵と苦笑の入り混じった溜息を吐くと、急に表情を真剣なものに変えた。
- そしてそれよりもと、彼は目にしていたモニタをヒューの方に向ける。
- その視線に込めれらた意味に、ケルビムを攻撃しない理由が他にもあると感じたヒューはモニタを覗き込み、少し驚きに目を見開いた。
- モニタに映っていたのは仮面の男バンだ。
- 同時にグロッグが攻撃を仕掛けない真の理由を悟ったのだった。
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PHASE-23 「孤立」
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- 町で買出しを終えたケルビムは再び南へと進路を取った。
- その買出しはどうだったかと言うと、クルー達の中には初めて地球の町へ足を踏み入れた者もあり、ちょっとした観光のようにはしゃいだ気分になっていたが、これまでの苦労によるストレスを鑑み、また結果的に町の人に軍人だと悟られない状況を自然に作り出すことができたので、ザイオンは特に咎めるようなことはしなかった。
- またミライも一緒に買出しへと行かせたのだが、朝にメンバーを選定する時には既に昨日までの危うさが消えていたことに驚いていた。
- 表情もどこか落ち着いたもので、彼女本来の明るさが少しではあるが戻った状態に、ひとまず胸を撫で下ろす。
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- 昨晩は外に出ていたようだが、ミライはそこで何があったかを語ろうとはしなかった。
- ただはにかむような笑みを浮かべて、外で風に当たっていたと言うばかりだ。
- その時にそれ以外に何か気分が良くなる出来事があったのは想像に難くないのだが、それを深く追求することは無かった。
- ミライの気持ちが落ち着けば、理由は大した問題では無い。
- それに町に出れば、ザイオンも初めての地球の町にあまりそれらを考える余裕など無く、高揚した気持ちを落ち着けることで精一杯だった。
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- そんなこんなでリフレッシュすることができた一同は、また半日ほど掛けて砂漠を南進していたのだが、夕刻の時間が迫ろうかと言う時ブリッジに再び緊張が走る。
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- 「前方に戦闘と思しき熱源をキャッチしました」
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- エミリオンがレーダーに映ったの異常を報告する。
- ザイオンはすぐさまオペレータ席に駆け寄ると、レーダーに捉えられた情報を目視する。
- どうやら自分達以外の部隊同士が戦闘を行っているようだ。
- 自分達が狙われているわけではないことを理解すると、少しだけ肩の力を抜く。
- しかしこのまま進めば、その戦闘地域を突っ切ることになる。
- 無用な戦闘を避けたい今は迂回ルートを通るのが筋だが、ザイオンはふとあることが気になり戦闘をしている部隊の所属を確認する。
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- 規模からしてかなり大きな部隊だ。
- この地方にそれだけの部隊が存在しているというデータは、ザイオンの頭には一つしか入っていない。
- できればその可能性が無いことを祈りたいのだが、もしそうでないのであればそれはそれでまた悩みの種が増えることにもなる。
-
- 「識別コード照合、これは合流予定だったESPEMの部隊です」
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- それは地球降下前に、キラから合流を指示された部隊だ。
- エミリオンの上ずった声の報告に、予想が当たってしまったとザイオンは複雑な気持ちで舌打ちをする。
- 自分達の知らない組織でないのは喜ぶべきことだが、攻撃を受けているのは同じESPEMに所属する仲間だというのは全く喜べない。
- また攻撃を仕掛けている部隊の中に、先日ケルビムを襲った部隊のMSコードと同じものが混じっていることも確認出来る。
-
- 「どうしますか、隊長?」
-
- レイチェルは探りを入れるように聞いた。
- ザイオンのことは隊長としてかなり優秀だと評価しているのだが、性格的に甘いところがある、というのがレイチェルの認識だ。
- 正義の味方気取りとまではいかないが、困った人を見たら放っておけない、そんな気質をザイオンはこれまでも見せていた。
- 尤もレイチェルにしてもそれは同様で、自分のことを棚にあげているが。
-
- 問われたザイオンは顎に手を当てて少し考え込む。
- 今の自分達が置かれた状況と、自分の望みを天秤に掛けてみる。
- しかしどうすべきか考えてはみたものの、ザイオンの腹は既に決まっていた。
- 仲間が目の前でむざむざやられていく様を見るのは、ザイオンにとって無視出来ない出来事であり、それを見過ごすことなどできはしなかった。
-
- 「フウジンが先行して戦闘状況の確認報告と支援を。他のパイロットは各コックピット内でいつでも出撃できるように待機だ」
-
- ザイオンは力強い眼差しを上げると、すぐさま援護に向かうべくテキパキと指示を飛ばす。
- 地球に降りてからようやく出会える仲間に逸る気持ち抑えつつ、これ以上仲間を失ってなるものかという決意が見て取れた。
- エミリオンはその熱に当てられたように、早口でザイオンの命令をパイロットに伝える。
- それを確認するとザイオンも踵を返してブリッジを飛び出していった。
-
- レイチェルはその背中に向かって小さく溜息を吐きつつ、予想通りの指示に自分も腹を括るしかないと気持ちを切り替えた。
- それに目の前で仲間がやられるのを黙って見過ごすことは、レイチェルとて自尊心が疼く。
- 頭の片隅ではザイオンの決断に安堵もしていた。
- 結局は似た者同士なのだ。
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- そんな部隊の責任者達の思いを知ってか知らずか、逸早く準備の整ったジローのフウジンが出撃の報告を残して発進した。
-
- 「あれやな」
-
- 艦から勢いよく飛び出したジローは、前方に黒煙が上がっているのがすぐ目に飛び込んできた。
- 黒煙は一つや二つではないことから、相当激しい戦闘が繰り広げれらていることが想定される。
- ジローはフットペダルをぐっと踏み込んで急いだ。
-
- しかし到着した時には既に戦闘は終わっていて、ESPEMの部隊は見るも無残な状態になっていた。
- 一通り上空を旋回してそれらを確認したジローは単独で追いかけようかとも思ったが、そこはぐっと堪えてゆっくりとフウジンを砂地に着陸させ、外の様子をモニタに横目で見ながらケルビムに通信を送る。
-
- 「こちらジロー。もう戦闘は終わっとる。味方はボロボロにやられて敵はもうおらんわ」
-
- 結局何もできなかった自分に歯痒い思いを抱きながらそう報告した。
-
*
-
- 10分ほどして、ケルビムもその場所に到着する。
- そこはジローの報告どおり、仮設の建物は壁を崩され或いは焼け焦げて黒ずんでいる。
- モニタに映った光景にレイチェルは悲痛そうに顔を顰め、エミリオンやアールも惨状に各々悔しそうな表情を浮かべる。
-
- とりあえずレーダーにMSなどの反応が無いのを確認するとケルビムは野営施設の隣に着陸させ、開いたハッチからMSが慎重に歩いて外へ出てくる。
- 戦闘が終了してまだ間もないことからまだ敵が潜んでいるかも知れないということを警戒して、油断なくライフルを構えながらパイロットはコックピットの中で緊張感を漲らせている。
- しかし敵は鮮やかに撤退したようで影も形も見当たらなかった。
- 今度こそフレアを奪還するぞと鼻息も荒く意気込んでいただけに、若干肩透かしを喰らったような格好で拍子抜けするエデュー。
-
- 「ちっ、敵は引き際も鮮やかってわけか」
-
- 舌打ちして負け惜しみを言う。
- ザイオンは苦笑を浮かべてそれを宥めながら、しかし援護が間に合わなかったという事実に唇を噛み締める。
- そのやり取りを聞きながら、外の様子をキョロキョロと見回すミライ。
- ほとんど全半壊してしまっている建物、MSであったであろう残骸となって転がっている物、それらの間を縫うように怪我人が運ばれている様子を見て彼女は形の良い眉を顰める。
-
- そうして5機のMSが陣営の中を半分ほど進んだところに、比較的軽症だった者達が集まっていた。
- 彼らは皆一様に不安そうな表情でMSを見上げている。
- その中から1人の体躯の良い男、アフリカ駐留部隊隊長のマイク=ブリッドが一歩進み出る。
-
- 彼らはザイオン達よりも1年前に部隊を組織され、アフリカ地域の治安維持活動を行うべくここに駐留していた。
- 本来であればザイオン達の部隊と合流して悪化する治安を是正すべく活動をする予定だったのだが、地球軍の突然の発表で立場はあっと言う間に悪くなり、結局お互いに四面楚歌の状態に陥っていた。
-
- MSパイロット達はコックピットからラダーで大地に降り立ち、ザイオンが代表者として挨拶を交わす。
- マイクはそれを冷静に受けながら、苦痛に表情を歪めながら皮肉を言う。
-
- 「ケルビムが余計なことをするから、我々もこの地で孤立した戦いを強いられている」
-
- ケルビムの行動はESPEM全体の行動に大きな制約を掛けてしまっていた。
- 地球軍からは地球に駐留するESPEM軍に対する抗議、酷い時は報復攻撃を仕掛けられた部隊もあった。
- また物資の救援も差し止められ、干上がってしまった部隊もある。
- ほとんどの部隊はそうした窮地に追い込まれていた。
- マイクの部隊も本部と連絡が取れなくなり、またこの地域で暮らす支配体制を嫌う住民達との小競り合いも時折発生し、否応なしに疲弊していった。
- そこに先ほどの強襲を受けてはひとたまりも無かった。
-
- マイクの話にザイオンは申し訳なさそうに唇を噛む。
- 自分達の行動でそうなるリスクは予見されていたのだが、いざ現状を聞かされて改めて自分達の行動に自信を失いそうになる。
- 隊長として決断して、そして実行した以上それではいけないのだが。
-
- マイクもザイオンの反応を見ると、小さく溜息を吐いてまあ仕方がないと零す。
- マイクとて彼らの行動が全く理解出来ない訳ではない。
- 自分が同じ状況下に置かれたら、同じ行動をしなかったとは言い切れない。
-
- 「本部との連絡も取れない。地球軍からは睨まれる。住民達にも嫌われる。これではどうしようもないさ」
-
- 言いながら肩を竦めて、自虐的な笑みを浮かべ、先の戦闘の記録の一部を提示する。
-
- 「それでこのザマだ」
-
- そう言って見せられたのは、ガルゥの他に部隊を攻撃するフレア、ライジン、マラサイの姿が写っている写真だった。
- ザイオン達は驚きの表情を浮かべる。
- 地球降下直前に戦闘し3機は同じように地球に降下したとは思っていたが、その降下地点までは分からなかった。
- それがまさか砂漠で自分達を襲った部隊と合流しているとは思ってもいなかった。
- と言うことは、彼の部隊も地球に降下しているのだろうかと疑惑と緊張が走る。
-
- しばし写真に見入っていたザイオンだが、やがて決意を固めた表情を上げると凛として言い放つ。
-
- 「我々はその部隊を追いかけようと思います」
-
- 相手は本部を強襲してMSを奪った連中だ。
- MSを取り戻すために元々出撃しているのだから、彼らを追うのは当然のこととも言える。
- どの道相手は南に向かって退いている。
- 予定の進路を取る限り、遭遇する確率はかなり高い。
- 彼もまたこれまでの幾度もの戦闘で因縁めいたものを感じているだけに、今度こそ決着をと意気込んだ。
-
- しかしそんな意気込むザイオン達を尻目に、マイクは突き放すように冷たく言う。
-
- 「それは勝手にすればいい。俺達は邪魔もしなければ援護もしない」
-
- ザイオンは一瞬驚いた表情を浮かべたが、口を真一文字に結ぶとコクリと頷く。
- 援護を期待していた訳でもなければ、同意を得ようとも思っていない。
- ブルーコスモスの策略により、地球でのESPEMの立場は危ういものへと変わりつつある。
- 本当であれば自分達も部隊を追うべきでは無いのかも知れないが、それでも己が信じた行動をする。
- 今のザイオンを突き動かしている信念でもある。
- またこれまでどちらかというと宇宙でも砂漠でも孤立した状況に放り込まれた中を切り抜けてきただけに、地球で自分達の仲間と会えた、それだけでも充分だった。
-
- しかしそれでは満足できない人物もいた。
-
- 「それで本当に良いのですか?」
-
- 後ろでじっと話を聞いていたミライだが、マイクの消極的な言葉についに我慢出来なくなり、ザイオンの脇を擦り抜けてマイクの前に立つ。
- これだけ多くの犠牲を出してそれでも反抗する意志を見せないマイクを、ミライは歯痒い思いで捉えていた。
-
- マイクはミライがいることに心底驚き、大きく目を見開く。
- 何故事務総長の娘たる彼女がこんなところにいるのか理解出来ない。
- マイクの表情からそれを読み取ったザイオンが、ミライの扱いについて説明する。
-
- 「彼女はフリーズのパイロットとして同行しています。そして既に幾つもの戦いでめざましい活躍をされています」
-
- 驚きの表情を崩さないまま、マイクはさらに衝撃を受けた。
- まさかミライがMSの、それも最新型であるフリーズのパイロットとしてケルビムに搭乗しているとは思いもよらなかった。
- マイクだけではなく、そこに居る全ての人にどよめきが起こった。
- ミライはそんな彼らの戸惑いなどお構いなしに捲し立てる。
-
- 「戦うべき時には戦わねば、守るべきものも守れません」
-
- そう言ってギュッと拳を握り締める。
- 父のことを思うと未だに胸は痛む。
- だが悲しんでいたところで父が戻ってくることは無い。
- ならば2度と同じ悲劇が生まれないように戦うまでだ。
- ミライの中には迷いの無い決意が生まれていた。
-
- マイクはミライの言葉に息を飲み込む。
- ミライの言うことはよく分かる。
- 現にその意志があったからこそ、ESPEMの思想を理解したからこそ、自分はESPEMに居るのだという自覚もある。
- しかし自分だけではなく、部下達もことごとく戦意を無くしている状況では、却ってミライ達の足を引っ張りかねない。
- それに武器も無い状況では、戦いたくとも戦えないのだ。
-
- 「ミライ様の仰られることは分かります。しかし我々の部隊には戦う力は残っておりません。どちらにしても、本部へ一度戻り今後のことを確認しなければ我々は戦えません」
-
- マイクはやんわりと、しかしはっきりとミライの思いを否定した。
- 失った部下の仇も取れないのは、マイクとて歯痒い思いでいっぱいだ。
- それでもまだ生きている部下達を生き延びさせる義務もある。
- その狭間の中でマイクは苦汁の決断をした。
-
- 「ですがっ!」
- 「ミライ様、戦う意志があっても、その武器や力が無ければ無駄死にするだけです」
-
- 反論を募るミライの言葉を遮って、マイクは尤もなことを言う。
- 武器を撃つ相手に、ただ戦いを止めろと前に出るだけでは戦いを止めることが出来ず、命が無意味に消えていくだけだ。
- 悲しいかな、それが現実だ。
-
- 「それに復讐をしたところで、失われた者は戻って来ないのです」
-
- マイクは掌に爪が食い込むほどギュッと握り締めて、耐えるような表情で零す。
-
- ミライは一瞬衝撃を受けた。
- このまま戦い続けても、父は帰ってこないのだと言われた気がして。
- それは分かっていることだが、心の片隅ではまだ父が死んだと思っていないことに自分でも驚いていた。
- だがそれは詭弁だと、さらに前のめりになって言い募ろうとする。
- それをエデューが後ろから肩を掴み、もうやめておけと首を横に振る。
- ミライはまだ納得がいかない表情を見せるが、唇を噛み締めると俯いて押し黙る。
- やり取りを傍観していたザイオン達だが、ミライの気持ちはよく分かった。
- だがマイクの言い分もよく分かるだけに、それ以上どちらを説得することもできない。
-
- 「とにかく我々は追うぞ。パイロットは速やかに各機に搭乗してケルビムに帰艦する」
-
- 不毛な言い争いを終わらせるべくザイオンは強引に指示を飛ばすと、パイロット達はさっと踵を返すと各々のMSに乗り込み、ケルビムへと帰艦する。
- ミライも口を尖らせたままだが、今の彼らを説得するだけの言葉を自分が持っていないことを理解し、一番最後に戻っていく。
- そのコックピットの中で、ミライはどうしてこうも自分の思いが空回りするのだろうと思い悩んでいた。
- ただ戦いを無くしたいと思っただけなのに今はこうしてMSのパイロットとして戦っているし、いざ戦うことの必要性を説いたとて、それに同意を得ることができない。
- ミライは己の無力さをひしひしと感じ始めていた。
-
- 最後にフリーズが着艦したのを確認すると、ケルビムはエンジンに火を灯して砂漠の空へと再び飛び出していく。
- マイクは轟音を唸らせて上空を飛び去ったケルビムの後ろ姿を、悲哀の篭った眼差しで見送っていた。
-
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