- 「元気そうでなによりだ」
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- モニタの向こうで、バンが口元に笑みを浮かべてそう言った。
- それに対してヒューは少し眉間に皺を寄せた渋い表情で、まあ何とかな、と返す。
- モニタ越しとは言え、自分の上官たる彼と顔を合わせるのは1週間ぶりくらいになる。
- 地球に降下した後、気がついた直後に状況の報告は行っているが、テキスト電文での報告であったし向こうからの返事も特に無かった。
- バンの冷酷な性格を知るヒューは、その間にどんな心境で決断をしたのか、硬い表情のまま次の言葉を待った。
- 宇宙では奮戦したものの、結局は奪還しそこねた新型は奪えず、ケルビムの地球降下も許してしまったことでバンの内心は穏やかではないな、と判断を下していた。
- 何らかの処分を通達するのではないかと覚悟もしていた。
- しかし実際のところ、キラを討てたことでバンの心中はすこぶる満足感と高揚感に満ちていた。
- 皮肉は込められていたが、ヒュー達の失敗どうのこうのは今のバンにとっては些細なこと事だった。
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- 「お前達にはしばらく地球で任務を行ってもらう。宇宙も何かと忙しくてそちらにシャトルを手配する余裕も無くてな」
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- その思いを知ってか知らずか、バンは次なる任務を地球で行えと淡々と指示してきた。
- ヒューはしかめっ面のままだが、僅かに眉の形を変えて今度は驚きを浮かべる。
- その表情には処分がその程度で済んだことへの安堵と、バンの意図が見えないことへと不安が入り混じっている。
- まさかリスクを冒してまでわざわざ強奪した新型2機を、もう厄介払いという訳でもあるまい。
-
- 「そりゃありがたいね。あんな思いは二度とゴメン被りたいからな」
-
- ヒューが言葉を返す前に、後ろから声が通り過ぎてきた。
- 振り返るとそこにはタクミとヨウナが立っていた。
- ヒューが少し驚いた表情で気遣う。
-
- 「もう良いのか?」
- 「ああ、もう問題ない」
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- タクミは素っ気無く答える。
- 自分がナチュラルであるとは言え、1週間近くも寝込んでしまったことに若干の腹立たしさを覚えていた。
- それに結局ジローとの決着を着ける事が出来なかったのも彼を苛立たせる要因だ。
- その感情を押し殺そうとして、結果そんな態度になった。
-
- 「それよりもあいつらはどうなっている」
-
- タクミの気持ちを代弁するように、ヨウナは身を乗り出して尋ねる。
- あいつらとはケルビムのことを指している。
- ヨウナは意識が戻った直後から、体がまだ思うように動かない状態でもケルビムを追いかけようと暴れていた。
- タクミも同じ気持ちで、すぐにでもケルビムとフウジンを討ち取りたいと思った。
- その様子を見てバンはモニタの向こうで口の端を不適な笑みで持ち上げる。
-
- 「もちろんケルビムは討ってもらう。だがその前に、ESPEMの存在そのものもそろそろ目障りになってきた」
-
- 意味深な言葉を吐いて、次にターゲットとすべき相手を口にする。
- そのバンが告げた作戦内容に驚く一同。
- しかしすぐに真剣な表情で頷くと、それを見たバンは満足そうに頷きモニタは真っ暗なものへと変わる。
-
- その様子を一歩引いたところから見つめていたグロッグは、ヒュー達に聞こえないように溜息を吐いた。
- 自分としては作戦に了承したつもりは無いのだが、彼らの頭には作戦に参加するものとして計算がされているであろうことに、相変わらず勝手な連中だなと苦笑するしかない。
-
- 「どの道物資の補給は必要だ。そのためには多少リスクは高いがうってつけとも言える」
-
- 諦めたようにそう零し、ララファがグロッグの心境を代弁するように苦笑を浮かべて肩を竦める。
- 同様にやむなく賛成を態度で示したのだ。
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- 「なら、準備が整い次第出撃だな」
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- ヒューが申し訳なさそうな表情を浮かべてグロッグの方を振り返ると同時に、タクミが踵を返して部屋を出て行く。
- ヨウナも嬉々とした表情で、小動物のように飛び跳ねるようにタクミのすぐ後ろを付いていく。
- それを追いかけるようにヒューが小走りで部屋を出て行く。
- ララファも名残惜しそうにグロッグ肩を撫でながら、面白そうじゃない、と悪戯っ子のような笑みを浮かべて部屋の外へと消えた。
- グロッグはやれやれといった表情で今度こそ盛大な溜息を吐くと、最後に部屋を後にした。
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- それがザイオン達が仲間に出会うわずか1日前の出来事だった。
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PHASE-24 「熱砂の激突」
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- 「レーダーに機影を確認。先ほどアフリカ駐留部隊を強襲した相手と思われます」
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- レーダーを凝視していたエミリオンが声を上げた。
- ケルビムは最新鋭の高速艦だ。
- いかに相手が鮮やかに退いたとはいえ、追いつくのにはそう時間が掛からなかった。
- 空に星が輝きだした頃に基地を飛び出し、地平線から朝日が昇ろうかという時間には追いついた。
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- その前方には、砂煙を上げて走る地上用の艦の姿がはっきりと捉えられる。
- 砂漠の上をホバーで走る陸上用の移動艦、<ヴィシャス>。
- 砂鯨が唯一所持している、移動要塞とも言える彼らの仮住まいであり足だ。
- 元々は彼らの持ち物ではなかったが、デュランダル派に所属した時にバンの部隊と共同でザフト軍から奪取したという経緯がある代物だ。
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- エミリオンの報告を受けたパイロット達はすぐさまMSのコックピットに乗り込み、出撃の時を待つ。
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- 「先手必勝だ。ここで決着を着けるぞ」
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- 他のパイロット達も真摯な表情で頷くと、ザイオンの合図で次々に発進する。
- グロウズも前回の戦闘から砂漠での動きを補正するプログラムが組み込まれ、砂漠の上をスムーズに走っている。
- これで流砂に足を取られることもなく、熱対流によるビームの歪みも補正されてガルゥとの戦闘に遅れを取ることは無いはずだ。
- エデューとリュウにも気合が入る。
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- 一方のヴィシャスは追いつかれることを予測していた。
- 否、最初からそう仕向けたとも言える。
- レーダーに反応があると同時に素早く迎え撃つ準備に入る。
-
- 「さすがに噂の高速艦だな。もう追いついてきたか」
-
- 感嘆を漏らしながら、全く驚いた素振りも見せずグロッグはヘルメットバイザーを下ろす。
- そしてケルビムからMSが飛び出したのを見て、部下に発進指示を出す。
-
- 「各機とも分かっているな。白いフリーズとかいう奴がやっかいだが、他の機体も戦闘力は未知数だ。気を抜くなよ」
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- 最後に自分も砂の上へと黄色いガルゥを駆って飛び出し、最後尾からフリーズ達に迫った。
- その数は11機。
- 数の上では砂鯨の方が有利だが、前回の戦闘では、フリーズ1機に5機のガルゥを失っている。
- 戦力数では5分か部が悪いくらいだと計算して、グロッグは相対していた。
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- 両軍が接触すると先ず先頭を走っていたエデューのグロウズが、大地を蹴って先頭のガルゥに拳を突き出す。
- それは見事に命中してガルゥは吹き飛び、その勢いのまま仰向けに砂漠の上に倒れ込む。
- すかさずエデューはライフルを構えると、そのガルゥを撃ち抜いた。
- 真っ赤な炎と黒煙の柱が砂漠の中に出現する。
- それを合図として、2つの集団は激しい戦闘へと突入した。
- 幾筋ものビームやミサイルが飛び交い、地上で空中で赤い花を咲かせていく。
- 数の差をものともせずにケルビム側が優勢だ。
- しかしフレアやライジンの機影が見当たらないことに、ザイオンは僅かに表情を曇らせる。
- 戦力的に必要ないと思われたのか、それとも何かの作戦なのか分からなかったが、とにかく警戒するしかない。
- 地上からのミサイルの雨を頭部のバルカン砲で破壊しながら、頭の片隅にしこりのようにそれは気になった。
-
- その頃、ミライ達がガルゥと戦闘しているところから離れた所にヒュー達の乗る機体の姿があった。
- ケルビムは完全にこちらを背にした無防備な格好で前方にいる。
- そしてさらにその向こうでガルゥの部隊と交戦を始めたのを見て、ヒュー達は操縦桿を握り直した。
-
- 「相手は見事に引っかかった。作戦通りだ。行くぞ!」
-
- ヒューの合図と共に、砂山の影からフレア、ライジン、マラサイが飛び出す。
- そして全く警戒する様子も無いケルビムの背後から迫る。
- フレアのビーム砲が射程距離に入った時、ようやくレーダーがフレアの存在を感知した。
- それを見た途端、エミリオンが金切り声を上げる。
-
- 「レーダーに反応。MSが後方より接近」
- 「しまった!挟み撃ちされた!?」
-
- レイチェルが反射的に後ろを振り返ろうとした時、爆音と共に激しい揺れがケルビムを襲う。
- ヒュー達が放ったビームが右舷のエンジンに直撃したのだ。
- 煙を上げて傾くケルビム。
- ブリッジの中は悲鳴が響いた後、被害状況の報告とそれに対する命令が飛び交い騒然とする。
- 相手は戦闘後に撤退していただけに、MSを伏せていたという可能性を全く考えていなかった。
- レイチェルは自分達の判断の甘さに唇を噛むが後の祭りだ。
- とにかく今は目の前の状況を何とか切り抜けるしかない。
- ブレインがすぐにエンジンの火災の消火作業に当たるが、損害は大きくそうそう復旧できそうにない。
-
- 「すぐにMSを何機か呼び戻して!」
-
- レイチェルは金切り声で叫んだ。
-
- 異変はガルゥと交戦しているパイロット達にも届いた。
- 空中から1機のガルゥの頭と前脚を撃ち抜いたミライは、ケルビムの様子をサブモニタに映し出す。
- そこには煙を上げるケルビムと、その後方にフレアなどの機影が確認できた。
- あの3機を相手にケルビムだけでは到底太刀打ちできない。
- さらにテキスト電文で救援のリターン指示が届き、ミライの意識はケルビムの方へと向けられた。
-
- 「ケルビムの援護に向かいます」
-
- そう言い置いて、続いて飛び掛ってきたガルゥの横っ面にケリを入れて弾き飛ばすと、機体を素早く方向転換させて、砂上をヴィシャスのいる方向とは逆方向に滑り出す。
-
- 「待て!1人では無理だ」
-
- ザイオンが1機のガルゥを撃ち落して追いかけようとするが、地上からカラーリングの異なるガルゥの砲撃を受けてそれは叶わない。
- そのガルゥは1機だけ、注視しなければ砂漠と同化してしまいそうなライトイエローに染まっている。
-
- 「おっと、お前は俺の相手をしてもらうぞ」
-
- グロッグが睨みつけるようにリックディアスを睨みつけ、オートロックシステムがロックをする前に発射ボタンを押す。
- ランチャーから放たれたミサイルはリックディアスの周囲の空間で爆発する。
- 思わずたじろぐリックディアス。
- その隙を見てガルゥは素早く大地を蹴ると、口から伸びたビームサーベルで切り掛かる。
-
- だがザイオンは冷静にガルゥの動きを捉え、それを切り払って地面に叩きつけようとした。
- しかしグロッグのガルゥは空中でくるりと反転すると、猫のようなしなやかさで地面に着地する。
- MSとは思えない柔らかい動きにザイオンは舌を巻いた。
- 直感的に相手のMSの操縦技量が相当に高いと。
- 恐らく相手のエースか隊長が乗っているに違いない。
- ならば何としてもここで倒しておきたい相手だが、そうそうに倒れてくれる相手ではない。
- くそっ、と悪態を吐いてライフルの引金を引くが、グロッグのガルゥは巧みに砂上を滑って攻撃をかわしていく。
- まるで自分の攻撃が軽くあしらわれているようで苛立ちと焦燥感が募り、次第に意識は黄色いガルゥの相手に集中していく。
-
- 「俺が行く。ブリッジ、バスター装備の準備を!」
-
- ザイオンが援護に向かえないと悟ると、エデューが眼前のガルゥを縦に真っ二つに切り裂き、ブリッジに向かって怒鳴りながらケルビム目掛けてジャンプする。
-
- それと前後して、ヴィシャスからは1機のMSが飛び出してくる。
- グフの最新ヴァージョン、グフVで、フライングアーマーを背中にマウントして空中戦を可能にしたものだ。
- そしてそれに乗っているのはララファだ。
-
- 「あっちの邪魔はしちゃだめよ。貴方とは私が遊んであげるわ」
-
- ララファは楽しげに、背中を見せるエデューのグロウズに狙いを定めた。
- しかしその間にフウジンが割り込み、ララファの狙いを妨げる。
- そのまま立ちはだかるようにグフVに向き合う。
-
- 「もう、人のお楽しみを邪魔する男はろくでなししかいないのよ!」
-
- 不満そうに口を尖らせると、鋭い目つきで今度はフウジンをターゲットに入れて引金を引く。
- その動きには無駄が無く、狙いは正確で攻撃の間隔も短い。
- こちらもパイロットとしての技量は相当高い。
- ジローはララファの技量の高さを肌で感じてそう零しながら、ジグザグに惑わすように周囲を旋回すると、突然方向転換をして一直線にグフVに迫る。
- そのまま懐に入り、ビームサーベルを薙いだ。
- 確かな感触があり、ジローはやったと思った。
- しかしそれはいつの間にか構えられていたビームソードに当たって、機体には傷一つつけることができなかった。
-
- 「残念。狙いは良かったけど、それじゃあ合格点は上げられないわ!」
-
- そう口の端を持ち上げてフウジンのサーベルを払い除けると、反対の手からヒートロッドを振り回してフウジンのボディを鋭く叩く。
- ヒートロッドに触れた瞬間、高電圧が機体とコックピットを襲いジローは一瞬意識を飛ばす。
- そのまま自由落下で砂漠に激突しそうになるが、間一髪意識を取り戻し地面すれすれでバーニアを吹かして再び空に舞い上がる。
- しかしその行動までも読み切っていたララファはフウジンを追い掛けるように落下すると、飛び上がったフウジンの眼前に迫り再びヒートロッドを振り被る。
- ジローはくぐもった呻き声を漏らすと、砂の上を水平に移動してヒートロッドをかわして空高く飛び上がる。
- ララファは想像以上のフウジンの機動力とジローの実力に、思わず舌なめずりをして空を見上げ、今度はビームソードを振り被って三度フウジンに迫った。
-
- 残されたリュウは、他のガルゥに取り囲まれていた。
- しかしザイオン達が相対している2機の実力からすると、援護を期待することはできない。
- ここは1人で切り抜けるしかない。
- そう決意を固めると、リュウは大きく跳躍して太陽を背にして1機のガルゥに迫る。
- 太陽の光に目がくらんだガルゥのパイロットは、思わず手を目の前にかざして光を遮ろうとした。
- リュウはその一瞬の隙にガルゥの背中に飛び乗るように着地し、ビームサーベルを突き立てる。
- ガルゥは命の火が消えた獣の様に力なく砂漠に寝そべったかと思うと、眩い光と轟音を轟かせて真っ赤な炎を化した。
- 爆発に巻き込まれないように後ろに飛んだリュウは、着地と同時に真横にライフルを水平発射する。
- そのビームは接近していたガルゥの顔面から腰部を貫通して、また爆風が熱風と共に砂塵を巻き上げる。
-
- 「これで残りは3機!」
-
- リュウは鬼気迫る表情で、新たに迫るガルゥの部隊に向かい合った。
-
- ザイオン達が激しい戦闘を繰り広げている頃、ミライはケルビムの下を潜り抜けて後ろに回ると気合を吐き出し、先ずは砂漠に佇むマラサイに切り掛かる。
- ヨウナはフリーズが迫ってきたことに、凶暴な笑みを浮かべて相対した。
- 月でフリーズに乗り損なってからずっとケチの付きっぱなしだった。
- ここでその全てを取り返すべく、足を止めると真っ向から受け止めた。
- しかしヨウナのマラサイは砂漠仕様になっていないため、またヨウナ自身も砂漠での戦闘に慣れていないため動きは鈍かった。
- ビームサーベルを受け止めたまでは良かったが、その反動で足が動いた瞬間に流砂に足を取られてバランスを崩す。
-
- それを上空から見ていたヒューが舌打ちすると、フリーズ目掛けてライフルを撃つ。
- 止めを刺そうとビームサーベルを振り上げたミライだったが、ビームが眼前を通り過ぎ、シールドをかざして攻撃を防ぐ。
- その目先で砂に埋もれていくマラサイをちらりと見ると、戦力から切り捨ててフレアをモニタに捉える。
- そのままマラサイの頭を踏み台にするように足を掛けると、上空のフレア目掛けて飛び上がる。
- そして互いにライフルを撃ちあいながら、孤を描くように旋回する。
- フレア以外の相手には完全に無防備な状態だ。
-
- そのフリーズの背後から、ライジンがサムライソードを振り被って切り掛かろうとする。
- しかしフリーズとライジンの間をビームの光が通り過ぎ、タクミは機体を急旋回させて回避し、ビームが飛んできた方角に目をやる。
- そこにはガンランチャーを手にしたエデューのグロウズがケルビムの甲板上に居た。
- すかさずエデューは2射目、3射目を放ち、ライジンをフリーズから引き離す。
- タクミはちらりとモニタに目をやり、砂に埋まってまだもがくマラサイに舌打ちする。
- これでは2対2なのと変わりない。
- こちらもヨウナを戦力から切り離すと、標的をフリーズからグロウズに変更して切り掛かる。
- サムライソードを大きく振り被って加速すると、甲板上のグロウズ目掛けて振り下ろす。
- エデューはそれを上空に飛び上がって回避すると、手にしているランチャーで再び狙いを定める。
- ライジンの背後、足元には彼らの母艦がある。
- しかしグロウズは全く遠慮無くイーゲルシュテルンを撃ち込んでくる。
- その弾丸はケルビムの装甲で乾いた音を響かせる。
- 続いてランチャーの銃口に光が灯ったのを、タクミは目を大きく見開いて見つめた。
- 母艦を盾にする戦略は使えないと見切りをつけると、ケルビムから飛び上がった。
- だがその動きこそ、エデューが狙っていたものだった。
-
- 「引っかかったな。本当に自分の母艦を撃つ奴があるかよっ!」
-
- 上空に飛び上がったライジン目掛けてランチャーを放つ。
- タクミは歯を食い縛って、シールドでその攻撃を受け止める。
- ダメージはそれほど無かったが、防御にエネルギーはかなり消費してしまった。
- これで長期戦は圧倒的に不利になってしまったのだ。
- 相手の作戦にまんまと引っかかったことに、苛立つと同時に不適な笑みを浮かべる。
-
- 「やるじゃないか。それでこそやりがいがある!」
-
- タクミはフットペダルを踏み込んで、エデューのグロウズ目掛けて飛び込んだ。
-
- 一方フレアとの戦いにのめり込むミライは、一瞬の隙を突いてバーニアを吹かすとフレアとの距離を詰める。
- そのままビームサーベルを振り下ろしたミライは、鍔迫り合いをしたままフットペダルを踏み込んでフレアを押していく。
- 押されたヒューは咄嗟に足を絡めてフリーズのバランスを崩すと、上から押さえつけるように両手首も捕まえる。
- そしてそのまま地上目掛けて落下する。
- フレアとフリーズは絡まりあいながら、砂漠の上に派手な砂埃を巻き上げて落下した。
- ミライは激突したショックに呻き声を漏らすが、柔らかい砂地の上なのでそれほどの衝撃は無かった。
- しかしフリーズはフレアに組み敷かれた形になり、身動きが出来ない。
- 何とか脱出しようと操縦桿を何度も引いていたが、その間に相手のパイロットが銃を構えてコックピットから出てきた。
-
- 「そのMSに乗っているパイロット。これ以上の抵抗は止めて大人しく機体を引き渡せ」
-
- その声を聞いた途端、ミライは弾かれたように顔を上げた。
- 接触回線から聞こえてくる声に、ミライは聞き覚えがあった。
- それはまさかこんな場所で出会うなどと、夢にも思っていなかった人物のものだ。
- だから自分は夢でも見ているのか、さもなければ耳がおかしくなったのかと一瞬疑った。
- だが再び響いてくる声は忘れようにも忘れられない声だった。
- ミライは半ば我を忘れてフリーズのコックピットから這い出すと、被っていたヘルメットを脱いだ。
- 露になった顔を見て、明らかに動揺する相手。
- その姿を見た時、疑惑は確信へと変わった。
- 一方のヒューも、フリーズのパイロットがヘルメットを取ったのを見ると心底驚いた表情を見せた。
- そして自分もヘルメットを取り、無言のまま見つめ合う。
-
- どのぐらいそうしていたのか。
- まるでそこだけ時間が止まってしまったかのように、2人はただお互いの姿をマジマジと見つめるばかりだ。
-
- 「どうして君がそんなものに・・・」
- 「何故貴方がそこに・・・」
-
- ようやく2人が搾り出せた言葉は、それだけだった。
-
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