- 「くそっ、砂漠ってのは厄介なところだぜ」
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- MSの機動力を根こそぎ奪う流砂に愚痴を零しながら、ヨウナはようやく戦闘が行われている場所が確認できるところまで進むことが出来た。
- 空を飛べないマラサイでは、砂に足を取られて少し移動するだけでも一苦労だ。
- 砂漠での戦闘が初めての経験だけに多少仕方の無いことであるが、それでも戦線に加われず、結局フリーズに踏み台にされた以外は砂の上でもがくばかりであったことに、怒りと屈辱を感じずにはいられない。
- それもこれも本当は自分の物になる筈だったフリーズが誰かに邪魔されて、誰かに奪われたからだという逆恨みが怒りを増幅させる。
- ヨウナの中ではあれが自分の物になるということは決定済みだったので、既に当初の奪還という目的は頭の中から消えていた。
- もうフリーズを倒すことしか考えられないでいた。
- それを成し遂げ何としてもこの汚名を返上しなければと、鼻息も荒く戦列に復帰したのだ。
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- しかし目の当たりにしたのは、自軍の大破したMSの残骸とそれらから立ち昇る黒煙ばかりだった。
- 自軍の劣勢を想像していなかったヨウナは、思わぬ光景にしばし呆然とする。
- そこに通信が入り、ハッと我に返る。
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- 「ヨウナ聞こえるか。俺達は敗北した、ここは撤退する」
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- 抑揚の無い、怒りを押し殺したようなヒューの声がゆっくりとコックピット内に響く。
- その言葉がヨウナにまた別の衝撃を与える。
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- 「何だと!?俺はまだ何もしていないぞ」
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- ヨウナは撤退の指示に噛み付き反対する。
- 自分の存在意義を示すはずの、何より喜びを感じられる戦場で、結局敵と戦っていないことはそれを否定されるに等しいことだ。
- 何としても成果を挙げようと駄々っ子のように抵抗する。
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- 「それは今までお前が砂で遊んでいたからだろうが」
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- だがぐずるヨウナをタクミが冷たく突き放す。
- ヨウナは反論を試みたが、事情はどうあれ、結果的には事実なだけにぐっと言葉を飲み込む。
- しかしそれで気持ちの整理がついた訳ではない。
- 尚も撤退を渋る。
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- ヨウナの反発にヒューは歯噛みする。
- 本当はヒューも撤退などしたくは無い。
- だが状況は明らかにこちらが不利で、グロッグが死ぬ間際に伝えた命令が撤退なのだ。
- まだグロッグの死をどこか受け入れられていないが命令であり、それが遺言となった以上、自分達はここから退くべきなのだ。
- 悔しさを押し殺して震え、声を搾り出す。
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- 「いいから撤退だ。これ以上やると本当に全滅するぞ」
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- その通信と同時に、フリーズ、フレア、ライジン、フウジンの装甲がフェイズシフトダウンした。
- 空を飛んでいた4機は突如失速し、つんのめるように砂漠に着地する。
- それがお互いにもう戦う力が残っていないことを如実に語っている。
- 表に現れていないだけで、グロウズもリックディアスもグフVも、もうライフルに弾もエネルギーもほとんど残っていない。
- どう考えてもこれ以上の戦闘の継続は不可能だった。
- その状況が理解出来ない訳ではなかった。
- 今すぐにでもグロッグの仇を討ちたかったララファは、悔しさにコックピットを拳で叩きつけて叫び声を上げると、フットペダルを踏み込み機体を旋回させて戦闘空域を離脱する。
- フレアとライジンは後ろ向きに跳躍を繰り返してケルビムから遠ざかっていく。
- ヨウナは血が出るほど唇を噛み締めると、止む無くその後を追う。
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- こうして砂漠での戦闘は幕を閉じた。
- 敵MSが離れていく様子をレーダーで確認していたエミリオンは、安堵に満ちた声をあげた。
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- 「敵機、戦闘域から離脱していきます」
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- エミリオンの報告に、レイチェルは安堵の溜息を吐きながらその様子をモニタ越しに見つめていた。
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PHASE-27 「勝者と敗者」
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- 主の居ないアジトに帰るなり、ララファはヒューに詰め寄った。
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- 「あなた、どうゆうつもりなわけ。戦場は遊びじゃないのよ。分かってるの!」
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- ララファは襟首を掴み、怒りに任せて揺さぶり叫ぶ。
- ヒューが操縦していたフレアは明らかに戦場で戦うMSの動きでは無かった。
- フラフラと飛び回るだけで、敵に攻撃の一つもしないなど兵士としては考えられない。
- 何があったのか知らないが、戦場で味方にあんな行動をされてはこっちはいい迷惑だ。
- グロッグはそんなヒューを庇って死んだ。
- それを思うと、悔やんでも悔やみ切れない。
- ヒューを責めてもグロッグが返ってくることは無いことは分かっている。
- それでもララファは怒りをぶつけなければ気が済まなかった。
- 誰よりも彼の事を想い信頼していた彼女だからこそ、グロッグの死を受け入れ理解しつつも感情がついていかなかった。
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- 「全くだ。お前は状況を理解しているのか?」
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- タクミもその後ろで腕を組み、壁にもたれて冷たい視線を送る。
- ヒューに対して憤りと苛立ちを抱いているという点では、ララファとそう大差ない。
- ただグロッグの死に対しては、指揮官を失ったことによる指揮系統の乱れと士気の低下を懸念しているだけで、死そのものに哀悼の気持ちは特に抱いていないが。
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- 結局ヒューを気にするあまり作戦を無視した戦いをせざるを得ず、それが敗北に繋がったと分析している。
- 結果としてこちらの被害は甚大だ。
- 協力者である武装組織のリーダーは死に、MSも破壊され、戦力を立て直すには相当な時間を要することは必至だ。
- またここまでケルビム相手に敗退続きだったことを考えても、ここで戦果を上げなければどんな叱責や罰を言い渡されるか分からない。
- 叱責や罰を受けることを恐れてはいないが、この中途半端な状態では死んでも死に切れないほど悔いが残ってしまう。
- それだけのことだ。
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- またこれまでの自分を見ているようでもあり、それがタクミを苛立たせる要因でもあった。
- ジローと対峙していた時の自分はしっかりと戦っているつもりだったが、他の人間から見ればあんな状態だったのだろうかと考える。
- これまで何度相対しても結局は止めを刺すことが出来ずに、最後の引金を引けなかったことが、剣を振り下ろせなかったことがあったかを思い返すと自分自身にも腹が立った。
- その結果がどうなるかを、ヒューは知らしめたのだ。
- 自分だけがそれで死ぬのならばまだしも、それが周囲に影響を与えることがあっては大事に触る。
- あくまでデュランダル派としてその思想に共鳴したからこそここに居るわけで、そのことを忘れたわけではない。
- そして目の前のヒューの惨めな姿を見て、それがどれほど甘く、戦いに邪魔なものかを思い知る。
- タクミはあんな無様な姿は絶対に晒すまいと、固く決意する。
-
- 一方でヨウナは、獣のような低い唸り声を上げながら周囲の物に当り散らしている。
- 机や棚の上にあるものを片っ端から手で払い落とし、それでも尚奇声を発して壁や机を蹴り飛ばし続ける。
- 連敗続きでヨウナの精神は崩壊寸前だった。
- 戦場に居ること、そして勝ち続けることだけが彼の全てであるのに、それが満たされない事実は彼の心から安定を奪っていった。
- 一定の処置をしないで済むとは言っても、ヨウナはエクステンデントだ。
- これまで施した薬や実験の影響で、その精神はちょっとした周囲の環境ですぐに揺らぐ。
- そして今、その精神を好転、安定させるだけのものが無いのだ。
- こうなってはタクミにもそれを止める手立ては無いので、やらせるがままだ。
- ただその怒りを後で敵にぶつけてくれれば、と計算を立てる。
- 尤も、こちらの指示通りに動くかという疑問は残るが、この際なのでそこは考えないようにする。
-
- 「そうか、俺のせいなのか」
-
- ヒューはララファに襟首を掴まれたまま力なく項垂れたまま黙っていたが、しばらくしてポツリと呟いた。
- ララファには、まるで人事の様に言っているように聞こえた。
- 次の瞬間、ララファは頭にカッと血が上り、ほとんど無意識にヒューの頬を平手でぶった。
-
- 「あなた、いい加減にしなさい!グロッグはあなたのことを買ってたみたいだけど、とんだ見込み違いね。そんな甘い気持ちでいるんだったら今すぐ兵士を辞めなさい!迷惑よ!!」
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- シャキっとしないヒューに、ララファは吐き棄てる。
- それでも虚ろな瞳でされるがままのヒューに、ララファはさらに嫌悪感を抱いて、唾を吐きつける。
-
- 「で、これからどうするんだ」
-
- その様子を傍観していたタクミだが、ヒューの様子にこれ以上の叱責は無駄だと判断し、ララファにもうそのくらいにしておけと諭すと意見を求めた。
- このままここでヒューをずっと責めていても、今更仕方がないことだ。
- 終わったことはもうどうにもならない。
- それよりもこの次にどうするのか決めなければならない。
- バンに結果は送ったが、それに対する評価もその後の指示も返ってこない。
- かと言って、このままボーっと待てるほどタクミの心中も穏やかではなかった。
- ひょっとしたらバンは自分達の後始末は自分達でつけろと、無言のプレッシャーを与えているかも知れないのだ。
- そうであればますますこのままじっとしているわけにはいかない。
- だが何か行動を起こすにしても、此処は協力者の陣地であって自分が所属する部隊では無い為、勝手に補給などを受けることは出来ない。
- リーダーは死んだのであれば、その代わりを務めるララファに許可を得る必要があるため、彼女に問いを投げ掛けたのだ。
-
- タクミに問われたララファは肩で息をしながら、まだ興奮冷めやらぬ様子でヒステリックに叫ぶ。
-
- 「決まってるわ。グロッグの仇を討つ。補給が済み次第あいつらを追うのよ」
-
- それからヒューをもう一度睨んでから壁に向かって突き飛ばすと、ララファは肩をいからせて部屋を出て行く。
- 勝算も何も無いが、とにかくグロッグの仇を討つ。
- そのことしか彼女の頭には無かった。
-
- 予想通りの行動に、タクミは口の端を軽く持ち上げる。
- グロッグの仇討ちという気持ちは無いが、負けっぱなしのまま引き下がることは、彼らの自尊心を傷付ける。
- 目的は同じならララファと共に、ケルビムを追い掛けるつもりだ。
- 彼女ほど冷静さも失っていないし、それなりに戦力があればまだまだ勝算は彼の頭では立てられていた。
- それらがまとまると、体を壁から浮かせてヨウナの肩を叩く。
-
- 「来いヨウナ。今度こそあいつらを叩きのめすために準備をするぞ」
-
- それでヨウナはようやく静かになり、ゆっくりとタクミの方を振り返る。
- その顔を見て、タクミは背筋にゾクリとするものを感じる。
- ヨウナが浮かべている顔は、目は血走り、口から泡見せて、最早常人のものではなかった。
- 人の形をしていながら人では無いかのような、恐ろしい形相だ。
- 思わず怯みそうになる。
- だがこれなら戦いに力を発揮できるだろうと、ゴクリと唾を飲み込むとヨウナをMSのところへ向かうように仕向け部屋を出て行かせる。
- それからヒューの方に冷たく一瞥をくれると、ララファの後を追う。
-
- 「俺の、俺のせいで、グロッグは死んだ・・・」
-
- ララファ達が去った部屋に1人残ったヒューはしばらく壁にもたれたまま呆然と佇んでいたが、掠れる声で呟き、拳をワナワナと振るわせた。
- 自分で口にしてようやくその事実が実感される。
-
- 「くそーーーっ!!」
-
- 腹の底から叫ぶと、くるりと壁の方を向いて思い切り拳を叩きつけた。
- その強さに壁はへこみ拳から血が流れるが、その痛みよりもグロッグが自分を庇って死んだ胸の痛みの方がよほど大きかった。
- そして脳裏に浮かんでくるのは、自分を突き飛ばしたところでビームに貫かれたガルゥの姿だ。
- 自分を助けたためにグロッグは代わりに撃たれたのだと思うと、激しい自責の念がヒューを苦しめる。
- 何より自分自身が情けなかった。
- ちょっと知り合いが敵のMSに乗っていたというだけ動揺して、相手を撃つことを躊躇ってしまったことを。
- 確かに自分は戦士と言うには、あまりにも甘すぎた。
-
- 「次は躊躇わない。俺の前に立ちはだかるなら、迷わず殺す」
-
- そうでなければまた仲間の誰かを死なせることになるかも知れない。
- 或いは次は自分が死ぬかもしれない。
- 死ぬことは怖くは無いが、このままグロッグの仇を討たずには、死んでも死に切れない。
- その胸の内は今までに無くドス黒い感情に染め上げられ、拳を握り締める。
- 自分がやるべきことが、今のヒューには一つしか見えなかった。
- ヒューはその怒りと憎悪に満ちた表情を浮かべて、顔を上げると近寄り難い雰囲気を発しながら、ゆっくりと部屋を後にした。
-
*
-
- 相手の撤退を見て取ったザイオン達は、改めてマイクの部隊と合流した。
- ケルビムを着陸させてマイク達を中に迎え入れる。
- ドックの整備兵達が尊敬と歓迎の念を込めて拍手で迎える中、先頭に立つマイクは照れくさそうな笑みを浮かべて乗り込んできた。
- MSから降り立ったザイオンはすぐに駆け寄り、マイクと笑顔で握手を交わす。
-
- 「助かりました、ブリッド隊長」
- 「いや、こちらも任務を果たしたまでだ。礼を言うのはこちらの方だ」
-
- まさか援護を受けられると思っていなかったザイオンは、決死の覚悟をしていた。
- それをギリギリのところで相手を撤退させられたのは、間違いなくマイク達の援護のお陰だ。
- そのことに本当に感謝をしていた。
- そしてマイクも僅かな戦力での応援ながら、ケルビムと協力して敵を撤退できたのは大きかった。
- 結果として散ってしまった部下の弔い戦と、積極を覆すことができたのだから。
- お互いに任務と目的を果たした、戦いに勝利した充実感に満たされている、そんな表情を浮かべていた。
-
- ミライはその光景を横目で見ながら、1人浮かない表情でMSドックを後にして艦内の廊下をとぼとぼと歩く。
-
- ヒューが死ななかったのは正直ホッとしている。
- 敵であるにも関わらず、戸惑いながらもそのことには心から安堵しているのだ。
- だがヒューを庇って死んだ者がいたのも事実だ。
- それは彼の仲間であることは間違いない。
- そのことがミライの心に影を射す。
-
- ー俺の仲間も君達の攻撃で何人も死んだー
-
- 名も知らない、あの色違いのガルゥに乗っていた人がそうなのだと思うと、ヒューに言われた言葉が胸を突き刺す。
- 自分が直接殺したわけではないが、相手にとって殺した相手、その仲間と言う事実は拭えない。
- これまで自分は絶対に正しいのだと思っていた。
- 戦うその先に、真の平和があると信じて疑っていなかった。
- だが討たれた相手にとっては、自分のしたことが断じて正義ではないことを思い知らされる。
- 父を目の前で失った時と同じ気持ちを相手も抱いたことが、容易に想像出来たから。
- この悲しみと憎しみの連鎖こそが戦争が止まらない、終わらない理由なのだと分かった。
- 父が教えたかった本当のことが、この胸の痛みなのだと。
- だがそれが分かったところで、今の自分にそれを止めることなどできない。
- 如何に自分が無知で無力なのかを改めて知り、情けなくなる。
-
- では自分が死んだ方が良かったのかと言うと、そうでもない。
- やはり死ぬことは怖いと思うのだ。
- だから自分が生き残れたことは、仲間達が誰一人死ななかったことは良いことの筈なのだ。
- それなのに、自分は名も知らぬ誰かが死んだその瞬間、自分はヒューの敵討ちの相手となったのだと思うとミライは少しもそれを喜ぶことが出来なかった。
- 素直に勝利の余韻に浸れるザイオン達を羨ましいと思うと同時に、そのことが酷く愚かしい行為にも見えて、その矛盾した思いがまたミライを悩ませる。
- ぐるぐると考え佇むミライに、後ろからエデューが声を掛ける。
-
- 「お前、さっきの戦闘、あれはどうゆうことだ?」
-
- 肩に手を置き、厳しい口調で問い詰める。
- 自分もミライも生きて戦いに勝利することができたから良かったものの、戦場で無防備に空を飛び回るばかりで反撃すらほとんどしないなど、エデューからすれば考えられないことだ。
- あのままではいつ死んでもおかしくなかった。
- 結果として死ななくて良かったと安堵しながらも、見ているこちらとしては寿命が縮まる思いだっただけに、戦場に出るからには二度とあんなマネはして欲しくなかった。
- ミライの身を案じるからこそ、エデューは苦言を呈しているという思いがあった。
- 尤も相対していたフレアもそんなミライに戸惑ったのか、引きずられるようにおかしな動きはしていたが。
-
- 「・・・放っておいてください・・・」
-
- ミライはボソリと呟く。
- しかしその声はあまりにも小さく、聞き取れなかったエデューはえっと耳を欹てて聞き返す。
- ハッキリと聞こえなかったのだから、エデューの行為は仕方のないものだと思う。
- だがそこまで頭の回らないミライは、しつこく聞き返されたことに苛立ちが頭をもたげる。
- エデューの言いたいことは分からなくは無い。
- 自分が死ななかったのは運が良かっただけだ。
- それでも相手を殺すことが、どうしても納得ができない。
- この場合、相手を殺してでも自分が生き残る方が正しいのか、分からないのだ。
- だからミライとしては、そんな説教をされるよりも、今は1人にしておいて欲しかった。
- 兵士として戦っている、そう訓練を受けた自分以外の人達には、自分の気持ちや苦しみを分かる筈が無いと決め付けていたから。
-
- 「私のことは放っておいてください。皆さんには関係の無いことです」
-
- 自棄気味に声を大きくして叫ぶ。
- その自分勝手な言い分に、エデューもカチンときた。
-
- 「関係なくは無い。お前の行動で隊列を乱されたら、死ぬのは俺達だ。お前だけが死ぬんなら放っておくがな、こっちにまでとばっちりを受けるのは迷惑なんだよ」
-
- 掴んでいた肩に力を込めて、強引にミライを振り向かせる。
- それに対して、ミライは怯えと怒りの入り混じった瞳でエデューを睨み返す。
- その目がまたエデューには気に入らない。
- こんなにも心配しているのに、それをことごとく無視するような態度に、ついにエデューの怒りは頂点に達した。
-
- 「お前、事務総長の娘だか何だか知らないが、その高飛車な態度をいい加減にしろ」
-
- 襟首を掴んで、自分の息が掛かる程の距離まで顔を引きつけ、怒鳴り声を上げる。
- それを諌めようとしてか、ハロがテヤンデーと叫びながら2人の周囲を激しく飛び回る。
-
- やがて騒ぎを聞きつけ、そこに何人かのクルーとジロー、リュウが駆けつける。
-
- 「どないしたんや。戦いには勝ったんやから少しは落ち着けや」
-
- 興奮しているエデューからミライを引き剥がして、ジローとリュウが必死に宥める。
- だがエデューの気持ちが治まることは無い。
- 尚も抑えつけられる腕の中でもがいて、声を荒げてミライに詰め寄ろうとする。
- エデューのその責めと、自分の悩みで頭がパンクしそうになっていたミライは、とうとう抱えるものに耐え切れなくなり、くるりと踵を返すとその場を走り去る。
- その背からエデューの怒鳴り声が聞こえるが、それも振り切り自室に飛び込む。
- そして枕に顔を押し付けるように伏してベッドに横になる。
- こんなにも苦しい気持ちになる理由も見つからない。
- 自分が今何をしなければいけないのか、どうしたいのか、頭の中がぐちゃぐちゃで完全に道を見失っていた。
- その目からは止め処なく涙が溢れ、すぐに枕はビショビショに濡れてしまっていた。
-
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