- 最低限の修理と補給を終えたケルビムは、慌しく出航の準備をしていた。
- 残念ながら、今のケルビムはお尋ね者に等しい存在だ。
- それがこの地に長く止まればまた争いの火種となる。
- だから自分達はすぐに此処を去らねばならない。
- 分かってはいたことだが、その事実は少し切ない。
- だがその気持ちを押し殺して、今改めて本来の目的地を目指すのだ。
-
- 「それでは本当に良いんですね」
-
- ザイオンはケルビムのブリッジからモニタに映るマイクに向かって念を押す。
- そのマイクはと言うと、ケルビムの外で発進作業を見守っている。
- マイク達はこの地に止まると言う。
- ザイオンは野営地は壊滅的な被害を受けているし、本部と音信不通である以上、ケルビムに乗って共にオーブから本部に戻ろうと提案もしたが、マイクはそれを受け入れなかった。
- まだ離れたくない気持ちは分からなくも無いが、現実的には非常に厳しい状態なのだ。
- そんな心配するザイオンやレイチェルに、マイクは笑顔を見せて答える。
-
- 「ああ、こんな状況だから何だがな。それでも俺達の任務はここの治安維持、そして戦いを減らすことだ。命令が無い以上、この場所を離れる訳にはいかない。その任務を全うするだけさ」
-
- その言葉に、ザイオンもレイチェルもこの人も強い信念を持った人なんだと、改めて尊敬する。
- ならばその意気に応えることもまた優しさであり強さだと思う。
-
- 「ではご武運を」
- 「そっちもな」
-
- 最後に力強く敬礼を交わして通信は途切れた。
-
- だがモニタがブラックアウトすると、ザイオンはすぐに腕をだらりと下ろして溜息を吐く。
- マイク達を残して出発することにまだ後ろ髪を引かれるような思いはあるが、溜息の理由はもっと別のことだ。
- 彼はミライとエデューがまたいざこざを起こしたという報告に頭を悩ませていたのだ。
- ミライにいつも突っ掛かるエデューもエデューだが、今回に関しては自分もエデューの意見に賛成だった。
- 確かに先の戦闘でのミライの行動は目に余るものがあった。
- 正規軍であれば軍法会議ものだ。
- いかに事務総長の娘と言えども、放っておくことは部隊の士気にも関わる。
- しかしあの落ち込みようではどう処遇して良いのかも分からず、結局両者処罰なしとしたのだが。
- 地球に降りてからの彼女は、感情の起伏が激しすぎてどうにも掴み所が無い感じがするのだ。
- 立場的に扱いづらかったのは確かなのだが、ここ最近は特にだ。
-
- 「隊長、よろしいですか?」
-
- レイチェルが艦長席からザイオンを覗き込むように見上げる。
- 彼女は最後のザイオンからの命令を待ち、それを促したのだ。
- 言われて意識を現実へと引き戻したザイオンは、コホンと咳払いをすると頷く。
- ミライのこともどうにかしなければならないが、今はケルビムを発進させる時だ。
- 隊長として最後まで部隊を導くことも、いや、それこそが最も重要な任務なのだ。
- 一先ずミライのことは置いておきケルビムが目指す場所、そのために必要なことだけに集中する。
- それを受けてレイチェルは通信マイクを手渡し、ザイオンは各クルーに激励の訓示を送る。
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- 「本艦はこれよりオーブへ向けて太平洋に出る。まだ厳しい状況は続くが後一踏ん張りだ。諸君の頑張りを期待する」
- 「ケルビム、全速前進」
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- ザイオンが訓示を言い終わると、レイチェルは号令を発する。
- それと同時に、ケルビムはその機体を青い空に舞い上がらせる。
- その光景をマイクは目を細めて見つめていた。
- 行く手にはさらなる困難が待ち受けているだろうが、彼らならそれらを全て乗り越えられると信じられるから。
- あの伝説の不沈艦”アークエンジェル”の様に。
- マイクはそんな思いと願いと込めて、ケルビムが空の彼方に消えるまでじっと目を離さなかった。
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- マイク達に見送られて砂漠を抜けたケルビムは、すぐに太平洋に差し掛かった。
- 目の前には真っ青に輝く、海がどこまでも広がっている。
- 太陽の光を宝石の様に散りばめて輝くその荘厳な景色に、感嘆の声を漏らすクルー達。
- 地球と言う星の自然の凄さと美しさを目の当たりにし、改めて感動を覚える彼ら。
- しかしミライだけはその光景が視界に入らず、ただもやもやとしたもの胸の内に抱えて1人沈んだ表情で俯いていた。
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PHASE-28 「出撃拒否」
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- 「艦長、ESPEMの例の艦が太平洋上に進行しました」
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- レーダーを監視していたオペレータからの報告に、艦長らしき精悍な顔つきの男は駆け寄る。
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- 「よし、すぐに予想進路を割り出せ」
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- 太平洋を巡航している、地球連邦軍の潜水艦<マルコフ>。
- その艦長クラウン=ドネルは、大陸から海上に出てくるであろうケルビムを待ち伏せしていた。
- 本来の任務は北欧海域の警護、護衛なのだが、エルリックの会見後に与えられた命令は地球で展開するESPEMの囲い込みだった。
- 現存する位置から動きを見せた場合、不法侵入、領域侵犯の罪で迎撃せよというものだった。
- クラウンはその命令に従い、アフリカ周辺の海域に護衛艦2隻を連れて来ていた。
- そして宇宙でESPEMの新造戦艦が防衛網を振り切ってアフリカ大陸に下りたと言う情報も得て、それも踏まえた上でこうして何日も海中に息を殺して潜んでいたのだ。
- これでようやく狭い艦内暮らしから解放されると思うと、クルー達にも安堵にも似た溜息があちこちで零れる。
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- しばらくしてケルビムの進行方向から到達予測ポイントを割り出す。
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- 「やはりオーブに向かうか。あそこはまだ地球連邦政府に参画していない中立だからな」
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- クラウンはその結果を見て自分の予想が的中したことに淡く笑みを浮かべると、すぐに次の指示を飛ばす。
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- 「総員第1種戦闘配置につけ。護衛艦にも通達。ターゲットは網に掛かった」
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- その号令を受けて、俄かにブリッジ内が慌しくなる。
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- 「しかしこの任務、本当に正しいことなのでしょうか」
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- クラウンの指示を伝えながら傍らに控える副官は、一通り指示を出し終わると躊躇いがちに疑問を口にする。
- 上からの命令は確かにESPEMを武装テロ組織と認定し速やかにこれを排除せよということだが、あまりにも非人道的な気がするのだ。
- 世論は未だ圧倒的にESPEM側を支持するものが多く、また自分自身はESPEMにそういった危険性を感じないためどうしても踏ん切りがつかない。
- 任務を遂行することは理解出来ても、心が納得出来ないのだ。
- クラウンはそんな副官に嘲笑を見せると、呆れたように言う。
-
- 「前線で戦う我々にその意味や正しいかなどを考える必要など無い。それは無意味だ。我々はただ上の命令に従って敵を討つ。それだけのことだ」
-
- クラウンとて疑問に思わないわけではない。
- だが自分の職務というのがどんなものなのか、理解した上で言っているつもりだった。
- 所詮末端の軍人など上層部の駒に過ぎないと。
- だがそれで上の指示に黙々と従っていればお金の心配をしなくて済むし、逆らわなければそれなりの権力を持つことが出来る。
- 彼はそうして成り上がってきたのだ。
- 結果それなりに裕福な生活が出来ており、何の文句が言えようか。
- その生き方を今更変えようとは思わない。
- そして後数年もすれば定年として退官できる。
- こんなところで無用な反対をして要らぬ苦労をしたくないと思うのは人の性か、それとも欲なのかは分からない。
- ただどちらにしても、自分はESPEMを立ち上げたヤマト程の力も無ければ覚悟も無い凡人だ。
- ならば凡人らしくそれに見合った仕事、生き方をするだけだと、クラウンは諦めにも似た悟りの境地で彼は今の任務を淡々と受け入れていた。
-
- 「ターゲットが射程圏内に入ったら直ちに魚雷発射。同時に艦を浮上させMS部隊を発進させろ」
-
- クラウンは迷いを一切見せない声でそう命令を飛ばした。
-
*
-
- 延々と続く青い海の絨毯。
- ケルビムはその上を滑るように水飛沫を上げて進んでいた。
- 砂埃に塗れていた砂漠と違って、潮の香りと風がクルー達を心地よく撫でていく。
- しばしその感覚にリラックスして身を委ねていた。
-
- しかしその穏やかな時間も長くは続かない。
- レーダーと同時に水中探査用のソナーを見ていたエミリオンは、そこに何かの影が映ったのを見逃さなかった。
-
- 「ソナーに影あり、こちらに近づく物体をキャッチ。この大きさとスピードから魚雷と思われます」
- 「ケルビム直ちに離水上昇。総員第1種戦闘配置、パイロットはMSコックピットで待機」
-
- エミリオンの報告を受けて、レイチェルが鋭く叫ぶ。
- そして艦内を警報がけたたましく鳴り響く。
- 束の間の休息からまた血生臭い戦場へと引き戻され、クルー達にも張り詰めた緊張感が満ちていく。
- それを感じ取りながら、レイチェルは厳しい表情で小さく零す。
-
- 「やっぱりそうすんなりとは辿り着けないか」
- 「人気者は辛いですね」
-
- それにアールが操舵を引きながら軽口で答え、レイチェルは思わずクスリと笑みを零す。
- 他のクルーもそうだが、今は緊張感こそ持っていても慌てている様子は無い。
- もちろん自分も初めて戦場に出た時のことを思い出すと、良い意味で余裕が出ているのだ。
- そんなクルーを頼もしく思うと、レイチェルは凛と声を張った。
-
- 「さあ、ここも切り抜けてオーブへ必ず行くわよ」
-
- クルー達も雄々しく返事をしてそれに応えた。
-
- 一方、敵襲の警報に仮眠を取っていたザイオンは飛び起きると、MSドック目指して走った。
- 予期していたことだとは言いながら、心のどこかではこうならないように祈っていただけに落胆の色は隠せない。
- だがこのまま黙ってやられるつもりも毛頭無い。
- とにかくここを切り抜けてオーブへ行く。
- レイチェルやその他のクルー達と同じ強い思いが、ザイオンを突き動かしていた。
-
- パイロットスーツに着替えたザイオンは、他のパイロットに発進待機の指示を出しながら自分もリックディアスのコックピットに乗り込もうとした。
- しかしフリーズの所にミライの姿が見えないことに気がついた。
- そして周囲には整備スタッフがなにやら頭を抱えて集まっている。
-
- 「パイロットはどうした。発進準備がまだできていないのか?」
-
- ここは海上なので、唯一水中でも戦闘力を発揮できるフリーズの戦力は欠かせない。
- 発進を急がせようと、ザイオンはフリーズのキャットウォークまで来て状況を確認する。
-
- 「それが・・・」
-
- 発進準備作業をしていたブレインは言いにくそうに、困惑した表情で振り返る浮かべる。
- そしてザイオンはまた頭を抱えたくなる問題に直面する。
- パイロットが出撃命令に応じない、と言う普通であればありえない出来事に。
- またそのパイロット、ミライが来なければ水中モードへの切り替えも難しいと言うのだ。
- 最初にミライが乗り込んだ時のソフトウェアの書き換えで、整備スタッフでも短時間では解析不可能なプログラムがいくつもあるためだ。
- ザイオンは盛大な溜息を吐くと、くるりと踵を返し居住区の方へと戻っていく。
-
- 「どこまで世話を焼かせるんだ、あのお嬢様は!」
-
- さすがに堪忍袋の緒が切れたザイオンは、怒りの愚痴を零しながらとにかくミライの部屋へ急いだ。
-
- その頃ミライは、電気も付けずに真っ暗な部屋で1人ベッドの中に伏していた。
- 出撃命令の艦内放送はちゃんと聞こえていた。
- 本当であれば自分もフリーズのところに行かなければならないことは分かっている。
- だがミライはこれ以上MSに乗って戦いたく無かった。
- これ以上誰かに恨まれる存在になりたくなかった。
- 元々正規のパイロットでは無かったし、このままここで寝ていれば出撃せずに済むだろうと、安易な考えでベッドの中から動こうとし無かった。
- ハロもそんな主人を心配するかのように、静かに床を転がっている。
-
- しかしその考えを打ち破るように扉をノックする音が聞こえる。
- ザイオンがミライの部屋の前に来たのだ。
- ミライはその音を拒絶しようと頭から布団を被り、耳を塞ぎ、体を縮める。
- どうして周囲は自分を戦わせようとするのだろう、最初はあれだけ反対していたのに、と今の自分の心情を棚に上げて、恨み節を募らせる。
- ミライは頑なに心まで閉ざそうとしていた。
-
- そうとは知らないザイオンは一向に返事が無いことに痺れを切らし、ついに扉のロックを強制解除して部屋に押し入る。
-
- 「何をしている、パイロットはMSで待機と指示が出ただろう。早く行くんだ」
-
- そしてベッドの中に居るミライに向かって、強い口調で命令する。
- だがミライはピクリとも動かない。
- ザイオンはくそっと悪態を吐くと、布団を無理矢理引っぺがしベッドから引き摺り下ろす。
- それでもミライは自分で立ち上がろうとしない。
- 力なく床にペタンと座り込んでしまう。
- これまでの快活なイメージからはあまりにも違う様子に流石に心配になり、ザイオンはしゃがみ込んで肩を揺さぶりながら必死に叫ぶ。
-
- 「おい大丈夫か。敵はもうそこまで来てるんだ。このままだと俺もお前も、ここにいる皆が死ぬことになるぞ。それでもいいのか!?」
-
- それでもミライは反応らしい反応を見せず、その場に座り込んだままだ。
- ザイオンは苛立ち、腕を掴んで強引に立たせようとした。
- しかしその瞬間艦が激しく揺れ、ザイオンはふらついてミライから手を離す。
- 魚雷を回避されたマルコムが対空ミサイルを放ち、それがケルビムを掠めたのだ。
- 間一髪その下を通り過ぎるミサイル。
- しかしそれで安心するのはまだ早い。
-
- 「敵潜水艦、海上に浮上。母艦1と護衛艦2。そこからMSの発進確認」
-
- 艦内放送でエミリオンの上ずった声が響く。
- 事態は切迫している。
- これ以上自分もここに居るわけにはいかない。
- それに今のミライではMSに無理矢理乗せたところで何も出来ないだろう。
- ミライを立たせることを諦めて舌打ちすると、部屋の通信機でMSへの出撃命令を出し自分の部屋を後にしようとする。
- だが出る直前、ミライに背を向けたまま厳しい口調で告げる。
-
- 「何を悩んでいるのか知らないがこれだけは言っておく。敵を討ったことで相手から恨まれる、憎まれることはあるだろう。相手も同じ人間だからな。そんなことは俺達だって分かってる。でもこのまま何もしないで仲間が死んでいくのをただ見ているだけでも、今度は仲間から恨まれる。結局戦うしかないんだよ、今の俺達はな。そして俺達の戦いはそれを少しでも食い止めることだ。例えそのせいで誰かから恨まれようと、自分の正義と意志を信じてな。だから戦っていられるんだ。それを忘れるな」
-
- それだけ言い残すと、ザイオンは再びドックへと急いだ。
-
- ミライが使い物にならない以上、自分達だけで何とかするしかない。
- 既にドックの外では戦闘が始まっている。
- 相手のMSはウィンダムウェーブ14機と、水中用MSの存在が複数確認されている。
- 水中の相手が厄介だが、ともかく先にウィンダムウェーブから何とかするしかない。
-
- 「俺達じゃ水中戦は無理だ。落ちるなよ」
-
- エデューとリュウに忠告すると、リックディアスで空に飛び出す。
- そしてライジンと共に、飛び回るウィンダムウェーブを払い落としていく。
-
- 「フリーズは、姫さんはどないしたんですか」
-
- ジローはバルカン砲を放ちながら迫るウィンダムを、ビームサーベルを横に薙いで落とすとザイオンに尋ねる。
- 残念ながらライジンの機動力は空中や宇宙でこそ発揮されるもので、水の抵抗がある水中ではそれを充分に生かせない。
- そのことはジローが一番良く分かっている。
- だからこそフリーズに水中での戦いを期待しているのだが、その肝心のフリーズが出撃しないのでは苦戦は必至だ。
- これでもジローはミライのパイロットとしての能力を買っているのだ。
-
- 「心の病ってやつだな。この戦いはフリーズ抜きで切り抜ける必要がある」
- 「マジで?そらきついなっ!」
-
- ジローの問いに、ザイオンは諦めた様子で答える。
- 3機の集中砲火に、ジローは顔を歪めて回避行動を取りながら軽口を叩く。
- それから機体を急上昇させたかと思うと、3機のウィンダムウェーブが追いかけてきたのを確認して急転し、今度はその3機に向かって突っ込み擦れ違い様に切り裂く。
-
- ザイオンは後ろか狙い撃ってきたビームをエンジンを咄嗟にカットして自由落下でかわすと、再びスラスターに火を灯して上昇する。
- そして急接近してゼロ距離でライフルを撃つ。
- 続けてそのMSを足場にして横に跳躍し、リックディアスを狙っていた機体に接近するとビームサーベルで真っ二つにする。
-
- いかに多勢に無勢と言えど、今のザイオンとジローの相手になるレベルでは無かった。
- これまで厳しい戦いをいくつも潜り抜けてきたことが彼らに自身をつけさせ、レベルアップをもたらしていたのだ。
- 勢いづいたザイオンとジローは連携を取り、半数にまで減ったウィンダムウェーブを逆に追い込んでいく。
-
- 一方で甲板で敵を迎え撃つエデューは、ミライの勝手な行動に苛立ちを募らせる。
- 戦闘中におかしな動きをしていたかと思えば、今度は出撃命令に従わないなど自分では考えられない。
- やはりあの女は気に入らないと感想を持つが、今は目の前の敵に集中しなければと頭を振り甲板の上から水中のMSを狙い撃つ。
- しかし相手は速く、嘲笑うかのように海面に姿を見せてはまた潜る。
- それはMSではなく水中専用MAブトー。
- 水中用としては最新型のMAで、かつてのXナンバー、アビスのMA形態を元に開発された機体だ。
- MAのような形状だがMSと同じサイズに小型化され、水の中で抜群の機動性を誇る。
- 並みのMSではその動きについていくことも、狙い撃つことも難しい。
- 今もその機動力で水中を動き回り、海面に姿を見せて艦へミサイルを放ったかと思えば、また潜り的を絞らせない。
- やはりブトーの動きを止めるには、同じく水中で対峙する必要がある。
- 現状の戦力で対抗出来得るのはフリーズだけだ。
-
- 「こんなことになるんだったら、最初から俺が意地でもフリーズに乗っときゃ良かったぜ」
-
- エデューは愚痴を零しながら、必死に水中に向かってバズーカを撃ち続けた。
-
- その間もミライはぼんやりと部屋の床に座り込んでいた。
- 自分がどうしてここに居るのかも、何をしなければいけないのかも分からない。
- ただ相手から憎しみを受けられることに、とてつもない恐怖を覚えている。
- その恐怖から逃れようと必死だった。
-
- 再び水中からのMAの攻撃に、ケルビムは大きく揺れた。
- 破損箇所の確認を求める声が響き、被害の規模を知らせる警報が鳴り響く。
- それを耳にすると、死という言葉が、ミライに大きく圧し掛かってきた。
- ミライの脳裏に、キラがシャイニングフリーダムの閃光に消えたビジョンが甦る。
- その映像が恐怖となって、ミライを飲み込んでいく。
-
- 死ぬのはやはり怖い。
- 皆が自分のせいで死ぬのは嫌だ。
-
- そう思って頭を抱えた。
- その瞬間、ミライの意識が弾けた。
- すると頭の中から余計なものが抜け落ち、今やるべきことだけが見えた。
- やはり戦わなければ、何も守れないのだと。
- 父を失った時のような悲しみと憎しみを、また持つことになるのだと。
- それを避けることが、今一番自分がするべきこと、したいことだ、とある種の開き直りが、ミライに戦意を呼び起こさせた。
- ミライはその勢いで立ち上がると、MSドックを目指して全力で走った。
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