- 全ての戦いが終わって、タクミはようやく笑い声を収めると、他のメンバーの状況を確認しようと通信機にスイッチを入れた。
- ジローとの戦いに集中し過ぎて、周囲の状況というものを全く把握していなかったためだ。
- しかし通信機を操作しても、どのチャンネルからも雑音しか返ってこない。
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- 「ヒュー状況はどうなっている?ヨウナ、ララファ、どうした?返事をしろ!」
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- タクミは必死に呼びかけるが誰も何も答えない。
- 慌ててレーダーを確認すると、機影やシグナルが映っていないことに、ようやくこの戦いの結末を知った。
- 戦闘に突入する前は意気込んで戦いに望んだにも拘らず、結局生き残ったのは自分だけらしい状況にタクミは歯噛みする。
- さらにフェイズシフトダウンするライジン。
- あれだけリミッターを解除して激しい戦闘を繰り広げては当然だった。
- タクミ達の真の目的はケルビムの撃墜だったのだが、これでは戦闘を継続することは無理だ。
- 1機で戦艦に突撃するほど馬鹿でもないし、ライジンのエネルギーが残っていないこの状況で落とせるとも思ってもいない。
- またケルビムは既にオーブ領海の境界線上にある。
- このまま追撃することはオーブ軍も相手にすることになる。
- そうなれば良くて捕虜、最悪自分も撃墜される。
- 唯一の生き残りになってしまった以上、それは好ましくない。
- フウジンを討つことが出来ただけでもで良しとするか、と何とか自分を納得させると、タクミは輸送機に向かって撤退を始める。
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- だがその時、その目の前に海面に漂うエデューのグロウズを発見した。
- それには当然ケルビムのパイロットが乗っているはずであり、元仲間だったとは言え、今まさに命のやり取りをしていた相手なのだが、タクミは無意識のうちにグロウズを拾っていた。
- 自分でも何故そんな行動を取ったのか分からない。
- だが考えるよりも先に、海面すれすれまでライジンの高度を落とし、無意識にボロボロのグロウズを抱えていた。
- ジローを切り捨てた感触が未だ手にベッタリと貼りついているようで、不快な感覚が纏わり付いている。
- 手を擦ったりしたくらいでは落ちやしない。
- この行動はグロウズを回収、そのパイロットを助けたことでそれを少しでも払拭しようと思ってのこと。
- また戦力が失われたことで、うまく取り込んで補充しようと考えたからだと強引に結論付けると、タクミは待機していた輸送機に戻ると撤退していった。
- そのグロウズのコックピットには、未だ気を失ったままのエデューの姿があった。
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PHASE-32 「戦争の現実」
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- ミライはブリッジのモニターを見つめたまま固まってしまった。
- グロウズがボロボロの姿で嵐の中に消えていく様を、ただ焦点の合わない瞳で見送ったまま。
- それは実際にはほんの一呼吸か二呼吸するほどの間だが、ミライには何時間にも感じられた。
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- フレアとグロウズの戦いは、見ていてずっと息が詰まりそうだった。
- 性能差故に最初はフレアが一方的にあしらっている感じだった。
- ミライはやきもきしながら、エデューに内心声援を送っていた。
- その祈りが通じたのか、突然グロウズの動きが良くなった。
- するとダメージを追いながらも、確実にフレアの武器や手足を奪っていった。
- 形勢は逆転した。
- 仲間が優勢なのだから本来は喜ぶべきことなのだが、ミライは逆にフレアのヒューの方の心配をし始める。
- 最早どちらが敵だ味方だという概念は、ミライの頭の中から消えいてた。
- どちらも敵でも味方でもない、自分の知り合いでしかなかった。
- だからただどちらにも傷ついて欲しくないと願いながら、それを見守ることしか出来ない自分を歯痒く思っていた。
- だが願いも虚しく、互いにどんどん傷つき、傷つけあっていくフレアとグロウズ。
- そしてついには死力を尽くして相討ちとなり、ケルビムの甲板に落ちた胴体だけのフレアと、海の方へと落ちていくボロボロのグロウズ。
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- ミライは最初、何が起こったのか理解出来なかった。
- 知り合い同士が殺し合いをしているということだけでも眩暈を起こしそうだったのに、2人の乗ったMSのどちらもが大破するなどということは想像もしていなかった。
- 衝撃の結末に、一瞬目の前が真っ暗になった気もしたが、何とか気を保つとミライはすぐに叫んだ。
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- 「エデューを助けなければっ!落ちたのは何処ですか?」
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- ミライの叫びに、エミリオンもすぐにエデューのグロウズが落下したであろうポイントのチェックを行う。
- しかし外は嵐で波も高く、レーダーでは正確に捉えられない。
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- 変わりに映ったのは、上空から迫る新しいMSの影だった。
- 撤退したクラウンの報告を受けて、地球軍が第2陣の部隊を送り込んできたのだ。
- エミリオンは上ずった声でレイチェルに報告する。
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- レイチェルは報告に驚愕の表情を隠しきれない。
- ようやく犠牲者を出しながらも厳しい戦いを切り抜けたというのに、また新たな脅威が眼前に迫りつつあることに。
- 今のケルビムには1艦隊とやりあえるだけの戦力は無い。
- 艦としては速やかにオーブ領海内に逃げ込んで、戦闘を避けることを優先すべきだ。
- ではMSを救助に向かわせてはとも考えるが、リックディアスが帰艦したとの知らせが入っているものの、ボロボロで出撃出来る状態ではない。
- リュウのグロウズはもちろん、フリーズもまだ修理が終わっていない。
- これでは捜索、救出活動は難しい。
- 彼女達が生き残るために取るべき手段は、1つしか残されていなかった。
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- 「本艦はこのままオーブ領海に入ります」
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- レイチェルは唇を噛み締めて苦渋の決断をする。
- 呆然としているクルーにレイチェルは再度声を張って同じ命令を飛ばすと、クルー達は慌てて作業に取り掛かる。
- アールは速度を落とさずにオーブ領海への進入、エミリオンはオーブ行政府への領海内への進入の伝文発信等、一心不乱に打ち込んで、迷いを振り払うかのように。
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- 「な、エデューを見殺しにするのですか?」
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- ミライは信じられない、と言った表情でレイチェルの決断に真っ向から反対する。
- ミライの見立てではコックピットは破壊されておらず、生きている可能性の方が高い。
- ならばすぐに助けに行けば、犠牲者を1人減らすこと出来る。
- だがこのまま放っておいたら、ボロボロのグロウズで漂流して本当に命を落としてしまうかも知れない。
- あるいは浸水して溺死の恐れだってある。
- 事は一刻を争うのだ。
- それを何故、クルー達も揃ってレイチェルの提案に異を唱えないのか、不思議で仕方がなかった。
-
- レイチェルも可能性があるのは分かっている。
- それでも彼女は艦長として、エデューを捜索、救助に向かう判断を封印した。
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- 「では、ここで敵に追いつかれて全員命を落としますか!?」
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- レイチェルは強い口調でミライの前に現実を突きつけた。
- 自分だって出来ることなら助けたいと思っている。
- フウジンとジローを既に失っているのだ。
- これ以上犠牲者など出したくは無い、救えるものならば救いたい。
- だがもし本当はエデューが生きていなかったら、そのために敵と遭遇して戦闘になってしまったら。
- 様々な可能性があり、それを充分に検討するにはあまりにも時間が無さすぎた。
- 自分は艦長として、クルーの命を守るための決断もしなければならない。
- それが例え冷酷な判断に見えたとしてもだ。
- 自分がどれほど辛い気持ちで決断をしたのか分からないのか、自分だけがエデューを心配していると思わないで欲しいという思いが、八つ当たりとなってミライにぶつけてしまった。
- 言ってからハッとなって、ミライから視線をそらせる。
- ここでミライを責めても何もならない。
- 辛い思いをしているのは彼女も同じなのだから。
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- こんな時、艦長とは辛い立場だと痛感する。
- 仲間を助けに行くためにMSで飛び出すことも出来ず、時に自分の感情を押し殺さなくし、憎まれ役になってでも、クルー達を導かなくてはならないのだから。
- そんな行き場の無い感情にレイチェルは悔しそうに口を真一文字に結んで、握った手を震わせてシートの肘掛を思いきり叩いた。
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- その仕草を見れば、どれほど苦渋の決断であったのか窺い知れる。
- ミライもそのレイチェルの気持ちも状況も分からない訳ではない。
- このまま止まり、或いはエデューを探しに戻ることのリスクがどれほどのものかを。
- 冷静に判断すれば、ここはレイチェルの言うとおりにするのが正しいと思う。
- だが感情がそれをすんなりとは受け入れない。
-
- エデューは出撃前に、戻ったら言いたいことがあると言っていた。
- ミライは正直戦いには行って欲しくなかったが、その約束を支えにして送り出したのだ。
- それなのに、その答えを聞くことは、もう出来ない。
- 一体何を言いたかったのだろうかと考えると、悲しみが溢れて止まらなかった。
- だがここで嘆いても、もうどうにもならない。
- キラの時と同じように、自分の無力さに愕然と俯いて、ぎゅっと拳を握り締めることしか出来なかった。
- ただあの時と違うのは、怒りや憎しみといった感情が湧いてこないことだ。
- それは今のミライには、救いでもあった。
-
*
-
- MSドックでは、リュウが状況を知らされ愕然としていた。
- 聞かされたのはジローとエデューの機体の撃墜を確認したというものだ。
- しかもジローのフウジンを切り捨てたのはライジンだったいうことが、ショックに拍車を掛けた。
- ライジンのパイロットがタクミだということは周知の事実だ。
- でもだからこそ、かつて仲間であった者が仲間を殺すことなど、リュウには信じられなかった。
-
- 2人はリュウの目から見ても、とても仲が良さそうに見えていた。
- ESPEMに出向する前から、自分が初めて会った時から、笑い合ったり意見を交し合ったりして、信頼し合っているものだと信じて疑わなかった。
- それが新型のライジンごと裏切り、そしてついにその相方まで殺してしまうなど、とてもではないが理解出来ない状況だ。
- リュウはフラフラと壁にもたれかかると、拳を壁にぶつけた。
-
- 「どうして、タクミさんはジローさんを」
-
- 溢れ出た思いを零して、目を強く瞑って俯く。
-
- ザイオンも沈痛な面持ちで黙っていたが、しばらくしてゆっくりと口を開く。
-
- 「タクミが何を考えているのかは分からない。だがこれが戦争だということだ。敵である以上お互い殺し合う。俺達も相手のパイロットを殺している。それは何もタクミとジローのように、知った者同士のこととは限らない」
-
- 言われてリュウはハッとした。
- 確かに知り合いで無いとは言え、自分達もたくさんのMSを撃墜、つまりは殺してきている。
- と言うことは、相手にも同じ思いをしている者がいるかも知れないということに思い至る。
- リュウは知り合いで無いからという理由で、躊躇いも無く相手を殺してきたことが、今になって酷く恐ろしくなった。
-
- 仲間を殺されたことは悔しい、そして悲しい。
- その気持ちは偽りの無いものだ。
- だが自分達だけがそれを嘆くことは、筋違いな気がしたのだ。
- 力を持たなければ、誰かを傷付けることは無かったのにと思うと、戦う理由が急激にリュウの中から消え失せていく。
-
- 自分が軍に身を置いたのは、守るべきために力が必要だと思ったから。
- ただ争うなと訴えただけでは、力を振りかざそうとする相手を止めることは出来ない。
- ならばそんな相手を止めるにはどうすれば良いかと言うと、相手を止められる力を持つことしかないということを、彼なりに体験し、そう思っていた。
- それがオーブの理念を持ってすれば、実現出来ると思ったからだ。
- ヤマト事務総長の言葉を聞いて、平和を維持するために必要だと信じていたからだ。
- だがそれさえも独りよがりな考えであると思い知り、リュウは力が必要な意味が分からなくなっていた。
-
- ザイオンも言いながら、自分の行動に自信がもてなくなる。
- 果たして自分達の今していることは本当に正しいのか。
- 何故こうまでして戦っているのか。
- 考えれば考えるほど分からなくなり、思考の迷宮に入り込んでいく。
- そして自分が戦う理由を見失い始めていた。
-
*
-
- ヒューは夢を見ていた。
- 真っ暗な部屋の中、目の前でグロッグが撃たれる光景が巨大スクリーンで再生されているように、一杯に広がって何度も繰り返される。
- それを見ながら、激しい怒り、憎しみと言った負の黒い感情が、ヒューの心を支配する。
- 腹の底から唸り声を上げたヒューは、次の瞬間にはフレアのコックピットに乗っていて、目の前に現れたMSを片っ端から撃ち落していく。
- 躊躇わず、怒りに任せて。
- だがその内の一つがフリーズであることに、ヒューは攻撃を止めようとした。
- だが自分の意志とは無関係に指は引金を引く。
- そしてフリーズの姿がミライに変わったかと思うと、放たれた光がミライを貫き、可憐な笑顔が炎の中に消えた。
-
- そこでヒューはハッと目を覚ます。
- 自分が自分で無くなってしまったような、恐ろしい感覚に。
- 背中にはべったりと嫌な汗を掻いている。
- 肩で息をしながら、今のが夢だったことに心底安堵した。
- そこで初めて自分がまだ生きていることを自覚する。
- だがよく知らない天井に、最初自分が何処にいるのか分からなかった。
- 現状を確認しようと思い、上半身を起こそうとする。
- しかし体が軋んで痛みが迸る。
- うっと顔を歪めて呻き声を漏らした。
-
- 「まだお怪我は治っていないのですから、無理に動かない方が良いですわ」
-
- 優しい女性の声が不意に聞こえた。
- その声に、ヒューは聞き覚えがあった。
- 驚いた表情を浮かべて、声のした方を振り向く。
- そこには予想通り、ミライがいた。
-
- ミライはヒューの治療の間、ずっと傍に付き添っていた。
- そして今も、目覚めるまでベッドの横で座って待っていたのだ。
- またも自分のよく知る人が死んでいく様を、もう見たくは無かったから。
- だから目覚めた瞬間、ミライは心から安堵した。
- しかしその表情は愁いを帯びた、悲しげなものだった。
- ヒューは、ミライがそんな表情をしているのは何故だと考えようとするが、そこでようやく自分がケルビムの中にいるのだということを理解する。
-
- 「俺は、どうしてここに?どうやって助かった?」
-
- ヒューは掠れた声で尋ねた。
- グロウズと戦闘をしていたところまではしっかりと覚えている。
- だが最後に放ったビーム砲を足で防がれてからの記憶が無い。
- てっきりあの爆発で死んだものだと、意識を失う前は思っていた。
- そもそも自分がケルビムで治療を受けているのかが分からない。
-
- ヒューの問いに、ミライは悲しげな笑みを浮かべると、息を一つ吐き出した。
-
- 「エデューと戦闘された時、貴方は偶然ケルビムの甲板に落ちました。クルーの方達がそれを回収したからです。ですがエデューは・・・」
-
- そこまで言って、辛そうに顔を伏せる。
-
- 回収されたフレアから引きずり出されたヒューは、気を失っていたことと負傷していたことで、とりあえず医務室で治療を受けていた。
- もちろんミライがそれを嘆願したこともある。
- ザイオン達はフレアのパイロットをミライが知っていることに驚いたが、とりあえずは黙ってミライの頼みを聞いたのだった。
- そうして戦闘が終わってから数時間経つ。
- 既にケルビムはオーブ領海に入り、迎えの護衛艦隊に囲まれるように、本土に向かっているところだ。
-
- 話を聞いたヒューはエデューというのが誰か分からなかったが、ミライにとって大切な人だったということだけは分かった。
- そして最後に戦っていたMSに乗っていた者だということも。
- それを思うと、胸にチクリと痛むものもあったが、とにかく申し訳ないような、そんな気持ちばかりが締める。
- 戦争をしている敵同士の筈なのに、後悔の念が込み上げてくる。
- ヒューは唇を噛み締めて、シーツに視線を落とす。
- 本当であれば、顔も合わせられないのに、ここにこうしていることが、罪であり罰な気がする。
-
- 「貴方の仰っていたことが分かりましたわ」
-
- しばしの沈黙の後、ミライがポツリと呟く。
- ヒューは声に反応して、ミライの方に視線を向ける。
- ミライの言わんとすることが分かりかね、首を傾げる。
- だがミライは視線を足元に落としたまま上げようとはしない。
- また重苦しい沈黙が支配するが、ミライは気持ちを吐き出すように、続きを語り始める。
-
- 「私は自分の思いだけが正しいものだと思い込んでいました。でもそれは違うのです。私も貴方も同じ人間であり、それぞれが考え、思いを持つものだということを。本当の正義などというものはどこにも無いのだということが」
-
- ミライは一言一言を、噛み締めるように紡ぐ。
- 誰もが育った環境の違いや経験、考え方から、それぞれの正義を持つのだと学んだ。
- 戦いに身を投じて誰かを守るためであっても、相手を傷付ければ憎まれる存在となり、また戦わなくても自分の大切な誰かを傷付けられれば、その相手を憎み、それは永遠に終わることが無いのだ。
- だからせめて自分とヒューの間にある、この憎しみと悲しみの連鎖を断ち切りたいと願った。
-
- 「ここで貴方を殺しても、エデューが返ってくることはありません。私達も貴方の仲間だった方達を殺し、私が悔いて命を差し出したとしてもその方が戻ってくることはありません。ですから私だけが一方的に貴方を恨むことなど出来ません。そしてお互いに戦いを望むことも、憎むことも終わりにしませんか?」
-
- 言われてヒューも、復讐を考えた自分を恥ずかしく思った。
- そう、グロッグを殺されたことは悔しいことだ。
- だがそれを奪った相手にぶつけたとしても、グロッグが返ってくることはなかった。
- もし自分が同じように誰かを殺しても、それを同じように嘆き悲しむ人が、自分を恨む者が出てくることになるだけだ。
- それなのに、殺された憎しみばかりが心を占めて、そのことに気が付かなかった。
- ミライもキラを討たれた時はそうだった。
-
- 「どうして人は、戦うことはこんなにも虚しいものだと分かっていながら、戦ってしまうのでしょうか。それとも知らないから戦ってしまうのでしょうか」
-
- その目に涙を湛えながら、ミライは自問するように言葉を紡ぐ。
- ヒューは、その問いに答えられなかった。
- ただ胸の中にどうしようもない痛みと悲しみが込み上げてきて、視線を真上の天井に向けた。
- 確かにグロウズの仇を討つために出撃した。
- そのことだけを考えていた。
- だのに、今それを果たしていないことに、ケルビムを沈めなかったことに安堵する自分もいる。
- 多分、ケルビムをもし沈めることが出来たとしても、後味の悪い感覚だけが残ったであろうことを思うと、失敗したのは良かったとも思え、複雑な心境だった。
-
- ヒューもまた己の進む道を、見失っていた。
- 自分が戦って、自分にとっては間違っていると思う行為を正しいと思っている者達に分からせて、世界を正しい方向へ向かわせようと思ってその手に銃を取った筈だった。
- だからデュランダル派に属し、バン達と行動を共にしていた。
- だが今こうして敵だったはずの少女が苦しんでいる姿を見ると、自分の取った行動が正しいことだとは、とても思えなかった。
- 今のヒューの心に残っているのは、戦いの虚しさだけだった。
- こんな思いをしてまで戦っている理由が、ヒューには見出せなかった。
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