- 話し合いが終わると、ミライ達は退席した。
- 結局彼女らの重苦しい表情は晴れること無く、悩みはより深くなったようにも見受けられる。
- 急に大きな話を聞かされて、世界の状況を知って、戸惑っていると言う方が強いのかも知れないが。
-
- 残された部屋で溜息を吐くカガリ。
- 徐に椅子から立ち上がると、窓辺に寄って空を見上げる。
- 思いのほか彼女達の驚きとショックが大きかったようだが仕方が無い。
- 彼女らは真実を知る必要があり、また知らなくてはならない。
- 何故なら真実を知らなければ、進むべき正しい道を見定められない。
- 世界がまた誤った道に進もうとしている今、人々に行く末を示し、導くのもまたカガリ達為政者、トップに立つ者の役割だ。
- カガリ1人の力だけではない。
- 幾度もの戦いを共に潜り抜けた仲間達と一緒に、そうして世界が平和になるように尽力してきたのだ。
- 先ずは彼らも自分1人だけではないことを知ってもらいたいと思う。
- 同じように戦争を無くそうと思う人達も、武器を取らずとも共に戦ってくれる人は、世界中の至る所に居るのだ。
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- また彼女らにはもしかしたら自分達の時以上に過酷な道を示したかも知れない、と言う後悔にも似た気持ちが無くは無い。
- 本当は自分達が築かなければならなかった平和な世界、守り抜くことが出来なかった世界を、再び正しき道に導くための担い手と、世界を支える中心となるのだから。
- あの時よりも急速に変わり行く世界の中で、意志を貫かなくてはならないのだから。
- そんな自分を不甲斐なく思いながら、しかし自分の時代が終わろうとしているのを感じ始めていた。
- これからの時代を作っていくのは自分達の世代ではなく、彼らの世代だと言うことを。
- それだけ大きな期待を寄せているのもまた事実だ。
- ケルビムとそのクルー達は、かつてのアークエンジェルのように、この混沌とした世界に一筋の希望を見出させてくれるような、小さくとも強い光を運ぶ箱舟とその漕ぎ手に見える。
- ここまで厳しい戦闘を潜り抜けてきたというだけではなく、何かそう感じるものがあるのだ。
- きっとラクスも理屈ではなくそう感じるものがあったから、彼らを選び、託したのだろうと思う。
- そしてそれは単なる感だけでもない。
- 何故ならそこに”ミライ”があるのだから。
- 次に訪れる新しい時代を担い、導いていくのは間違いなく彼らの世代になるのだ。
- 彼らは世界の未来そのものでもあるのだ。
- だからこそ示された過酷な道も乗り越え、平和な世界を築いて行って欲しいと強く願う。
- それが勝手な押し付けだとしてもだ。
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- 不意にアスランが淡い笑みを浮かべて、物思いに耽るカガリの肩をポンと叩く。
- それだけで同じ思いを抱えているのが分かり、少し嬉しくなる。
- 悩んだり苦しんでいるのが独りではないということがどれほど大きな支えになるか、今はよく分かる。
- 同じように笑みを返して、そっと置かれている手に自分のそれを重ねて目を伏せる。
- その瞬間だけは、ただの1人の、愛する者に緩やかに甘える女性になれる。
- それは激務に追われる中で、最も幸せに心安らぐ瞬間だ。
- その温もりに感覚を委ねて、カガリはもう一度空を見上げた。
- 今度は力の篭った眼差しで。
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- キラ、お前なら”ミライ”に何を望む。
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- カガリは双子の弟の顔を思い浮かべながら、ミライ達の行く末と、世界の情勢に憂いた。
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PHASE-34 「仮初めの平穏」
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- ミライ達3人は一礼して部屋を後にした。
- 頭では理解していたつもりだったが、いざ他人から状況を聞かされて、どれほど世界が不安定で自分達が厳しい状況に置かれているかが、初めて分かった気がする。
- それが、自分達が望んでいる世界と逆行していることも。
- 出来ることなら何とかしたいと思う。
- とは言え、自分達の持っているものよりも遥かに大きな力、視点での話しに、ちっぽけな個人の力や思いは無駄にも思われ、判断がつかないというのが正直なところだ。
- そんな沈んだ気持ちに囚われていて、自分達の背後に人がいることに気がつかなかった。
- 振り返ると人が立っていることに驚きの声を上げる3人。
- 立っていた人物も、驚かれたことに驚いて、ビクッと肩を揺らした。
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- 廊下で待っていたのは、カガリとアスランの息子のユウキだ。
- 用があるシンに変わってケルビムまで送ると言う。
- 代表の息子、つまりは次期代表候補の案内ということに、また先の無礼な失態に、折角緊張から解放されたのに、また恐縮して体中の筋肉が硬直していくような感覚を覚えるザイオンとレイチェル。
- しかしミライは、ホッと肩の力を抜いた。
- ケルビムに乗ってから、一番年の近い知り合いはザイオンだ。
- だがザイオンは自分の兄姉の友人だ。
- そういう意味では、友人関係というよりは兄妹という関係に近い。
- 片やユウキは、これまでに何度か顔を合わせている。
- 彼の方が年は上なので兄様をつけて呼ぶが、その実ほとんど対等な友人のように付き合っていた。
- ミライは年の近い知り合いとこうして会うのは、何年振りかのような気がした。
- そこから湧いてくる安堵感が、自然と笑みを浮かべさせる。
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- 「ユウキ兄様、お久し振りですわ」
- 「うん、ミライも思ったよりは元気そうだね」
-
- ユウキも淡く笑みを零して、ミライに挨拶する。
- 一人っ子のユウキにとっても、ミライは可愛い妹分であり、仲の良い友人だ。
- カガリから状況を聞かされた時は驚き心配したが、こうして無事に再会出来たことには、心から喜んだ。
- そして浮かんでいる表情が、今までとあまり変わらない柔らかい笑みで、安堵もする。
-
- 4人は並んで歩きながら、ユウキもまたカガリに話を聞かされたことを語った。
- 世界が混沌とする中で、自分は何をすべきか、自分で考え自分で決めなければならないと。
- そのことを神妙に話すユウキも、悩んでいるように見受けられた。
-
- 「ユウキ兄様はどう思いますか、カガリ伯母様とアスラン伯父様の仰ること」
-
- ミライはユウキに質問をぶつけてみた。
- 3つしか違わない従兄は、カガリの話を聞いてどう思ったのか、迷いや戸惑いは無かったのか知りたいと思った。
- 自分と同じように、両親が偉大な為政者という身分であり、伝説の英雄の子供として幼少より期待を背負ってきたユウキなら、参考になることは多々あるのではと考えたからだ。
- また自分自身は答えを見出せないでいることも、ミライの心に不安の影を落とし、ユウキの考えが気になる要因でもある。
- ミライの不安を感じ取ったユウキは彼女の方をじっと見つめた後、ザイオンとレイチェルの方にも視線を流して、しかし歩みは止めずに言葉を綴る。
-
- 「正直私にはまだ難しいことは分かりません。私は貴方達のように実際に目で見て触れることはありませんでしたので。戦争がどれほど悲惨なものかは話にしか聞いていませんので、理想論のように聞こえるかも知れませんが、私は争いが正しいことだとは思いません。それを止めるために、しっかりとした話し合いの場を作ることは必要だと思っています」
-
- ユウキの、自分は戦争を体験していないという言葉に、ミライは同じような思いはしなくて良い、と心の中で呟く。
- これ以上誰にも傷ついて欲しくないというのは心からの願いだ。
- だが世界は戦いの渦に飲み込まれていくのは避けられない、ともカガリは言った。
- それを思うと胸の奥にチクチクと痛むものを感じる。
- ミライが落ち込んでいる間も、ユウキの言葉は続く。
-
- 「でも、父上と母上を信じ、お2人の後をしっかりと継ぎたいと思います。きっと世界の人皆が望む、戦争の無い世界を作るために。そのために今は色々なことをこれから勉強して、自分のやるべきこと、出来ることを探します」
-
- ユウキはしっかりと前を見据えて、力強く答えた。
- ユウキの答えを尊敬する反面、それはミライの望む答えでは無かったことに落胆も覚える。
- ミライには答えが見えないなりに、それでも前へ進もうとするユウキの姿が眩しく見えた。
- それに引き換え自分は、それすらも考えられないことに苛立ちと嫉妬を覚える。
- そんな自分が惨めにも思えて、視線は足元に落ちた。
-
- 一方ザイオンとレイチェルは呆気に取られていた。
- まだ20歳にも満たないのに、ユウキはしっかりと先のことを見据えて、自分の出来ることを模索している。
- ミライも今は迷っているようだが、秘めたる潜在能力の高さは目の当たりにしてきている。
- 偉大な人達の子供はかくも凄いものかと、舌を巻くばかりだ。
- 不安が払拭された訳ではないが、彼らについていけば、未来は捨てたものじゃないかも知れないという思いも芽生えていた。
-
*
-
- ミライ達がケルビムへ戻ろうとしている最中、エミリオンは通信回線に雑音が入っているのを見つけた。
- メンテナンス最中のことだ。
- 微弱な物だが、通常艦内で使用するものとは明らかにデータの転送速度にゆらぎが見られるのだ。
- 通信が阻害されるという程でもないが、一度気になるとそれがどうしても頭の隅から離れない。
- ひょっとしたら回線中継器の接触などが悪いのかも知れないと思い、その調査と修繕を依頼しようとブレインを探していた。
-
- 整備班の作業員達はMSの修理を行っている。
- 戦闘をする予定は無いのだが、本部に戻った後どうなるか分からない。
- そのためには、暇のある今の内に済ませておきたいというのはある。
- それに、それ以外の仕事が無いということもあった。
- 先行きは不安だが、仕事に関してはリラックス、のんびりとした空気の中で作業が進められているのだ。
- エミリオンもそれを分かっているので、頼めば確認してくれるだろうと、まずはMSデッキを覗いた。
- しかしそこにブレインの姿は無く、整備の人間に聞くと機関室に行ったと言われたので、礼を言ってそこに足を運ぶ。
- この時のエミリオンは、まだブレインが機関室にいることに何の疑問も抱いていなかった。
-
- 作業員達も普段は足を踏み入れない、艦の奥まったところに機関室はある。
- その低い稼動音が鳴り響く部屋を覗き込んで、エミリオンは一瞬眉を顰めた。
- ブレインが壁の方を向いて立っていたので声を掛けようとしたのだが、インカムを耳に当て、機関室にあるサーバメモリーに向かって何かを打ち込みながら、何かを呟いている。
-
- 「はい、・・・はしばらくオーブで休息に入ります。予定は未定ですが・・・その後はどうにかしてそちらに戻る手配を考えます」
-
- 聞こえてきた呟きが、何所かと通信を取っているものであるらしいことに、エミリオンは思わず息を飲んだ。
- そしてブレインが触っているメモリーは、まさにエミリオンが依頼をしようとしてた、通信ログを蓄積しておくための機器だ。
- つまり通信回線に入ってた雑音は、ブレインのものだったのだ。
-
- 通信をするだけであれば、わざわざ薄暗く狭い機関室に来る必要は無い。
- それをここに来て、しかもログサーバを弄りながらするなど余程のことだ。
- また艦内で使用するものとは異なる周波数で、正規のルートを使用せずに通信をするなど普通のことでは無い。
- つまりは、他の人間に聞かれたくない内容を、知られたくない相手と通信をしているのだ、という考えに至るのに時間は掛からなかった。
-
- 「もちろんです。場合によっては・・・へお連れします。・・・の準備も急ぐ・・・あるかと」
-
- エミリオンはもっと内容を良く聞こうと聞き耳を立てるが、いかんせん距離が遠く、またブレインも小声で話しているため、所々聞き取れない。
- どうやら誰かをどこかに連れて行くための話をしているようだ。
- その誰かというのが非常に気になり、もっとよく聞き取ろうと少し身を前のめりに乗り出した。
- その時、少し踏み出した足が、足元に置かれた機器の出っ張りに引っかかった。
- バランスを崩して、思わず声を上げて倒れこむエミリオン。
- 大きな声と音が機関室に響く。
-
- 「誰だ!何をしている!!」
-
- ブレインは音がした瞬間ハッとした声を上げ、慌てて音のした方へ駆け寄った。
- そこで床に座り込んでいるエミリオンを見つけ、しまったという表情を飲み込む。
- 明らかに聞かれたくなかったという態度だ。
-
- 「ブレインチーフ、今のはどちらと連絡を取られていたのですか?」
-
- 寡黙だが部下からも慕われているブレインがスパイなどと、すぐにはイメージが結びつかない。
- だが目の前で起こっていることは、ドラマでも映画でもなく、全て現実だ。
- ブレインの態度に、それをハッキリと認識する。
- エミリオンは恐れを忘れて開き直り、すっと立ち上がると挑むような瞳でブレインを睨む。
- ミライのことがオーブに知れていたことからも、こちらの内情はブレインによって筒抜けだと思っていいだろう。
- それにしても相手は一体誰なのか。
- もしその相手が何度も襲ってきた部隊であれば、オーブを出たところを待ち伏せされるかも知れない。
- 他の相手にしても、いつ襲われるのかと思うと不安が喉元に刃を突きつけているように感じられる。
-
- しかしブレインは素っ気無く返す。
-
- 「整備のことでちょっと確認を取っていただけだ。君には関係無い」
-
- それだけ言うと、エミリオンと擦れ違うように足早に機関室を出て行く。
-
- 「隊長や艦長は知っておられるのですか?」
-
- エミリオンは遠ざかる背中に言葉を投げ掛けるが、ブレインは速度を緩めることなくそれを無視して、視界から消えた。
- 姿の見えなくなった廊下を、悔しそうに睨むつける。
- 意見こそ交わさなかったが、エミリオンもザイオン達が抱いた、この中にスパイがいるという疑いを持っていた。
- しかし心のどこかではそれは何かの間違いだ、仲間達の中にそんな人がいる筈無いと否定する気持ちもあり、これまでに戦闘した相手が気付いたのが広まっているだけだと、無理矢理気持ちを納得させていた。
- だが今のブレインの通信と態度を見て、疑惑は確信に変わった。
- ブレインにそのスパイの可能性があるのだと。
- いや、エミリオンの中では可能性ではなく決定的な事実となっている。
-
- 彼も整備班のチーフという立場であるから、所謂士官の個室が与えられており、人に聞かれたくないというのであれば自分の部屋でも良かったのだ。
- それをあえて機関室で行ったのは、通信履歴のログまでも直接操作して、通信していた事実を隠そうとしていたからに他ならない、とエミリオンは推測を立てる。
-
- だが今すぐザイオンやレイチェルに報告するということは憚れた。
- 唯でさえ皆これからのことが見えずに不安になっている。
- おおっぴらに言うことは必要以上に混乱を与えるのではないかとも心配した。
- またきちんとした物証を押さえてから報告した方が良いとも考えた。
- 自分が証言するだけでは白を切られる可能性もあるし、スパイだと立証することも出来ない。
- そこまで考えて、ならば立証を自分で押さえれば良いのだと思い至る。
- 思い至ると、それがとても良い考えの様に思えて、気分が高揚してきた。
- エミリオンは探偵の様になった気分で、ブレインの行動を終始見張ることを決意した。
- これ以上スパイ行為をさせるものかと、拳を握り締めるとブレインの後を慌しく追い掛けた。
-
*
-
- リュウはケルビムの甲板に出て、壁にもたれながらぼーっと景色を眺めていた。
- しかしここはドックの中であり、灰色の機械的な壁以外特に何も見えない。
- 彼も別段それを見ていたわけでもない。
- ただパイロットである彼に現状それほど多くすることは無く、また何かをやろうという気分になれない、それだけのことだ。
- 1つのことが頭を離れず、何をやっても手につかないということもある。
- とにかくリュウは単に甲板に座り込んで、それだけをぐるぐると考えていた。
-
- リュウが考えていることとは、ジローとタクミのことだ。
- どうしてあの2人が殺しあったのか、リュウには理解出来なかった。
- 少なくともリュウの目には、2人は仲の良い友人同士であり、互いに信頼し合っているパートナーのように見えていた。
- それが思想の違いから、それまでのことが無かったかのように刃を交えるなど、自分には出来そうも無かった。
- 一体どんな思いで対峙して戦っていたのか。
- 聞きたくても、どちらもここには居ない。
- 1人は自分達の敵として立ちはだかり、もう1人は帰らぬ人となってしまった。
- またESPEMの、ケルビムのクルーとして外に出れば、何れはタクミと自分とは合間見えることもあるだろう。
- それは簡単に予想がつく。
- だがその時一体自分はどうすれば良いのか分からない。
- 今のままでは一方的に討ち取られる気がする。
- しかし死ぬことは怖いし、それが正しいことだとも思えない。
- かと言って、タクミを討つことなど論外だ。
- それで生き残ったとして、そのこと一生悔いるだろう。
- そこまで考えると頭の中がごちゃごちゃになって、彼は思わず両手で頭を掻き毟った。
-
- そんなリュウが頭を抱えているところに、アールが艦内に通じる扉から出てきた。
- 彼も少し気分転換に艦の外の空気でも吸おうかと、艦の外に出てきたのだ。
- 本当はドックの外に行ければ良いのだが、その許可は出ていないので、今はここで我慢というところだ。
-
- アールは先客があることに目を細めると、一瞬どうしようかと迷ったが、無言でリュウの隣で壁にもたれかかった。
- 立ったまま腕組をし、リュウと同じ方向を向いている。
-
- 「やっぱりここじゃ、見栄えの無い景色だよな」
-
- アールはポツリと感想を零した。
- しかしリュウは何も答えず、相変わらず前のほうを見つめたままだ。
- 聞いているどころか、自分が隣にいることにも気付いても知れないと思い、苦笑を浮かべる。
- 別に同意を求めたわけでもないので、特にそれを気にもしていない。
-
- 「貴方はどうして軍に入ろうと思ったんですか?」
-
- しばらく沈黙が続いていたが、リュウが唐突に口を開いた。
- 軍に入らなければ、こうして戦い、相手を傷付けることも無かっただろう。
- リュウは幼すぎる憧れで軍に入ったことを少し後悔していた。
- 所属は違うが先輩であるアールは後悔したことは無いのだろうか。
- こんな不純な動機で軍に入ったのは、やはり可笑しいだろうかと思った。
-
- どうやらこちらの気配には気付いていたらしいことにアールは軽く驚き、しかし話をする気があるなら気分転換にちょうど良いかと、リュウの隣に、同じようなポーズで腰を下ろす。
- それからリュウの質問に過去を思い返して、肩を竦める。
-
- 「今となってはよく分からないね。その時はMSパイロットが格好良いとか、そんな子供みたいな夢を見てたからな」
-
- 結局MSのパイロットにはなれなかったけどな、と苦笑いを浮かべながら答えた。
- 地球軍に入隊した当初はパイロット志望だったのだが、MSパイロットの適正試験に落ちたため、彼は輸送機などのパイロットをしていた。
- それから少し腐っていたこともあったが、輸送機のパイロットもいなければ味方に物資を運ぶことも出来ない、それは軍全体としてはまた重要な任務であると理解出来たから、今もこうして軍に所属しているのだ。
- 結果としてESPEMの最新艦の操舵手になれたのは幸運の一言に尽きる。
-
- 「頼むぜ。俺は艦を操縦することしか出来ない。君らMSパイロットが戦ってくれなきゃ、俺達は生き残れないんだ」
-
- アールの言葉に、少しだけリュウの気持ちが晴れた。
- 入った動機も自分と似たようなものだったし、色々と迷ったりしたこともあったということが分かったから。
- 何より敵を討つことが絶対的な正義だとは思っていないが、何もせずに討たれることもまた正義では無いのだと知るには、充分な言葉だった。
-
- それでも気持ちを割り切るには、もう少し時間が掛かりそうで、リュウは力なく下を向いた。
- 耳にはケルビムを修理するための、甲高い金属音だけが響いていた。
-
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