- エルリックの演説が終わると同時に、ミライはケルビムを飛び出した。
- 演説の内容が信じられないこともあったが、何よりESPEMに居る母のこと、そしてプラントに居る兄姉のことが気になった。
- この程度のことで参るような人達ではないことは信じているが、あの演説の与える影響は少なくないことは分かる。
- ミライとしては心配でならない。
- 本当であればケルビムの外に出ることは許されないのだが、あのラクスの娘ということで誰も止められず、ミライはそのまま戦艦ドックからモルゲンレーテへを通って、まっしぐらに行政府の建てや内に入り、カガリの元を尋ねた。
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- 急にミライが飛び込んできたことに、周囲の人達は驚いたが、カガリはさして驚いた様子を見せず淡々とミライを迎え入れる。
- ちょうどこちらも呼ばなくてはならないと思っていたところだ。
- 聡い彼女なら薄々は気付いているから、驚きと心配が入り混じった表情でここに来たのかも知れないが。
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- 「お前には辛いことかも知れないがよく聞け」
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- カガリが辛そうに目を伏せながら、ミライの両肩に手を置いた。
- その只ならぬ様子に、ミライは神妙な面持ちでコクリと頷く。
- 全てを受け入れ覚悟を決めたようなその様子に、カガリは少し言い辛そうにしながらも、ゆっくりと口を開いた。
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- 「プラント最高評議会は地球連邦政府に対して遺憾の意を表明し、宣言の即時撤回を求めた。そしてその主張が受け入れられない場合は、全面的に争い、武力行使も辞さない構えであることを宣言した」
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- 聞かされてミライは驚愕に目を見開いた。
- 事態は思っていたよりも早く、そして最悪の事態に向かって転がっていることに。
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- 「そんな、兄様や姉様達が何故そんなことを。お2人がそんなことに賛成する筈がありません!」
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- そもそもミライにはエルリックの宣言も寝耳に水の話だが、プラントがそれに真っ向から受けて立つような宣言をするなど、信じられないことだった。
- 何よりプラントにいる兄や姉であれば、他の評議員が賛成したとしても賛成する筈が無いと信じていた。
- いや反対したのだろう。
- それでもその議案が通ってしまったという事態だと考えるべきか。
- 僅かに冷静な部分がそんな考えを導き出すと、それを肯定するようにカガリが言葉を続けた。
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- 「詳細はこちらでも確認中だが、アンダーソン議長がザラ派に寝返ったらしい。それに伴い、ヤマト議員と関係の深い者達には拘束命令が出たそうだ。ただ彼らは直後に公安部の手を逃れ、現在行方不明中と言うことだ」
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- それを聞いたミライは衝撃に眩暈がした気がした。
- 父に不幸があってまだ間もないのに、今度は兄と姉が行方不明になっただなんて、ショックが大き過ぎる。
- フラフラとカガリに寄り掛かる格好になる。
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- カガリはそんなミライを支えながら、このまだ体つきも細く幼い少女があまりにも不憫に思えた。
- キラとラクスの娘であるが故に、その身にどれだけのものを背負っているのだろう。
- 彼女自身そのことを分かっている。
- 分かっていて、それでもそんな両親を誇りに思い、周囲の期待に応えようとこれまで頑張ってきたのだ。
- その全てが今否定されようとしている。
- 自分達の思いと無関係に進む時代の流れに、優しく純粋な心が飲み込まれていくのは、いつ見ても辛いものだ。
- しかし彼女の力では今はどうすることも出来ない。
- ただ母親の変わりに優しく抱きとめて、慰めてやることしか。
- その腕の中で、ミライは静かに肩を震わせて、カガリの胸に涙を零した。
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PHASE-36 「クーデター」
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- プラントでも流されたエルリックの宣言を受けて、人々は騒然としていた。
- こちらの年かさの者達、特に前の戦争を経験している人達の反応は、概ねナチュラルの人々と同じようなものだった。
- あれだけ戦争の悲劇や辛さを知っているのに、またそれを繰り返すのかと。
- もう二度と繰り返してはならないと、怒りにも似た批判と不安が溢れてくる。
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- だが若年者、戦後に生まれてきた者達の反応はどちらかと言うと戸惑いの方が大きい。
- 彼らからすればナチュラルと自分達がどれ程能力に差があるのかを知らない。
- 融和政策が各国で推し進められている世界においても、それでもまだまだ一般のコーディネータとナチュラルの人達が交流することはほとんどなく、比較する場面が皆無なので、それを実感、自覚することが無いのだ。
- また前議長であるラクスの方針により、コーディネータもナチュラルも同じ人類であるという旨の倫理、道徳、そして歴史の教育も強化されている。
- そのためコーディネータの若年層には、その考えがかなり浸透している。
- そして二度と戦争は起こしてはならないことは、ナチュラルも分かっている筈だと教えを受けている。
- それもあって、その反応は無理からぬことだった。
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- とは言っても宣戦を布告する言われは無く、このまま黙って戦争を仕掛けられる訳にも、一方的に殺られる訳にもいかない。
- それに対する不満は燻り始めていた。
- 評議会でもすぐさま緊急会議が開かれた。
- 議員であるコウもすぐさま評議会の会議室に赴き、どうやって地球連邦政府と話し合いを進めるかを思案していた。
- しかし議場で話し合いを始めると、他の議員の意見を全く聞き入れようとしないジャックの怒鳴り散らす姿があるばかりで、それを周りの議員が宥めるという状況だった。
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- 「我々としては、このまま黙って殺られるつもりはない。すぐに防衛網を強化する。地球連邦政府の武装した艦もMSもプラントに近づけてはならない。我々も本気なのだということを、地球連邦政府に分からせるのだ!」
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- 自分達が暮らしている人工の大地がどれ程脆い物かを彼らはよく知っている。
- 攻撃を受けて穴が開くとそこから空気が漏れて、或いはそれが綻びとなり地面が割れて、人々が宇宙空間に放り出されてしまう。
- いかにコーディネータと言えど、宇宙空間の中では生きてはいけない。
- そして避難する場所を他に持たないプラントの市民達にとってみれば、この大地が危険に晒されるということは、生きる術を奪われるに等しいことだ。
- だからジャックがそれを防ごうとしているのはよく分かる。
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- 「もちろん、ただ一方的に攻撃を受けることは回避せねばなりません。ですが、まだ攻撃は仕掛けられていません。この間に会談の申し入れをして、出来れば戦争の回避を努力しましょう」
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- 降りかかる火の粉を払い除けるための最低限の武力は必要だと思うが、コウは冷静に、戦火を拡大しないためにも話し合いは必要だと主張する。
- 他のほとんどの評議員達もコウの意見に同調して、そうだと相槌を打ったり頷いたりしている。
- 冷静に考えればジャックとてこの思い、考えに気がつくだろうと、この時のコウはまだ思っていた。
-
- だがジャックは胡乱げにコウを睨むだけで、耳を貸そうとしない。
-
- 「だがその甘い理想論を掲げた結果、ナチュラルどもに増長を許したのだ。それに奴らは既にESPEMも敵対する組織だとしている。今更ESPEMの意向を守ったところでどうにかなるものではない!」
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- 冷静になるどころかますます熱くなり、机を拳で叩きつけて力説を繰り返す。
-
- 「アンダーソン議長、落ち着いてください。気持ちは分からなくは無いですが、やはり先ずは議論を呼び掛けるべきです。このまま戦闘行為に踏み切っては、20年も前の戦争の繰り返しになりまた多くの犠牲が生まれます。それにESPEMの意向を無視は出来ません」
-
- それに対してコウも怯まず、ジャックを宥めながら強い口調で反論する。
- 地球連邦政府のやり方や強引な理由付けは許せないが、それでも戦争は避けたいと思う。
- いや避けなければならない。
- 戦争によって生まれた悲劇の跡は、今もプラントのあちこちに残っている。
- 共同墓地の大きさが特にそれを物語る。
- 戦争が起これば、またその墓地の面積が広がるのだ。
- それを考えるのは、胸が痛い。
-
- しかしジャックはこれ以上の議論は無駄とばかりに溜息を吐くと、どこかに通信を繋いだ。
- 議論の最中に何をしているのだろうと疑問に思ったコウだが、すぐにジャックはこの議案を強引にでも押し通すつもりなのだと理解した。
- だがコウが分かった時には既に遅かった。
- 銃を持ったザフト兵達が、議場に乱入してくる。
- そしてコウを始め、ヤマト派とされる穏健派の評議員達に銃を突き付け、手を上げろと鋭く唸る。
- コウ達は戸惑いながらもゆっくりとその言葉に従い、両手を挙げた。
- 全員が両手を挙げると、重苦しい沈黙が議場を支配する。
- 1分が1時間にも感じられる、その長い沈黙の後、急に壮観な厳つい体つきの男、ジールがのっそりと現れた。
- そしてジャックの隣に立ち、何か耳打ちをする。
- ジャックは渋い表情で頷くと、ジールの耳元に囁き返し、ジールは軽く会釈すると議場を後にする。
- その背中を見送ると、ジャックはジャックで何かを考え込むような仕草を見せる。
- そして再び、時間が止まっているのではと思われるほど、誰も動かない、人の息遣いだけが辛うじて響く静けさが議場を包む。
-
- 「これはどういうことですか、アンダーソン議長」
-
- 占拠した兵士達の動きも無くなったことで、彼らの作業が一先ずは区切りを迎えたらしいと認識したコウは、怯える様子も見せずジャックを睨みつけて説明を求める。
- 話し合いをすべき議会で、これでは脅迫、武力による占拠を行っているようにしか見えない。
- 議長として、いや議長でなくとも民主的に話をするべき立場にある者としてあるまじき行為だ。
- それに対してジャックもコウを睨み返し、だが勝ち誇ったような笑みに口の端を吊り上げて質問に答える。
-
- 「どうもこうも、見ての通りだヤマト議員。ヤマト派と呼ばれる穏健な意見は今の評議会に不要だ。やはりナチュラルとは無知で愚かな存在なのだ。故に新人類たる我々コーディネータが、旧人類であるナチュラルを粛清、淘汰する必要があることが今回のことで証明された」
-
- ご大層な大義名分を掲げて、ジャックははっきりとナチュラルの排斥を明言した。
- コウは息を飲む。
- まさかジャックがそこまで、強硬で攻撃的な意志を持っているとは思わなかった。
-
- 「ラクス前議長の志をお忘れになったのですか?貴方はその後継者として・・・」
- 「黙れ!ラクス前議長と私は違う。私は私のやり方でプラントを、コーディネータの未来をより良い方向へ導く。そう、私が今の最高評議会の議長なのだ。ラクス=ヤマトでは無い!」
-
- コウは何とか反論の声を上げるが、ジャックはさらに声を荒げてコウの言葉に被せる。
- 今のジャックにとって、ラクスと比較されることは最も苦痛な行為だ。
-
- これまでラクスの後を引き継いでここまでやってきたが、どれ程議長として尽力しようとも、囁かれるのはラクスに対してどうだということ。
- そしてその大半は、ラクスの方が良かったというものだった。
- 確かにジャックは議長としての責任を果たすべくよくやっている。
- 能力的にもそれほどラクスと比較しても劣っているわけではない。
- しかしラクスほどのカリスマ性を持っていないが故に、彼の行動は必ず過去のラクスと比較の上で評価されていた。
- それは自分の無力さが浮き彫りになるようで、何時しかラクスへの憎しみへと変わっていた。
- 本人ですら気付かないうちに。
- そしてそれはコウに対しても向けられていた。
- ラクスの息子というだけで人気のある、次期最高評議会議長と噂されているのは、ジャックの耳にも入っている。
- それが許せない。
- 今のジャックには、コウでさえ自分の存在を脅かす目の上のタンコブとなっていた。
- その心の隙間に、ジールは悪魔の囁きをしたのだ。
-
- ‐ここでコウ=ヤマトとヒカリ=ヤマトを失脚させれば、お前の未来は安泰。‐
- ‐ヤマトの名が無くなれば、名実共に最高評議会の議長として世間は認める。‐
-
- ヤマトという名前への嫉妬と憎悪を募らせていたジャックは、その誘惑に、堕ちた。
- そしてジールの助言に従って、コウ達ヤマト派の議員を拘束することを決めた。
-
- 一方コウは戦争を経験していない世代ではあるが、父や母からそれらの体験や苦労話をたくさん聞かされて育った。
- だからどれだけ戦争が悲惨なものか、起こしてはならないものかを理解しているつもりだ。
- 母はそれを少しでも食い止めようと、今は月に居るのだ。
- それをジャックも理解していると思っていた。
- 否、大戦を知っているからこそ、ジャックならばその意志を継いでいるものだと信じていた。
- その思いが裏切られたような形になり、そして激しく憎悪を向けられたことにコウも少なからず傷つき、ショックを受けていた。
- それ以上何も言えず、銃を突きつけている兵士に促されて議場を後にする。
- ジャックはそれを冷めた目で見送った。
-
- コウが廊下に出ると、同じように銃を突きつけられて歩くヒカリの姿が確認出来た。
- そして並ぶように銃口で小突かれて、2人は並び立つように歩く。
- 揃って怪訝な表情を浮かべるが、黙って誘導する兵士に大人しく連れられる。
-
- ザラ派の兵士達が制圧したのは評議会だけではなかった。
- 技術部やその他、議員達が直接管轄している主要な部署にも乱入し、ヤマト派の人間達を拘束した。
- その中でもヒカリはラクスの娘ということで、真っ先に拘束されたのだ。
- どうやらヤマト派の人間をプラントの主要ポストから締め出し、強硬派の政策をスムーズに実行させるのが目的だと理解したコウとヒカリは、歩きながら心の中で決意を固めていた。
-
- 建物の外に出ると、正面には一台の車が待っていた。
- コウとヒカリを護送するためのものだ。
- 2人が現れると、後方の扉を開けるために待ち構えていた兵士が背を向けた。
- ここまで連れてきた兵士も視線は扉の方に向いている。
- その一瞬の隙を突いてコウとヒカリは頷き合うと、同時に後ろのザフト兵に肘打ちを喰らわせた。
- 肘が鳩尾に入り悶絶する兵士。
- その隙に、2人は兵士達の間を擦り抜ける。
- 2人が逃げたことを知った兵士達が、後ろから2人を狙って銃が発砲されるが、別の角度からさらに銃声が響き、コウとヒカリを狙った照準を狂わせる。
- それはヤマト派のザフト兵達による発砲だ。
- ヤマト派もザラ派の行動に全く気付かなかった訳ではない。
- ザラ派が主要部を制圧したと同時に、コウとヒカリを奪還するための部隊が動いていた。
- 2人が自力で隙を作ったのには驚いたが、とにかくザラ派の手から取り戻すことには成功した。
- 逃げる時間を稼ぐために、車を護衛しようとしていた兵士達と激しく撃ち合う。
-
- 突然始まった銃撃戦に戸惑いつつも、コウとヒカリは必死に逃げる。
-
- 「こっちだ2人とも」
-
- 2人が走っている先にある建物の角から、テツが手招きをして呼んでいるのが見えた。
- ヤマト派の兵士達を指揮しているのはテツだ。
- 彼はザラ派の不穏が動きを感じるとすぐに信頼できる部下を集め、コウとヒカリを連れて逃げる手筈を整えていた。
-
- 2人は急いでその角まで走り、建物の影に飛び込む。
- テツがチラリと2人の無事を確認すると、2人を追ってきた兵士に向かって手にしたピストルを発砲する。
- 放たれた弾丸は、正確にマシンガンだけを弾き飛ばし、逃げるための時間を稼ぐ。
- それを見たテツは、2人を誘導しながら路地の裏手へと回る。
- そこに1台の車が勢いよく滑り込んできて、停止と同時にドアが開けられる。
-
- 「早く乗って!」
-
- 運転しているのはミレーユだった。
- 彼女はテツに状況を聞き、手伝うことを自ら望んだ。
- このままではラクスや、その後を引き継いだコウやヒカリの努力が無為になる。
- それはミレーユにとっても望まれた未来ではなかった。
- そして何よりコウを助けるためにだ。
-
- ミレーユが運転席に座っていることに、コウは軽い驚きを覚えるが、今はそれについて深く考えている時ではない。
- コウとヒカリが後部座席に、そして最後に助手席にテツが飛び乗ると、車は急発進をしてその場を走り去った。
- ザフト兵が路地裏にやって来た時には、小さく見える車の後ろが見えるだけだった。
-
- 車の中で後ろを確認しながら、何とか追っ手を振り切ったことに安堵するテツ。
- それからまだ戸惑ったような表情をしている2人に向かって、悔しそうに簡潔に説明する。
-
- 「ザラ派の連中だな。奴らの手がこちらの予想よりも周到で早かったってことだ」
-
- 警戒はしていたのだが、よもやここまで大胆な行動に出るとは予想出来なかった。
- また巧妙に、僅かだがヤマト派の兵士の切り崩しもされており、結果行動が後手に回ってしまった。
- しかし結果はどうあれ、世界情勢が混乱に向かっていくことを止められなかったことには、責任と虚しさを感じずにはいられなかった。
-
- 説明を聞いて少しずつ冷静さを取り戻してきたコウは、とにかく状況を理解すると、これからどうすれば良いのかを確認する。
- まずは何処にいくかだ。
- コウの問いにテツが再び答える。
-
- 「暫くは目立たないように身を隠す。それから隙を見てファクトリーやターミナルと連絡を取り、ここからの脱出方法を模索する。場所はダコスタ隊長に教わった所だから、そう簡単には見つからないだろう」
-
- このような事態に陥ったことに悲しげな表情を浮かべるが、コウは分かったと静かに頷く。
-
- 「何れは動かねばならない時が来るでしょう。それまで今はじっと耐え忍び、時が来るのを待ちましょう」
-
- そしてヒカリも状況を愁いながら、覚悟を決めたように会話を締め括る。
- そう再び起こってしまうかも知れない、いや起こるであろう戦争を少しでも食い止めるために、自分達の戦いをするのだと。
- ヒカリの言わんとすることを理解したコウもミレーユも、意志の篭った表情で頷いた。
- テツはそんな若者達を頼もしそうに、まだ希望を捨てるのは早すぎるな、と淡く笑みを浮かべて体を正面に向けた。
-
- コウ達がザラ派から逃れて数刻後、議長室では連絡を受けるジャックの姿があった。
- 内容はコウ達を取り逃がしたというものだ。
- その報告にジャックは、苦々しそうに眉を顰める。
-
- 「とにかく捜索は続けさせろ。奴らはこのまま野放しには出来ん。かつての大戦で、クライン達がどんな行動を取り、結果どうなったか知らぬでもあるまい」
-
- 同じく報告を聞いていたジールは、忌々しそうにジャックにそう指示する。
- 彼はかつての大戦でラクスが地下に潜伏し、結果としてエターナルとフリーダム、ジャスティスを奪取され、ナチュラル全滅を阻止されたという苦い経験を覚えている。
- その後のザラ派、それも強硬姿勢を貫いた過激な一派としては、ずっと苦渋を飲まされてきたという、逆恨みだがそれだけ警戒もしていた。
- そして今度こそは、ナチュラルを全て滅ぼすという目的を成し遂げたいという思いが、ジールには強くある。
- そのために最も警戒し、排除しておかなければならない不安要素は、ラクスの子供であるコウとヒカリなのだ。
- 今もプラントにある彼女の影響力の強さは、ジールとて侮ってはならないものだと認識はしているが故にだ。
- 何とか議場を占拠することには成功したが、辛うじてそれだけの兵士をザラ派として取り込むことが出来たからである。
- ヤマト派としてプラントや議会の警護などにあたっている兵士を取り込むのは、思いの外苦労したのだ。
- それ故に今の状況はまだザラ派にとって安穏と出来る状況では無い。
- ジールの言葉に、ジャックは渋い表情を浮かべると、ゆっくり頷いた。
- そして公安の兵士を呼びつけると、躊躇わずに命令を出した。
-
- 「コウ=ヤマトとヒカリ=ヤマトを反逆罪で指名手配しろ。何としても捉えるのだ。だが抵抗するならその場で射殺も許可する」
-
- ジャックが残虐な命令を下すと、ジールはようやく満足そうに口の端を持ち上げて笑みを浮かべた。
- それはプラントがラクスの支配から脱却したことを意味していたからだ。
- 少なくともジールにとってはそうだった。
-
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