- バンの部隊がESPEMに攻撃を仕掛けた頃、オーブのシャトル発着場ではミライ達が宇宙へ上がるためにシャトルに乗り込んでいた。
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- 「宇宙がどんな状況になっているのか全く情報が入ってこない。どこで戦闘が行われてもおかしくない状況だからくれぐれも気をつけてな」
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- 管制室ではシンがシャトルの発進指揮を取り、乗り込んだミライ達に言葉を掛ける。
- エルリックやジャックの宣言の後、地球連邦とプラントがその後の交流を一切断った為、オーブにも外交上の情報公開が著しく制限されてしまったのだ。
- そして頼みのESPEM本部とは通信が遮断されたまま。
- だから今宇宙で何が起こっているのか、ここにいる誰も知らない。
- それもあって、シンの言葉に誰もが不安そうな影が表情に射す。
- しかしまさかESPEM本部が攻撃を受けていることなど、この時は考えもしていなかった。
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- だがミライはシンの言葉に嫌な予感がしていた。
- 地球連邦政府とプラントとの間で宣戦布告が交わされたことになっているが、ESPEMと母の立場はどうなるのだろうかと。
- 地球圏国家の全ての中立組織として設立されており、それを仲裁するのがESPEMの役割であるし、母の性格であれば両者の間に立って戦争を回避しようとすることは明らかだった。
- しかしそれはどちらにとっても邪魔な存在にこそなっても、歓迎される筈が無い。
- どちらかが敗れれば、或いは本格的な開戦の前に障害を取り除くという意味でも、攻撃されるのは必至だと思われた。
- 或いは既に攻撃を受けているのではと、ネガティブな考えも頭を過ぎってしまう。
- 父は目の前でMSと共に消え、兄と姉はプラントを乗っ取ったザラ派に追われて行方不明、そして今度は母が世界から邪魔者として攻撃を受けるかも知れないという事実に、胸が張り裂けそうだった。
- 同時にこんな状況で自分は何が出来るだろうとも考える。
- 戦いがある限り、自分が戦っても戦わなくても、結局は傷つき辛い思いをしていくのだ。
- それがこれまでMSに乗って戦いに身を投じてきた中で分かったことだ。
- ならどうすれば良い、どうすればこれ以上人が自分が傷つかずに済むのだろうか。
- 結局ヒューと話をしても答えは見出せていない。
- ただこれ以上誰かに傷ついて欲しくないという思いが強くなるばかりだった。
- ミライはシートに座ったまま、静かに祈りを捧げる。
- 誰に何をかも分からず、ただ争いが無くなることだけを強く、切に。
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- そうこうしている内にシャトルは発射位置に固定され、いよいよカウントダウンが始まる。
- そしてゼロと同時にシャトルは勢いよくマスドライバーを飛び出し、白い煙の尾を引いて青く広がる空を突き抜けて行った。
- その飛行機雲を見つめながらカガリは、彼らがシャトルの様に暗雲立ち込める世界を突き抜ける光となることを切に願っていた。
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PHASE-39 「秘密」
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- 月での戦闘は熾烈を極めた。
- ESPEMに残った誰もがラクスとその意志を守るために、強い気持ちを持って戦った。
- だがアポカリプスの力は圧倒的だった。
- 放たれた砲口はその気持ちすらいとも簡単に飲み込み、たった1機で既に100近くのMSと戦艦を撃墜している。
- 誰もがアポカリプスを恐れ、次第にESPEMの兵士達は焦燥感に駆られ出していた。
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- 圧倒的な力を示すバンはESPEMのMSを撃ち落しながら、あまりの手応えの無さに欠伸が出そうなほど退屈に感じ始めていた。
- どれだけ集中砲火に晒されようとも攻撃をかわすことが出来たし、自分の攻撃は面白いほど正確に相手を捉える。
- ここの戦闘はバンの独壇場でしかなかった。
- やはりキラがいなければ俺の相手が務まる奴などいないか、などとキラを討った優越感、達成感を思い出して独りごち、すっかり上機嫌にトリガーを引き続けた。
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- そうしてESPEMの防衛部隊が総崩れになった頃、その後ろからストライクイージスを駆るグリムが近づく。
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- 「いつまでも雑魚相手に遊んでるわけにはいかないだろう。ここは任せて、早くターゲットを潰したらどうだ」
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- グリムもバンが仕掛けると同時に戦闘に介入しているが、バンに戦意を削がれたESPEM軍の相手にはそれほど苦労をせず、勝利は時間の問題だと思われた。
- だがMSをいくら破壊しようとも、この戦いで真の勝利を得たことにはならない。
- 雑魚を倒したところで目的を果たせたとは言えないし、時間が経てばまた同じように戦闘を繰り返す可能性もある。
- 彼らがここを攻めた理由は1つしかないのだ。
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- 「それもそうだな。これ以上遊んでてもつまらんし用も無い。さっさと仕事を片付けるとしよう」
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- グリムの言葉にバンは首をぐるりと回すと、操縦桿を握りなおす。
- そしていよいよラクスに狙いを定めて、一気に本部まで加速する。
- ESPEMは、と言うよりもヤマト派はキラとラクスを討ち取らない限り組織を潰したとは言えない。
- 2人が周囲に与える影響力は本人達が思っているよりもずっと大きいのだ。
- だから2人が健在である限り、戦いを望む者、野望がある者にとっては、目の前に立ちはだかる大きな障害になりえる。
- デュランダル派にとって早く消しておきたいのは、ブルーコスモスでもザラ派でもない。
- ヤマト派であり、その頂点に立つキラとラクスなのだ。
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- だがその内の1人、キラはバンが撃ち落した。
- 残るはラクスのみ。
- そしてバンがキラと同じくらい忌み嫌う相手。
- 今のバンにとってこれ以上無い獲物だった。
- バンは興奮に気持ちが高ぶるのを抑えながら、目の前に立ちはだかるMSをいとも簡単に弾き飛ばすて突き進む。
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- その後姿をグリムは見つめながら小さく呟いた。
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- 「これで邪魔な存在が1つ消えたな」
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- キラという最大の障害が無くなった今、ラクスを守る盾も剣も無いとグリムは考えていた。
- ラクスが最も強いのは精神的な部分で、戦闘能力という点ではキラがいたからこそ数々の戦いに勝利してきたという分析だ。
- だからその力が無い今、バンが目的を果たすことを信じて疑わず、不穏な笑みを浮かべる。
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- その時、その場に立ち尽くした格好になっていたストライクイージスを狙ったビームの光が機体を掠める。
- グリムは笑顔を引っ込めると、性懲りも無く自分を狙ってきたグロウズを切り捨て、残ったMSを全滅させるべく戦闘の光が広がる中へと飛び込んだ。
- だがその口元には笑みが綻んだままだった。
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- アポカリプスに次々と味方が落とされる状況は、ラクスの耳にも届いていた。
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- 「ラウート部隊からの応答途絶えました」
- 「ナルビッチ部隊、戦力の9割を失いました」
- 「ワン部隊のMSシグナル、全て反応ありません」
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- 本部には悲痛な叫びを含んだ絶望的な報告ばかりが飛び込んでくる。
- そのあまりにも強大な相手の力に本部のオペレータ達も呆然とするしか無い。
- ここまでの大敗を誰も予想していなかった。
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- 部隊の数が減ったと言っても、戦いが始まった時はそれでも戦力はESPEMの方が多く有利の筈だった。
- だからまだ勝てるかも知れないという希望もあった。
- それが被害はESPEM側に広がるばかりで、次第にその戦力差も徐々に無くなり、ついには逆転されるという状況にまで追い込まれた。
- その圧倒的な力に、まるでキラを相手にしているみたいだと感想を零す者もいた。
- ラクスが否定したから実際にはキラでは無いのだろうが、それでもキラとそっくりの声を持つ相手、そして彷彿させる圧倒的な戦闘力にそう思わずにはいられない。
- 今までこれほどの力を発揮して戦闘を繰り広げてきたMSとパイロットなど、フリーダムのキラ、ジャスティスのアスラン以外聞いたことも見たことも無いのだから。
- 2人と戦ったら誰も敵わないというのが彼らの中では常識であり、誰もが戦いに対する敗北を受け入れ、或いは諦めムードが漂い出す。
- しかし最後の砦が残っているため、彼らの気持ちはまだ完全には折れていない。
- ラクスは未だ毅然とした表情で戦場を映し出すモニタを見つめていたからだ。
- ラクスはまだ勝負を捨てていない。
- ラクスの言葉があれば、彼らは不利な状況であろうともまだ充分に戦い続けることが出来るのだ。
- オペレータ達は自然とラクスがいる場所に視線を向け、起死回生の一言を待っていた。
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- そのラクスは胸を痛めてじっと俯いていたが、アポカリプス接近の報告を聞き決意を固める。
- オペレータ達が自分に期待をしていることも分かっている。
- 彼らにとっては裏切り行為かも知れない。
- だが、いやだからこそラクスは事実を告げるために、勢いよく顔を上げるとオペレータ達の方を振り返った。
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- 「ここも長くはもたないでしょう。このままではただ死を待つのみです。ですから皆さんは脱出してください、生きるために」
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- ラクスの言葉にオペレータ達ざわめきは大きくなった。
- 誰もが力強い励ましの言葉を期待していたのだが、その意に反してラクスの口から敗北宣言が出たことにも等しかったからだ。
- しかし逆に誰も席を立とうとしなかった。
- それはラクスは自分は残ると、そう言っているようにも聞こえたからだ。
- オペレータ達もラクスを慕ってここに残った者達ばかりだ。
- 不利で苦しい状況になることは承知の上で。
- だがらラクスを置いて自分達だけ逃げることなど出来なかった。
-
- 「いえ、我々は最後までラクス様と共に戦います」
-
- オペレータのチーフを務めるベック=パーソンが進み出ると、頼もしくもそう答えた。
- ラクスはそれを受けて、人の意志の成長を感じていた。
- これなら世界は人の意志で、争いを止めることが出来るかも知れないという希望も見出した。
- そんなことを考えると、この状況でも自然と笑みが零れる。
- ラクスはありがとうございますと微笑むが、ベックの申し出をやんわりと首を横に振る。
- ベックは尚も自分の意志を強調するが、ラクスは微笑を浮かべたまま自らの思いを語り掛ける。
-
- 「ここを失うことが敗北ではありません。生きていれば戦い続けることも、夢を見ることも出来ます。この場所を失ってはならないのではありません。本当に失ってはならないのは皆さんの命と、平和を願う心と意志なのです。それがあれば私達はいつでも立ち上がることが出来ます」
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- ラクスの演説にオペレータ達の喧騒はピタリと止まった。
- オペレータ達は誰もが何故ここに残って戦っていたのかを思い出す。
- ラクスを守るためだが、それは真の目的では無い。
- 本当にあるのはその先の、ラクスと共に世界から争いが無くなることを願い、その意志を貫くための筈だった。
-
- 「それに心配ありません。私もここで死ぬつもりは無いのです。私にはまだまだやらなければならないことがたくさんありますから」
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- ラクスは落ち着き払った笑顔で、勝負を捨てたのではないと力強く続ける。
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- ベックはそんなラクスの顔をじっと凝視する。
- 本当にラクスは死ぬつもりは無いのか、具体的にはどうやって脱出するのか、明確な答えを出してはいなかったからだ。
- いつもは事実をしっかりと差し出すのに、今回はそれが曖昧なのだ。
- 胸に不安なものが込み上げてくる。
- しかしラクスの完璧な笑顔は本音を垣間見せる隙を与えなかった。
- ベックは諦めたように溜息を吐くと、ラクスの言葉に従う結論を出した。
-
- 「分かりました。我々は脱出します。ラクス様もどうかご武運を」
- 「はい、もう一度何所かでお会い致しましょう」
-
- 艶やかな笑みを浮かべてラクスも力強く答える。
- そしてオペレータ達がまだ戸惑いながらも、ベックの指示で上空で戦っているMS部隊達にも撤退、そしてこの宇域からの脱出を伝える。
- パイロット達も概ねオペレータ達と同じような反応を示したが、この絶望的な状況のまま戦い続けるよりは良いかと、本部を守る戦い方から包囲網を突破する戦い方へと切り替える。
- 脱出するのも絶望的な状況だが、生きて再びラクスと共に立ち上がるため、諦めずに包囲網の一点の突破を試みる。
- やがて1機、2機と広大な宇宙の中へと抜け出す者が現れる。
- 彼らは皆再びラクスの元に集うことを強く誓いながら、この戦いの場から去って言った。
- オペレータ達もその状況を報告すると、ラクスの方をちらちらと振り返りながら部屋を出て行った。
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- やがて自分以外誰も居なくなった部屋で、ラクスは小さく溜息を吐いた。
- 彼らに一つ嘘を吐いてしまったことに少し胸を痛めたが、彼らを死なせるわけにはいかなかった。
- 想いだけあっても、自分の意志を貫くことが出来ないのは分かっている。
- だが今の自分には彼らを守るだけの力が足りないのだ。
- その力の部分をキラが埋め、支えてくれていたのだと改めて実感する。
- 自ら進んで死ぬ気も無いが、恐らく自分は生きてはここを出られないだろうと覚悟は決めていた。
-
- ESPEMを立ち上げた時から、いつかはこうなるであろうことは予想もしていた。
- それについてはずっと覚悟は出来ており怖くないと思ってきた。
- だが実際にそれを目の前にすると怖いと思う自分がいる。
- いや、キラが傍に居ないからこそそう思う。
- 大切な人の温もりがあるということは、いつもラクスに恐怖を忘れさせていたのだ。
- 今はまるで半身を奪われたような不安がラクスの胸を落ち着かなくする。
- それが死に対する恐怖を増幅し、ラクスの心を飲み込むのだ。
-
- 「キラ、私はいつのまにか、とても臆病になったようですわ」
-
- ラクスは自虐的な笑みを零して呟きながら、モニタに映し出されるアポカリプスをじっと見つめた。
-
*
-
- 「どういうことですか!?」
-
- ミライの悲鳴のような叫び声が、決して広く無いシャトル無いに響き渡る。
- 乗っていた者達はその声に、何事かと一斉に振り返る。
- その視線の先には、今にもシャトルの操縦士に掴みかかろうとしているミライと、それを宥めているザイオンとエミリオンの姿が見られる。
- 何か航行に問題でも出たのだろうかと、一同が不安げな表情を浮かべる。
-
- ミライはそんな周囲の不安に気付かずに尚も操縦士に詰め寄る。
- 操縦士は困惑した表情を浮かべながらも、改めてミライに状況を説明する。
-
- 「現在ESPEM本部は武装集団の襲撃を受けています。今本部に近づくことは危険で出来ない、と言うことです」
-
- ミライにもそれがどういう状況なのかということは理解出来る。
- 何の武装も持たないシャトルがその領域に近づいたところで、MSの攻撃に撃沈されるのがオチだ。
- フリーズとリックディアスを出そうにも、本当に積み込んでいるだけでとても出撃出来る状態では無い。
- それに今のミライはMSで戦うことに迷いがある。
- その状態で戦闘に参加する勇気は無かった。
- また自分やシャトルにいる人達の命を守るのであれば、月に向かわないのはむしろ賢明な判断だ。
-
- だがそれで納得出来る筈も無い。
- 危惧していた通りのことが起き、何も出来ないと分かっていても激しい焦燥感に駆られるのだ。
- 改めて自分の無力さに苛立ちを隠し切れなかった。
-
- ザイオンも操縦士の意見には賛成だった。
- 戦闘中ということは分かっても、正確な情報が入ってこないため、不用意にそこへ飛び込むことはリスクが高過ぎる。
- 一先ず情報収集をするのが先だ。
- かと言ってこのまま宇宙を、当ても無く飛び続けるわけにもいかない。
- 燃料が尽きればこの広大な宇宙の漂流者となってしまう。
- 速やかに代わりの着陸場所を探さなくてはならないが、残念ながらそうそう近くに見つかるものでもない。
- シャトルは月へ向かうコースを取っていたため、プラントはまだだいぶ遠い。
- そこまで燃料が持つかは分からない。
- 同じ月のESPEM本部の裏側へ回るにも、武装集団に気付かれないようにするためには大回りをしなければならず、同じことが言える。
- 今のままではどの選択肢を選んでも、何も打開することは出来ない。
- またも八方塞の状況に、ザイオンは頭を抱えたくなった。
-
- しばらくその様子をじっと静観していたブレインだが、不意にすくっと立ち上がったかと思うと1つの提案をした。
-
- 「この近くにシャトルが搬入出来るところがある。そこならすぐに着陸出来る」
-
- ザイオンはこの近くにそんなところがあるのかと疑問に思ったが、他に選択肢は無いためすんなりと頷いた。
-
- 「分かった、そこに向かうようにパイロットに指示を出そう」
-
- ザイオンがそう言って、踵を返そうとした時だった。
- ブレインはザイオンの手を掴み、行動を止めた。
- そしてぐいっと引き寄せる。
- 無重力のシャトル内で、ザイオンはいとも簡単に引っ張られ、訝しげにブレインの方を見た。
- そして真剣な表情でザイオンの瞳を覗き込むブレインに、ザイオンは圧倒され戸惑った表情でゴクリと唾を飲み込む。
-
- 「気付いているとは思うがそこはただのシャトルの着陸場所じゃない。普通であれば絶対にシャトルを着陸させないところだ。その場所を教えることも無い。緊急事態だから教えたわけだが、そこに行くと言うことはそれなりの業を背負うことになる。決して楽な道じゃない。お前達はキラ様とラクス様の意志に最後まで付き従う覚悟はあるか?」
-
- ブレインはそう言いながら、ゆっくりとシャトルに乗っているクルー達を見渡す。
- ザイオンだけでなく、全てのクルーにその覚悟は必要だ。
- それが無ければ、いかに仲間と言えども連れて行けない、という強い思いがひしひしと伝わる。
- 今まで見たことも無いその迫力に、押し黙る者、唾を飲み込む者など反応は様々だ。
-
- そんな中でエミリオンが立ち上がり、挑むようにブレインを睨みつける。
-
- 「そこでミライ様を監禁でもするつもりですか?」
-
- エミリオンの中で未だにスパイ疑惑の晴れていないブレインの言葉を信用することは出来なかった。
- もしブレインがどこかのテロ組織のスパイだとすると、そのままミライに酷いことをするかも知れない。
- 或いはミライを人質にして、ラクスに何か要求を突きつけるつもりかも知れない。
- 何れにしてもESPEMにとって不利な状況になることには変わりない。
- それだけは何としても阻止しようと、果敢にも立ち向かったのだ。
-
- ブレインはあらぬ疑いと警戒心を持たれたことに、しかし地球での自分の言動からすると致し方ないかと苦笑を浮かべるとゆっくりと首を横に振る。
-
- 「大丈夫だ。お2人のお嬢様にそんなことはしない。これでも俺はヤマト派なんでね」
-
- 自身たっぷりに答えたブレインにエミリオンは少し戸惑うが、それでも睨むことを止めない。
- しばしエミリオンの発する緊張した空気に押し黙る他の一同。
-
- ザイオンはそんなブレインとエミリオンの顔を見比べながら2人のやり取りを聞いていた。
- そしてブレインの言葉にピンと来た。
- ブレインが示した場所がどこなのか、何の覚悟を持たなくてはならないのか。
- 何より自分が何をすべきなのか、一つの道筋が見えた気がした。
-
- 「分かった。ラクス様はもちろんだが、コウとヒカリは俺にとっても大事な友人だ。彼らの力になることは俺の望みでもある。そこに案内してもらおう」
-
- 淡々と告げるその表情に迷いは無かった。
- ブレインは口の端を持ち上げて分かったと頷くと、シャトルの操縦席に行き先を告げるためにこの場を後にする。
- ブレインの話を了承したことにエミリオンは何か抗議の声を上げたそうだったが、ザイオンが分かっているという風に笑みを浮かべて手を上げて制すると、膨れっ面で渋々シートに腰を下ろした。
-
- その様子を見守っていたミライは不安げに首を傾げるが、ザイオンは状況が飲み込めたようでブレインの示した場所に向かうと言う。
- 自分を監禁とか恐ろしいことも聞こえたが、それよりも母であるラクスのことが心配で仕方ない。
- しかし、とにかく今は母が無事でいることだけを祈ることしか出来ない自分を歯痒く、そして大きな無力感に苛まされていた。
-
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